元王女で転生者な竜の愛娘

葉桜

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第57話

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「このような人間の肩を持つのか」
「肩を持つ、とはおかしな事をおっしゃいますね? 私は彼女は真実しか話していない、と告げたはずですが」

 つかつかと早足で近づいて来て、ティートさんはそのまま私を背に隠すようにしてリュシアン王子との間に割って入った。
 その行動と言葉に不満があるのだろう、リュシアン王子はティートさんを鋭く睨みつけたままだ。

「真実? そんな訳がないだろう。その者の話したことは全て詭弁だ」
「そう言い切る理由をお尋ねしても?」
「シアがそう言った。泣きながら俺に話してくれた」

 あー……うん、わかってはいた。
 わかってはいたんだけど、それをティートさんへの回答として使うのね……。

 いや、別に私を責めるのがそうした理由、ってのは構わないのよ。
 だってそういうものだってわかってるっていうか、リュシアン王子は私の言葉に耳を傾けようとは思わないだろうから、その一点に関しては諦めるしかないんだもの。
 いまさっきのやりとりでも痛いほど分かった。
 リュシアン王子にとって私は、アナスタシア王女を傷付け悲しませる存在でしかないんだって。
 それに、書庫でのやりとりに限れば故意的に逆撫でしたのも事実なんだから糾弾も仕方ないというものだ。……その献身が報われることはないかもしれない、って事には思うことはあるけれど、それはそれだし今の私には掛けられる言葉もないし。

 けれどもティートさんへそれを答えるのは違う。
 ティートさんは片方道理で責めるな、とはっきりとリュシアン王子に告げたのだから、明確であり納得出来る答えを示さなきゃならなかったのだ。……言うまでもなくそんなものはなかったんだろうけれど。

「――論外ですね」

 案の定、ティートさんは短くもはっきりとリュシアン王子の言葉を切り捨てた。
 それだけを口にして、そしてもう話すことはないと言わんばかりにティートさんは私へと振り向いた。

「お待たせしてしまって申し訳ありません。クスィオンを介して話は伺っておりますので、これよりお部屋までの道中の護衛をさせていただきます」
「あ、はい。お願いします」

 ふわりと柔らかく微笑みながら騎士の礼を取るティートさんは、いっそ眩しいくらいにはイケメンだった。いや実際にイケメンなんだけど、ひょっこりと顔を覗かせたリフがきゃう、と一声鳴いて隠れたくらいのまぶしさがあった。……リフがそういう理由で隠れてしまったのかはわかんないけどね!
 ただイケメンだけど物腰の穏やかさも感じるせいか、初対面でもないし、緊張とかそうしたものもなく頷くと、

「っ! ティート!」

 叫ぶようにリュシアン王子がティートさんを呼んだ。
 けどティートさんは振り返ることすらなく、

「部屋に戻られましたら、侍従にお茶の手配をしましょう」
「え?」
「おい、聞こえているだろう! ティート!」
「本来ならばラスカが戻るまで傍に控えさせていただくべきなのでしょうが、それも私の時間が許す限りとなりそうですから」
「あ、それは大丈夫です。お気遣いありがとうございます、コルラディーニ様」
「ティート・コルラディーニ!!」
「…………」

 瞬間、ティートさんは盛大に息を吐いた。
 そうして振り向いたティートさんの表情は私の位置からは伺えない。ただその声音は、酷く冷たかった。

「まだ何か御用でも?」
「用がないわけがないだろう! その者からまだ俺はシアへの謝罪すら聞いてないのだぞ?」
「その必要はないかと思いますが」
「それを断ずるのはお前ではなく俺だ。俺が必要だと言っているのだから、その者にはシアへ謝罪し、すぐにでも仔竜をシアへと引き渡しても貰わねばならない」
「なるほど――やはり必要はありませんね」
「ティート!!」

 くるりと向き直り、ティートさんが私に行きましょうか、と促してくる。それを止めようと叫んだリュシアン王子に、

「それなりに長い付き合いだからこそ忠告しておくぞ、リュシー」

 至極面倒そうに、ティートさんはさっきまでの丁寧な口調ではない、砕けた言葉でリュシアン王子を呼んだ。
 ティートさんはテオと幼馴染みだというのだから、そりゃあリュシアン王子とも付き合いがあって然りで。だからなのだろうか、砕けた口調のティートさんを目にしてリュシアン王子は何故だか驚いたように僅かに目を丸くしていた。
 でもティートさんは肩ごしに振り向くことさえなく、

「アナスタシア王女の話を一切聞くなとは言わねえよ。でもな、それならせめて聞くべき相手の話はしっかりと聞いて受け止めろ。……でなけりゃ、取り返しがつかなくなるぞ」

 そう言い切って改めて私をそっと促したのだった。
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