元王女で転生者な竜の愛娘

葉桜

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第47話

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 ジェラルド殿下は少しだけ驚いたように目を丸くしていたけれど、ふと吹き出すように微笑み口を開く。

「そっか。他でもない君たちがそう言うのなら、そうなんだろうね」
「もちろんジェラルドの懸念も事実ではある。けど、現状ではその猶予に甘えていいよ。少なくともアイツらはテオに好意的みたいだし、約束を反故ほごする事はないから」

 言いながら紅茶を飲むカノンを横目に、私も言葉を続ける。

「なのでどうか、気負い過ぎないでください。……リディアーヌ王女も、ジェラルド王子のことを心配なさってましたし」
「気負っているつもりはないのだけれど……リディにも心配されてるとはね」
「そりゃリディだって心配するだろ。……皮膚の変質、日に日に進行してんだろ」

 ああ、やっぱり、とテオの言葉で確信する。

 ジェラルド殿下の姿は、王家の子息に相応しい上質な衣服を乱れなく着こなしたものだけれど、首元から指先に至るまで肌が見える場所はない。
 お顔は隠されてないけれど、見えるのはそのくらいだ。
 それ以外の全てが見えないようにしているのは、〈黒鱗病こくりんびょう〉によって身体の大部分を黒い竜の鱗によってびっしりと覆われているから以外に理由はないだろう。

 そりゃあリフが近付くのも嫌がるわけだよ。
 ジェラルド殿下がいらしてすぐ、リフは私にくっついて離れなくなった。それは決してジェラルド殿下を嫌っているだとかではなく、呪いによる症状の重さを近付くまでもなく理解したからだったんだと思う。
 症状が重いということはそれだけ呪いの蓄積量も多いってことだもん。
 生きた竜――生きた同胞の力を奪い生み出している呪いだ。
 リフにとって呪いが濃ければ濃いほど、受け入れ難いものだろう。

 労わるようにリフを撫で続けていると、ジェラルド殿下は僅かに眉を下げて口を開いた。

「進行しているといっても変質以外にはまだ見られないんだから、そんなに心配要らないよ」
「お前は昔から体が弱いんだ。今は大丈夫でもいつ何が起きるかわからないだろうが」
「その時はその時だよ。出来ればそんな事がない方が良いけれど……これこそ気にしすぎるだけ毒だよ、テオ?」
「なんでそんなに呑気なんだよ、ジェドは」

 呆れたように、困ったように溜息を吐くテオの隣でジェラルド殿下はどこか楽しそうだ。
 そんな二人を立ったまま見守り続けていたラスカとティートさんが顔を見合わせるようにして言葉を交わす。

「ジェラルド殿下もテオドール殿下に負けず劣らず、ご自分を省みませんからね」
「テオドール殿下の無茶のそもそもの起因はジェラルド殿下にあるのかもしれませんね?」
「僕はテオと比べれば可愛いものだと思うんだけど」
「というか、流れるように俺まで貶すな」

 不服げなジェラルド王子とテオをそのままに、ラスカとティートさんはくすくすと顔を見合わせたまま微笑んでいる。

 そんな彼らの様子に小さく笑みを零していると、

「……さて、あの騎士様は何を思っているのやら」

 ぽつりと私の耳に届くくらいの声量でカノンが平時と変わらないのんびりと言った。

 カノンを見遣り、それから視線を向けると、その先でアルノーさんが険しい表情で唇を真一文字に固く結んでいた。
 それは、何かを深く考え思い悩んでいるような、そんな表情だった。
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