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第69話
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「あら、随分なことを仰るのね? 私がテオドールを疎んでいるだなんて……」
たおやかに、王妃殿下が微笑み首を傾げる。
その声音が冷たい色を宿していたのはアナスタシア王女の言葉が事実だから、だなんて理由はなくて、単純な憤りなのだろう。
当たり前だ、シルヴェール王妃は間違いなくテオを愛していらして、ジェラルド王子やリュシアン王子、それにリディアーヌ王女のことも愛していらっしゃる。
王妃殿下は国母ではあるけれど、ひとりのお母さんだから。
その間違いようのない愛情は前世でも母親から感じたものとも、もう記憶はうっすらとではあるけれどフェルメニアの王城で暮らしていた頃のお母様から感じたものと、私とは血の繋がりもなければ世話をする必要もなかった筈のシル姉から感じたものともよく似ている。
それなのにそんな根も葉もない事を隣国のお姫様に指摘されたら、いくらなんでも不愉快だろう。これが王妃殿下の用意なさった舞台じゃなければ、侍従や護衛の方々によって取り押さえられていてもおかしくないほどには。
でもそれに気付いているのかいないのか。
アナスタシア王女は聞き返すシルヴェール王妃に、強気で自信に満ち溢れた表情のまま更にはっきりと言った。
「だってテオ様のお母様を、王妃様は目の敵になさっているんでしょう? 王妃様とテオ様のお母様は幼馴染みだったけど、国王陛下の事をずっと好きだった王妃様は、だからこそテオ様のお母様が国王陛下の愛妾として迎えられた事が許せなかった」
「…………」
「だから王妃様はテオ様のお母様を嫌っているし、お母様と良く似たテオ様の事を疎んでいらっしゃるのに! それなのに、何でこんなお茶の席を……! しかも、その人やカノン様まで巻き込んで!」
あ、私も含まれてるんだ。少し意外。
まあ、ニュアンス的にはついでって感じだけど、それでもアナスタシア王女にとっていまこうしてお茶の席を設けていただいてる光景というのは信じ難く受け入れ難いものらしい。
でも眉をつり上げて睨むアナスタシア王女に、シルヴェール王妃殿下は浮かべていた柔和な笑みを深めて綺麗に笑いながら、仰った。
「私がセオドアを――テオドールの母であるあの子を嫌う? 冗談にしては笑えないわね」
「っ! 冗談なんかじゃ!」
「それに、テオドールはセオドアと似ていないわ。テオドールは初代女王陛下の王婿であられた、セイ様と生き写しのように似ているのだもの。セオドアと似ているのは眼の色くらいよ?」
「え……? 初代……?」
途端、アナスタシア王女は呆然とつぶやく。
そのまましばしの後、困惑しきった表情で彼女は慌てたように叫んだ。
「そんな筈……! そんな筈ない! テオ様はお母様とそっくりで……!」
けれどもシルヴェール王妃は緩やかに首を横に振る。
一蹴するようにはっきりと、それでいてやんわりと王妃殿下は首を傾げた。
「そうした事実はないけれど……、仮にそうだったとして、どうしてあなたがセオドアを知っているのかしら?」
「そ、それは、姿絵を……!」
「姿絵? あの子の? それは有り得ないわ。あの子の姿絵は国外どころか国内でだって見ることは出来ないようなものだったんだもの。それなのに……」
シルヴェール王妃殿下はそのままじっ、とアナスタシア王女をまっすぐに見る。
反論は許さないと言わん様子で。けれども一度途切れさせた言葉を、シルヴェール王妃は今度ははっきりと告げたのだ。
「それなのにどうして、姿絵の存在するセイ様の姿を知らず、けれどもセオドアの姿を知り、あまつさえ感情や関係を決め付けるのかしら?」
たおやかに、王妃殿下が微笑み首を傾げる。
その声音が冷たい色を宿していたのはアナスタシア王女の言葉が事実だから、だなんて理由はなくて、単純な憤りなのだろう。
当たり前だ、シルヴェール王妃は間違いなくテオを愛していらして、ジェラルド王子やリュシアン王子、それにリディアーヌ王女のことも愛していらっしゃる。
王妃殿下は国母ではあるけれど、ひとりのお母さんだから。
その間違いようのない愛情は前世でも母親から感じたものとも、もう記憶はうっすらとではあるけれどフェルメニアの王城で暮らしていた頃のお母様から感じたものと、私とは血の繋がりもなければ世話をする必要もなかった筈のシル姉から感じたものともよく似ている。
それなのにそんな根も葉もない事を隣国のお姫様に指摘されたら、いくらなんでも不愉快だろう。これが王妃殿下の用意なさった舞台じゃなければ、侍従や護衛の方々によって取り押さえられていてもおかしくないほどには。
でもそれに気付いているのかいないのか。
アナスタシア王女は聞き返すシルヴェール王妃に、強気で自信に満ち溢れた表情のまま更にはっきりと言った。
「だってテオ様のお母様を、王妃様は目の敵になさっているんでしょう? 王妃様とテオ様のお母様は幼馴染みだったけど、国王陛下の事をずっと好きだった王妃様は、だからこそテオ様のお母様が国王陛下の愛妾として迎えられた事が許せなかった」
「…………」
「だから王妃様はテオ様のお母様を嫌っているし、お母様と良く似たテオ様の事を疎んでいらっしゃるのに! それなのに、何でこんなお茶の席を……! しかも、その人やカノン様まで巻き込んで!」
あ、私も含まれてるんだ。少し意外。
まあ、ニュアンス的にはついでって感じだけど、それでもアナスタシア王女にとっていまこうしてお茶の席を設けていただいてる光景というのは信じ難く受け入れ難いものらしい。
でも眉をつり上げて睨むアナスタシア王女に、シルヴェール王妃殿下は浮かべていた柔和な笑みを深めて綺麗に笑いながら、仰った。
「私がセオドアを――テオドールの母であるあの子を嫌う? 冗談にしては笑えないわね」
「っ! 冗談なんかじゃ!」
「それに、テオドールはセオドアと似ていないわ。テオドールは初代女王陛下の王婿であられた、セイ様と生き写しのように似ているのだもの。セオドアと似ているのは眼の色くらいよ?」
「え……? 初代……?」
途端、アナスタシア王女は呆然とつぶやく。
そのまましばしの後、困惑しきった表情で彼女は慌てたように叫んだ。
「そんな筈……! そんな筈ない! テオ様はお母様とそっくりで……!」
けれどもシルヴェール王妃は緩やかに首を横に振る。
一蹴するようにはっきりと、それでいてやんわりと王妃殿下は首を傾げた。
「そうした事実はないけれど……、仮にそうだったとして、どうしてあなたがセオドアを知っているのかしら?」
「そ、それは、姿絵を……!」
「姿絵? あの子の? それは有り得ないわ。あの子の姿絵は国外どころか国内でだって見ることは出来ないようなものだったんだもの。それなのに……」
シルヴェール王妃殿下はそのままじっ、とアナスタシア王女をまっすぐに見る。
反論は許さないと言わん様子で。けれども一度途切れさせた言葉を、シルヴェール王妃は今度ははっきりと告げたのだ。
「それなのにどうして、姿絵の存在するセイ様の姿を知らず、けれどもセオドアの姿を知り、あまつさえ感情や関係を決め付けるのかしら?」
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