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4.お呼ばれされちゃいましたっ!

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 悠斗はるとくんに手を引かれながら、結局私は伊吹いぶき様のところに到着した。

「…………」

 悠斗くんは無言で目を眇めている。

「これは……」
「見ての通りの状況なんだ」

 伊吹様は木に引っかかっていた。正確には、伊吹様の背負ったパラシュートが木に絡まって身動きが取れないようだ。

 なるほど高いところにいた(引っかかってた)から、遠くにいた私たちが見えたわけか。

 パラシュートハプニングは確かに原作でもあったよ。スチル付きで。こんな感じだった。
 体育館の窓から入ろうとして、その手前にある木に絡まってしまう。という話だったわけだけど……。
 まさかこの目で見られるなんて……一種の感動すら覚える。

「難しいことは言わない。パラシュートとオレを切って」
「……! ……先輩も一緒に切って良いんですね。ふっふっふ」

 伊吹様を助けることに全くやる気を見せていなかった悠斗くんが、初めて嬉しそうに笑う。その笑みが若干邪悪なのは気のせい……じゃないよね。

 それは伊吹様も感じ取ったらしく、素早く首を振って否定した。

「違う違う違う。チャンスだ、亡き者にしよう、ったってそうはいかないよ! ここにはその子だっているんだからね! そうじゃなくって! パラシュートとオレを切り離して欲しいんだよ!」
「……仕方ない」

 渋々悠斗くんは木に手をかけた。懸垂の要領で身体を持ち上げ、するすると上へ登っていく。
 悠斗くんすごい! 運動神経も抜群なだけある。
 瞬く間に伊吹様のとこまでたどり着いてしまった。

 と、ここで疑問が浮かぶ。

「……どうやって切るんだろう」

 切るって言ったって、当然ながらそう簡単に切れるものでもない。そんな軟弱なものじゃ、空飛ぶ道具としては心許ない。

「はあぁぁぁぁぁぁぁ――――――――ッッッッ!」
「しゅ、手刀っ!?」

 いや、ありえないよね。と、冷静な私は否定するけど、実際悠斗くんは手刀を大きく振りかぶってるわけで。

 ――ザクッ。

 き、切れた――――――ッ!!

 そして間を開けずに、逆側も切る。
 勢いよく切ったため枝への着地は不可能で、悠斗くんはそのまま私のいる地上へと降りてきた。

 パラシュートから解放された伊吹様は地上へ真っ逆さま……なんだけど、猫のように一回転して無事着地。こっちもなかなかすごい。

「いやぁ助かった~。ありがと、悠斗くん」

 肩を回しながら解放感に浸る伊吹様を、悠斗くんは冷ややかな視線で迎えた。

「一体どうしたらあんな状況に陥るのか理解できませんね」
「あれ、見たら分からなかった? へぇ、オレと張るくらい頭良いとか言われてるのに、そんなことも分からないんだ~」
「何が起きたのか……もとい小鳥遊たかなし先輩が何をしようとした結果、木に引っかかるという無様な状況に至ったのかは分かります。パラシュートで体育館の窓をくぐろうとしたのでしょうね。僕が分からないと言っているのは、どのような理由でそんな奇行に走ったかということです。あぁ、説明は結構です。別に理解したくありませんから」

 そう言って悠斗くんは、眼鏡をあげた。さっき伊吹様を助けた際に少しズレていたみたい。

 真面目な悠斗くんが、奔放な伊吹様を理解できるはずもない。というか、伊吹様を理解できる人がいるならお目にかかってみたいくらい。

 用事は済んだし、伊吹様とはいたくないし、ということで、悠斗くんはさっさとどこかに行ってしまった。まぁ、集会があるって話だし、体育館に入っただけだろうけど。

「私も行きますね」

 伊吹様に挨拶して、体育館の中に向かう。こっちは裏だから、前にまわってから入らないと。

「待ちなよ」

 パシッと、腕を掴まれる。
 え、嘘。
 今の今まで少し離れたところにいたのに、なんで伊吹様が私の腕を掴んでるの?

「君との話が済んでない」

 ヒタと真顔の伊吹様に見つめられて、私は動きを止めた。ううん、止まってしまった。
 腕を掴まれてるのもあるけど、それ以上に、伊吹様の視線は強力で、私に抗えるものではなかった。

「ははは。そんなに怯えないでよ。別に取って食いやしないからさ~。……まぁ、時間も時間だから、今話せるわけじゃないし……放課後に生徒会室に来てもらえる? 安心して、人払いはしておくから。二人っきりで話そう♪」

 全っ然、安心できないんですけど!! 、という私の心の叫びは声にならなかった。
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