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第82話
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「大人しくしているはずもない、というとアナスタシア王女ですが……」
そう切り出したのはティートさんだ。
彼はちら、とアルノーさんを見て、けれども少しの間を置いてから言葉を続けた。
「王妃陛下への言動も目に余るものはありましたが、それ以上に不可解な事を仰っていませんでしたか?」
不可解、とは言うまでもなく自分のことをあたしがヒロインだと言っていたり、私を見てモブだと言ったり、ということだろう。
この世界には、ヒロインという言葉も、モブという言葉も存在はしない。
もちろんこの世界にだって小説はある。
小説内には女性キャラクターは登場するし、主人公だったりなんてものもあるし、名も無いキャラクターだってあるけれど、それらを形容する言葉としてヒロインやモブというものは、あったとしても一般的には定着してない。
でも、私には理解ができる。それは私に前世の記憶があるからだ。
つまりはこれらを理解出来る、ということは、私と同じように転生者、という事になる。
アナスタシア王女は転生者だ。
しかも、私は知らないけれどこの世界の事を物語として――多分ゲームの中の出来事として認識し把握していて、そのゲームに於いて彼女自身が主人公みたいだ。
「(彼女は、この世界の事を物語の中のことのように思っているんだろうか)」
私もそう感じたことがないと言ったら嘘になる。
でもこの世界は現実だ。今こうして生きている私は現実も、目の前で生きて生活している人たちも、今この世界に生きているし確かに生活しているのだ。
それは、決して忘れちゃいけないと思うんだけど。
「(姉さんは忘れている気がするのよね)」
忘れているというよりも気にしていない、と言った方が正しいのかもしれないけどね。
「あの女の言動に関しては、気にするだけ無駄だ。建設的なことなどひとつもない、利己的かつ自己中心的な発言しかしていないからな。考える必要があるとすれば、利用されるだろう可能性の高さと、その警戒だけだ」
きっぱりと言い切るカノンの表情がどことなく嫌そうな辺りに、心情をうかがえるというかなんというか。リフもげんなりしているし。
眉を下げながら苦笑いを浮かべていると、不意にアルノーさんがぽつりと言葉を零した。
「彼女は……あの方は、本当に〈竜巫女〉ではないのですか?」
ぼんやりとどこかを見詰めながら呟くアルノーさんにすぐに答える声はなかったけれど、ややあってから、
「……有り得ないな。あの女じゃどう足掻いてもそう呼ばれるに値しない」
「……天狼であるあなたの言葉を疑うわけではないが、本当にそう呼ばれる存在ではないのか?」
「騎士サマにとってはそうである方が良いのだとしても、残念ながら万が一にもない。祖先の血による能力が色濃く現れているのは間違いないみたいだが、それだけだ」
「そう、か……」
アルノーさんが力なく言うのを、カノンはじっと見詰める。
その目に何かを見定めるかのような色を宿し、
「……気をつけろよ? 第三王子も踏みとどまりはしたがそれでも甘言は人の心を惑わすものであり、あの女の言葉は酷く甘やかだ。アレが利用される側となったとしても、アンタや第三王子がアレにとって利用出来る存在には変わりないんだからな。――アルノー」
けれどもどこか見守るような色をも宿しているカノンを、アルノーさんは緩やかに顔を上げ、まっすぐに見据えていた。
そう切り出したのはティートさんだ。
彼はちら、とアルノーさんを見て、けれども少しの間を置いてから言葉を続けた。
「王妃陛下への言動も目に余るものはありましたが、それ以上に不可解な事を仰っていませんでしたか?」
不可解、とは言うまでもなく自分のことをあたしがヒロインだと言っていたり、私を見てモブだと言ったり、ということだろう。
この世界には、ヒロインという言葉も、モブという言葉も存在はしない。
もちろんこの世界にだって小説はある。
小説内には女性キャラクターは登場するし、主人公だったりなんてものもあるし、名も無いキャラクターだってあるけれど、それらを形容する言葉としてヒロインやモブというものは、あったとしても一般的には定着してない。
でも、私には理解ができる。それは私に前世の記憶があるからだ。
つまりはこれらを理解出来る、ということは、私と同じように転生者、という事になる。
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しかも、私は知らないけれどこの世界の事を物語として――多分ゲームの中の出来事として認識し把握していて、そのゲームに於いて彼女自身が主人公みたいだ。
「(彼女は、この世界の事を物語の中のことのように思っているんだろうか)」
私もそう感じたことがないと言ったら嘘になる。
でもこの世界は現実だ。今こうして生きている私は現実も、目の前で生きて生活している人たちも、今この世界に生きているし確かに生活しているのだ。
それは、決して忘れちゃいけないと思うんだけど。
「(姉さんは忘れている気がするのよね)」
忘れているというよりも気にしていない、と言った方が正しいのかもしれないけどね。
「あの女の言動に関しては、気にするだけ無駄だ。建設的なことなどひとつもない、利己的かつ自己中心的な発言しかしていないからな。考える必要があるとすれば、利用されるだろう可能性の高さと、その警戒だけだ」
きっぱりと言い切るカノンの表情がどことなく嫌そうな辺りに、心情をうかがえるというかなんというか。リフもげんなりしているし。
眉を下げながら苦笑いを浮かべていると、不意にアルノーさんがぽつりと言葉を零した。
「彼女は……あの方は、本当に〈竜巫女〉ではないのですか?」
ぼんやりとどこかを見詰めながら呟くアルノーさんにすぐに答える声はなかったけれど、ややあってから、
「……有り得ないな。あの女じゃどう足掻いてもそう呼ばれるに値しない」
「……天狼であるあなたの言葉を疑うわけではないが、本当にそう呼ばれる存在ではないのか?」
「騎士サマにとってはそうである方が良いのだとしても、残念ながら万が一にもない。祖先の血による能力が色濃く現れているのは間違いないみたいだが、それだけだ」
「そう、か……」
アルノーさんが力なく言うのを、カノンはじっと見詰める。
その目に何かを見定めるかのような色を宿し、
「……気をつけろよ? 第三王子も踏みとどまりはしたがそれでも甘言は人の心を惑わすものであり、あの女の言葉は酷く甘やかだ。アレが利用される側となったとしても、アンタや第三王子がアレにとって利用出来る存在には変わりないんだからな。――アルノー」
けれどもどこか見守るような色をも宿しているカノンを、アルノーさんは緩やかに顔を上げ、まっすぐに見据えていた。
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