元王女で転生者な竜の愛娘

葉桜

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第77話

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 アルノーさんの反応は、背を向ける形になっているテオ以外の全員に見えたことだろう。
 ただ、彼の反応がどんな理由からなるものかについては、少なくとも私とカノンとでは違う解釈だろうと思う。

 でもいずれにせよ、アルノーさんがクスィオンさんとの間に何かある、というのは共通認識の筈だ。

「(まあ、共通認識だとしても、今ここで追求できることでもないし、事実の程を確認できるわけでもないのよね)」

 けどなら尚の事、この話はするべきなのだろう。
 テオがどう感じ、どう思い判断するか。それが私とカノン、それからラスカにとって歓迎すべきものじゃなかったとしても、アルノーさんとクスィオンさんの間に何があるかという考察の材料は得られるのだから。

「クスィオンが、どうかしたのか?」

 小さく首を傾げるテオは、クスィオンさんをごく普通の勤勉な執事と思い、当たり前だけど何一つとして疑っている様子はない。
 それは当たり前の事なんだけど、だからこそこの事を伝えるべきか悩むというか。切り出した以上は伝えない、ってわけにもいかないんだけどね。

 部屋に戻ったことで外套を脱いでもなお、肩口に留まったまま頬を軽く頭突きをしてくるリフを片手で撫でながら、私はひとつ息を吐いてから口を開いた。

「あのね、クスィオンさんが真面目で優秀な人だっていうのは知ってる。ラスカからも聞いたし、実際会ってその様子を見ても、それは事実だってわかってるの」
「ああ。アイツは本当に働き者だよ、城仕えになってまだ浅いけどな」
「うん、そうだよね。でも、多分クスィオンさんは〈黒鱗病こくりんびょう〉に何らかの形で関わっていると思う」
「……クスィオンが?」

 僅かに驚いたように目を丸くしたテオが、すぐに眉根を寄せて思案顔になる。
 その後ろにはテオと同じように目を丸くしているティートさんと、顔色を悪くするアルノーさんが佇んでいた。

 掛ける言葉は見付からないし、声を掛けるべきタイミングではないけれど、アルノーさんは一体……?

 じっと見詰めるわけにもいかずすぐに目線を外すけど、小さく嘆息して、

「……リリィ」
「うん?」
「どうして、クスィオンが関わっていると思ったんだ?」

 至極真剣な面持ちのテオに尋ねられ、瞬きをひとつふたつ。そうしてから私は投げ掛けられた問いに答えた。

「ひとつはテオと一緒にいた時に、私は彼を怖いと思った」
「怖い? アイツのことが、か?」
「とはいえこれは、あくまでも私が抱いた漠然とした感覚だから、確証とかじゃないわ。……まあ、確証なんて取れてないんだけど」
「いや、それでも構わない。天狼であるカノンでもなく、竜であるリフでもなく、リリィがそう感じたのならそれだけでも異常だろう」
「…………」

 テオの表情は、変わりなく真面目なものだ。
 茶化している様子もなければ、冗談を言っている様子もない。

 でも、だけど、だからこそ私は驚いていた。
 だって、テオはカノンと同じような事を言ったのだから。

「……どうして」
「リリィ?」
「どうしてテオは、私の話を信じてくれるの?」

 天狼であるカノンやラスカならわかる。ましてやカノンとは、私がまだ小さかった頃からの付き合いなわけなのだから、尚更だと思う。

 でもテオは違う。
 テオはその血が特異なものだったとしても人間であることには変わりないし、それにテオにとっては私とよりもクスィオンさんとの方が長い時間を過ごしているのだし、普段のクスィオンさんの振る舞いを踏まえれば、そもそも〈黒鱗病〉に関与しているだなんて話は有り得ないと一蹴されてもおかしくない筈なのだ。

 それなのに、テオは否定する事はなかった。
 怪訝そうにするでもなく、ただただ真摯に私の話を受け止めてくれようとしている。
 それが、私には驚くことであり不思議で仕方なかった。

 けれどもテオは、私の疑問を受けて不思議そうに目を瞬かせていたかと思うと、

「だって、リリィが嘘を言う必要も理由もないだろ」

 そうはっきりと、当たり前だろうと言わんばかりに小さく微笑みながら答えたのだった。
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