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第48話
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「凄く密な日だった……!」
部屋に戻るなりベッドに倒れ込み、顔を埋めたまま力なく吐き出す。
あれからジェラルド殿下も交えての昼食は他愛ない会話をして終わりを告げた。
そもそもテオもジェラルド殿下も王族。
執務や公務といったお仕事は決して少なくない量が割り振られているわけなのだから、そのスケジュールは多忙そのものだ。
リディアーヌ王女がそうだったようにしばらくすれば侍従がジェラルド殿下を呼びに来て、またテオにも来客があったとなればお開きにならないはずもなく。
部屋にティートさんによって送り届けられたのはついさっきのことだ。
「まさかリディアーヌ王女殿下ともジェラルド王子殿下とも話の席を設けていただけるとはなあ」
「……カノンは楽しそうでなによりだよ」
軽快に笑うカノンの腕には数冊の本が抱えられている。
それらは部屋に戻る前に立ち寄った書庫でカノンが借りてきた蔵書だ。曰く、とても珍しいものらしく、書庫に立ち寄ってからずっとご機嫌だ。
それこそ朝の出来事なんてすっかり忘れているかのようである。私も、すぐそばでぐてんとなるリフもそれはそれは疲れてるのになあ。
「そりゃあ読みたかった本を読めるとなればテンションも上がるよ」
「カノンが嬉しそうな姿を見るのは好きだから、いいんだけどさあ」
正しくはカノンに限りってわけじゃないけど、身内が嬉しそうにしている姿はどれだけでも見ていられるくらいにはこちらも嬉しくなるし、見ているのは好きだ。
笑顔と喜びをおすそ分けしてもらったかのような気持ちになるし、何よりイケメンの嬉しそうな表情は栄養になる。ときめきってとっても偉大。私、前世の記憶もあってよく知ってる。
「まあ、実際疲れるのも無理はないよな。そもそもお前は王族となんて関わらずにいた方が良いんだから」
ベッドの縁に腰掛けたカノンが労い労るように私とリフの頭を撫でる。カノンの大きくて暖かな手は、いつだって優しく私たちに触れるのよね。
「……レイン兄たちの力になれるなら、このくらい平気だよ」
「言うと思った。……俺じゃなくてもリュミィには弱音を吐けよ?」
……別にカノンには吐き出せないってわけじゃないのに、ふとした時にカノンは気遣いすぎな程に気遣いしいだ。
くしゃりと私の頭を、髪を撫でるカノンの手が遠のいて、
「ただ、密な一日だったからこそ、得られる事も多かった」
「ティートさんの事や、ジェラルド王子がこっちの事情にある程度の目星を付けてたって事……それ以外にも?」
「俺もだが、リリィも呪術の媒体については今日知っただろ? それもだな。あとは――アルノー・ヴィデール、アイツのこともだ」
真剣な面持ちで言ったカノンは、その双眸を僅かに細める。
その姿を見詰めながら私は口を開いた。
「ジェラルド殿下とお話をしていた時のアルノーさんの反応の事だよね。あれ、〈黒鱗病〉にはアルノーさんは関わっていないように見えたけど」
「そうだな、俺もそれで正しいと思うよ。少なくとも、〈黒鱗病〉を仕込んだ連中の一人、ってことはない。ただ、思い当たるような事を……考え込むような事を握っているのは確かだろうな」
無関係だけど関係者かもしれない、ってことは……、
「……漠然とでも、誰の仕業によるものかを知ってる?」
ぽつ、と呟く様に言うと、カノンはふるふると首を横に振った。
「いいや、アイツはきっとそこまではっきりとは把握してないよ。ただ、可能性を考えてるんだと思う」
「可能性、ってことは、それに関わっているかもしれない、って人に目星をつけてるってこと?」
「概ねそんな感じだろうな。そいつとあの騎士様がどんな関係かはわからないけれど」
「…………」
ラスカにアルノーさんの事を聞いたとき、ラスカはアルノーさんのご家族は竜に命を奪われたと教えてくれた。
もし本当にそれが事実なら。
「……リュミィを介して聞くことってできるかな?」
「俺もそれを考えてた。竜が関わっているなら、レイン達が把握してないわけがないからな……聞いてみる価値はあると思う」
「うん。それと、ラスカからクスィオンさんって人とも早く接触しておかないと」
ラスカがおかしいと感じていたこの城で働く執事。
出来れば早くその異常性を確認したい。具体的には、リフの反応を見たいと思う。
――思うのだけれど。
明日は出来れば今日よりは穏やかに過ごしたいものだなあ、なーんて――その気持ちがどうしようもないレベルで裏切られる事になるとは、この時の私は知らなかったのである。
部屋に戻るなりベッドに倒れ込み、顔を埋めたまま力なく吐き出す。
あれからジェラルド殿下も交えての昼食は他愛ない会話をして終わりを告げた。
そもそもテオもジェラルド殿下も王族。
執務や公務といったお仕事は決して少なくない量が割り振られているわけなのだから、そのスケジュールは多忙そのものだ。
リディアーヌ王女がそうだったようにしばらくすれば侍従がジェラルド殿下を呼びに来て、またテオにも来客があったとなればお開きにならないはずもなく。
部屋にティートさんによって送り届けられたのはついさっきのことだ。
「まさかリディアーヌ王女殿下ともジェラルド王子殿下とも話の席を設けていただけるとはなあ」
「……カノンは楽しそうでなによりだよ」
軽快に笑うカノンの腕には数冊の本が抱えられている。
それらは部屋に戻る前に立ち寄った書庫でカノンが借りてきた蔵書だ。曰く、とても珍しいものらしく、書庫に立ち寄ってからずっとご機嫌だ。
それこそ朝の出来事なんてすっかり忘れているかのようである。私も、すぐそばでぐてんとなるリフもそれはそれは疲れてるのになあ。
「そりゃあ読みたかった本を読めるとなればテンションも上がるよ」
「カノンが嬉しそうな姿を見るのは好きだから、いいんだけどさあ」
正しくはカノンに限りってわけじゃないけど、身内が嬉しそうにしている姿はどれだけでも見ていられるくらいにはこちらも嬉しくなるし、見ているのは好きだ。
笑顔と喜びをおすそ分けしてもらったかのような気持ちになるし、何よりイケメンの嬉しそうな表情は栄養になる。ときめきってとっても偉大。私、前世の記憶もあってよく知ってる。
「まあ、実際疲れるのも無理はないよな。そもそもお前は王族となんて関わらずにいた方が良いんだから」
ベッドの縁に腰掛けたカノンが労い労るように私とリフの頭を撫でる。カノンの大きくて暖かな手は、いつだって優しく私たちに触れるのよね。
「……レイン兄たちの力になれるなら、このくらい平気だよ」
「言うと思った。……俺じゃなくてもリュミィには弱音を吐けよ?」
……別にカノンには吐き出せないってわけじゃないのに、ふとした時にカノンは気遣いすぎな程に気遣いしいだ。
くしゃりと私の頭を、髪を撫でるカノンの手が遠のいて、
「ただ、密な一日だったからこそ、得られる事も多かった」
「ティートさんの事や、ジェラルド王子がこっちの事情にある程度の目星を付けてたって事……それ以外にも?」
「俺もだが、リリィも呪術の媒体については今日知っただろ? それもだな。あとは――アルノー・ヴィデール、アイツのこともだ」
真剣な面持ちで言ったカノンは、その双眸を僅かに細める。
その姿を見詰めながら私は口を開いた。
「ジェラルド殿下とお話をしていた時のアルノーさんの反応の事だよね。あれ、〈黒鱗病〉にはアルノーさんは関わっていないように見えたけど」
「そうだな、俺もそれで正しいと思うよ。少なくとも、〈黒鱗病〉を仕込んだ連中の一人、ってことはない。ただ、思い当たるような事を……考え込むような事を握っているのは確かだろうな」
無関係だけど関係者かもしれない、ってことは……、
「……漠然とでも、誰の仕業によるものかを知ってる?」
ぽつ、と呟く様に言うと、カノンはふるふると首を横に振った。
「いいや、アイツはきっとそこまではっきりとは把握してないよ。ただ、可能性を考えてるんだと思う」
「可能性、ってことは、それに関わっているかもしれない、って人に目星をつけてるってこと?」
「概ねそんな感じだろうな。そいつとあの騎士様がどんな関係かはわからないけれど」
「…………」
ラスカにアルノーさんの事を聞いたとき、ラスカはアルノーさんのご家族は竜に命を奪われたと教えてくれた。
もし本当にそれが事実なら。
「……リュミィを介して聞くことってできるかな?」
「俺もそれを考えてた。竜が関わっているなら、レイン達が把握してないわけがないからな……聞いてみる価値はあると思う」
「うん。それと、ラスカからクスィオンさんって人とも早く接触しておかないと」
ラスカがおかしいと感じていたこの城で働く執事。
出来れば早くその異常性を確認したい。具体的には、リフの反応を見たいと思う。
――思うのだけれど。
明日は出来れば今日よりは穏やかに過ごしたいものだなあ、なーんて――その気持ちがどうしようもないレベルで裏切られる事になるとは、この時の私は知らなかったのである。
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