私訳戦国乱世  クベーラの謙信

zurvan496

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  売れなくなる

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「何用じゃ?」
 謙信は眉を寄せた。
 神余親綱が越後にやって来たのだ。それも紙の様な白い顔をして。
 何かあったな、それも良くいない事が、と謙信は察した。

「その・・・・あ、あの・・・・」
「落ち着け」
 謙信の言葉に、グッと唇を噛み親綱が告げる。
「青苧が売れなくなりました」
「・・・・・・はぁ?」
 意味が分からず、謙信は間抜けな声を上げた。
「ですから、青苧が売れなくなってきておるのです」
 ゆっくりと謙信は首を傾ける。
 二度三度、左右に傾けた後、再び問う。
「どういう意味だ?」
「ですから、青苧が売れなくなってきておるのです」
 少し涙を浮かべ、悲鳴のような声で同じ言葉を親綱は繰り返す。

「売れぬとはどう言うことだ?なぜ売れぬ?一つも売れぬのか?」
「もちろん、一つも売れぬという事ではございませぬ」
 矢継ぎ早の謙信の問いに対し、親綱は一息吐いて答える。
「殿は・・・・・その三河をご存知ですか?」
「馬鹿にしておるのか、知っておるわ」
 謙信が早口に応える。
「信濃の南であろう」
「はい、その三河は木綿が名産でございます」
「そうか・・・・・そうなのか」
 初めて聞いた。というより、各地の産物など、謙信はさして興味は無い。
「それでそれがどうした?」
「いま上方では、その三河の安くて物の良い木綿が出回っておるのです」
「・・・・・そうか・・・・」
「ですから青苧が売れぬのです」
「・・・・・・・はぁ?」
 謙信は再び間の抜けた声を上げる。

「いや・・・・その・・・・なんだ、木綿となんの関係があるのだ」
「ですから木綿が売れるから、青苧が売れぬのです」
 再び親綱が悲鳴の様な声を上げた。しかし今一つ、謙信には意味が分からない。
「なぜ木綿が売れれば青苧は売れなくなる」
「ですから上方の者の服が、木綿になるからです」
 あっ、とようやく謙信にも理解で出来た。

「如何致しましょう?」
「いかが・・・・如何と申すが、お前・・・・・そんなもの」
 親綱の言葉に謙信は戸惑う。
 そんな事、謙信にわかる訳が無い。

 謙信は若き日、商いというものが国を治めるのにどれだけ大切か、宇佐美定満に教えられた。
 だから他の国主に比べ、商いを軽んじるという事はない。
 しかし別に商いに精通しているわけではない。

 現に物が売れぬというのが、今一つ理解出来ないのだ。

 田畑で米や麦を作り、豊作になって穫れすぎたから困るという事は無い。
 米や麦は沢山あればあるほど良い。
 だが青苧は違うらしい。

 沢山作れば売れなくなるという話。理屈では分かるが、今ままで生きてきて、身体に染み付いた感覚としては理解出来ない。

「まったく売れないわけでは、無いのであろう?」
 側に控える直江景綱が尋ねる。おそらく景綱も謙信と同じで、理屈は分かるが、感覚として理解出来ないのだろう。
「ええっ、もちろん」
 親綱は頷くが、顔は歪んだままだ。
「あくまで売れにくくなっているという事です。売れ残りが増えておるのでございます」
 ふむ、と呟き、
「何か策は無いのか?」
 と景綱は問う。
 あっ、はぁ、と親綱は謙信の方に顔を向けた。
「他の土地に、たとえば西国に売るという手がございます」
 んんっ、と謙信は唸る。
 つまり毛利と手を結び、その領内で売るという事だ。
 だがそうなれば、信長が黙ってはいまい。

「あとは数を減らすか・・・・」
「減らせば銭も減るのであろう?」
 はい、と親綱は頷く。

 うんんん、と謙信は唸る。
 殿、と景綱が呼びかけてくる。
「少し考える、退がっておれ」
 ハハッ、と景綱と親綱が頭を下げた。

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