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第三章 過去
5.心の溝
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爆破事故の現場検証の後、セントクリストファー国立高等学院の学院長はじめ幹部教師達は爆破事故のあった魔法学教室に近い中庭あたりに勢揃いしていた。
学院長は、ゆっくりと辺りを見回した。
「先生方、よろしいかな」
と言った後、右手を上げ、建物の方に腕を降ろした。それを合図に、それぞれの教師たちは、復元魔法の呪文とともに凄まじい魔法の力を結集した。みるみるうちに瓦礫の山となっていた場所が元の姿へと変わっていった。それは、芸術作品を作る芸術家たちが壮大な劇場で、まるでショーをおこなっているような光景だった。学院の生徒達は皆、口をあんぐりと開け、荘厳で見事なショーに見とれていた。気がつくと、粉塵や煙の臭いが残る以外は、いつもと全く変わりのない校舎、風景がもどっていた。
学院長はその場で、両手をゆっくりと回すような仕草をし始めた。しばらくすると、白い煙のようなものの塊が学院長の手の中で渦巻のようになった。それをじっと見つめていた学院長は
「ふむ。そういうことであったか。残念なことであった」
そうつぶやいた。
「彼女は、自分の命よりも、多数の他の人の命を救おうとしたのだ。気の毒な被害にあった彼女の冥福を祈ろう。そして、二度とこのようなことが起こらないことを心より祈る」
その声はそこにいたすべての人の心人突き刺さるようだった。
事故のあった教室の方に向かって学院長が合掌すると、そこにいたすべての人が合掌し、彼女の冥福を祈ったのだった。
学院長はその時のすべての状況を理解していた。
事故は、彼女に嫉妬していたクラス委員長のオリビアが、彼女を驚かせてやろうと、言葉巧みに魔法薬の教師の目をそらし、ちょっとしたすきを狙って、わずかではあるが、トリコンドルの粉を盗み、彼女が忘れていたノートに挟み込んでいた。何が起こっているのかまでは分からないが、いつもと違うオリビアの様子に異変を感じた彼女は、教室周辺からありったけの魔法を使い、人を遠ざけていた。そのため、彼女以外の被害者は一人も出なかった。
「生意気な彼女に、ちょっといたずらをしてやろうと思っただけ。あんなわずかな量でそんな大事(おおごと)になるとは思っていなかった・・」
泣き叫びながらオリビアは言った。
明らかな殺意を持って行ったのではないようだったが、被害者がサルーン王国の皇太子の婚約者候補であったこともふまえ、即刻退学、除籍処分の上、当然ながら、オリビアの一族は伯爵家の家柄を剥奪された。さらに、魔法薬学の教師も管理能力を問われ、国を追放されたのだった。
事故後、すぐにセントクリストファー王国からの遣いがサルーン王国に送られ、彼女の死と事故の原因等が知らされた。セントクリストファー王国は誠意を持って対処し、彼女に対する深い哀悼の意と勇敢で優秀な彼女に対する敬意を表明した。二国間で、恐れていた最悪の事態には至らなかったが、それを機に、アイデンはセントクリストファー国立高等学院を退学した。アイデンとアルベルトの心の葛藤と行き場のない怒りは、両者の心の中に大きく、深い溝を作り、それを映すかのように、それまで、非常に友好的であった2国の関係は、徐々に冷えていったのだった。
学院長は、ゆっくりと辺りを見回した。
「先生方、よろしいかな」
と言った後、右手を上げ、建物の方に腕を降ろした。それを合図に、それぞれの教師たちは、復元魔法の呪文とともに凄まじい魔法の力を結集した。みるみるうちに瓦礫の山となっていた場所が元の姿へと変わっていった。それは、芸術作品を作る芸術家たちが壮大な劇場で、まるでショーをおこなっているような光景だった。学院の生徒達は皆、口をあんぐりと開け、荘厳で見事なショーに見とれていた。気がつくと、粉塵や煙の臭いが残る以外は、いつもと全く変わりのない校舎、風景がもどっていた。
学院長はその場で、両手をゆっくりと回すような仕草をし始めた。しばらくすると、白い煙のようなものの塊が学院長の手の中で渦巻のようになった。それをじっと見つめていた学院長は
「ふむ。そういうことであったか。残念なことであった」
そうつぶやいた。
「彼女は、自分の命よりも、多数の他の人の命を救おうとしたのだ。気の毒な被害にあった彼女の冥福を祈ろう。そして、二度とこのようなことが起こらないことを心より祈る」
その声はそこにいたすべての人の心人突き刺さるようだった。
事故のあった教室の方に向かって学院長が合掌すると、そこにいたすべての人が合掌し、彼女の冥福を祈ったのだった。
学院長はその時のすべての状況を理解していた。
事故は、彼女に嫉妬していたクラス委員長のオリビアが、彼女を驚かせてやろうと、言葉巧みに魔法薬の教師の目をそらし、ちょっとしたすきを狙って、わずかではあるが、トリコンドルの粉を盗み、彼女が忘れていたノートに挟み込んでいた。何が起こっているのかまでは分からないが、いつもと違うオリビアの様子に異変を感じた彼女は、教室周辺からありったけの魔法を使い、人を遠ざけていた。そのため、彼女以外の被害者は一人も出なかった。
「生意気な彼女に、ちょっといたずらをしてやろうと思っただけ。あんなわずかな量でそんな大事(おおごと)になるとは思っていなかった・・」
泣き叫びながらオリビアは言った。
明らかな殺意を持って行ったのではないようだったが、被害者がサルーン王国の皇太子の婚約者候補であったこともふまえ、即刻退学、除籍処分の上、当然ながら、オリビアの一族は伯爵家の家柄を剥奪された。さらに、魔法薬学の教師も管理能力を問われ、国を追放されたのだった。
事故後、すぐにセントクリストファー王国からの遣いがサルーン王国に送られ、彼女の死と事故の原因等が知らされた。セントクリストファー王国は誠意を持って対処し、彼女に対する深い哀悼の意と勇敢で優秀な彼女に対する敬意を表明した。二国間で、恐れていた最悪の事態には至らなかったが、それを機に、アイデンはセントクリストファー国立高等学院を退学した。アイデンとアルベルトの心の葛藤と行き場のない怒りは、両者の心の中に大きく、深い溝を作り、それを映すかのように、それまで、非常に友好的であった2国の関係は、徐々に冷えていったのだった。
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