元王女で転生者な竜の愛娘

葉桜

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第66話

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 テオが腰掛けたのはシルヴェール王妃の隣だ。
 シルヴェール王妃殿下が手招きして示したのがそこだったからだけど、テオは少しだけ居心地悪そうにしている。
 その理由は嫌だからだとか王妃殿下が義母だからとかじゃなくて、真面目さと真摯さ故にこの国に暮らす者としても王家の人間としても国母である王妃殿下の隣に腰掛けるなんて恐れ多い、だとか考えているんだろう。まあ、私の推測でしかないけどね。

 嬉しそうな顔のシルヴェール王妃の横に、躊躇いながらも腰掛けたテオを見届けると、ティートさんとアルノーさん、それにラスカはテオに近い場所に控えるように佇んだ。
 公式な場ではなくともお仕事中だもんなあ、と盗み見るように眺めていると、

「それで、何を話していたんだ?」

 テオが何てことない風に尋ねて来た。
 でもその表情はどこか落ち着きがない。なんだろう、前世で言うところの授業参観っていうイベントというか、そういう時の感じっていうか? そんな感じの親の存在を気にしないようにさいているけど気になっちゃうような、そんな感じの様子だ。
 私は思わずこぼれそうになる笑みを堪えながら口を開く。

「少々世間話をしていただけですよ、王子殿下」
「世間話……?」
「テオドール王子のお話が世間話といえるなら、ですけどね」

 あ、こら、しれっとそれを言わないの、カノン!
 咎めるように見るとカノンはけろっとした表情を浮かべていて、対してテオはといえば驚いたように目を瞬かせていたけど、すぐに責めるような視線を横に送り、

「……俺の、何の話をしていたんですか、母上?」
「世間話よ?」
「俺の話が世間話と言えるわけがないでしょう」
「あら、どうして? 可愛い我が子の自慢は母にとっては素敵な世間話よ?」
「母上?」

 のらりくらりと躱すシルヴェール王妃殿下と、不満げに眉をつり上げるテオを見ているとジェラルド王子と話しているかのような空気感を感じるけれど、シルヴェール王妃殿下の話のペースの持って行き方はテオにも似ている気もする。
 ジェラルド殿下もそうだし、それにリディアーヌ王女殿下のずずい、とくる感じもそうだけど兄妹なんだなあ、って改めて思っちゃうよね。

 目を細める先でシルヴェール王妃殿下は鼻歌でも歌っているかのような軽さで言葉を続ける。

「そんなに怒らないでちょうだいな。まだ昔のあなたの可愛いお話はしていないのよ?」
「そのような話はしなくていいです」
「昔のテオドール殿下のお話、ですか?」
「それは俺も気になりますね」

 少しそわそわするなあ、とオウム返しに言葉を繰り返すと、隣でカノンがからかうようなニュアンスを乗せて言った。
 気になってるのも事実なんだろうけど、絶対からかえるような話題が欲しい、っていうのが何よりの本音よね?

 ちら、と視線を遣るとカノンはうきうきとした様子でリフを撫でていて、撫でられているリフも何処かテオについての話を期待しているかのように私の目には映った。
 リフにからかおうとかいう考えはないと思うけどね。

「……勘弁してくれ」

 ややあってから困り果てたようなテオの声が聞こえてくる。
 なんか、こう、ごめんね? カノンもリフも私には永遠に抑え込むとかは無理なのよ。
 せめて、と気遣うような視線は送ってみるけれど、にこにこと楽しそうなシルヴェール王妃殿下の様子を見ているとお話は不可避なんだろうな、と察したのだった。ごめん、テオ。

 と、和やかな時間を過ごし始めた矢先の事だ。
 不意に離れた場所でざわざわと騒がしくなり始めたことに気付いのは、みんな同時だった。
 より正確に言うなら、真っ先に気付いたであろうカノンとリフ、それにラスカ以外が同時だったのだと思う。

「お待ちください! そちらはいま……!」

 慌てたように引き止める声が耳に届いた時にはカノンは表情を消し、リフは不機嫌そうに尻尾を揺らす。ラスカは何も変わりなかったけど、そう装っているのは言うまでもなく。
 何事か、と帯剣に手を伸ばした騎士たちも含めた全員が向けた先にはこちらに近付いてくる人影。

 ああ、なんというか、嫌なことって本当に一度起きると一日中起きやすいものよね。感情がジェットコースターよ。ジェットコースターなんてものこの世界には多分ないけどね。


「――アナスタシア王女殿下!」


 引きとめようとしていた声がこれでもかと張り上げられてそう呼んだ時にはもう、彼女ははっきりとその姿がわかる場所まで近づいて来ていて。
 息を切らせて駆け寄ってくるその人は、アナスタシア王女は私達を見て信じられないと言わんばかりに目を見開いていたのだ。

 ご苦労な事だよねえ。
 何がそこまで姉さんの事を突き動かしているのかは知らないけれど。それでももう、要らぬ心配で頭を悩ます必要はないのだと開き直った私には、彼女に対してなんて、そんな感情しかはっきりとは残ってないのである。
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