元王女で転生者な竜の愛娘

葉桜

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第50話

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「不快な物言いをしてしまったなら申し訳ありません。ですが、命令をしている訳では御座いません、私はフェルメニアの王女殿下にお願いをしたいのです」

 フードの奥からじっとアナスタシア王女を見据える。
 本来なら私に気付いていいはずだけど、姉さんの中では妹であるアクアリアは死んでいるのだろう。
 こうして視線があっても、アナスタシア王女は不機嫌そうに私を睨むだけだ。

「お願いだろうが何だろうが同じよ、いいから仔竜をあたしに寄越しなさい」
「……理解しかねます。そもそもとして、なぜ王女殿下はこの子に執着するのです?」

 手をそっとフードの内側に近付けると、リフが少しだけ顔を覗かせる。
 それはアナスタシア王女にも見えているだろうに、そこにいるのは分かってたのだからどうでもいい、と言わんばかりにリフに対する感情は見受けられない。

 こうした態度を見せられて従おうと思える人間がいるっていうなら見てみたいものだわ。
 内心で呆れていると、アナスタシア王女は当然のように言った。

「そんなもの、あたしが〈竜巫女〉だからに決まってんでしょ」
「――有り得ません」

 その答えを、私は躊躇いなく一蹴する。
 瞬間、苛立った様子のアナスタシア王女に構わず、私は言葉を重ねる。

「貴女が〈竜巫女〉であるなど、有り得ません」
「何でアンタがそんな事言えるのよ? たかが使者――あたしに仔竜を渡すだけが役割のアンタに、何の資格があってそれを否定すんの?」
が有り得ないと言った、理由はそれだけで十分です」
「はあ!?」

 途端、アナスタシア王女は意味がわからないといった表情で声を上げる。
 その反応だけでは確信は持てなかったけれど、続いた言葉で私は確信した。

「それこそ有り得ないでしょ! あの人が、があたしを〈竜巫女〉じゃないって言うなんて!」

 ――今のアナスタシア王女は、確実に私と同じだ。
 しかも、本来なら知り得ないことも何らかの方法で知っている。
 その理由については確信出来てるわけじゃないけれど、私が演じているように感じたことを踏まえ、リディアーヌ王女の言葉や私を顔も名前もない脇役と言った彼女自身の言葉をそのまま鵜呑みにするなら、この世界の事が綴られた物語をよく知っている可能性が高いだろう。
 今はまだ、それだけしかわからない。
 でもそれだけでも、カノンが言っていた未来予知と似て非なるものについても説明がつく。

 まあ、だからといって許される事なんて何一つないけれど。

「どうして彼のことを知っているのかについては、尋ねないでおきましょう。ですが、あの方は確かに私に言いました。アナスタシア・レム・フェルメニアに恩寵など与えられるべくもない、と」
「な、何でっ!? あたしが〈竜巫女〉なのよ!? 恩寵はあたしに与えられるべきなのに、どうして!」

 吠えるように、怒気をあらわにして声を荒らげるアナスタシア王女を、私は冷ややかに見詰める。

「……当然の結果では? かつての、幼き日の貴女様ならばいざ知らず、罪深き今の貴女様には誰だって加護すら与えようとは思わないでしょう」

 その時、アナスタシア王女がぴくりと反応を示した。
 それもほんの僅かだけで、すぐに変わりない――ううん、幾分かイライラしたような表情になった。

「……罪深い? あたしが? 何で? あたしは求められているようにしているだけよ」

 さも当たり前のように、酷く身勝手にもはっきりとアナスタシア王女は言う。

 ああ、本当に、この人はアクアリアのことなんてどうも感じていないのか。
 自分の振る舞いによってスィエル王国の多くの人々に迷惑を掛けているなど、露とも思っていないのか。

 ――自分の行動も、言動も、正しいと心底から思っているのか。

 それならそれでもういい。
 どうせ避けられない裁きの時なんだもん、報いはしっかりと受けるべきだろう。ただそれでも、そうだとしてもこれだけは姉さんに私の口から告げなきゃならない。

「求められているようにしているだけ……なるほど、それは――妹姫を崖から突き落として殺害したことも含め、ですか?」
「……っ!? アンタ……!」

 刹那、アナスタシア王女の顔色が悪くなる。
 さーっと青くなり、それから顔を真っ赤に染めて私を睨んでくる。

 私は顔を覗かせて頬に擦り寄るリフを撫でてやりながら、

「それすらも正しかったと、アナスタシア王女殿下は仰るのですね。でしたら妹姫……アクアリア王女殿下はさぞ、手に負えない悪辣な姫君だったのでしょう」
「……黙りなさい……」
「あら? ですが当時のアクアリア王女のご年齢は、確か、」
「黙りなさいって言ってんのよ!!」

 激昂したアナスタシア王女が、姉さんが片手を振り上げる。
 憤怒に染まった、鬼気迫る表情で私の頬を打とうとしている姉さんを、私は形容し難い感情のままに見上げ、そして。

「そこで何をしている?」

 凛、とした声音が書庫に響いた。
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