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理想と現実の違い

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 リヒト・シュナイダー公爵子息は、隣国との戦争で総指揮官を務めていた。
 王国随一の戦闘頭脳。
 戦闘方法を考えさせたら右に出るものはいないと、誰しも唸らせる程の才覚に富んでいた。
 彼の戦闘ポリシーは常に冷酷非道。
 何食わぬ顔で、部下に非道な殺し方を指示する。
 狙う敵は皆殺しされて、草の根一つ残らない。
 首謀者、指揮者は晒し首にされて朽ちていく。
 数ある他国の諜報機関にも“麗しの戦闘狂”と揶揄され、その名を知らしめて恐れられていた。
 同時に恨まれてもいるのだろう。
 世界の数多の殺し屋の持つ、賞金首リストの最高峰に位置されているという噂が絶えない。

 無表情で有名なリヒトは、国王主催の祝勝会以外に社交界等には一切顔を出さなかった。
 王弟陛下だった父の嫡男のリヒトは、王国一番と持て囃される容姿を持つ。
 鍛え上げた長身に程よく筋肉を纏っており眉目も良ければ、騎士の中でも一際目立つ存在。
 真紅の艶やかなストレートの髪、漆黒の切長の瞳で見つめられると、腰元がゾクリと這い上がるような妖艶さを醸し出している。
 社交界の多くの未婚令嬢らは、なかなかお目にかかれないリヒトの麗しい姿を見ようと、出席すると聞きつけた夜会には大挙して押し寄せていたらしい。
 一声かければ堕ちる女性は沢山いるのに、結婚適齢期を過ぎたリヒトが、結婚をずっと拒んでいると男色の噂が流れていた程だ。
 噂を耳にしたリヒトの父の公爵がついに痺れを切らした。

「お前は心に決めた者でもおるのか?」

「……いいえ、おりません」

「では、このお嬢さんと婚約してもらおうか。家の為だ、観念しろ」

「……はい」

 半ば強制的に公爵が婚約者を決めた。
 リヒトは婚約相手の絵姿を見せられた時、瞬きもせず暫く絵姿を見つめていたそうだ。
 今まで多くの縁談を断り続けていたのに、エリサとの婚約は一つ返事で承諾したらしい。

 エリサ・リーヘンベルグは、侯爵家の長女で当時十七歳。
 そろそろ婚約者を決めなければ、良縁に恵まれない年頃に差し掛かっていた。
 子供の行く末に悩む父親同士が、ある会合の席で意気投合したのだという。
 その場の勢いで婚約する約束など冗談だろうと思いながら、父は娘を売り込むセールスマンのごとく、あらゆる長所を盛って話したそうだ。(本人談)
 公爵は、家柄の釣り合いがとれる侯爵家からの申し出に満更でもない様子だったらしい。
 ほろ酔い気分で帰宅後、すぐにリヒトを呼び付けて婚約話をした。
 押し寄せる秋波に嫌気がさし、相手が誰でも良いから妻帯者になりたかっただけなのかもしれない。
 ……と、まあ、伝え聞きなので本当のところは分からないけれど。
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