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第86話
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森奥の家で過ごしていた時には、お腹が空けばごく当たり前にリフはお外から戻ってきていたけれど、果たして王城でもそれは望めるものなのだろうか。
過ぎった疑問と不安に思わず眉を顰めていると、それが見えたのか僅かな逡巡の後にテオが席を立った。
「探しに行こう。どこか気に行った場所を見付けたのかもしれないが、戻ってこないのは少し心配だ」
「え、でも……」
「ラスカはしばらく戻ってこないだろうし、今日はカノンがリフと一緒にいるわけではないしな。それに……アルノーも戻って来ていないからな」
手を貸してくれないか、とテオが首を傾げる。
まるで主題がアルノーさんを探すことであるかのように。それもまた確かな目的ではあるけれど、リフを探す為に立ったことを負担と捉える事のないように、というような気遣いが少し滲んでいるように感じた。
気のせいかもしれない。
単なる私の勘違いなのかもしれない。
ただそれでも、と小さく笑みを浮かべて頷くと、テオはホッと安堵したような笑みを浮かべた。
「ティート」
と、テオに声を掛けられたティートさんが眉を下げて困ったように笑う。
「着いてけ、ってことです?」
「ああ――リリィを頼む」
「え。……――えっ!?」
さも当たり前のように交わされるやりとりに、反応が遅くなっちゃったけど私おかしくない、おかしくない。だってそうだろう。
「テオ!? なんでティートさんを私に!?」
「現状、身の危険は俺よりもリリィの方が高いだろうからな」
いや、確かにそうだけど!
確かにそうなんだろうけれども!
「でも、今はアルノーさんも、それにほかの護衛の方だっていないのに……!」
いくら私が毒の盛られたお茶をあわや飲まされそうになっただとか、危害を加えようとしている侍従が確かにいるだとか言ったって、私なんかよりもテオの方が守られるべきなのには変わりないはずだ。
血筋としてはさておきとしても、今の私はただの村娘で一般人。
その時点で私なんかよりも一国の王子であるテオの無事の方が大事だろう。
「確かにそうではあるが……俺はキミやリフを、レインたちから預かっている身だからな。万が一があったら俺は彼にどんな顔して会えばいいかわからなくなる」
「そ、それは……」
「アレンとも、それにレナとも、だ。……まあ、そうじゃなくともこうしていただろうが」
「人が良すぎるよ、テオ」
それが悪いとは言わないし、ありがたくないとも言わないけど。
それでもやっぱり思うのだ。
「もしかしなくても、自分は頑丈だから、とか思ってたりする?」
じとりと半目で睨むように見ながら尋ねたけれど、テオは答えなかった。
ただ答えなかっただけで、その反応は肯定しているも同然で、
「……少しだけでもいいから、自分のことも大事にしてあげてね?」
呆れたように、困ったように。ぽつりと絞り出す。
じっとまっすぐにテオを見詰めて投げ掛けた言葉に、テオは目を瞬かせた。
その表情は酷く驚いたようなもので、どうしてそんな表情なのかを尋ねるより先に、ティートさんが困り果てたように深い溜息を吐きだした。
「リリィ嬢、もう何度でもそれ言ってやってください。そいつ、本当に自分を鑑みないんですから」
「おい、人を無茶しかしない人間みたいに言うな」
「その通りじゃないですか。俺がどんだけ気を揉んでいるか……ラスカだってノエルだって、アルノー卿だって、それにジェラルド王子やリディアーヌ王女たちだって、みんな殿下に無茶なんてして欲しくないんですから。ねえ? リリィ嬢? リリィ嬢もそう思いますよね?」
私を真っ直ぐに見て尋ねてくるティートさんに、私は頷く。
そんなの言うまでもないけれど、筋金入りだというのならば何度でもはっきりと伝えるべきだろう。
「もちろん。身内に無茶をされて、喜ぶ人間はいませんから」
大切だから守りたいと思うし、笑っていて欲しいと思う。
その為ならなんだって出来ちゃう気はするし、何だってしたいけれど、それで誰かが無茶ばかりになってしまうなら、それは悲しいことだとも思うから。……以前にもこれは伝えたけどね。
ちらりと見遣れば目を丸くするテオの姿があって、私は小さく微笑むのだった。
過ぎった疑問と不安に思わず眉を顰めていると、それが見えたのか僅かな逡巡の後にテオが席を立った。
「探しに行こう。どこか気に行った場所を見付けたのかもしれないが、戻ってこないのは少し心配だ」
「え、でも……」
「ラスカはしばらく戻ってこないだろうし、今日はカノンがリフと一緒にいるわけではないしな。それに……アルノーも戻って来ていないからな」
手を貸してくれないか、とテオが首を傾げる。
まるで主題がアルノーさんを探すことであるかのように。それもまた確かな目的ではあるけれど、リフを探す為に立ったことを負担と捉える事のないように、というような気遣いが少し滲んでいるように感じた。
気のせいかもしれない。
単なる私の勘違いなのかもしれない。
ただそれでも、と小さく笑みを浮かべて頷くと、テオはホッと安堵したような笑みを浮かべた。
「ティート」
と、テオに声を掛けられたティートさんが眉を下げて困ったように笑う。
「着いてけ、ってことです?」
「ああ――リリィを頼む」
「え。……――えっ!?」
さも当たり前のように交わされるやりとりに、反応が遅くなっちゃったけど私おかしくない、おかしくない。だってそうだろう。
「テオ!? なんでティートさんを私に!?」
「現状、身の危険は俺よりもリリィの方が高いだろうからな」
いや、確かにそうだけど!
確かにそうなんだろうけれども!
「でも、今はアルノーさんも、それにほかの護衛の方だっていないのに……!」
いくら私が毒の盛られたお茶をあわや飲まされそうになっただとか、危害を加えようとしている侍従が確かにいるだとか言ったって、私なんかよりもテオの方が守られるべきなのには変わりないはずだ。
血筋としてはさておきとしても、今の私はただの村娘で一般人。
その時点で私なんかよりも一国の王子であるテオの無事の方が大事だろう。
「確かにそうではあるが……俺はキミやリフを、レインたちから預かっている身だからな。万が一があったら俺は彼にどんな顔して会えばいいかわからなくなる」
「そ、それは……」
「アレンとも、それにレナとも、だ。……まあ、そうじゃなくともこうしていただろうが」
「人が良すぎるよ、テオ」
それが悪いとは言わないし、ありがたくないとも言わないけど。
それでもやっぱり思うのだ。
「もしかしなくても、自分は頑丈だから、とか思ってたりする?」
じとりと半目で睨むように見ながら尋ねたけれど、テオは答えなかった。
ただ答えなかっただけで、その反応は肯定しているも同然で、
「……少しだけでもいいから、自分のことも大事にしてあげてね?」
呆れたように、困ったように。ぽつりと絞り出す。
じっとまっすぐにテオを見詰めて投げ掛けた言葉に、テオは目を瞬かせた。
その表情は酷く驚いたようなもので、どうしてそんな表情なのかを尋ねるより先に、ティートさんが困り果てたように深い溜息を吐きだした。
「リリィ嬢、もう何度でもそれ言ってやってください。そいつ、本当に自分を鑑みないんですから」
「おい、人を無茶しかしない人間みたいに言うな」
「その通りじゃないですか。俺がどんだけ気を揉んでいるか……ラスカだってノエルだって、アルノー卿だって、それにジェラルド王子やリディアーヌ王女たちだって、みんな殿下に無茶なんてして欲しくないんですから。ねえ? リリィ嬢? リリィ嬢もそう思いますよね?」
私を真っ直ぐに見て尋ねてくるティートさんに、私は頷く。
そんなの言うまでもないけれど、筋金入りだというのならば何度でもはっきりと伝えるべきだろう。
「もちろん。身内に無茶をされて、喜ぶ人間はいませんから」
大切だから守りたいと思うし、笑っていて欲しいと思う。
その為ならなんだって出来ちゃう気はするし、何だってしたいけれど、それで誰かが無茶ばかりになってしまうなら、それは悲しいことだとも思うから。……以前にもこれは伝えたけどね。
ちらりと見遣れば目を丸くするテオの姿があって、私は小さく微笑むのだった。
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