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第三章 私のできること
4.目撃
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アルベルト皇太子殿下による、お部屋からの外出禁止命令から、私は常に暇を持て余していた。最大の楽しみはティータイムだが、それ以外の楽しみと言えば、時々シャノンが現れてくれることだけだった。何よりシャノンのモフモフの感触が私を癒し、そしてシャノンと会話ををすることで気持ちがとても楽になった。ただ、シャノンはとっても気まぐれだったので、現れてくれることもあるけれど、そうでないこともあって、あてにならないのが玉に瑕(きず)だった。
その日も私は、窓から外を眺めていた。細い雨が空から切れ目なく降っていて、庭の植物は静かに雨に打たれていた。他の人からはよく、変わっていると言われたけれど、昔から私は晴れた日より、少し雨が降っている日の方が好きだった。晴れた日よりもちょっと静かで、穏やかに気持ちになり、何より落ち着くのだ。そして、自分が特別な存在になったような気がした。
雨音を聴きながら、今日も静かな一人の時間を楽しんでいた。頭の中には、ショパンの英雄ポロネーズが流れていた。その曲想がちょうど激しく変わったタイミングに合わせるように、不思議な光景が眼前に広がった。一瞬で、あたりが真っ暗になったかと思うと、空を一刀両断するような鋭い閃光が走り、まるで、庭と言う舞台にいる一人の人にスポットを当てたように見えた。それはほんの一瞬の出来事ではあったが、その閃光とともに姿を現した人は私の知っている人、ウィリアムスだった。なんという劇的な登場をするのだろうかと見とれていた。しかも、不思議なことに、ウィリアムスは雨に濡れたような形跡すらなく、城の中へ消えていったのだった。
「ウィリアムス、すご~っ!!こっちの世界の魔法・・なの?」
心臓がドキドキしていた。
早く、誰かにそのことを言いたくて仕方がない。レイラでもいいし、シャノンでもいい・・
誰か来ないかなぁ。そう思っていた時、タイミングよく部屋を訪ねてきたのが、なんとウィリアムス本人だった。普段なら、ドアのそばにレイラがいて、取り次いでくれるのだが、なぜかレイラの姿は見えなかった。
「リサ様、ご機嫌はいかがですか?殿下より、今日のティータイムの時間を1時間後に、ずらせてほしいとの伝言でございます」
「え~!残念。早く殿下にお会いしたいと思っていましたのに・・。」
「殿下も大層、残念とおしゃっていましたが、どうしても外せないご用事だそうです」
「そうですか。分かりました。仕方がありませんね。」
そう言った私は、続けて聞いていた。
「ウィリアムス~!あなた、庭で、さっきすごいド派手な登場していたよね。あれって、魔法なの?」
興奮のあまり、私はタメ口で尋ねる。ウィリアムスは一瞬言葉に詰まったようだった。が、すぐに気を取りなおしたように答えた。
「はい。魔法です。恥ずかしながら・・・。まだまだ未熟ですが・・」
「全然未熟じゃないよ。超カッコよかったし・・」
「いえいえ・・」
「シューッと光の中から出てきて、まさに英雄そのものだった。魔法って初めて見たから感動しちゃった」
気がつけばウィリアムスは、部屋のテーブルのところにいて、お茶のセットを整えているようだった。
「殿下とのティータイムまでには、しばらくお時間がありそうです。よいフレッシュハーブが手に入りましたので、よかったらお召し上がりになりませんか?」
「わぁ、嬉しい!是非お願いね」
「かしこまりました」
そう言うと、ウィリアムスは流れるような手つきで、透明なガラスのティーポットに緑色のハーブの葉っぱを詰め込み、そこにお湯を注いだ。湯気が立ち上り、ティーポットの中でハーブが揺れている。その緑がとても鮮やかできれいだった。
コポコポと音を立てて、カップにお茶を注ぎ始めると、鮮烈なハーブの香りが漂い始めた。
「どうぞお召し上がり下さい」
ウィリアムスは笑顔でお茶の入ったテーカップを私のそばに置いてくれたのだが、その目は決して笑ってはいなかった。
その日も私は、窓から外を眺めていた。細い雨が空から切れ目なく降っていて、庭の植物は静かに雨に打たれていた。他の人からはよく、変わっていると言われたけれど、昔から私は晴れた日より、少し雨が降っている日の方が好きだった。晴れた日よりもちょっと静かで、穏やかに気持ちになり、何より落ち着くのだ。そして、自分が特別な存在になったような気がした。
雨音を聴きながら、今日も静かな一人の時間を楽しんでいた。頭の中には、ショパンの英雄ポロネーズが流れていた。その曲想がちょうど激しく変わったタイミングに合わせるように、不思議な光景が眼前に広がった。一瞬で、あたりが真っ暗になったかと思うと、空を一刀両断するような鋭い閃光が走り、まるで、庭と言う舞台にいる一人の人にスポットを当てたように見えた。それはほんの一瞬の出来事ではあったが、その閃光とともに姿を現した人は私の知っている人、ウィリアムスだった。なんという劇的な登場をするのだろうかと見とれていた。しかも、不思議なことに、ウィリアムスは雨に濡れたような形跡すらなく、城の中へ消えていったのだった。
「ウィリアムス、すご~っ!!こっちの世界の魔法・・なの?」
心臓がドキドキしていた。
早く、誰かにそのことを言いたくて仕方がない。レイラでもいいし、シャノンでもいい・・
誰か来ないかなぁ。そう思っていた時、タイミングよく部屋を訪ねてきたのが、なんとウィリアムス本人だった。普段なら、ドアのそばにレイラがいて、取り次いでくれるのだが、なぜかレイラの姿は見えなかった。
「リサ様、ご機嫌はいかがですか?殿下より、今日のティータイムの時間を1時間後に、ずらせてほしいとの伝言でございます」
「え~!残念。早く殿下にお会いしたいと思っていましたのに・・。」
「殿下も大層、残念とおしゃっていましたが、どうしても外せないご用事だそうです」
「そうですか。分かりました。仕方がありませんね。」
そう言った私は、続けて聞いていた。
「ウィリアムス~!あなた、庭で、さっきすごいド派手な登場していたよね。あれって、魔法なの?」
興奮のあまり、私はタメ口で尋ねる。ウィリアムスは一瞬言葉に詰まったようだった。が、すぐに気を取りなおしたように答えた。
「はい。魔法です。恥ずかしながら・・・。まだまだ未熟ですが・・」
「全然未熟じゃないよ。超カッコよかったし・・」
「いえいえ・・」
「シューッと光の中から出てきて、まさに英雄そのものだった。魔法って初めて見たから感動しちゃった」
気がつけばウィリアムスは、部屋のテーブルのところにいて、お茶のセットを整えているようだった。
「殿下とのティータイムまでには、しばらくお時間がありそうです。よいフレッシュハーブが手に入りましたので、よかったらお召し上がりになりませんか?」
「わぁ、嬉しい!是非お願いね」
「かしこまりました」
そう言うと、ウィリアムスは流れるような手つきで、透明なガラスのティーポットに緑色のハーブの葉っぱを詰め込み、そこにお湯を注いだ。湯気が立ち上り、ティーポットの中でハーブが揺れている。その緑がとても鮮やかできれいだった。
コポコポと音を立てて、カップにお茶を注ぎ始めると、鮮烈なハーブの香りが漂い始めた。
「どうぞお召し上がり下さい」
ウィリアムスは笑顔でお茶の入ったテーカップを私のそばに置いてくれたのだが、その目は決して笑ってはいなかった。
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