異世界で皇太子妃になりましたが、何か?

黒豆ぷりん

文字の大きさ
上 下
21 / 36
第三章 過去

3.取り返しのつかない事故

しおりを挟む
「アル、授業で先生がおっしゃっていた魔法薬のトリコンドルだけど、保存方法って知っている?」

「確か、粉末処理をした後、-300度での凍結保存だったんじゃないかな」

「そうなんだね、ありがとう。あ~・・魔法薬って色んな種類がありすぎて、混乱しちゃう・・・」
その時、一瞬、彼女は何か考えるような表情になったような気がしたアルベルトであったが、その時は単なる気のせいだと思っていた。

「そうだね。サルーン王国にある薬とは違ったものもたくさんあるから、混乱するよね。魔法薬は、色やら形状やら香りも紛らわしいものがたくさんあるし、取り扱い方法、効能、保存法もみんな違うしね」

「本当に難しすぎる~」

「そうそう、確か、先生はトリコンドルを常温で放置すると、大爆発をする危険魔法薬だと言ってたね」

「まあ、危険魔法薬庫は先生以外開けられないから、そんなことは起こり得ないけどね」

「そうだね」

今日は珍しく、アイデンがサルーン王国の宮廷行事で欠席のため、授業後は二人きりの行動となった。昨日、アイデンは冗談交じりではあったが、真剣な顔でアルベルトに彼女のことを頼んでいたのだ。

ーーーーーーーーーーーーー
「頼みがあるんだが」

「何だよ。急に改まって、気持ち悪いな」

「アル、俺がいないからと言って、彼女を誘惑なんかしないでくれよ」

「はぁ~!何かと思えば、バカげたことを言っているんだ。彼女はお前の婚約者候補なんだろ。僕が手を出すはずがないじゃないか。信用ないんだなぁ」

「まさか、俺は君のこと心からの親友だと思っているよ。だから、君が裏切るなんてことは、これっぽっちも思っていないけどさ」

彼女に対するアルベルトの気持ちは、アルベルト自身の妄想に過ぎないとしても、アイデンへの裏切りに他ならない。もしかすると、アイデンがそんな風に言葉に出して言うこと自体、アルベルトの気持ちを分かった上での、アルベルトのに対する牽制とも思え、心の奥底がギリギリと音を立てて痛んでいた。
彼女への気持ちを封印しなくては・・それは、今のアルベルトにとっては非常に辛いことであるが、そうしなくてはいけないという思いの方が強かった。ただ、もし彼女が僕を愛してくれるというのなら・・そんな風に考えてしまうアルベルトだった。

「彼女は自由人だから、心配なんだよね。お前じゃなくても狙ってるやつはいっぱいいるし・・。俺がいない間は、できるだけ彼女のそばにいてやって。ただし、しつこいが、お前は手を出すなよ、そして、彼女を守ること。頼むな」

「了解しました。サルーン王国皇太子殿下様のご命令とあらば・・・すべてこのアルにすべてお任せを」

「よろしくな」

「任せとけ」

彼女の知らないところでアルベルトはアイデンと約束を交わしていたのだった。

ーーーーーーーーーーーーー

「あ、どうしよう!魔法薬の教室に大切なノートを忘れたかもしれない」

そう言いながら、彼女はいつになく焦ったように、鞄の中をゴソゴソし始めた。

「君が忘れ物なんて珍しいね」

「ほんと、アイデンがいないと、調子が狂っちゃうみたい」

茶目っ気たっぷりに、小さく舌を出して笑う彼女はとてもキラキラとして眩しかった。

「すぐに戻ってくるから、ここで待っていてくれる?」

「いや、僕も一緒に行くよ」

「いいよ。一人でいけるから」

「いやいや、アイデンに頼まれているからね」

「じゃ、悪いけれど、お願いするね」

そう言って二人が歩き出した時、

「アルベルト皇太子殿下」

同じクラスのオリビアがアルベルトを呼び止めた。

「失礼します。アルベルト皇太子殿下、先程モーリス先生が至急職員室に来るようにとおっしゃっていました」

一瞬、迷うような表情になったアルベルトの表情を見逃さなかった彼女は、

「大丈夫ですよ。私一人で問題ないですよ。すぐに職員室に。次は魔法生物学の教室で、お待ちしています」

そう言うと、彼女はさっさと一人で歩き始め、アルベルトはそれを見送る形で、

「気を付けて。では、魔法生物学の教室で・・」

彼女の後ろ姿に声をかけた。
彼女は振り向きもせず、右手を少し上げてそのまま行ってしまった。

「オリビア、ありがとう」

そう言うと、アルベルトは職員室へ向かった。オリビアはアルベルトの後ろ姿を見送りながら、不敵な笑みを浮かべていた。

「どういたしまして」




その数分後だった。平和なセントクリストファー学院に爆音が鳴り響いたのは・・・。











しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...