元王女で転生者な竜の愛娘

葉桜

文字の大きさ
上 下
49 / 87

第48話

しおりを挟む
「凄く密な日だった……!」

 部屋に戻るなりベッドに倒れ込み、顔を埋めたまま力なく吐き出す。

 あれからジェラルド殿下も交えての昼食は他愛ない会話をして終わりを告げた。
 そもそもテオもジェラルド殿下も王族。
 執務や公務といったお仕事は決して少なくない量が割り振られているわけなのだから、そのスケジュールは多忙そのものだ。
 リディアーヌ王女がそうだったようにしばらくすれば侍従がジェラルド殿下を呼びに来て、またテオにも来客があったとなればお開きにならないはずもなく。
 部屋にティートさんによって送り届けられたのはついさっきのことだ。

「まさかリディアーヌ王女殿下ともジェラルド王子殿下とも話の席を設けていただけるとはなあ」
「……カノンは楽しそうでなによりだよ」

 軽快に笑うカノンの腕には数冊の本が抱えられている。
 それらは部屋に戻る前に立ち寄った書庫でカノンが借りてきた蔵書だ。曰く、とても珍しいものらしく、書庫に立ち寄ってからずっとご機嫌だ。
 それこそ朝の出来事なんてすっかり忘れているかのようである。私も、すぐそばでぐてんとなるリフもそれはそれは疲れてるのになあ。

「そりゃあ読みたかった本を読めるとなればテンションも上がるよ」
「カノンが嬉しそうな姿を見るのは好きだから、いいんだけどさあ」

 正しくはカノンに限りってわけじゃないけど、身内が嬉しそうにしている姿はどれだけでも見ていられるくらいにはこちらも嬉しくなるし、見ているのは好きだ。
 笑顔と喜びをおすそ分けしてもらったかのような気持ちになるし、何よりイケメンの嬉しそうな表情は栄養になる。ときめきってとっても偉大。私、前世の記憶もあってよく知ってる。

「まあ、実際疲れるのも無理はないよな。そもそもお前は王族となんて関わらずにいた方が良いんだから」

 ベッドの縁に腰掛けたカノンが労い労るように私とリフの頭を撫でる。カノンの大きくて暖かな手は、いつだって優しく私たちに触れるのよね。

「……レイン兄たちの力になれるなら、このくらい平気だよ」
「言うと思った。……俺じゃなくてもリュミィには弱音を吐けよ?」

 ……別にカノンには吐き出せないってわけじゃないのに、ふとした時にカノンは気遣いすぎな程に気遣いしいだ。
 くしゃりと私の頭を、髪を撫でるカノンの手が遠のいて、

「ただ、密な一日だったからこそ、得られる事も多かった」
「ティートさんの事や、ジェラルド王子がこっちの事情にある程度の目星を付けてたって事……それ以外にも?」
「俺もだが、リリィも呪術の媒体については今日知っただろ? それもだな。あとは――アルノー・ヴィデール、アイツのこともだ」

 真剣な面持ちで言ったカノンは、その双眸を僅かに細める。
 その姿を見詰めながら私は口を開いた。

「ジェラルド殿下とお話をしていた時のアルノーさんの反応の事だよね。あれ、〈黒鱗病こくりんびょう〉にはアルノーさんは関わっていないように見えたけど」
「そうだな、俺もそれで正しいと思うよ。少なくとも、〈黒鱗病〉を仕込んだ連中の一人、ってことはない。ただ、思い当たるような事を……考え込むような事を握っているのは確かだろうな」

 無関係だけど関係者かもしれない、ってことは……、

「……漠然とでも、誰の仕業によるものかを知ってる?」

 ぽつ、と呟く様に言うと、カノンはふるふると首を横に振った。

「いいや、アイツはきっとそこまではっきりとは把握してないよ。ただ、可能性を考えてるんだと思う」
「可能性、ってことは、それに関わっているかもしれない、って人に目星をつけてるってこと?」
「概ねそんな感じだろうな。そいつとあの騎士様がどんな関係かはわからないけれど」
「…………」

 ラスカにアルノーさんの事を聞いたとき、ラスカはアルノーさんのご家族は竜に命を奪われたと教えてくれた。
 もし本当にそれが事実なら。

「……リュミィを介して聞くことってできるかな?」
「俺もそれを考えてた。竜が関わっているなら、レイン達が把握してないわけがないからな……聞いてみる価値はあると思う」
「うん。それと、ラスカからクスィオンさんって人とも早く接触しておかないと」

 ラスカがおかしいと感じていたこの城で働く執事。
 出来れば早くその異常性を確認したい。具体的には、リフの反応を見たいと思う。
 ――思うのだけれど。
 明日は出来れば今日よりは穏やかに過ごしたいものだなあ、なーんて――その気持ちがどうしようもないレベルで裏切られる事になるとは、この時の私は知らなかったのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~

Ss侍
ファンタジー
 "私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。  動けない、何もできない、そもそも身体がない。  自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。 ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。  それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

(完結)異世界再生!ポイントゲットで楽々でした

あかる
ファンタジー
事故で死んでしまったら、神様に滅びかけた世界の再生を頼まれました。精霊と、神様っぽくない神様と、頑張ります。 何年も前に書いた物の書き直し…というか、設定だけ使って書いているので、以前の物とは別物です。これでファンタジー大賞に応募しようかなと。 ほんのり恋愛風味(かなり後に)です。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

処理中です...