53 / 87
第52話
しおりを挟む
「それで、実際のところ何が起きてたんだ?」
書庫から出た廊下で、テオは息を吐きながら困ったような笑みを浮かべて私に尋ねてきた。
その表情と聞き方をするってことは、それなりに会話を聞いてたんだろうなあ。
まあ、聞かれて困るような事は話してないから良いのだけれど。
「実際のところもなにも、嘘は言ってないよ? わざと怒るだろうなってことを言っただけ」
「わざと、って何でまたそんなことをカノンもラスカもいない時に……」
「いないからこそ、だよ。まあ、想定外ではあったんだけどね」
話す機会が欲しいとは思ってたとはいえ、まさか書庫にまで押しかけてくるとは思わなかったのは確かなのだ。
そうまでするほどの理由が、姉さんにはあったって事なんだろうけど……こっちだって何を言われたってリフを渡すつもりはないし、〈竜巫女〉とも認めることはない。
私は彼女を確かに姉と思っているけれど、私が彼女に出来る事は身内の過ちに見て見ぬふりをしない事だけなのだ。
とはいえ想定外だったからこそ、恐怖もあったけどね。
トラウマレベルのことをしてのけた張本人でもあるんだから、当たり前よね。
顔を覗かせたリフを撫でてやりながら告げる私に、テオはほんの少しだけ困ったように眉を下げた。
「想定外だったなら尚の事、逃げたほうが良かったんじゃないか? 俺が割って入らなきゃ叩かれていただろう?」
「ああ、あれねえ。叩かれていた、というか叩かれるつもりだったかな」
アクアリアの話を、あの日にアナスタシア王女がアクアリアを崖から突き落としたという話を出したとき、アナスタシア王女は狼狽したような反応を見せた。
それがどうしてかはわからない。わからないからこそ、感情的な行動を――私を叩くという行動取らせた時の反応を見たかった。
もちろんそうされることで誰かが目撃したりしたならば、私自身が有利になれば、という打算もあったけどね。
私、これでも前世の年齢といまの年齢を足すと結構生きてるんだから、ずる賢くもなるってものよね。
だがしかし、でもないけれどテオの表情は一向に晴れない。
そりゃそうだ、ってことを言ってるから仕方ないんだけどね。したたかな考え方をしてる自覚はあるし、それは必ずしも楽しいと感じさせるものではないってわかってるもの。
けれども少しだけ言葉に悩みながらもテオが口にしたのは、私にとっては想定外なものだった。
「どうしてそんな痛い思いをしようと……リリィは女の子だろう? そう必要以上に体を張る理由なんてないんだぞ?」
「…………」
と、テオは気遣わしげに言う。
それを理解するのに、要した時間は数秒。瞬間、カッと顔が熱を持ったのは、多分なんだか気恥かしさがあったからだ。
女の子、女の子。
確かにそうなんだよね、私実際のところリディアーヌ王女殿下と年齢は変わらないし。女の子って言われても間違いじゃないんだよね、うん。
ただ、前世の感覚とか人生経験っていうほど立派じゃないけど、今の自分の姿よりもずっと長く生きているかのような精神の感覚から、改めて指摘されるとちょっと恥ずかしいような気持ちになるだけで。
黙り込んでしまった私に気付いて不思議そうに首を傾げたテオに、ほんの少しだけ慌てて口を開いた。
「つ、次からは気をつけます……」
「ああ、そうしてくれ」
私の返答にひとまずは満足だ、と言わんばかりにテオは頷き小さく微笑む。
でも本当に気をつけられるかについてはわからない、なんてことは言わないでおこう。
書庫から出た廊下で、テオは息を吐きながら困ったような笑みを浮かべて私に尋ねてきた。
その表情と聞き方をするってことは、それなりに会話を聞いてたんだろうなあ。
まあ、聞かれて困るような事は話してないから良いのだけれど。
「実際のところもなにも、嘘は言ってないよ? わざと怒るだろうなってことを言っただけ」
「わざと、って何でまたそんなことをカノンもラスカもいない時に……」
「いないからこそ、だよ。まあ、想定外ではあったんだけどね」
話す機会が欲しいとは思ってたとはいえ、まさか書庫にまで押しかけてくるとは思わなかったのは確かなのだ。
そうまでするほどの理由が、姉さんにはあったって事なんだろうけど……こっちだって何を言われたってリフを渡すつもりはないし、〈竜巫女〉とも認めることはない。
私は彼女を確かに姉と思っているけれど、私が彼女に出来る事は身内の過ちに見て見ぬふりをしない事だけなのだ。
とはいえ想定外だったからこそ、恐怖もあったけどね。
トラウマレベルのことをしてのけた張本人でもあるんだから、当たり前よね。
顔を覗かせたリフを撫でてやりながら告げる私に、テオはほんの少しだけ困ったように眉を下げた。
「想定外だったなら尚の事、逃げたほうが良かったんじゃないか? 俺が割って入らなきゃ叩かれていただろう?」
「ああ、あれねえ。叩かれていた、というか叩かれるつもりだったかな」
アクアリアの話を、あの日にアナスタシア王女がアクアリアを崖から突き落としたという話を出したとき、アナスタシア王女は狼狽したような反応を見せた。
それがどうしてかはわからない。わからないからこそ、感情的な行動を――私を叩くという行動取らせた時の反応を見たかった。
もちろんそうされることで誰かが目撃したりしたならば、私自身が有利になれば、という打算もあったけどね。
私、これでも前世の年齢といまの年齢を足すと結構生きてるんだから、ずる賢くもなるってものよね。
だがしかし、でもないけれどテオの表情は一向に晴れない。
そりゃそうだ、ってことを言ってるから仕方ないんだけどね。したたかな考え方をしてる自覚はあるし、それは必ずしも楽しいと感じさせるものではないってわかってるもの。
けれども少しだけ言葉に悩みながらもテオが口にしたのは、私にとっては想定外なものだった。
「どうしてそんな痛い思いをしようと……リリィは女の子だろう? そう必要以上に体を張る理由なんてないんだぞ?」
「…………」
と、テオは気遣わしげに言う。
それを理解するのに、要した時間は数秒。瞬間、カッと顔が熱を持ったのは、多分なんだか気恥かしさがあったからだ。
女の子、女の子。
確かにそうなんだよね、私実際のところリディアーヌ王女殿下と年齢は変わらないし。女の子って言われても間違いじゃないんだよね、うん。
ただ、前世の感覚とか人生経験っていうほど立派じゃないけど、今の自分の姿よりもずっと長く生きているかのような精神の感覚から、改めて指摘されるとちょっと恥ずかしいような気持ちになるだけで。
黙り込んでしまった私に気付いて不思議そうに首を傾げたテオに、ほんの少しだけ慌てて口を開いた。
「つ、次からは気をつけます……」
「ああ、そうしてくれ」
私の返答にひとまずは満足だ、と言わんばかりにテオは頷き小さく微笑む。
でも本当に気をつけられるかについてはわからない、なんてことは言わないでおこう。
0
お気に入りに追加
777
あなたにおすすめの小説
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜
EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」
優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。
傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。
そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。
次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。
最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。
しかし、運命がそれを許さない。
一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか?
※他サイトにも掲載中

(完結)異世界再生!ポイントゲットで楽々でした
あかる
ファンタジー
事故で死んでしまったら、神様に滅びかけた世界の再生を頼まれました。精霊と、神様っぽくない神様と、頑張ります。
何年も前に書いた物の書き直し…というか、設定だけ使って書いているので、以前の物とは別物です。これでファンタジー大賞に応募しようかなと。
ほんのり恋愛風味(かなり後に)です。

転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

このやってられない世界で
みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。
悪役令嬢・キーラになったらしいけど、
そのフラグは初っ端に折れてしまった。
主人公のヒロインをそっちのけの、
よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、
王子様に捕まってしまったキーラは
楽しく生き残ることができるのか。
皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~
saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。
前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。
国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。
自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。
幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。
自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。
前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。
※小説家になろう様でも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる