元王女で転生者な竜の愛娘

葉桜

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第68話

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 リュシアン王子がどうしてそこにいるのか、なんてことはわからないといえばわからないのだけれど、ただよーく思い出して欲しい。

 そもそも私とカノンとリフが此処に居るのは、シルヴェール王妃殿下からのお誘いがあったからで、テオが此処にいるのもまた、シルヴェール王妃殿下のお言葉あってのものといえる。
 そしてアナスタシア王女は、どうしてここにやってきたのかはさておきとしても、留まることを許したのは王妃殿下であり、訪れたリュシアン王子のことも誰ひとりとして引きとめようとした形跡なくここにいて。

「……カノン?」
「んー? うーん。まあ十中八九、そうなんだろうなあ」

 ひそりとカノンを呼べば、カノンはおかしそうな笑みを零す。
 まあ、そうとしか考えられないよねー、と私は小さく困ったように笑んだのだった。

 つまるところ、この状況はシルヴェール王妃殿下が作り出したという事だ。

 とはいえアナスタシア王女の件に関しては神なる竜こそが成すべきとアルマン陛下が仰っていたけれど、と首を傾げていると、カノンがその疑問を読んだかのように、今度は声量を極めて抑えることはなくぽつりと呟く様に言った。

「王妃殿下の目的は王子だろうさ」

 王子――この場合はリュシアン王子殿下か。
 カノンがさらりと告げた後に、ちら、と見遣った先のシルヴェール王妃はカノンを盗み見て、いたずらっ子のような笑みを浮かべた。あ、当たりってことですね、わかります。隣のテオは困ったように眉を下げて微笑んでますけど、気にしていらっしゃいませんね!

 ただ、目的はリュシアン王子の方にあるとはいえ、姉さんが何を考えているかという事への理解はこの場で更に深まるだろうから、私個人としては少し助かるといえば助かるのよね。
 結局彼女も私と同様に前世の記憶がある可能性が高い、と言ってはいるけどその確証なんてものはないわけだし。その証拠を得たところで何か変わるわけでもないけど、それでもいずれは私もアクアリアという自分自身と向き合ってアナスタシア姉さんに向き合わなきゃならないのだから、その時にのらりくらりと躱されるだなんて事がないように出来るのは良いことではあるだろう。

「では、アナスタシア王女。お話をうかがえるかしら? 出来れば手短にお願いしたいわ。ご覧の通り、私はかわいい息子と、我が国のお客様とお話をしていたから」

 どうしてだろう、暗に責めるような雰囲気を宿す物言いをしている気がする。いや、それが総意なんだろうなあ、とも思うけど。
 むしろ、リュシアン王子はどうしてアナスタシア王女の言葉に心を奪われたんだろう。巧みな話術で人心を掴めるというのなら、こんな歪な状態にはなってないと思うんだけどなあ。

 そう思いながら眺めていると、アナスタシア王女がシルヴェール王妃をまっすぐに睨むように見て口を開いた。

「それです。何を考えてるんですか?」
「それ、とは?」
「とぼけないでください。あたし、知ってますから」

 こてり。首を傾げる王妃殿下を、アナスタシア王女が、姉さんが睨み見据える。
 それは堂々とした様子だった。疑いようもなく真実なのだと、揺るぎない自信が彼女の双眸には宿っていた。
 でも。だけど。

「王妃様がテオ様のことを、心では嫌って疎んでいるって」

 テオからあれだけ拒絶された事柄を、否定された筈の事柄を、そんな事実などあるはずもないと思わせてくれるような、母と息子の姿を見せてくれたシルヴェール王妃とテオに投げつけられるのだろうか。

 私にはわからないし、わかりたくもない。
 ただ、再度繰り返された、今度はシルヴェール王妃にさえも投げ掛けられたその言葉は、きっとリュシアン王子だけじゃなくて、アルノーさんの心も揺さぶるような言葉だったんだろうと、そうであって欲しいと思ってしまうのだ。
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