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第一章 異世界へ
5.揺れる心
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「リサ様、リサ様」
私を呼ぶ声が聞こえる。私を起こすママの悪魔のような声とは大違いだ。でも、優しいけれど、少し他人行儀な距離を感じる。そう、この声はレイラだ。だんだんと意識がはっきりとしてきて、異世界に来たという現実を突きつけられる。
「ねえ、レイラ。私、まだ自己紹介もしてなかったよね。なんか、レイラは、私のこと、何でも知ってるって感じだけど...」
もう、99パーセント帰れないという私の住んでいた世界の自分の人生は、もはやこの世界では何の価値もないかもしれないけど、そうは思いたくないよ。このまま、誰にも知られないで、泡みたいに消えてしまうなんて、寂しすぎない?そうだよ、それだけはいや。せめてレイラに...と思ったら、言葉が溢れてきた。
「レイラ、私の名前は月石リサ。月の石って、とってもロマンチックでしょう?年は17歳で、高校2年生。こっちの世界に、学校とかあるか分からないけど。二次元と妄想が大好き。特技はピアノで、聞いた音楽は、大概すぐ弾けるよ。この世界にピアノってあるか分からないけど、ピアノというのは鍵盤の楽器ね。
で、部活は全力で、効率的かつ、スマートに最短距離と最短時間で帰宅をすることに日々精進する帰宅部。こよなく自宅での巣篭もり生活を愛する部員一人の帰宅部。私以外の部員は、認めてないけど、入部希望者一人。物好きがいるのよね。
そうそう、趣味はお菓子を作ること、食べること。こう見えて、かなりクオリティー高いと思う。よかったら、レイラにも御馳走するね。って、レイラはあんまり、お菓子には関心なさそうね。
それから、友だちと言えるかどうかは分からないけど、保育園から高校まで一緒の幼馴染が一人。現実の中の妄想を芸術にぶつけている変わり者、美術部所属の中本ユズル。あー、ユズルの突然ギャグが懐かしいよ!!」
「・・・・・・」
レイラは私の言葉には一切相槌を打つこともなく、私の住んでいた世界のことなどは問題外・・とでも言いたげな、無関心な顔で、私が話し終わるのをただひたすら待っているようだった。
「そうだよね。私の住んでいた世界での、私のことなんて、もうないのと一緒なんだよね・・。とりあえず、語らせてくれてありがとう。レイラ」
「・・・・・」
それからしばらくは、静かに時間だけが過ぎていったように思う。
でも、17年間過ごした自分のことを喋るには、短すぎる自己紹介だけど、とりあえず口にしたことで、案外自分ってかわいかったかもねなんて思えて、ちょっと好きになった気もする。
そして、レイラは、私の気がどうにか落ち着くのを見計らっていたのだろう、何事もなかったように言った。流石、王家のメイドさんだわ。動じない。
「リサ様、アルベルト皇太子殿下から食堂でティータイムをご一緒にとお誘いを受けておりますが、いかがなさいますか?」
こうなれば、超イケメンの皇太子殿下の婚約者などと言う幸運な運命?この世界での設定?を余すことなく甘受するしかないよね。
「はい。行きます」
「では、お支度を。リサ様の衣装類はここに入っております」
と言いながら、レイラはクローゼットを開けた。
はは・・以前食べ物を探したから、見たことあるんだよね。豪華なドレスや靴、装飾品がぎっしりと詰まっていた。あの時は食べ物以外には全く関心がなかったけど、満たされたお腹で、改めて見ると、うっとりするほど綺麗!
でも、これを私が着るの?と言うか、サイズは合うのかな?
ドレスの前でただただ見とれている私の横で、レイラは、さっさとドレスを選び、それまで来ていた制服を手際よく脱がし、ドレス用の下着もつけてあっという間にドレスを着付けてしまった。
『うわ~!!レイラってある意味、こわ~!油断してたら、身ぐるみ剥がされるわ・・』
そんな心の声が聞こえたたかどうかは分からないけれど、レイラはニッコリと笑いながら言った。
「とてもお似合いですよ」
大きな姿見に映った私は、恐らく、17歳の私のままのようだ。七分丈の袖や胸、スカートの裾に薔薇の刺繍が見事に施された美しい薄いピンクのロングドレスに身を包んでいた。なぜか、サイズは不思議なことにぴったりだ!胸元には大きなエメラルドのペンダントがハンパない存在感を醸し出している。似合う!とっても!
『やはり私は皇太子妃になるために生まれてきたのね!』
私を呼ぶ声が聞こえる。私を起こすママの悪魔のような声とは大違いだ。でも、優しいけれど、少し他人行儀な距離を感じる。そう、この声はレイラだ。だんだんと意識がはっきりとしてきて、異世界に来たという現実を突きつけられる。
「ねえ、レイラ。私、まだ自己紹介もしてなかったよね。なんか、レイラは、私のこと、何でも知ってるって感じだけど...」
もう、99パーセント帰れないという私の住んでいた世界の自分の人生は、もはやこの世界では何の価値もないかもしれないけど、そうは思いたくないよ。このまま、誰にも知られないで、泡みたいに消えてしまうなんて、寂しすぎない?そうだよ、それだけはいや。せめてレイラに...と思ったら、言葉が溢れてきた。
「レイラ、私の名前は月石リサ。月の石って、とってもロマンチックでしょう?年は17歳で、高校2年生。こっちの世界に、学校とかあるか分からないけど。二次元と妄想が大好き。特技はピアノで、聞いた音楽は、大概すぐ弾けるよ。この世界にピアノってあるか分からないけど、ピアノというのは鍵盤の楽器ね。
で、部活は全力で、効率的かつ、スマートに最短距離と最短時間で帰宅をすることに日々精進する帰宅部。こよなく自宅での巣篭もり生活を愛する部員一人の帰宅部。私以外の部員は、認めてないけど、入部希望者一人。物好きがいるのよね。
そうそう、趣味はお菓子を作ること、食べること。こう見えて、かなりクオリティー高いと思う。よかったら、レイラにも御馳走するね。って、レイラはあんまり、お菓子には関心なさそうね。
それから、友だちと言えるかどうかは分からないけど、保育園から高校まで一緒の幼馴染が一人。現実の中の妄想を芸術にぶつけている変わり者、美術部所属の中本ユズル。あー、ユズルの突然ギャグが懐かしいよ!!」
「・・・・・・」
レイラは私の言葉には一切相槌を打つこともなく、私の住んでいた世界のことなどは問題外・・とでも言いたげな、無関心な顔で、私が話し終わるのをただひたすら待っているようだった。
「そうだよね。私の住んでいた世界での、私のことなんて、もうないのと一緒なんだよね・・。とりあえず、語らせてくれてありがとう。レイラ」
「・・・・・」
それからしばらくは、静かに時間だけが過ぎていったように思う。
でも、17年間過ごした自分のことを喋るには、短すぎる自己紹介だけど、とりあえず口にしたことで、案外自分ってかわいかったかもねなんて思えて、ちょっと好きになった気もする。
そして、レイラは、私の気がどうにか落ち着くのを見計らっていたのだろう、何事もなかったように言った。流石、王家のメイドさんだわ。動じない。
「リサ様、アルベルト皇太子殿下から食堂でティータイムをご一緒にとお誘いを受けておりますが、いかがなさいますか?」
こうなれば、超イケメンの皇太子殿下の婚約者などと言う幸運な運命?この世界での設定?を余すことなく甘受するしかないよね。
「はい。行きます」
「では、お支度を。リサ様の衣装類はここに入っております」
と言いながら、レイラはクローゼットを開けた。
はは・・以前食べ物を探したから、見たことあるんだよね。豪華なドレスや靴、装飾品がぎっしりと詰まっていた。あの時は食べ物以外には全く関心がなかったけど、満たされたお腹で、改めて見ると、うっとりするほど綺麗!
でも、これを私が着るの?と言うか、サイズは合うのかな?
ドレスの前でただただ見とれている私の横で、レイラは、さっさとドレスを選び、それまで来ていた制服を手際よく脱がし、ドレス用の下着もつけてあっという間にドレスを着付けてしまった。
『うわ~!!レイラってある意味、こわ~!油断してたら、身ぐるみ剥がされるわ・・』
そんな心の声が聞こえたたかどうかは分からないけれど、レイラはニッコリと笑いながら言った。
「とてもお似合いですよ」
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『やはり私は皇太子妃になるために生まれてきたのね!』
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