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第83話
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かちゃり、と茶器が音を鳴らす。
忙しい中でもわざわざ時間を作ってくれた、このあとの予定も詰まっているテオ達を見送ってすぐに片付けを始めたラスカが、その手を止めずに口を開いた。
「……王妃陛下と過ごしていた場に、誰もいなかったと思う?」
誰にともなく投げ掛けられたものではあるけれど、それがカノンへと投げ掛けられたものであろうことはなんとなくわかった。
まあ、私だってその問い自体には答えられるけども、って感じだよね。
大事なのは、彼ら――ラスカとカノンにとってはわかりきっているその答えなんかじゃないのだ。
「あの状況であの女になすりつけられるだけの度胸を持ち合わせている奴はいなかったんだろうな。それに、現状はリリィをどうにかするのが最優先の目的だろうし」
「まったくもって嬉しくないこと言われてる……」
わかってたけど、わかってたけどさぁ。
改めて言葉にされると傷つくというか、げんなりするっていうか。
「私をどうにかしたところで、別に目的が果たされるわけじゃないと思うんだけど」
「だが、確実にアイツを引きずり出せるし、うまくいけば交渉の切り札として使えるだろ?」
「そ、それはまあ、そうかもしれないけど……明らかに一枚岩じゃないでしょ、クスィオンさんたち」
わからないけど、わからないけどクスィオンさんがこの件の首謀者なのだとしたら、彼の目的は間違いなくこの国にはないんだろう。
足がかりであり目的を果たすための手段ではあるんだろうけど、このまま〈黒鱗病〉を撒き散らしているだけでは果たすことができない。
だからこそクスィオンさんは私を嫌い、毒の仕込んだものを用意した。それが見抜かれることは折り込み済みで。
そうなんだから、クスィオンさんは今後も私を狙うのだろう。
ただそれはもう、構わないわけじゃないけど覚悟はしてる。
どうせ危険な目に遭うことは承知の上だったし、そもそもレイン兄たちと一緒にいるということがどういう事かなんて、彼らに助けられて、一緒に過ごすことを選んだあの日にもう伝え聞いてるんだから、今更どうこう言うつもりはない。
だけど、である。
「もちろんみんなクスィオンさんの計画に賛同してるから協力してるんだろうけど、その目的が共通してるとは到底思えないんだけど……」
「……うん、それは多分考えすぎとかではないんだろうね」
と、片付けを続けていたラスカが同意してちらりと私を見た。
「クスィオンにとってはおそらく、人手は必要だったんだろうと思う。だから、王族を巻き込む手段を用いることもあって、手っ取り早く国とか王家に恨みのある人間を集めていたと思うわ。言ってしまえば、協力する多くの人たちにとってリリィの生死って重要じゃないんだろうね」
「事実なんだろうけどすっごくショック受けてる自分がいる……」
「あはは、言い方が少し悪かったわね。でも、いずれにしてもリリィは十分に警戒して過ごすようにした方が良いわ」
ほんの少しだけ眉を下げた笑みを浮かべるラスカは、私を見たまま言葉を続ける。
「何が起きるかわからないし、おそらくは私は今後もリリィから引き剥がされる事が多いだろうし……今日もそういう状態だったわけだしね」
流石に周囲の多くにただのメイドと思われている以上は、応じない訳にもいかないしね、とラスカは困ったような疲れたような様子で息を吐き、力なく微笑んだ。
忙しい中でもわざわざ時間を作ってくれた、このあとの予定も詰まっているテオ達を見送ってすぐに片付けを始めたラスカが、その手を止めずに口を開いた。
「……王妃陛下と過ごしていた場に、誰もいなかったと思う?」
誰にともなく投げ掛けられたものではあるけれど、それがカノンへと投げ掛けられたものであろうことはなんとなくわかった。
まあ、私だってその問い自体には答えられるけども、って感じだよね。
大事なのは、彼ら――ラスカとカノンにとってはわかりきっているその答えなんかじゃないのだ。
「あの状況であの女になすりつけられるだけの度胸を持ち合わせている奴はいなかったんだろうな。それに、現状はリリィをどうにかするのが最優先の目的だろうし」
「まったくもって嬉しくないこと言われてる……」
わかってたけど、わかってたけどさぁ。
改めて言葉にされると傷つくというか、げんなりするっていうか。
「私をどうにかしたところで、別に目的が果たされるわけじゃないと思うんだけど」
「だが、確実にアイツを引きずり出せるし、うまくいけば交渉の切り札として使えるだろ?」
「そ、それはまあ、そうかもしれないけど……明らかに一枚岩じゃないでしょ、クスィオンさんたち」
わからないけど、わからないけどクスィオンさんがこの件の首謀者なのだとしたら、彼の目的は間違いなくこの国にはないんだろう。
足がかりであり目的を果たすための手段ではあるんだろうけど、このまま〈黒鱗病〉を撒き散らしているだけでは果たすことができない。
だからこそクスィオンさんは私を嫌い、毒の仕込んだものを用意した。それが見抜かれることは折り込み済みで。
そうなんだから、クスィオンさんは今後も私を狙うのだろう。
ただそれはもう、構わないわけじゃないけど覚悟はしてる。
どうせ危険な目に遭うことは承知の上だったし、そもそもレイン兄たちと一緒にいるということがどういう事かなんて、彼らに助けられて、一緒に過ごすことを選んだあの日にもう伝え聞いてるんだから、今更どうこう言うつもりはない。
だけど、である。
「もちろんみんなクスィオンさんの計画に賛同してるから協力してるんだろうけど、その目的が共通してるとは到底思えないんだけど……」
「……うん、それは多分考えすぎとかではないんだろうね」
と、片付けを続けていたラスカが同意してちらりと私を見た。
「クスィオンにとってはおそらく、人手は必要だったんだろうと思う。だから、王族を巻き込む手段を用いることもあって、手っ取り早く国とか王家に恨みのある人間を集めていたと思うわ。言ってしまえば、協力する多くの人たちにとってリリィの生死って重要じゃないんだろうね」
「事実なんだろうけどすっごくショック受けてる自分がいる……」
「あはは、言い方が少し悪かったわね。でも、いずれにしてもリリィは十分に警戒して過ごすようにした方が良いわ」
ほんの少しだけ眉を下げた笑みを浮かべるラスカは、私を見たまま言葉を続ける。
「何が起きるかわからないし、おそらくは私は今後もリリィから引き剥がされる事が多いだろうし……今日もそういう状態だったわけだしね」
流石に周囲の多くにただのメイドと思われている以上は、応じない訳にもいかないしね、とラスカは困ったような疲れたような様子で息を吐き、力なく微笑んだ。
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