元王女で転生者な竜の愛娘

葉桜

文字の大きさ
上 下
39 / 87

第38話

しおりを挟む
 スィエル王国の第一王子ジェラルド・リュンヌ・スィエル。
 私が噂で聞く限りのジェラルド王子は、とても聡明で心優しく、王族――本来なら王太子と呼ばれるべき長子でありながらも生まれつき体が弱い事以外には非のつけ所のない青年だ。
 でもこの城に来て、テオやティートさんが少しだけ語る様子や、実兄カノンと良く似た一面のあるラスカとそれはそれは気が合っているようであるのを見聞きしていると、なかなかに茶目っ気溢れる方なのだろうとも思い始めていたりする。

 とはいえ噂で聞く事が嘘だらけってこともないと思うんだけど。

「リディアーヌ王女からそのようにおっしゃってもらえるなら、ジェラルド王子ともいずれはお話をさせていただきたいものですね」

 私はカノンとジェラルド王子を会わせたくないなあ。絶対馬が合うし気が合うしで、止めても聞かないことになる気がするもん。

 という言葉にしてない私の本心を知るすべのないカノンがどこかウキウキとした様子で言うと、リディアーヌ王女はにこりと微笑んだ。

「ええ、是非! きっとお話しが合うと思いますし……何よりもジェド兄様が喜びますわ。このような事になってからは、ジェド兄様がお部屋の外にお出掛けなさる頻度は以前よりも減ってしまいましたし……」
「このような事、っていうと……もしかして、ジェラルド王子の〈黒鱗病こくりんびょう〉の症状は……」
「深刻、という訳ではないと思うのですが……兄様の変化は、わたくしよりもずっと広範囲ですから」

 僅かに眉を下げて告げる王女殿下に、私はやっぱり、と眉を下げる。

 実際に目にしたわけじゃないし、テオがどれだけ兄弟達を大切に思っているかを知った今では、度合いの問題でもなかったんだろうとも思うけど、〈黒鱗病〉を先に患ったのはジェラルド王子なのだろう。
 となれば、どうにかしようと必死になるのは当たり前だ。
 リディアーヌ王女が後に患った事でより強固な願いにはなったんだろうけれど、ジェラルド王子のお体は丈夫じゃないのだから。
 だから〈竜巫女〉と名乗ったアナスタシア王女に強く出ることは出来なかったし、けれども今は無理だという言葉を含めて疑念を抱くような振る舞いを繰り返すアナスタシア王女を真と信じたくなかったから、藁をもすがるような思いでテオは噂を辿る事を決めたんだと思う。

「(もっとも、本物の〈竜巫女〉は見つからなかった訳だけど)」

 それでもリフの存在は、間違いなくテオにとって一縷の希望になったはずだ。
 今のところ、テオが言っていた通りアナスタシア王女の周辺に竜の気配はないみたいだし、つまりはこの城にいる唯一の本物の竜はアナスタシア王女を拒んだのだから。

 あとは何か手掛かりを見付けさえすれば、〈黒鱗病〉に関しては片付けられる筈だ。
 だって他でもないレイン兄たちが動くと決めたのだから。

「症状としては日に日に悪化はしているようなのですが、それでもまだ痛みや違和感といったものがないのは救いですわ」
「それがジェラルド王子が我慢なさってのこと、という可能性は?」
「それはないとは言い切れませんけれど、わたくしやテオ兄様やリュシー兄様に隠し通せるとは思えませんから。それにティートやラスカやノエルの事も」

 カノンの問いにはっきりと言い切ったリディアーヌ王女はちら、とノエルくんとラスカを見てにこりと微笑む。すると二人はふ、と口元を緩め、

「私共はともかく、ティートや殿下たちの目は決して誤魔化せないでしょう」
「それにシルヴェール様も、決してジェラルド殿下の変調を見逃しはしないと思いますわ」
「ふふ、そうね。お母様はいつだって、例え些細なものだったとしたってわたくしたちの変化に気付いてくださったもの」

 とても仲の良い兄弟で、主従で、母子なんだろう。
 もちろんアルマン陛下とも関係は良好なのだと思うけれど、前世の記憶におけるお父さんは少しだけ鈍感で、思いがけないことが起きると少しだけ動揺しておろおろとしていたことがあったから、私の感覚としてはごく普通な家族の関係が王家といえどもスィエル家にはあるように感じた。

 そこにあるのは、テオが語ったとおりの関係だけ。
 アナスタシア王女がテオに口にした事は、決してありはしないのだろう。

「(ありはしない、んだろうけど……それでも姉さんは自信満々で。それだけじゃなくて、時々言動が演じるようでもあった……つまり、それって)」

 ――姉さんは、この世界の事を物語として認識しているのだろうか。

 それはとてつもなく突拍子もない考えだけれど、もしそうなら全てに説明がつく。でも確証なんてないし、だとしても伝えられないその考えに、私はひとり頭を悩ませていたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

(完結)異世界再生!ポイントゲットで楽々でした

あかる
ファンタジー
事故で死んでしまったら、神様に滅びかけた世界の再生を頼まれました。精霊と、神様っぽくない神様と、頑張ります。 何年も前に書いた物の書き直し…というか、設定だけ使って書いているので、以前の物とは別物です。これでファンタジー大賞に応募しようかなと。 ほんのり恋愛風味(かなり後に)です。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~

saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。 前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。 国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。 自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。 幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。 自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。 前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。 ※小説家になろう様でも公開しています

処理中です...