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第三章 過去
4.彼女の死
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非常ベルが鳴り響き、学院中が騒然となった。アルベルトは嫌な予感がし、彼女のそばを離れてしまったことを心から悔やんだ。すぐに、魔法薬学教室に向かって、全速力で走り始めたが、廊下では、避難する生徒達、誘導する教員達の波にのまれ、なかなか前に進むことができない。やっとのことで、状況の分かる場所に出て、アルベルトは茫然となった。一瞬前までは、穏やかで、どこよりも平和な学院であった。しかし、眼前に広がるのはセントクリストファー王国最高峰の学院の校舎の無残な姿だった。校舎だったところは瓦礫の山と化していた。そして、まさにそこは、彼女が忘れ物を取りに行くと言っていた魔法薬学教室のある校舎のあたりだった。いろいろなものが焦げついたような嫌な臭気が漂い、煙と埃が舞い上がり、異様な様相を呈していた。
アルベルトは彼女の名前を叫んだ。何度も何度も声を限りに叫びながら、瓦礫に向かい、彼女の姿を必死に探した。
「アルベルト皇太子殿下、危険です。すぐにここから離れて下さい」
「何が起こったというのだ?放せ!探さねばならないのだ!」
「お願いです、2次爆発が起これば殿下も巻き添えになります!」
暴れるアルベルトは、屈強な警備の者たちに両腕を掴まれ、引きずられるようにしてその場から離された。そして、そのまま城へと送り届けられたのだった。
セントクリストファー国立高等学院、学院長室では学院長以下、緊急に招集された学院幹部達全員が難しい顔をして、イライラを隠せない様子だった。
学院長は厳しい顔で言った。
「なぜ、こんな事故が起こったのかね」
「はぁ、まだ、はっきりしたことは分かりませんが、事故現場の検証を急ぎ、報告をすぐに上げるよう指示しました」
「生徒が事故に巻き込まれ、即死が確認されました」
「それは誰か」
「サルーン王国からの転入生です」
「よりによって、サルーン王国からの転入生とは・・・。まずいことになった。至急、原因を究明し、責任を追及するのだ」
それは、セントクリストファー国立高等学院始まって以来の大事故であり、不祥事であった。亡くなったのが隣国のサルーン王国皇太子の婚約者候補と言うこともあり、2国間の関係にも大きな影響を及ぼすことは筆致だった。城に連れ戻されたアルベルト皇太子殿下が、彼女の死を知らされたのは、それから間もなくしてのことだった。
アルベルトは彼女の名前を叫んだ。何度も何度も声を限りに叫びながら、瓦礫に向かい、彼女の姿を必死に探した。
「アルベルト皇太子殿下、危険です。すぐにここから離れて下さい」
「何が起こったというのだ?放せ!探さねばならないのだ!」
「お願いです、2次爆発が起これば殿下も巻き添えになります!」
暴れるアルベルトは、屈強な警備の者たちに両腕を掴まれ、引きずられるようにしてその場から離された。そして、そのまま城へと送り届けられたのだった。
セントクリストファー国立高等学院、学院長室では学院長以下、緊急に招集された学院幹部達全員が難しい顔をして、イライラを隠せない様子だった。
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「はぁ、まだ、はっきりしたことは分かりませんが、事故現場の検証を急ぎ、報告をすぐに上げるよう指示しました」
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