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第74話
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不思議なものだなあ、とは思う。
ついさっきのアナスタシア王女の言動で、彼女が物語――それも自分自身が主人公の物語に基づいた行動をとっている可能性が高いことがわかったわけだけど、それで傷付く人もいれば、救われる人もいるだなんて。
ただもちろん、アナスタシア王女はそもそもとして救いはもたらそうとは思っていたんだそう。
リュシアン王子のことはもちろん、テオやアルノーさん、ティートさん。それにジェラルド王子やリディアーヌ王女たちの事も。
身勝手で、押し付けるようなものだったとしても、それ自体は確かに事実だったんだろう。
でも何度だって言い切れるけれど、だからといって許される範疇からはもうアナスタシア王女は逸脱している。
行動も、言動も。全て看過されていいものではなくなっている。
それに、だ。
「……本当に、そうなんですか?」
私はじっとリュシアン王子を見詰めながら、静かに尋ねる。
するとリュシアン王子は私を見て眉を寄せた。
「本当にそう、とは?」
「本当に、リュシアン王子を理解しようとしてくれたのはアナスタシア王女だけでしたか?」
私は思うの、リュシアン王子はそうおっしゃったけど、それは本当なんだろうか、って。
「私は他者への理解って、想うことと同じだと思うんです。だって関心がなければ、情がなければ、理解をしたいと思ったりもしないじゃないですか」
「貴様に……――否、あなたに何がわかると言うんだ?」
「わかりませんよ。私にとってあなたはテオドール王子の弟君、という程度の認識しかありませんし、あなたの心情を知りたいと思えるような関係を築こうと思えるような事もなかったんですから」
不愉快さを隠しもしないリュシアン王子に、私もまた包み隠さずにはっきりと答える。
シルヴェール王妃の前ではあるし、侍従たちの中には私の言動をよく思わない人はいるかもしれないけど、私は別にリュシアン王子にとっての姉さんの代わりになりたいとも思っていないんだから。
言ってしまえば、リュシアン王子がどうなろうがそこまでの関心はない。
かといってカノンほど無関心にもなれはしないけれど、あいにくと私は聖人ではないし、王家――国王陛下がお決めになったことに異を唱えるつもりなんてひとつもない。
ただそれでも、彼はテオの弟だから。
ジェラルド王子やリディアーヌ王女のご兄弟で、ラスカやティートさんたちはずっと見守っていたのだから。
シルヴェール王妃殿下の愛する御子の一人だから。
「でも、だから思うんです。本当に、理解しようとしてくれたのはアナスタシア王女だけでしたか? あなたを想っていたのは、本当に彼女一人でしたか?」
「…………」
「そうだ、とおっしゃるのならばそれでも構いません。けど、私は何人もの方々からあなたの話を幾度も聞きました。あなたの事を許せ、とは決して言われませんでした。ですが私にはそうして話してくださる方々がリュシアン王子、あなたに向けるものを情と呼ばずしてなんと言うのかがわかりません」
その情は。優しさは。厳しさは、慈しみは。愛は。
誰も理解してくれない、と切り捨てても良いものなのだろうか?
顔を覗かせたリフにそっと手を寄せて頬ずりをする。
くるるる、と喉を鳴らすリフの声を聞きながら、私は一度目を閉じ、それからまっすぐにリュシアン王子を見た。
気付けばまた顔を俯かせていたリュシアン王子をじっと私は見て、口を開く。
「アナスタシア王女があなたに向けたものを否定するつもりはありません。ですが、私の言葉に耳を傾けて下さるのならばどうか、考えてみてください。本当にご自分はほかの誰からも想われていなかったのかどうかを」
別にどうだっていい。どうだっていいけれど、悲しいじゃない。
想ってくれる人がたくさんいるのに、気付けないだなんて。
嫌わないでやって欲しい、と暗に示して伝えようとしてくれた人たちの想いを踏みにじるなんて。
少なくとも私はそう思うから、せめて、と伝えたいのだ。
ついさっきのアナスタシア王女の言動で、彼女が物語――それも自分自身が主人公の物語に基づいた行動をとっている可能性が高いことがわかったわけだけど、それで傷付く人もいれば、救われる人もいるだなんて。
ただもちろん、アナスタシア王女はそもそもとして救いはもたらそうとは思っていたんだそう。
リュシアン王子のことはもちろん、テオやアルノーさん、ティートさん。それにジェラルド王子やリディアーヌ王女たちの事も。
身勝手で、押し付けるようなものだったとしても、それ自体は確かに事実だったんだろう。
でも何度だって言い切れるけれど、だからといって許される範疇からはもうアナスタシア王女は逸脱している。
行動も、言動も。全て看過されていいものではなくなっている。
それに、だ。
「……本当に、そうなんですか?」
私はじっとリュシアン王子を見詰めながら、静かに尋ねる。
するとリュシアン王子は私を見て眉を寄せた。
「本当にそう、とは?」
「本当に、リュシアン王子を理解しようとしてくれたのはアナスタシア王女だけでしたか?」
私は思うの、リュシアン王子はそうおっしゃったけど、それは本当なんだろうか、って。
「私は他者への理解って、想うことと同じだと思うんです。だって関心がなければ、情がなければ、理解をしたいと思ったりもしないじゃないですか」
「貴様に……――否、あなたに何がわかると言うんだ?」
「わかりませんよ。私にとってあなたはテオドール王子の弟君、という程度の認識しかありませんし、あなたの心情を知りたいと思えるような関係を築こうと思えるような事もなかったんですから」
不愉快さを隠しもしないリュシアン王子に、私もまた包み隠さずにはっきりと答える。
シルヴェール王妃の前ではあるし、侍従たちの中には私の言動をよく思わない人はいるかもしれないけど、私は別にリュシアン王子にとっての姉さんの代わりになりたいとも思っていないんだから。
言ってしまえば、リュシアン王子がどうなろうがそこまでの関心はない。
かといってカノンほど無関心にもなれはしないけれど、あいにくと私は聖人ではないし、王家――国王陛下がお決めになったことに異を唱えるつもりなんてひとつもない。
ただそれでも、彼はテオの弟だから。
ジェラルド王子やリディアーヌ王女のご兄弟で、ラスカやティートさんたちはずっと見守っていたのだから。
シルヴェール王妃殿下の愛する御子の一人だから。
「でも、だから思うんです。本当に、理解しようとしてくれたのはアナスタシア王女だけでしたか? あなたを想っていたのは、本当に彼女一人でしたか?」
「…………」
「そうだ、とおっしゃるのならばそれでも構いません。けど、私は何人もの方々からあなたの話を幾度も聞きました。あなたの事を許せ、とは決して言われませんでした。ですが私にはそうして話してくださる方々がリュシアン王子、あなたに向けるものを情と呼ばずしてなんと言うのかがわかりません」
その情は。優しさは。厳しさは、慈しみは。愛は。
誰も理解してくれない、と切り捨てても良いものなのだろうか?
顔を覗かせたリフにそっと手を寄せて頬ずりをする。
くるるる、と喉を鳴らすリフの声を聞きながら、私は一度目を閉じ、それからまっすぐにリュシアン王子を見た。
気付けばまた顔を俯かせていたリュシアン王子をじっと私は見て、口を開く。
「アナスタシア王女があなたに向けたものを否定するつもりはありません。ですが、私の言葉に耳を傾けて下さるのならばどうか、考えてみてください。本当にご自分はほかの誰からも想われていなかったのかどうかを」
別にどうだっていい。どうだっていいけれど、悲しいじゃない。
想ってくれる人がたくさんいるのに、気付けないだなんて。
嫌わないでやって欲しい、と暗に示して伝えようとしてくれた人たちの想いを踏みにじるなんて。
少なくとも私はそう思うから、せめて、と伝えたいのだ。
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