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第75話
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リュシアン王子は何も答えなかった。
それが悩んでいるからなのか、思うことがあったからなのかはわからないし、知るつもりもない。
「(だって、言いたいことを言っただけだもの)」
再三繰り返しているけれど彼からどう思われようが、それはどうでも良いのである。
「リリィは本当にお人好しだよなあ」
うるさいよ、カノン。
くすくすと微笑みながらのんびりと紡がれた言葉に、カノンを少しだけ半目で睨むように見てからひとつ息を吐く。
まあでも、今回はそう言われても仕方ないのかもしれない、とは自分でも思う。
別にリュシアン王子がどうなろうとも、そこまで痛む心はないのだもの。それなら言葉をかける必要はない。
けど、テオたちが心を痛めたり思い悩むかもしれない、っていうのは耐え難かったのだ。ただそれだけ。
それだけ、なんだけど……グレン兄たちに知られてもカノンと同じような事を言われそうだよねぇ。
「リュシアン」
と、シルヴェール王妃殿下がリュシアン王子を呼んだ。
静かで、けれども平時と大きくは変わらないだろう穏やかな声音で呼ばれてリュシアン王子は顔を上げた。
シルヴェール王妃はリュシアン王子をまっすぐに見て、目を細める。
「今日、いまの出来事は全て母が勝手に行ったことです。陛下は何も存じ上げない事。……意味がわかりますね?」
リュシアン王子はしばしの沈黙の後に、はい、と答え、
「わかっています」
「……奮起し、励みなさい。陛下は常に、あなたの行いを見ています。あの方の御心は、あなたの行動でしか動かすことは出来ないのですから」
まっすぐに向かい合うシルヴェール王妃とリュシアン王子からちらりと視線を外す。そうして見た先は、お二人を見守るテオだ。
テオは静かにお二人を、リュシアン王子を見ていた。
どこか心配そうにも見える横顔は、きっとどこにでもいるような弟を案じる兄の表情そのものだ。
私は小さな笑みを浮かべて、また視線を外す。
次に見たのは、離れた場所に立つアルノーさんの姿だ。
アナスタシア王女が私へと踏み込もうとした瞬間、多くが動いた中で数少ない立ち尽くしていたままの侍従の一人だった彼は、深刻そうな表情のまま立ち尽くしていた。
その理由はもちろんわからないまま、
「リリィさん」
名前が呼ばれて、振り返る。
呼ぶことを嫌がったわけでもなく、ただただそうすべきではないと判断なさってくださったのであろうシルヴェール王妃に初めて呼ばれて振り向くと、王妃殿下は眉を下げて微笑んだ。
「不愉快な思いも嫌な思いもたくさんさせてしまって、ごめんなさいね」
「あ、いえ! どうぞお気になさらず!」
「……ありがとう、本当に」
にこりと微笑む。とても綺麗に、優雅に、優しく。
そんな表情を浮かべたシルヴェール王妃殿下と過ごす時間は、戻ってきた侍従と騎士たちにより終わりが告げられた。
それが悩んでいるからなのか、思うことがあったからなのかはわからないし、知るつもりもない。
「(だって、言いたいことを言っただけだもの)」
再三繰り返しているけれど彼からどう思われようが、それはどうでも良いのである。
「リリィは本当にお人好しだよなあ」
うるさいよ、カノン。
くすくすと微笑みながらのんびりと紡がれた言葉に、カノンを少しだけ半目で睨むように見てからひとつ息を吐く。
まあでも、今回はそう言われても仕方ないのかもしれない、とは自分でも思う。
別にリュシアン王子がどうなろうとも、そこまで痛む心はないのだもの。それなら言葉をかける必要はない。
けど、テオたちが心を痛めたり思い悩むかもしれない、っていうのは耐え難かったのだ。ただそれだけ。
それだけ、なんだけど……グレン兄たちに知られてもカノンと同じような事を言われそうだよねぇ。
「リュシアン」
と、シルヴェール王妃殿下がリュシアン王子を呼んだ。
静かで、けれども平時と大きくは変わらないだろう穏やかな声音で呼ばれてリュシアン王子は顔を上げた。
シルヴェール王妃はリュシアン王子をまっすぐに見て、目を細める。
「今日、いまの出来事は全て母が勝手に行ったことです。陛下は何も存じ上げない事。……意味がわかりますね?」
リュシアン王子はしばしの沈黙の後に、はい、と答え、
「わかっています」
「……奮起し、励みなさい。陛下は常に、あなたの行いを見ています。あの方の御心は、あなたの行動でしか動かすことは出来ないのですから」
まっすぐに向かい合うシルヴェール王妃とリュシアン王子からちらりと視線を外す。そうして見た先は、お二人を見守るテオだ。
テオは静かにお二人を、リュシアン王子を見ていた。
どこか心配そうにも見える横顔は、きっとどこにでもいるような弟を案じる兄の表情そのものだ。
私は小さな笑みを浮かべて、また視線を外す。
次に見たのは、離れた場所に立つアルノーさんの姿だ。
アナスタシア王女が私へと踏み込もうとした瞬間、多くが動いた中で数少ない立ち尽くしていたままの侍従の一人だった彼は、深刻そうな表情のまま立ち尽くしていた。
その理由はもちろんわからないまま、
「リリィさん」
名前が呼ばれて、振り返る。
呼ぶことを嫌がったわけでもなく、ただただそうすべきではないと判断なさってくださったのであろうシルヴェール王妃に初めて呼ばれて振り向くと、王妃殿下は眉を下げて微笑んだ。
「不愉快な思いも嫌な思いもたくさんさせてしまって、ごめんなさいね」
「あ、いえ! どうぞお気になさらず!」
「……ありがとう、本当に」
にこりと微笑む。とても綺麗に、優雅に、優しく。
そんな表情を浮かべたシルヴェール王妃殿下と過ごす時間は、戻ってきた侍従と騎士たちにより終わりが告げられた。
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