元王女で転生者な竜の愛娘

葉桜

文字の大きさ
上 下
61 / 87

第60話

しおりを挟む
「……最初から命って狙われてたと思う?」

 主語もなくぽつりと呟く様に尋ねると、カノンはすぐに口を開いた。

「そもそもの狙いが狙いだからなあ。ただ、いろいろと都合が良かったんじゃないか? 何を成したところで押し付けられるスケープゴートがあるわけだしな」
「それ、全部わかってるカノンが私に言う?」

 呆れたように聞き返すけれど、カノンはくすくすと笑うだけだ。
 暗にもう切り捨ててもいいだろう、って言ってるんだろうなあ。そんなことはしないけど。

 カノンの言うところの何であろうとも押し付けられるスケープゴート、っていうのは間違いなくアナスタシア王女のことだ。
 本当に彼女は、姉さんは都合が良かったんだろう。
 〈黒鱗病こくりんびょう〉を撒き散らした矢先にやってきた、〈竜巫女〉であると高らかに名乗る〈黒鱗病〉を知り、その治療が出来ると言いながらも未だにそれが出来ず、けれども勝手気ままに振舞う異国の姫君。
 さぞいい隠れ蓑だろう。これまでも、今も。

「ただ、ずっとずっと仕込んではいたはずだよ。〈黒鱗病〉が発生したのも、今の今までその元凶もなにも、ヒントさえも見付けられなかったのも、念入りな下準備がされてたからだ」
「…………」

 カノンの元からやってきたリフが、頬に擦り寄り鳴き声を上げる。
 どうやら険しい顔をしてしまっていたらしい。うーん、反省。
 気遣って心配してくれるリフを撫でてやりながら、私は小さく息を吐いた。

「……毒が仕込まれた事は、何かの証拠になると思う?」
「ラスカの判断を待つべきだろうが、まあ無理だろうな」

 そりゃそうか。
 これを仕込んだのが一人じゃないなら、実行者を炙りだそうとしたところで誰かしらは切り捨てられるだけよね。

「じゃあやっぱり、呪具を探し出すのが先決か」
「ああ。とはいえ、それも時間の問題だろうけど」

 と、なんてことない様子で言ったカノンに目をしばたかせると、カノンは柔和な表情のままにはっきりと言った。

「呪術の媒体にされていた生きた竜の方はどうにか出来たらしい。だからあとはこっちにあるはずの呪具だけだ」
「そっか、どうにか出来たんだね」
「詳しくは今晩にでもリュミィから聞けるはずだ。だからまあ、俺達は何事もなけりゃ呪具探しをすれさえすればいい」

 何事もなけりゃ、って何事もないわけがないというか、なにも起きないわけがないと思うのよねえ。

 今後も毒は隙あらば仕込まれてるだろうし、姉さんがもろもろを諦めてくれるとも思わない。
 もし本当に未来に起きる出来事を知っているなら、それを洗いざらい全て話してくれさえすればとは思うけど、無理だろうしなあ。

 でもどれだけ嘆こうが現実は変わらないし、私たちがやるべきことも役割も変わらない。

「……テオには話せたもんじゃないわねえ」

 ふ、っと息を吐きながら力なく笑う。
 話せることは話すとは言ったけど、確たる証拠が何一つない中で、執事としては優秀そのもののクスィオンさんがジェラルド王子やリディアーヌ王女が常に苛む〈黒鱗病〉の発症に関わっているだなんて。
 そう心の中で付け足していると、カノンは不思議そうに首を傾げた。

「別に、話してもいいと思うが」
「え? でも何一つとして証拠もなく勝手に言ってるんだよ?」
「それでもテオなら、しっかりと俺達の言葉を受け止めて考えてくれるだろ」
「…………」

 そうであるに決まっていると、ともすれば自信にあふれたカノンの言葉を本当にそうなのだろうか、と疑い不安になってしまうのは、きっと私がこの国の王子であるテオに対して、多大な迷惑を今なお掛け続ける姉さんという負い目を抱き感じ続けているからなんだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~

Ss侍
ファンタジー
 "私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。  動けない、何もできない、そもそも身体がない。  自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。 ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。  それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

(完結)異世界再生!ポイントゲットで楽々でした

あかる
ファンタジー
事故で死んでしまったら、神様に滅びかけた世界の再生を頼まれました。精霊と、神様っぽくない神様と、頑張ります。 何年も前に書いた物の書き直し…というか、設定だけ使って書いているので、以前の物とは別物です。これでファンタジー大賞に応募しようかなと。 ほんのり恋愛風味(かなり後に)です。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

処理中です...