23 / 36
第三章 過去
5.心の溝
しおりを挟む
爆破事故の現場検証の後、セントクリストファー国立高等学院の学院長はじめ幹部教師達は爆破事故のあった魔法学教室に近い中庭あたりに勢揃いしていた。
学院長は、ゆっくりと辺りを見回した。
「先生方、よろしいかな」
と言った後、右手を上げ、建物の方に腕を降ろした。それを合図に、それぞれの教師たちは、復元魔法の呪文とともに凄まじい魔法の力を結集した。みるみるうちに瓦礫の山となっていた場所が元の姿へと変わっていった。それは、芸術作品を作る芸術家たちが壮大な劇場で、まるでショーをおこなっているような光景だった。学院の生徒達は皆、口をあんぐりと開け、荘厳で見事なショーに見とれていた。気がつくと、粉塵や煙の臭いが残る以外は、いつもと全く変わりのない校舎、風景がもどっていた。
学院長はその場で、両手をゆっくりと回すような仕草をし始めた。しばらくすると、白い煙のようなものの塊が学院長の手の中で渦巻のようになった。それをじっと見つめていた学院長は
「ふむ。そういうことであったか。残念なことであった」
そうつぶやいた。
「彼女は、自分の命よりも、多数の他の人の命を救おうとしたのだ。気の毒な被害にあった彼女の冥福を祈ろう。そして、二度とこのようなことが起こらないことを心より祈る」
その声はそこにいたすべての人の心人突き刺さるようだった。
事故のあった教室の方に向かって学院長が合掌すると、そこにいたすべての人が合掌し、彼女の冥福を祈ったのだった。
学院長はその時のすべての状況を理解していた。
事故は、彼女に嫉妬していたクラス委員長のオリビアが、彼女を驚かせてやろうと、言葉巧みに魔法薬の教師の目をそらし、ちょっとしたすきを狙って、わずかではあるが、トリコンドルの粉を盗み、彼女が忘れていたノートに挟み込んでいた。何が起こっているのかまでは分からないが、いつもと違うオリビアの様子に異変を感じた彼女は、教室周辺からありったけの魔法を使い、人を遠ざけていた。そのため、彼女以外の被害者は一人も出なかった。
「生意気な彼女に、ちょっといたずらをしてやろうと思っただけ。あんなわずかな量でそんな大事(おおごと)になるとは思っていなかった・・」
泣き叫びながらオリビアは言った。
明らかな殺意を持って行ったのではないようだったが、被害者がサルーン王国の皇太子の婚約者候補であったこともふまえ、即刻退学、除籍処分の上、当然ながら、オリビアの一族は伯爵家の家柄を剥奪された。さらに、魔法薬学の教師も管理能力を問われ、国を追放されたのだった。
事故後、すぐにセントクリストファー王国からの遣いがサルーン王国に送られ、彼女の死と事故の原因等が知らされた。セントクリストファー王国は誠意を持って対処し、彼女に対する深い哀悼の意と勇敢で優秀な彼女に対する敬意を表明した。二国間で、恐れていた最悪の事態には至らなかったが、それを機に、アイデンはセントクリストファー国立高等学院を退学した。アイデンとアルベルトの心の葛藤と行き場のない怒りは、両者の心の中に大きく、深い溝を作り、それを映すかのように、それまで、非常に友好的であった2国の関係は、徐々に冷えていったのだった。
学院長は、ゆっくりと辺りを見回した。
「先生方、よろしいかな」
と言った後、右手を上げ、建物の方に腕を降ろした。それを合図に、それぞれの教師たちは、復元魔法の呪文とともに凄まじい魔法の力を結集した。みるみるうちに瓦礫の山となっていた場所が元の姿へと変わっていった。それは、芸術作品を作る芸術家たちが壮大な劇場で、まるでショーをおこなっているような光景だった。学院の生徒達は皆、口をあんぐりと開け、荘厳で見事なショーに見とれていた。気がつくと、粉塵や煙の臭いが残る以外は、いつもと全く変わりのない校舎、風景がもどっていた。
学院長はその場で、両手をゆっくりと回すような仕草をし始めた。しばらくすると、白い煙のようなものの塊が学院長の手の中で渦巻のようになった。それをじっと見つめていた学院長は
「ふむ。そういうことであったか。残念なことであった」
そうつぶやいた。
「彼女は、自分の命よりも、多数の他の人の命を救おうとしたのだ。気の毒な被害にあった彼女の冥福を祈ろう。そして、二度とこのようなことが起こらないことを心より祈る」
その声はそこにいたすべての人の心人突き刺さるようだった。
事故のあった教室の方に向かって学院長が合掌すると、そこにいたすべての人が合掌し、彼女の冥福を祈ったのだった。
学院長はその時のすべての状況を理解していた。
事故は、彼女に嫉妬していたクラス委員長のオリビアが、彼女を驚かせてやろうと、言葉巧みに魔法薬の教師の目をそらし、ちょっとしたすきを狙って、わずかではあるが、トリコンドルの粉を盗み、彼女が忘れていたノートに挟み込んでいた。何が起こっているのかまでは分からないが、いつもと違うオリビアの様子に異変を感じた彼女は、教室周辺からありったけの魔法を使い、人を遠ざけていた。そのため、彼女以外の被害者は一人も出なかった。
「生意気な彼女に、ちょっといたずらをしてやろうと思っただけ。あんなわずかな量でそんな大事(おおごと)になるとは思っていなかった・・」
泣き叫びながらオリビアは言った。
明らかな殺意を持って行ったのではないようだったが、被害者がサルーン王国の皇太子の婚約者候補であったこともふまえ、即刻退学、除籍処分の上、当然ながら、オリビアの一族は伯爵家の家柄を剥奪された。さらに、魔法薬学の教師も管理能力を問われ、国を追放されたのだった。
事故後、すぐにセントクリストファー王国からの遣いがサルーン王国に送られ、彼女の死と事故の原因等が知らされた。セントクリストファー王国は誠意を持って対処し、彼女に対する深い哀悼の意と勇敢で優秀な彼女に対する敬意を表明した。二国間で、恐れていた最悪の事態には至らなかったが、それを機に、アイデンはセントクリストファー国立高等学院を退学した。アイデンとアルベルトの心の葛藤と行き場のない怒りは、両者の心の中に大きく、深い溝を作り、それを映すかのように、それまで、非常に友好的であった2国の関係は、徐々に冷えていったのだった。
0
お気に入りに追加
79
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。


初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる