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第60話
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「……最初から命って狙われてたと思う?」
主語もなくぽつりと呟く様に尋ねると、カノンはすぐに口を開いた。
「そもそもの狙いが狙いだからなあ。ただ、いろいろと都合が良かったんじゃないか? 何を成したところで押し付けられるスケープゴートがあるわけだしな」
「それ、全部わかってるカノンが私に言う?」
呆れたように聞き返すけれど、カノンはくすくすと笑うだけだ。
暗にもう切り捨ててもいいだろう、って言ってるんだろうなあ。そんなことはしないけど。
カノンの言うところの何であろうとも押し付けられるスケープゴート、っていうのは間違いなくアナスタシア王女のことだ。
本当に彼女は、姉さんは都合が良かったんだろう。
〈黒鱗病〉を撒き散らした矢先にやってきた、〈竜巫女〉であると高らかに名乗る〈黒鱗病〉を知り、その治療が出来ると言いながらも未だにそれが出来ず、けれども勝手気ままに振舞う異国の姫君。
さぞいい隠れ蓑だろう。これまでも、今も。
「ただ、ずっとずっと仕込んではいたはずだよ。〈黒鱗病〉が発生したのも、今の今までその元凶もなにも、ヒントさえも見付けられなかったのも、念入りな下準備がされてたからだ」
「…………」
カノンの元からやってきたリフが、頬に擦り寄り鳴き声を上げる。
どうやら険しい顔をしてしまっていたらしい。うーん、反省。
気遣って心配してくれるリフを撫でてやりながら、私は小さく息を吐いた。
「……毒が仕込まれた事は、何かの証拠になると思う?」
「ラスカの判断を待つべきだろうが、まあ無理だろうな」
そりゃそうか。
これを仕込んだのが一人じゃないなら、実行者を炙りだそうとしたところで誰かしらは切り捨てられるだけよね。
「じゃあやっぱり、呪具を探し出すのが先決か」
「ああ。とはいえ、それも時間の問題だろうけど」
と、なんてことない様子で言ったカノンに目をしばたかせると、カノンは柔和な表情のままにはっきりと言った。
「呪術の媒体にされていた生きた竜の方はどうにか出来たらしい。だからあとはこっちにあるはずの呪具だけだ」
「そっか、どうにか出来たんだね」
「詳しくは今晩にでもリュミィから聞けるはずだ。だからまあ、俺達は何事もなけりゃ呪具探しをすれさえすればいい」
何事もなけりゃ、って何事もないわけがないというか、なにも起きないわけがないと思うのよねえ。
今後も毒は隙あらば仕込まれてるだろうし、姉さんがもろもろを諦めてくれるとも思わない。
もし本当に未来に起きる出来事を知っているなら、それを洗いざらい全て話してくれさえすればとは思うけど、無理だろうしなあ。
でもどれだけ嘆こうが現実は変わらないし、私たちがやるべきことも役割も変わらない。
「……テオには話せたもんじゃないわねえ」
ふ、っと息を吐きながら力なく笑う。
話せることは話すとは言ったけど、確たる証拠が何一つない中で、執事としては優秀そのもののクスィオンさんがジェラルド王子やリディアーヌ王女が常に苛む〈黒鱗病〉の発症に関わっているだなんて。
そう心の中で付け足していると、カノンは不思議そうに首を傾げた。
「別に、話してもいいと思うが」
「え? でも何一つとして証拠もなく勝手に言ってるんだよ?」
「それでもテオなら、しっかりと俺達の言葉を受け止めて考えてくれるだろ」
「…………」
そうであるに決まっていると、ともすれば自信にあふれたカノンの言葉を本当にそうなのだろうか、と疑い不安になってしまうのは、きっと私がこの国の王子であるテオに対して、多大な迷惑を今なお掛け続ける姉さんという負い目を抱き感じ続けているからなんだろう。
主語もなくぽつりと呟く様に尋ねると、カノンはすぐに口を開いた。
「そもそもの狙いが狙いだからなあ。ただ、いろいろと都合が良かったんじゃないか? 何を成したところで押し付けられるスケープゴートがあるわけだしな」
「それ、全部わかってるカノンが私に言う?」
呆れたように聞き返すけれど、カノンはくすくすと笑うだけだ。
暗にもう切り捨ててもいいだろう、って言ってるんだろうなあ。そんなことはしないけど。
カノンの言うところの何であろうとも押し付けられるスケープゴート、っていうのは間違いなくアナスタシア王女のことだ。
本当に彼女は、姉さんは都合が良かったんだろう。
〈黒鱗病〉を撒き散らした矢先にやってきた、〈竜巫女〉であると高らかに名乗る〈黒鱗病〉を知り、その治療が出来ると言いながらも未だにそれが出来ず、けれども勝手気ままに振舞う異国の姫君。
さぞいい隠れ蓑だろう。これまでも、今も。
「ただ、ずっとずっと仕込んではいたはずだよ。〈黒鱗病〉が発生したのも、今の今までその元凶もなにも、ヒントさえも見付けられなかったのも、念入りな下準備がされてたからだ」
「…………」
カノンの元からやってきたリフが、頬に擦り寄り鳴き声を上げる。
どうやら険しい顔をしてしまっていたらしい。うーん、反省。
気遣って心配してくれるリフを撫でてやりながら、私は小さく息を吐いた。
「……毒が仕込まれた事は、何かの証拠になると思う?」
「ラスカの判断を待つべきだろうが、まあ無理だろうな」
そりゃそうか。
これを仕込んだのが一人じゃないなら、実行者を炙りだそうとしたところで誰かしらは切り捨てられるだけよね。
「じゃあやっぱり、呪具を探し出すのが先決か」
「ああ。とはいえ、それも時間の問題だろうけど」
と、なんてことない様子で言ったカノンに目をしばたかせると、カノンは柔和な表情のままにはっきりと言った。
「呪術の媒体にされていた生きた竜の方はどうにか出来たらしい。だからあとはこっちにあるはずの呪具だけだ」
「そっか、どうにか出来たんだね」
「詳しくは今晩にでもリュミィから聞けるはずだ。だからまあ、俺達は何事もなけりゃ呪具探しをすれさえすればいい」
何事もなけりゃ、って何事もないわけがないというか、なにも起きないわけがないと思うのよねえ。
今後も毒は隙あらば仕込まれてるだろうし、姉さんがもろもろを諦めてくれるとも思わない。
もし本当に未来に起きる出来事を知っているなら、それを洗いざらい全て話してくれさえすればとは思うけど、無理だろうしなあ。
でもどれだけ嘆こうが現実は変わらないし、私たちがやるべきことも役割も変わらない。
「……テオには話せたもんじゃないわねえ」
ふ、っと息を吐きながら力なく笑う。
話せることは話すとは言ったけど、確たる証拠が何一つない中で、執事としては優秀そのもののクスィオンさんがジェラルド王子やリディアーヌ王女が常に苛む〈黒鱗病〉の発症に関わっているだなんて。
そう心の中で付け足していると、カノンは不思議そうに首を傾げた。
「別に、話してもいいと思うが」
「え? でも何一つとして証拠もなく勝手に言ってるんだよ?」
「それでもテオなら、しっかりと俺達の言葉を受け止めて考えてくれるだろ」
「…………」
そうであるに決まっていると、ともすれば自信にあふれたカノンの言葉を本当にそうなのだろうか、と疑い不安になってしまうのは、きっと私がこの国の王子であるテオに対して、多大な迷惑を今なお掛け続ける姉さんという負い目を抱き感じ続けているからなんだろう。
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