異世界で皇太子妃になりましたが、何か?

黒豆ぷりん

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第一章 異世界へ

8.初デート?

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私は手を引っ張られながら、必死でドレスの裾を持ち上げ、殿下についていく。目前には食堂の大きなドアが迫る。

侍従達がドアを開けてくれる...のよね?

えっ?

二人でドアに激突とか?

ダメだあ..と思わず目をギュッとつぶった。が、その後、身体に衝突の衝撃などは一切感じなかった。その代わり、エレベーターで感じるようなふわっとした妙な浮遊感と耳に障るキンという音が一瞬ではあるが聞こえた。

「目を開けてごらん」

耳元で、殿下が囁いた。
そっと目をあけてみる。なんと私は殿下と手をつないで、外の世界を風のように飛んでいた。風が私の頬をなで、気持ちよく髪をなびかせる。
そ、そ、空を飛んでいる⁈
ド、ド、ドアを通り抜けた?
頭の中はクエスチョンマークで埋め尽くされていく...

ち、ちょっと、待った~!
このウイッグが取れたら大変!最悪、打ち首獄門の刑になってしまう。
やばい!!
つないだ手と反対の手で必死で頭を押さえた。焦る私を見ていた殿下は、堪えきれないというように、大きな声で笑いだした。

え!!私は必死なんですけど!

と最初は色々な現状を受け入れられず、恐怖に引きつった顔でもがいていた私だったが、そのうち、あまりにも愉快そうに笑う殿下につられて私も笑ってしまった。眼下には手入れの行き届いた広大な庭園が広がっており、自分は、今、その上空からゆったりと見下ろしているのだとわかった。美しい景色だと感じる余裕すら出てきた。気持ちいい!

二人の笑いが自然と収まったタイミングで、私達は静かに大きな木の下に着地した。殿下は私の顔をまじまじと見つめていた。

殿下の顔が私のすぐ間近にあった。

キス⁈

反射的に目をつぶった私。2度目のキスだけど、私にとってはこれが殿下とのファーストキス。
こんなにも胸がときめいている!

ところが、期待に反し、いつまでたっても殿下の顔が近づく気配はなかった。
とても気まずい思いをしながら、おずおずと目を開けてみる。殿下の横顔が見える。そこには初めて見る陰りのような暗さが見えた。殿下の視線の先には手入れの行き届いた花や植物が植えられた庭園、薔薇のトンネル、噴水等が見える。でも、殿下はそのずっとずっと向こうの方を見ているような気がした。横にいる私の存在などまるで忘れ去っているようだ。ほんのちょっと前は、恋人気分で浮かれていたのに、急に殿下が知らない人になってしまったようだった。

「あ、あ、アルベルト皇太子殿下、な、な、何かお悩みがおありになるのでは。皇太子殿下の婚約者に選ばれた以上、私は殿下の悩みを解消する義務があります」

殿下はあっけにとられたような顔で、私の方を見ていたが、それ以上に、驚いたのは私自身だった。そもそも、私は今まで、人の事なんてまるで関心がなかったし、お節介なんて焼いた事もない。どうやって殿下のお悩みなんて解消できるわけ⁈
自問自答を繰り返す私に殿下は言った。

「今日は、君に存分に楽しませてもらった。きみの気持ちには大いに感謝する。しかも、君には思った以上の能力もありそうだ」

そう言いながら、頭にポンポンと軽く触れる手がとても優しくて心地よくて、またしても、胸が高鳴るのだった。

「えっ?能力ですか?」

「今日は本当に楽しかった。次回のティータイムを楽しみにしている。後は、レイラに任せる」

殿下は私にそう言うと、あっという間に姿を消してしまった。今まで、いったいどこにいたのかさっぱり分からなかったのに、横にはレイラが立っていた。

「うわ!びっくりした!」

「驚かせてすみません。では、引き続き庭をご案内いたしましょうか」

「そうだね」

レイラはハーブやら何やら珍しい植物がたくさん栽培してある温室を案内してくれた。が、私はまるで上の空だった。殿下の息づかいを感じながら、手をつないでドアを通り抜けたり、空を飛んだりした不思議な体験をしたことに浮かれていた。ただ、あけっぴろげで優しく笑っていたはずの殿下が、陰りのある表情で遠くを見つめていたことが気になって仕方がなかった。


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