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  為すべき事

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 輝虎が広間に向かう。
 家臣たちが一斉に頭を下げる。
 上座にドカリと座ると、
「皆、面を上げよ」
 と告げる。

 家臣たちが一斉に顔を上げる。
 その表情は様々だ。
 硬い表情の者、静かな表情の者、怒りを抑え込んでいる様にさえ見える者もいる。

 一同を見回し、硬い口調で輝虎が喋り出す。
「わしは一晩考えた」
 グッと家臣たちを輝虎は見つめる。
「そして決めた」
 ジッと家臣たちも輝虎を見つめる。
「これよりわし自ら、本庄弥次郎の討伐に向かう」
 
 若い連中を中心に、おおっ、と声が上がる。
「お待ちを」
 その歓声を打ち消すように、大きな声を本庄実乃が上げる。
「罠にございます」
 冷めた目を甘粕景持らが向けるが、構わず実乃は続ける。
「軍勢を動かせば、武田が攻めて参ります」
「構わぬ」
 輝虎が鋭く返す。

「そうなればとって返し、武田を討つだけじゃ」
「いえ、しかし・・・・・・」
「侍の為すべき事は何じゃ?」
 反対する実乃の言葉を、輝虎は遮る。

「殿・・・・・」
 輝虎の言葉の意味が分からず、実乃は、そして他の家臣たちは戸惑う。
「侍の為すべき事、それは戦さをする事・・・・・」
 大きな声で輝虎が告げる。
「そして勝ことだ」

「戦さに勝つ事、それが侍の全てだ」
 戸惑う家臣に構わず、輝虎は続ける。
「大将のわしの為すべき事は、戦さに赴き勝ことだ」
 甘粕景持がどうしたものかと、柿崎景家の方を見る。景家は目を閉じ腕を組んでいる。
「家臣であるお前たちは、勝つと思う大将に着けば良い」
 ジッと大きな瞳で、河田長親は輝虎を見ている。
「わしが勝つと思えば、わしについて来い」
 千坂景親がいつもの暗い顔で、俯いている。
「武田が勝つと思えば武田につけ、北条が勝つと思えば北条につけ」
 本庄実乃を輝虎は見る。
「責めはせぬ、当然の事だ」
 実乃は強い視線で輝虎を見つめる。
「勝つ大将につけ」
 初陣の時、そして兄上に謀叛を起こそうとした時、お前はわしについて来た。
 わしが勝つと思ったからだろう。
 実乃を見つめながら、輝虎はそう心の中で呟く。

「わしはわしの為すべき事を為す」
 そう言って輝虎は立ち上がる。
「戦さに赴き、勝つ」
 堂々と輝虎は宣言すした。
「お前らもお前らの為すべきことを為せ」
 家臣一同、息を飲んで輝虎を見ている。
「勝つと思う大将に着け」
 そう言うと輝虎は広間を出ていく。
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