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  輝虎

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 武田との四度目の戦いを終え、政虎は越後に戻った。
 
 そしてその年の暮れに、足利公方義輝から受けた偏諱により、輝虎と名を改める。
 本当は北条を屈服させた後、名乗ろうと思っていたのだが、どうもそれは難しい様なので諦めた。

 しかし名を変えてから、あまり物事が上手くいかなくなった。

 北信濃の争い自体は、自然と終息した。
 弟信繁を失い、信玄はもう絶対に輝虎には勝てないと思ったのだろう、一度、兵を進めてきたが、輝虎が出ると直ぐに引き揚げた。

 輝虎の方も信玄が越後に攻めてこないなら、高梨政頼や村上義清には悪いが、これ以上、戦さを続けたくはない。
 二人の方も老いたのか、以前ほど輝虎をせっつく事も無くなった。

 とは言え、それで全て安心というわけにはいかない。

 上野の国の箕輪城主、長野業正が病没した。
 信玄が見逃すわけが無い。

 直ぐに二万の軍勢を送り、更に調略を仕掛け、業正の息子業盛を自害に追い込んだ。
 輝虎も救援に向かいたかったが、下総国の臼井城で大敗を喫し、それどころではなかったのだ。

 輝虎も人の子。戦上手と呼ばれるし、自らを毘沙門天の化身と称していても、百戦百勝とはいかない。
 野戦は得意だが、城攻めは下手だ。
 腰を据えて城を囲み、じっくり締め上げるというのは苦手である。

 だがそれを差し引いても、臼井城の敗戦は酷かった。
 
 臼井城を守るのは北条に与する、千葉胤富の家臣の原胤貞という男だった。
 小城でそれに大して兵もいない。そう思い力攻めをしたら、逆に北条の後詰めに来ていた松田康郷なる若造に強襲され、敗北したのだ。

 いつもは何も言わない柿崎景家に、
「殿は堪え性が無さ過ぎです」
 と言われる始末。

 輝虎も耳が痛い。

 この臼井城の敗北により、長野業盛の救援に行けず、上野箕輪を武田に奪われた。
 そしてこれが、輝虎を更に苦しめる事になる。

 


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