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第65話
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テオは時折、都合が良いと言う事があった。
それは、詳しくはわからないとは言っていても、人よりもずっと丈夫な体を持っている事も理由だったんだろうと思う。
でもそれ以上に、文字通り都合が良かったんだろう。
きっと物心着くより早く周囲は勝手事をテオに押し付けていたから、気付いた時にはもう取り巻く状況を理解してしまっていたんだろう。
そうして自分が少なからず火種になると理解したから、だから自分の命を勘定には入れることをしなくなったのだろう。
「(姉さんがテオの事を決め付けて話した時もそうだ。テオは、自分のことをどう言われようと気にしていなかった。あの時気にかけていたのはラスカとシルヴェール王妃のことだけ)」
自分自身のことは、心の底からどうでも良かったんだ。
本当に本心から、どうだって良かったんだろう。
そしてそうした考え方をするようになったのは、シルヴェール王妃殿下のお話のとおり、小さな頃だろう時の状況だ。
ううん、もしかしたら今も取り巻く環境は変わっていないのかもしれない。
「それでもね、小さな頃のテオドールは周囲から向けられるものを、押し付けられたものを嫌がって泣く事はあったの」
ぽつぽつと王妃殿下が言う。
目を向けるとシルヴェール王妃は目を伏せていた。
「でもそれもすぐに見られなくなってしまった……ただただ私達の為に生きようとするだけの子になってしまった……これを、あなた達には聞いて欲しかったの」
「え……?」
少しだけ意外なことを言われて目を丸くしていると、王妃殿下はにこりと優しく微笑んだ。
「救いを求めたいわけではないわ。もちろん変化を求めるつもりもない。でも、それでも聞いて欲しかった。……あなた方の話をするときのあの子は、少しだけ昔を思い出すような表情をするから」
シルヴェール王妃はひとつ、間を置いて。
「だからどうか、テオドールのことを見ていてあげて。信じてあげて。――例え、何があっても」
王妃殿下がどうしてそんなことを言ったのか。
どんな事を予期しての言葉なのかはわからない。
そしてその仔細を聞く時間すらなく、
「失礼致します」
と、声を発したのはラスカだ。
テオを連れてくるようにと命じられた彼女の後ろには、確かにテオと、それからアルノーさんとティートさんの姿があって。
「テオドール王子殿下をお連れ致しました」
「ええ、ありがとうラスカ」
深々と頭を下げたラスカがそっと避けると、緩やかにこちらに近づいてきたテオが少しだけ困ったように眉を寄せ、
「こうした事は急に言われては困ります、王妃殿下」
「あら、他人行儀ね、テオドール? この場は公式の場ではないのに。それに、あなたがいつだって彼女たちの為にと時間を作っているのは知っているわ」
「それは……」
「ふふ、責めるつもりはないわ。でも今だけは、あなたの時間を私にも頂戴? たまには昼の時間を、母とも過ごして欲しいのです」
シルヴェール王妃の言葉に眉をハの字にしたまま微笑むテオ。
何処からどう見てもただの仲睦まじい親子だ。
それを、わたしはしばし見詰めて見守っていたのだった。
それは、詳しくはわからないとは言っていても、人よりもずっと丈夫な体を持っている事も理由だったんだろうと思う。
でもそれ以上に、文字通り都合が良かったんだろう。
きっと物心着くより早く周囲は勝手事をテオに押し付けていたから、気付いた時にはもう取り巻く状況を理解してしまっていたんだろう。
そうして自分が少なからず火種になると理解したから、だから自分の命を勘定には入れることをしなくなったのだろう。
「(姉さんがテオの事を決め付けて話した時もそうだ。テオは、自分のことをどう言われようと気にしていなかった。あの時気にかけていたのはラスカとシルヴェール王妃のことだけ)」
自分自身のことは、心の底からどうでも良かったんだ。
本当に本心から、どうだって良かったんだろう。
そしてそうした考え方をするようになったのは、シルヴェール王妃殿下のお話のとおり、小さな頃だろう時の状況だ。
ううん、もしかしたら今も取り巻く環境は変わっていないのかもしれない。
「それでもね、小さな頃のテオドールは周囲から向けられるものを、押し付けられたものを嫌がって泣く事はあったの」
ぽつぽつと王妃殿下が言う。
目を向けるとシルヴェール王妃は目を伏せていた。
「でもそれもすぐに見られなくなってしまった……ただただ私達の為に生きようとするだけの子になってしまった……これを、あなた達には聞いて欲しかったの」
「え……?」
少しだけ意外なことを言われて目を丸くしていると、王妃殿下はにこりと優しく微笑んだ。
「救いを求めたいわけではないわ。もちろん変化を求めるつもりもない。でも、それでも聞いて欲しかった。……あなた方の話をするときのあの子は、少しだけ昔を思い出すような表情をするから」
シルヴェール王妃はひとつ、間を置いて。
「だからどうか、テオドールのことを見ていてあげて。信じてあげて。――例え、何があっても」
王妃殿下がどうしてそんなことを言ったのか。
どんな事を予期しての言葉なのかはわからない。
そしてその仔細を聞く時間すらなく、
「失礼致します」
と、声を発したのはラスカだ。
テオを連れてくるようにと命じられた彼女の後ろには、確かにテオと、それからアルノーさんとティートさんの姿があって。
「テオドール王子殿下をお連れ致しました」
「ええ、ありがとうラスカ」
深々と頭を下げたラスカがそっと避けると、緩やかにこちらに近づいてきたテオが少しだけ困ったように眉を寄せ、
「こうした事は急に言われては困ります、王妃殿下」
「あら、他人行儀ね、テオドール? この場は公式の場ではないのに。それに、あなたがいつだって彼女たちの為にと時間を作っているのは知っているわ」
「それは……」
「ふふ、責めるつもりはないわ。でも今だけは、あなたの時間を私にも頂戴? たまには昼の時間を、母とも過ごして欲しいのです」
シルヴェール王妃の言葉に眉をハの字にしたまま微笑むテオ。
何処からどう見てもただの仲睦まじい親子だ。
それを、わたしはしばし見詰めて見守っていたのだった。
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