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第二章 殿下、私のことはお好き?
2.黒猫シャノン
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食堂では、アルベルト皇太子殿下が、私の向かいの席で微笑んでいる。私は光沢のある水色の生地にこれでもかとパールが散りばめられたドレスを着て、ドレスアップしていた。
「リサ、お茶の前に、昨日の外出の土産話をきかせてくれないか」
え~!!お茶とお菓子が先じゃないのぉ~?
せめて、お茶だけでも先にどうでしょうかぁ~。
と言いたい気持ちをグググッと我慢した。
せっかくの殿下の好意で馬車まで用意してもらって外出したのだが・・正直、何も話すことがない。
「お話はとても苦手で、その、あまりお話できることもないのですが・・・よろしいですか」
「もちろん、全く気にすることはないよ」
という優しい言葉がさらに、堪える。
「殿下のお手紙を拝見して、レイラと急いで外出の支度をして・・初めて馬車に乗ってでかけたのですが・・その、馬車酔いをしてしまって・・・。しばらく休んでそのままお城に帰ってきてしまいました・・」
そうなのだ・・
私達3人は立派な馬車に乗り込み、侍従たちに見送られて、意気揚々と出発した。最初はあまり乗り気でなかった私も、豪華な馬車の内装や城の外に出かけるという開放感もあって、だんだんとテンションが上ってきた。頭の中には大好きなボカロの、機械的でアップテンポな曲が流れ出した。目まぐるしい環境の変化の中で、大好きな音楽さえも思い出せてなかったなと気がついた。脳内に流れるBGMに乗せて、小さめの窓から見える町並みや遠くに見える山が美しい絵画のように見えた。最高の馬車旅行かと思えたが、10分もしないうちに、気分が悪くなってきた。とにかく、乗り物にはめっぽう弱い私は馬車酔いをしてしまったらしい。ウィリアムスは馬車を止め、私を軽々と抱き上げ、レイラが手早く用意してくれた敷物の上に私を降ろしてくれた。
「リサ様、大丈夫でございますか。」
「・・・」
レイラは優しくそばで見守ってくれていた。
しばらくして、むかつきも治まってきたかと思ったタイミングで、レイラは飲み物を私の方に差し出してくれた。
「これを飲まれると、スッキリしますよ」
炭酸水のようなものなのか、口の中にシュワッと軽い刺激を感じ、爽快感が広がる。嫌な甘さはなく、後味がとてもスッキリとしていた。
「レイラ、ありがとう。とても美味しい。気分もよくなってきた」
「よかったです。馬車酔いはとてもつらいです。どうなさいますか。殿下のご厚意ではありますが、今日のところはお城にお戻りになられますか」
「そうだね。そうしてもらおうかな」
「ウィリアムス様、ウィリアムス様」
レイラが呼ぶと、ウィリアムスがそばにやってきた。
「リサ様はことのほか乗り物には弱いおご様子。なので、今日の外出はここで中止して、ひとまずお城へと引き返して下さいませんか」
「承知いたしました。すぐに準備いたします」
「ごめんなさい。せっかくお連れいただいたのに。」
「お気になさらなくても大丈夫ですよ」
ウィリアムスは軽く手を振り笑顔で応えてから、御者に指示をしていた。
私が横になっていたのはどうやら湖の湖畔のようだった。城の近くにこのような美しい湖があったことを知り、また、連れてきてもらおうかと思っていたとき、足元に黒い猫がにゃ~んと甘えたような声で鳴き、まとわりついてきた。視線が合うと、三角の可愛らしい耳をピンと立て、シャンと背中を伸ばして、少し首を横に向けるようにして私を見上げている。何だかとても気取っている。思わずしゃがんで頭を撫でようとすると、さも邪魔くさそうな表情でニャンと一声鳴いた。
『まあ、可愛げのない猫』
と思ったら、即座に
「可愛げのない猫だって?あんたには言われたくないわ」
という声が耳に飛び込んできた。
え?
思わず猫を見る。まさか。ね。
レイラは敷物を片付けているし、ウィリアムスは御者のそばにいる。他には誰もいない。
「もしかして、猫、あなた喋った?」
「猫って何!失礼だわね。名前くらいあるから。あんた、ほんとに失礼だわね」
「ご、ごめんなさい。知らなかったもので。って、そっちの方こそ猫のくせに態度デカすぎじゃないの?私、こう見えても、皇太子殿下の婚約者なんだよ。ゆくゆくは皇太子妃なんだからね」
「なんで、あんたが婚約者なのよ!」
「え?何でって、私にも分からないけど。そうなってるらしいのよ。って、なんで、あなたが怒ってるわけ?意味分からないんですけど」
「はあ~」
「猫がため息つくぅ?っていうか、ほんとに可愛げないし」
「リサ様、リサ様。ご用意ができましたので、馬車にお乗りください」
レイラが私の直ぐ側で言った。見ると、今まで、そこにいた小生意気な猫の姿はなかった。
馬車に乗るとレイラが言った。
「リサ様も、お疲れのようですね。先程は独り言を随分おっしゃっていましたね」
「レイラ、さっき私の足元に黒い猫がいたんだけど、見なかった?」
「いいえ。リサ様お一人しか見えませんでしたが」
馬車の向かいの席で、
「ふん」
と気取って座っている黒猫シャノンが私の方を見ている。
「レイラ、ほらそこ、レイラの席の前にいるよ。黒猫!!」
「え?猫などおりませんが・・」
「レイラ、見えないの?この黒猫!」
と大きな声を出した私を小馬鹿にするようにシャノンは
「ニャン」
と一声鳴いたかと思うと姿が見えなくなった。
唖然とした表情の私を見たレイラは納得したように
「馬車酔いでお疲れがでたのでしょう。すぐにお城につきますので、ゆっくりお休みになってくださいませ」
といたわるように私を見ていた。
何だったの?あの猫。私大丈夫かな?
「リサ、お茶の前に、昨日の外出の土産話をきかせてくれないか」
え~!!お茶とお菓子が先じゃないのぉ~?
せめて、お茶だけでも先にどうでしょうかぁ~。
と言いたい気持ちをグググッと我慢した。
せっかくの殿下の好意で馬車まで用意してもらって外出したのだが・・正直、何も話すことがない。
「お話はとても苦手で、その、あまりお話できることもないのですが・・・よろしいですか」
「もちろん、全く気にすることはないよ」
という優しい言葉がさらに、堪える。
「殿下のお手紙を拝見して、レイラと急いで外出の支度をして・・初めて馬車に乗ってでかけたのですが・・その、馬車酔いをしてしまって・・・。しばらく休んでそのままお城に帰ってきてしまいました・・」
そうなのだ・・
私達3人は立派な馬車に乗り込み、侍従たちに見送られて、意気揚々と出発した。最初はあまり乗り気でなかった私も、豪華な馬車の内装や城の外に出かけるという開放感もあって、だんだんとテンションが上ってきた。頭の中には大好きなボカロの、機械的でアップテンポな曲が流れ出した。目まぐるしい環境の変化の中で、大好きな音楽さえも思い出せてなかったなと気がついた。脳内に流れるBGMに乗せて、小さめの窓から見える町並みや遠くに見える山が美しい絵画のように見えた。最高の馬車旅行かと思えたが、10分もしないうちに、気分が悪くなってきた。とにかく、乗り物にはめっぽう弱い私は馬車酔いをしてしまったらしい。ウィリアムスは馬車を止め、私を軽々と抱き上げ、レイラが手早く用意してくれた敷物の上に私を降ろしてくれた。
「リサ様、大丈夫でございますか。」
「・・・」
レイラは優しくそばで見守ってくれていた。
しばらくして、むかつきも治まってきたかと思ったタイミングで、レイラは飲み物を私の方に差し出してくれた。
「これを飲まれると、スッキリしますよ」
炭酸水のようなものなのか、口の中にシュワッと軽い刺激を感じ、爽快感が広がる。嫌な甘さはなく、後味がとてもスッキリとしていた。
「レイラ、ありがとう。とても美味しい。気分もよくなってきた」
「よかったです。馬車酔いはとてもつらいです。どうなさいますか。殿下のご厚意ではありますが、今日のところはお城にお戻りになられますか」
「そうだね。そうしてもらおうかな」
「ウィリアムス様、ウィリアムス様」
レイラが呼ぶと、ウィリアムスがそばにやってきた。
「リサ様はことのほか乗り物には弱いおご様子。なので、今日の外出はここで中止して、ひとまずお城へと引き返して下さいませんか」
「承知いたしました。すぐに準備いたします」
「ごめんなさい。せっかくお連れいただいたのに。」
「お気になさらなくても大丈夫ですよ」
ウィリアムスは軽く手を振り笑顔で応えてから、御者に指示をしていた。
私が横になっていたのはどうやら湖の湖畔のようだった。城の近くにこのような美しい湖があったことを知り、また、連れてきてもらおうかと思っていたとき、足元に黒い猫がにゃ~んと甘えたような声で鳴き、まとわりついてきた。視線が合うと、三角の可愛らしい耳をピンと立て、シャンと背中を伸ばして、少し首を横に向けるようにして私を見上げている。何だかとても気取っている。思わずしゃがんで頭を撫でようとすると、さも邪魔くさそうな表情でニャンと一声鳴いた。
『まあ、可愛げのない猫』
と思ったら、即座に
「可愛げのない猫だって?あんたには言われたくないわ」
という声が耳に飛び込んできた。
え?
思わず猫を見る。まさか。ね。
レイラは敷物を片付けているし、ウィリアムスは御者のそばにいる。他には誰もいない。
「もしかして、猫、あなた喋った?」
「猫って何!失礼だわね。名前くらいあるから。あんた、ほんとに失礼だわね」
「ご、ごめんなさい。知らなかったもので。って、そっちの方こそ猫のくせに態度デカすぎじゃないの?私、こう見えても、皇太子殿下の婚約者なんだよ。ゆくゆくは皇太子妃なんだからね」
「なんで、あんたが婚約者なのよ!」
「え?何でって、私にも分からないけど。そうなってるらしいのよ。って、なんで、あなたが怒ってるわけ?意味分からないんですけど」
「はあ~」
「猫がため息つくぅ?っていうか、ほんとに可愛げないし」
「リサ様、リサ様。ご用意ができましたので、馬車にお乗りください」
レイラが私の直ぐ側で言った。見ると、今まで、そこにいた小生意気な猫の姿はなかった。
馬車に乗るとレイラが言った。
「リサ様も、お疲れのようですね。先程は独り言を随分おっしゃっていましたね」
「レイラ、さっき私の足元に黒い猫がいたんだけど、見なかった?」
「いいえ。リサ様お一人しか見えませんでしたが」
馬車の向かいの席で、
「ふん」
と気取って座っている黒猫シャノンが私の方を見ている。
「レイラ、ほらそこ、レイラの席の前にいるよ。黒猫!!」
「え?猫などおりませんが・・」
「レイラ、見えないの?この黒猫!」
と大きな声を出した私を小馬鹿にするようにシャノンは
「ニャン」
と一声鳴いたかと思うと姿が見えなくなった。
唖然とした表情の私を見たレイラは納得したように
「馬車酔いでお疲れがでたのでしょう。すぐにお城につきますので、ゆっくりお休みになってくださいませ」
といたわるように私を見ていた。
何だったの?あの猫。私大丈夫かな?
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