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第二章 殿下、私のことはお好き?
7.お城のキッチン
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時計の針が10時をちょうど指すのを待っていたかのように、ウィリアムスがドアをノックする音が聞こえた。やった!時間通りなのは流石ウィリアムス!
「はい、どうぞ」
と返事すると同時に、思わず私はドアに向かって駆け出していた。レイラがドアを開けた時、思いがけず、ウィリアムスの目の前にいきなり満面に笑顔を浮かべたリサの顔が超ドアップで出現したので、ウィリアムスは
「あ!!」
と驚きのあまり、短く声を発していた。いつもは冷静沈着なウィリアムスが、こんな風に焦っている顔を見せたのは初めてだった。
「驚かせてしまって、ごめんなさい。ウィリアムスが来てくれるのを楽しみにしすぎて、つい・・」
と謝った。
すると、ウィリアムスは
「こちらこそ、失礼しました。そんなに楽しみにして下さっていたのですね」
と苦笑していた。それにつられて、思わず私も照れ笑いを浮かべた。
「リサ様はウィリアムス様がお迎えに来られるのをそれは、それは首を長くしてお待ちになっていたのですよ。ね」
とリサも微笑んでいた。
「リサ様は、今日は城の厨房を1番に見学なさりたいようですが、よろしいでしょうか」
「承知いたしました」
「やった~!!」
早速、ウィリアムスの後について、廊下を歩き始めた。私の斜め後ろにはレイラがいる。
天井が高く、広くて無機質な感じの廊下は苦手だったのだが、今日は全く気にならず、ウィリアムスの足がとても細長いことや腰の左に差してあるサーベルが歩くたびに揺れて、カチャカチャと音を立てる様子がとても新鮮に見えていた。
「ここが城のキッチンです」
ウィリアムスに案内されたところは、思った以上に明るく清潔感があった。ピカピカに磨かれている広い大理石の調理台は圧巻。おそらく、昼食のスープがしこんでであるのだろう、調理台のコンロには深い寸胴鍋がかけられ、香味野菜や玉ねぎ、人参等がたっぷりはいったコンソメスープのような香りが漂っていた。どうやらコンロの熱源はガスのようなものを使っているようだ。
「あ~!いい香り。お腹が空いてきちゃったな」
「すご~い!!きれい!!」
整然と並んだ鍋やフライパン、木べら、泡立て器等の調理器具は私が見たことのあるようなものばかり。じっとしていられず、キッチンの中を歩きそっと器具にふれていた。
「はじめまして。城の料理長をしております。フランクです」
声をかけられ、ハッとなり、
「すみません。あまりに素敵なキッチンだったので」
と反射的に頭を下げて謝った。
「大丈夫です。そんなに、愛おしそうにキッチンの一つ一つを見て下さって嬉しいですよ」
男性はロマンスグレーの髪をきれいに整えた中年の男性だった。お茶を芸術的に淹れてくれる給仕のサントの、テーポットののような見事な曲線を描いた丸いお腹をした料理人を想像していたのだが、意外にも、フランクと名乗った料理長はスラリとして、背が高く、スポーツマンのような印象だった。
「あの、ティータイムのお茶やお菓子を用意してくださるのもフランクさんですか」
「はい。リサ様はことのほかここのお菓子を気に入ってくださっているとか。ありがとうございます。アルベルト皇太子殿下の命を受け、特にリサ様のお気に召すようにとティータイムの準備はすべて私がしております」
「え?アルベルト皇太子殿下が・・」
私を喜ばせようと、そのように命じておられるなんて・・私は何という幸せ者!!
うふふ・・顔がにやけてしまう。
「リサ様・・」
レイラに声をかけられて、我に返る。
「あはは・・あの、すみません。
フランク料理長、いつも、滋味溢れた、食材への愛に溢れたお菓子を作ってくださるのがどんな方だろうと、楽しみにしていました。私はいつも、フランク料理長のお菓子の魔法に魅了されてしまうんです。お会いできてとても嬉しいです」
「お言葉、痛みいります」
本当なら、実際にここで卵を割り、メレンゲを作ったり、生地を作ってオーブンに入れ、芳ばしく焼けたバターや卵の香り、バニラの甘い香り等を胸いっぱいに吸い込みたい・・
「また、キッチンに来てもいいですか」
「是非、どうぞ」
「やった~!」
今日は本当に幸せいっぱいだ。アルベルト皇太子殿下に心から感謝しなくては。そう思うリサだった。
「はい、どうぞ」
と返事すると同時に、思わず私はドアに向かって駆け出していた。レイラがドアを開けた時、思いがけず、ウィリアムスの目の前にいきなり満面に笑顔を浮かべたリサの顔が超ドアップで出現したので、ウィリアムスは
「あ!!」
と驚きのあまり、短く声を発していた。いつもは冷静沈着なウィリアムスが、こんな風に焦っている顔を見せたのは初めてだった。
「驚かせてしまって、ごめんなさい。ウィリアムスが来てくれるのを楽しみにしすぎて、つい・・」
と謝った。
すると、ウィリアムスは
「こちらこそ、失礼しました。そんなに楽しみにして下さっていたのですね」
と苦笑していた。それにつられて、思わず私も照れ笑いを浮かべた。
「リサ様はウィリアムス様がお迎えに来られるのをそれは、それは首を長くしてお待ちになっていたのですよ。ね」
とリサも微笑んでいた。
「リサ様は、今日は城の厨房を1番に見学なさりたいようですが、よろしいでしょうか」
「承知いたしました」
「やった~!!」
早速、ウィリアムスの後について、廊下を歩き始めた。私の斜め後ろにはレイラがいる。
天井が高く、広くて無機質な感じの廊下は苦手だったのだが、今日は全く気にならず、ウィリアムスの足がとても細長いことや腰の左に差してあるサーベルが歩くたびに揺れて、カチャカチャと音を立てる様子がとても新鮮に見えていた。
「ここが城のキッチンです」
ウィリアムスに案内されたところは、思った以上に明るく清潔感があった。ピカピカに磨かれている広い大理石の調理台は圧巻。おそらく、昼食のスープがしこんでであるのだろう、調理台のコンロには深い寸胴鍋がかけられ、香味野菜や玉ねぎ、人参等がたっぷりはいったコンソメスープのような香りが漂っていた。どうやらコンロの熱源はガスのようなものを使っているようだ。
「あ~!いい香り。お腹が空いてきちゃったな」
「すご~い!!きれい!!」
整然と並んだ鍋やフライパン、木べら、泡立て器等の調理器具は私が見たことのあるようなものばかり。じっとしていられず、キッチンの中を歩きそっと器具にふれていた。
「はじめまして。城の料理長をしております。フランクです」
声をかけられ、ハッとなり、
「すみません。あまりに素敵なキッチンだったので」
と反射的に頭を下げて謝った。
「大丈夫です。そんなに、愛おしそうにキッチンの一つ一つを見て下さって嬉しいですよ」
男性はロマンスグレーの髪をきれいに整えた中年の男性だった。お茶を芸術的に淹れてくれる給仕のサントの、テーポットののような見事な曲線を描いた丸いお腹をした料理人を想像していたのだが、意外にも、フランクと名乗った料理長はスラリとして、背が高く、スポーツマンのような印象だった。
「あの、ティータイムのお茶やお菓子を用意してくださるのもフランクさんですか」
「はい。リサ様はことのほかここのお菓子を気に入ってくださっているとか。ありがとうございます。アルベルト皇太子殿下の命を受け、特にリサ様のお気に召すようにとティータイムの準備はすべて私がしております」
「え?アルベルト皇太子殿下が・・」
私を喜ばせようと、そのように命じておられるなんて・・私は何という幸せ者!!
うふふ・・顔がにやけてしまう。
「リサ様・・」
レイラに声をかけられて、我に返る。
「あはは・・あの、すみません。
フランク料理長、いつも、滋味溢れた、食材への愛に溢れたお菓子を作ってくださるのがどんな方だろうと、楽しみにしていました。私はいつも、フランク料理長のお菓子の魔法に魅了されてしまうんです。お会いできてとても嬉しいです」
「お言葉、痛みいります」
本当なら、実際にここで卵を割り、メレンゲを作ったり、生地を作ってオーブンに入れ、芳ばしく焼けたバターや卵の香り、バニラの甘い香り等を胸いっぱいに吸い込みたい・・
「また、キッチンに来てもいいですか」
「是非、どうぞ」
「やった~!」
今日は本当に幸せいっぱいだ。アルベルト皇太子殿下に心から感謝しなくては。そう思うリサだった。
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