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第十九話 頼れる先輩

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「ところで、いったい何を麹町こうじまちに隠してたんだ?」

 もうしばらく行くと家が見えてくる。そんな時に、たけるは言った。

「……」

 少し悩んだけど、時也にも話すと決めたし……尊にも言っておこう。
 時也に伝える時の予行演習にもなるし、知った時にどんな気持ちになるか尊から聞いておきたい。

「言いづらいなら」
「――実は」

 尊の気づかいと話だしがカブった。

「おう……」

 促されて、私は続ける。

「これをもらったんだけど、壊しちゃって」

 カバンの中から白い小袋を出して、その中身――壊れたブレスレットを尊に見せた。

「どうしたんだよ?」
「…………」

 ブレスレットを見せると決めた時に、何があったのか伝える覚悟を決めたはずなのに。

 ――クラスメイトの女子に踏まれて壊された。

 そう告げれば良いだけなのに、声が出ない。
 壊された時のことを思い出し、それを言葉にするのが辛かった。

「……」
「おい、泣くな」
「だ、だって……」

 悔しい。悲しい。
 時也からのプレゼントを踏み潰されたのが、まるで時也との関係まで傷つけられてしまったような感覚で。
 湧いてきた涙が零れて頬を伝う。

「泣かれたって、オレには慰められない。だから泣くな」
「そん、なこと……」

 そんなこと言われても、無理。だって涙のコントロールができないから。

「お、木内きうちじゃーん」

 後ろから掛かった声に、私も尊も振り返る。涙をぬぐって、声の主を見やった。
 ……誰?
 いたのは他校の制服を着た男子。制服を着崩していて、パッと見た感じだと時也と同類に見える。ただ顔つきや雰囲気は尊のように、少しキツイ。

「西田……」

 尊の知り合いらしい。
 あんまり仲良さそうじゃないけど。

「女連れてるなんて珍しいな。……痴話喧嘩か?」

 物珍しそうな顔をして、私もまじまじと観察する西田という人物。私の目に涙があることに気づいたようだ。

「お前には関係ねぇ」

 尊が私をかばうように前に立つ。

「行くぞ」

 泣いていても触れてこなかった尊が、私の腕を掴んで引き寄せた。

「待てって、そう邪険にするなよ。冗談だって。……別にお前のカノジョだなんて思ってない。つーか、あり得ないだろ、木内みたいな乱暴なヤツが女に好かれるわけねーもん」

 耳に残る嘲笑ちょうしょうかんに障る。
 尊はこんな人にバカにされるような人じゃないのに。
 思わず足を止めて、振り返ってしまった。

「おい、いいから」
「木内先輩は優しい人です!」

 私がそう言うと、西田は目を丸くする。

「……どこが?」
「相手の立場に立って、何を望んでいるのか考えて、助ける時には助け、手を出すべきじゃない時には見守ることのできる人です。優しくて、人を大切にできる木内先輩を、侮辱しないで!」
「青木……お前」

 驚く尊と、面白そうに目を細める西田。
 西田の反応は気になるけど、言いたいことを言って私は満足した。

「行きましょう、先輩」
「お……おお」

 今度は私が先輩の手を引く番だった。
 背中に視線を感じながらも、私は振り返らなかった。
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