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第三章 過去
3.取り返しのつかない事故
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「アル、授業で先生がおっしゃっていた魔法薬のトリコンドルだけど、保存方法って知っている?」
「確か、粉末処理をした後、-300度での凍結保存だったんじゃないかな」
「そうなんだね、ありがとう。あ~・・魔法薬って色んな種類がありすぎて、混乱しちゃう・・・」
その時、一瞬、彼女は何か考えるような表情になったような気がしたアルベルトであったが、その時は単なる気のせいだと思っていた。
「そうだね。サルーン王国にある薬とは違ったものもたくさんあるから、混乱するよね。魔法薬は、色やら形状やら香りも紛らわしいものがたくさんあるし、取り扱い方法、効能、保存法もみんな違うしね」
「本当に難しすぎる~」
「そうそう、確か、先生はトリコンドルを常温で放置すると、大爆発をする危険魔法薬だと言ってたね」
「まあ、危険魔法薬庫は先生以外開けられないから、そんなことは起こり得ないけどね」
「そうだね」
今日は珍しく、アイデンがサルーン王国の宮廷行事で欠席のため、授業後は二人きりの行動となった。昨日、アイデンは冗談交じりではあったが、真剣な顔でアルベルトに彼女のことを頼んでいたのだ。
ーーーーーーーーーーーーー
「頼みがあるんだが」
「何だよ。急に改まって、気持ち悪いな」
「アル、俺がいないからと言って、彼女を誘惑なんかしないでくれよ」
「はぁ~!何かと思えば、バカげたことを言っているんだ。彼女はお前の婚約者候補なんだろ。僕が手を出すはずがないじゃないか。信用ないんだなぁ」
「まさか、俺は君のこと心からの親友だと思っているよ。だから、君が裏切るなんてことは、これっぽっちも思っていないけどさ」
彼女に対するアルベルトの気持ちは、アルベルト自身の妄想に過ぎないとしても、アイデンへの裏切りに他ならない。もしかすると、アイデンがそんな風に言葉に出して言うこと自体、アルベルトの気持ちを分かった上での、アルベルトのに対する牽制とも思え、心の奥底がギリギリと音を立てて痛んでいた。
彼女への気持ちを封印しなくては・・それは、今のアルベルトにとっては非常に辛いことであるが、そうしなくてはいけないという思いの方が強かった。ただ、もし彼女が僕を愛してくれるというのなら・・そんな風に考えてしまうアルベルトだった。
「彼女は自由人だから、心配なんだよね。お前じゃなくても狙ってるやつはいっぱいいるし・・。俺がいない間は、できるだけ彼女のそばにいてやって。ただし、しつこいが、お前は手を出すなよ、そして、彼女を守ること。頼むな」
「了解しました。サルーン王国皇太子殿下様のご命令とあらば・・・すべてこのアルにすべてお任せを」
「よろしくな」
「任せとけ」
彼女の知らないところでアルベルトはアイデンと約束を交わしていたのだった。
ーーーーーーーーーーーーー
「あ、どうしよう!魔法薬の教室に大切なノートを忘れたかもしれない」
そう言いながら、彼女はいつになく焦ったように、鞄の中をゴソゴソし始めた。
「君が忘れ物なんて珍しいね」
「ほんと、アイデンがいないと、調子が狂っちゃうみたい」
茶目っ気たっぷりに、小さく舌を出して笑う彼女はとてもキラキラとして眩しかった。
「すぐに戻ってくるから、ここで待っていてくれる?」
「いや、僕も一緒に行くよ」
「いいよ。一人でいけるから」
「いやいや、アイデンに頼まれているからね」
「じゃ、悪いけれど、お願いするね」
そう言って二人が歩き出した時、
「アルベルト皇太子殿下」
同じクラスのオリビアがアルベルトを呼び止めた。
「失礼します。アルベルト皇太子殿下、先程モーリス先生が至急職員室に来るようにとおっしゃっていました」
一瞬、迷うような表情になったアルベルトの表情を見逃さなかった彼女は、
「大丈夫ですよ。私一人で問題ないですよ。すぐに職員室に。次は魔法生物学の教室で、お待ちしています」
そう言うと、彼女はさっさと一人で歩き始め、アルベルトはそれを見送る形で、
「気を付けて。では、魔法生物学の教室で・・」
彼女の後ろ姿に声をかけた。
彼女は振り向きもせず、右手を少し上げてそのまま行ってしまった。
「オリビア、ありがとう」
そう言うと、アルベルトは職員室へ向かった。オリビアはアルベルトの後ろ姿を見送りながら、不敵な笑みを浮かべていた。
「どういたしまして」
その数分後だった。平和なセントクリストファー学院に爆音が鳴り響いたのは・・・。
「確か、粉末処理をした後、-300度での凍結保存だったんじゃないかな」
「そうなんだね、ありがとう。あ~・・魔法薬って色んな種類がありすぎて、混乱しちゃう・・・」
その時、一瞬、彼女は何か考えるような表情になったような気がしたアルベルトであったが、その時は単なる気のせいだと思っていた。
「そうだね。サルーン王国にある薬とは違ったものもたくさんあるから、混乱するよね。魔法薬は、色やら形状やら香りも紛らわしいものがたくさんあるし、取り扱い方法、効能、保存法もみんな違うしね」
「本当に難しすぎる~」
「そうそう、確か、先生はトリコンドルを常温で放置すると、大爆発をする危険魔法薬だと言ってたね」
「まあ、危険魔法薬庫は先生以外開けられないから、そんなことは起こり得ないけどね」
「そうだね」
今日は珍しく、アイデンがサルーン王国の宮廷行事で欠席のため、授業後は二人きりの行動となった。昨日、アイデンは冗談交じりではあったが、真剣な顔でアルベルトに彼女のことを頼んでいたのだ。
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「頼みがあるんだが」
「何だよ。急に改まって、気持ち悪いな」
「アル、俺がいないからと言って、彼女を誘惑なんかしないでくれよ」
「はぁ~!何かと思えば、バカげたことを言っているんだ。彼女はお前の婚約者候補なんだろ。僕が手を出すはずがないじゃないか。信用ないんだなぁ」
「まさか、俺は君のこと心からの親友だと思っているよ。だから、君が裏切るなんてことは、これっぽっちも思っていないけどさ」
彼女に対するアルベルトの気持ちは、アルベルト自身の妄想に過ぎないとしても、アイデンへの裏切りに他ならない。もしかすると、アイデンがそんな風に言葉に出して言うこと自体、アルベルトの気持ちを分かった上での、アルベルトのに対する牽制とも思え、心の奥底がギリギリと音を立てて痛んでいた。
彼女への気持ちを封印しなくては・・それは、今のアルベルトにとっては非常に辛いことであるが、そうしなくてはいけないという思いの方が強かった。ただ、もし彼女が僕を愛してくれるというのなら・・そんな風に考えてしまうアルベルトだった。
「彼女は自由人だから、心配なんだよね。お前じゃなくても狙ってるやつはいっぱいいるし・・。俺がいない間は、できるだけ彼女のそばにいてやって。ただし、しつこいが、お前は手を出すなよ、そして、彼女を守ること。頼むな」
「了解しました。サルーン王国皇太子殿下様のご命令とあらば・・・すべてこのアルにすべてお任せを」
「よろしくな」
「任せとけ」
彼女の知らないところでアルベルトはアイデンと約束を交わしていたのだった。
ーーーーーーーーーーーーー
「あ、どうしよう!魔法薬の教室に大切なノートを忘れたかもしれない」
そう言いながら、彼女はいつになく焦ったように、鞄の中をゴソゴソし始めた。
「君が忘れ物なんて珍しいね」
「ほんと、アイデンがいないと、調子が狂っちゃうみたい」
茶目っ気たっぷりに、小さく舌を出して笑う彼女はとてもキラキラとして眩しかった。
「すぐに戻ってくるから、ここで待っていてくれる?」
「いや、僕も一緒に行くよ」
「いいよ。一人でいけるから」
「いやいや、アイデンに頼まれているからね」
「じゃ、悪いけれど、お願いするね」
そう言って二人が歩き出した時、
「アルベルト皇太子殿下」
同じクラスのオリビアがアルベルトを呼び止めた。
「失礼します。アルベルト皇太子殿下、先程モーリス先生が至急職員室に来るようにとおっしゃっていました」
一瞬、迷うような表情になったアルベルトの表情を見逃さなかった彼女は、
「大丈夫ですよ。私一人で問題ないですよ。すぐに職員室に。次は魔法生物学の教室で、お待ちしています」
そう言うと、彼女はさっさと一人で歩き始め、アルベルトはそれを見送る形で、
「気を付けて。では、魔法生物学の教室で・・」
彼女の後ろ姿に声をかけた。
彼女は振り向きもせず、右手を少し上げてそのまま行ってしまった。
「オリビア、ありがとう」
そう言うと、アルベルトは職員室へ向かった。オリビアはアルベルトの後ろ姿を見送りながら、不敵な笑みを浮かべていた。
「どういたしまして」
その数分後だった。平和なセントクリストファー学院に爆音が鳴り響いたのは・・・。
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