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第42話
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ぐりぐりと頭を擦りつけてくるリフを、ぎゅっと抱きかかえる。
竜種は、決して個体数が多いわけじゃない。
強大な存在だからなのかなのかはわからないけれど、それでもその数は増えもしなければ減りもしない――悪意の満ちた行為が繰り返されない限り。
でもこれは、〈黒鱗病〉という呪術の媒体にされている事実は、あまりにも酷すぎる。
リフが悲しそうに鳴くのも当たり前だ。
同胞の命が弄ばれているだなんて、気付いてしまったら悲しいに決まってる。
「生きたままの竜をも使っての呪い……そりゃあ巧妙に隠せるわけだよ。竜の力を強引に引き出して使ってるんだ、緩やかに蝕むくらい容易い」
はあ、と息を吐きながらおどけるように言うカノンだけど、その表情は険しい。
幻獣にとって竜は自分たちより高位とはいえ、隣人に近い。
そんな近しい隣人が悪用されて穏やかになんていられるはずもないだろう。
それに。
「こんなことが出来るなんて、やっぱり」
「ああ、もう言い切っていい。この件には間違いなくあの女――パラケラススが関わってる」
忌々しげに眉を寄せ目を細めるカノンを見て、私はそっと目を伏せる。
錬金術士パラケラスス。
アレンとイヴの師匠と同門の兄弟弟子に当たり、同等の技術と知識量を有しているとても優れた女性ながら、錬金術の真髄を知的好奇心のその先にある人道や倫理を超越した事柄――多くの人間にとって過ちと呼べる方面に見出した狂人。
私は顔も知らない。
でもグレン兄は酷く嫌悪しているどころか憎悪し、レイン兄やシル姉は敵視し、あろうことか兄弟子に当たるアレンとイヴのお師匠様は殺意を抱いている。
その理由が、わからないわけがない。
レイン兄とシル姉と暮らすようになってから知り、目撃した多くの悲劇や不幸にはパラケラススという女性が関わっていたのだから。
グレン兄やサクちゃんたち、それにロランさんの過去。
切っても切れないような因縁があって、その何れもが耳を塞ぎたくなるような事ばかりだ。
「……だから、レイン兄たちは動くことを決めたのかな」
「さて、それはどうだろうな? レインのことだから、あの女が関わっていなくても動いていたとも思うが……まあ、今回の件も玩具を貸し与えたくらいにしか思っていないし、どう転んでも楽しそうにしてるんだろうさ」
「つまり、解決されようがされまいが、実験が出来ればいいって?」
「アレは正しくロクデナシだ。この世界を自分の自由にできるおもちゃ箱か箱庭だと思ってるんだからな」
肩を竦めるカノンの言葉は大げさなようでいて事実だ。
あの人は本当にそう思ってるのだろう。
この世界にあるすべては――命も何もかもは自分の自由に出来る玩具だって、そう考えているとしか思えない行動しか取らないのだから。
誰が傷つこうが悲しもうが、どうだっていいのだ。
彼女は自分の生み出したものが如何なる成果を挙げるか、どんな影響を及ぼすのか、という結果しか求めていないのだから。
「背後に組織はあると思う?」
ぽつ、と問い掛けるとカノンは少しだけ考える素振りを見せて、
「さあな。そればかりはクスィオン・マレディとやらと接触するか、ほかに怪しい奴がいないかの確認ができない限りはどうも言えないよ」
「そっか、それもそうだね。……でも、これが愉快犯的な行動とは思いたくないな、私」
「確かに手が込みすぎてるが……こんな冒涜紛いの事をしてまでして何を訴えたいっていうんだ? 竜を人の手で管理したいとでも?」
「…………」
怪訝そうなカノンの言葉に、私の頭にふと過ぎる事があった。
それは、家にいた時にアルノーさんが呟いた言葉。
アルノーさんが関わっているとは思いたくないけれど、それでも無視ができない。
――もしも……全てをああして……。
彼は、視線を手元に落としてぼんやりとそう言った。
その言葉が、どうにも頭から離れないのだ。
竜種は、決して個体数が多いわけじゃない。
強大な存在だからなのかなのかはわからないけれど、それでもその数は増えもしなければ減りもしない――悪意の満ちた行為が繰り返されない限り。
でもこれは、〈黒鱗病〉という呪術の媒体にされている事実は、あまりにも酷すぎる。
リフが悲しそうに鳴くのも当たり前だ。
同胞の命が弄ばれているだなんて、気付いてしまったら悲しいに決まってる。
「生きたままの竜をも使っての呪い……そりゃあ巧妙に隠せるわけだよ。竜の力を強引に引き出して使ってるんだ、緩やかに蝕むくらい容易い」
はあ、と息を吐きながらおどけるように言うカノンだけど、その表情は険しい。
幻獣にとって竜は自分たちより高位とはいえ、隣人に近い。
そんな近しい隣人が悪用されて穏やかになんていられるはずもないだろう。
それに。
「こんなことが出来るなんて、やっぱり」
「ああ、もう言い切っていい。この件には間違いなくあの女――パラケラススが関わってる」
忌々しげに眉を寄せ目を細めるカノンを見て、私はそっと目を伏せる。
錬金術士パラケラスス。
アレンとイヴの師匠と同門の兄弟弟子に当たり、同等の技術と知識量を有しているとても優れた女性ながら、錬金術の真髄を知的好奇心のその先にある人道や倫理を超越した事柄――多くの人間にとって過ちと呼べる方面に見出した狂人。
私は顔も知らない。
でもグレン兄は酷く嫌悪しているどころか憎悪し、レイン兄やシル姉は敵視し、あろうことか兄弟子に当たるアレンとイヴのお師匠様は殺意を抱いている。
その理由が、わからないわけがない。
レイン兄とシル姉と暮らすようになってから知り、目撃した多くの悲劇や不幸にはパラケラススという女性が関わっていたのだから。
グレン兄やサクちゃんたち、それにロランさんの過去。
切っても切れないような因縁があって、その何れもが耳を塞ぎたくなるような事ばかりだ。
「……だから、レイン兄たちは動くことを決めたのかな」
「さて、それはどうだろうな? レインのことだから、あの女が関わっていなくても動いていたとも思うが……まあ、今回の件も玩具を貸し与えたくらいにしか思っていないし、どう転んでも楽しそうにしてるんだろうさ」
「つまり、解決されようがされまいが、実験が出来ればいいって?」
「アレは正しくロクデナシだ。この世界を自分の自由にできるおもちゃ箱か箱庭だと思ってるんだからな」
肩を竦めるカノンの言葉は大げさなようでいて事実だ。
あの人は本当にそう思ってるのだろう。
この世界にあるすべては――命も何もかもは自分の自由に出来る玩具だって、そう考えているとしか思えない行動しか取らないのだから。
誰が傷つこうが悲しもうが、どうだっていいのだ。
彼女は自分の生み出したものが如何なる成果を挙げるか、どんな影響を及ぼすのか、という結果しか求めていないのだから。
「背後に組織はあると思う?」
ぽつ、と問い掛けるとカノンは少しだけ考える素振りを見せて、
「さあな。そればかりはクスィオン・マレディとやらと接触するか、ほかに怪しい奴がいないかの確認ができない限りはどうも言えないよ」
「そっか、それもそうだね。……でも、これが愉快犯的な行動とは思いたくないな、私」
「確かに手が込みすぎてるが……こんな冒涜紛いの事をしてまでして何を訴えたいっていうんだ? 竜を人の手で管理したいとでも?」
「…………」
怪訝そうなカノンの言葉に、私の頭にふと過ぎる事があった。
それは、家にいた時にアルノーさんが呟いた言葉。
アルノーさんが関わっているとは思いたくないけれど、それでも無視ができない。
――もしも……全てをああして……。
彼は、視線を手元に落としてぼんやりとそう言った。
その言葉が、どうにも頭から離れないのだ。
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