冬の窓辺に鳥は囀り

ぱんちゃん

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tapestries. 最終話の前日譚②

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何度か屋敷で共に過ごすようになって、気付いたことがある。
セレスは1人きりの部屋で眠ることに慣れていないようだということ。
そしてその感情には、僅かに恐れの色があるということだった。

婚約の状態で寝所を共にすることはよほどのことが無い限り常識的ではない。それは伴侶となる人の性別や年齢、種族に関わらず我が国においては不文律だ。
成人を迎えたばかりの幼さの残る婚約者と、一つ部屋で夜を過ごす。
セレスと共に歩む一つ一つを、そのどれをも大事にしたい俺にとって、それはかなり抵抗のあるものだった。

初めて屋敷に泊まることになった日。
お休みと言って部屋の前で別れ、壁一枚隔てた向こう側に俺の心を受け取ってくれた人がいる。
それは酷く気恥しく、そして酷くそわそわとするものだった。
身じろぐ音はおろか、声すら聞こえないというのに。
こんなにも頬が緩み、こんなにも浮足立つ気分になるなんて知らなかった。

俺は幸福な気持ちを抱えて眠りに付き、けれど翌朝の顔色を見て内心の驚きを隠すことが出来なかった。もともとの肌の白さに目の下の隈はくっきりと浮かび、明らかに不眠の様子を隠そうと無理に笑おうとする。

初めての屋敷に緊張していたのだろうか。
教会の寮以外で眠るのは6歳以来初めてのことだと言っていた。
何度か通えば慣れてくれるのだろうか。それまで何度こんな朝をむかえさせなければならないのだろうか。

こんにも酷い顔をさせてまで、無理をする意味があるだろうか。
厳格な二人に反対されたとしても、慣例など押し切ってしまうべきだ。

そう口にしようとして目線をやった先。
二人は黙って僅かに頷きを返し、俺に一言も言葉を発させることはなかった。

それからは部屋にベッドを二台置くことになった。
話し疲れ、満足気にまどろむ様子を見守るのは、なんとも幸せな事だった。
一つのベッドに共寝でないことも俺の理性を保つのに役立ち、冷静を装って眠ることが出来た。

けれど誓いを交わした今日からは名実ともに伴侶となったのだ。
すでにベッドは一台に替えたと報告を受けている。
まだ手を出すつもりはないとはいえ、昂る気持ちを抑えるのに苦労する。
にやける口元を引き締めようとして、変な咳払いが出てしまう。


そうして、ノックをした部屋の中からの返事がくぐもっていることに訝しみ、開け放った室内を見て、一度ドアを閉め、辺りの様子を探り、すっと出てきたヘザーを見て、俺は何かを悟った。

「何をしたんだ?」
「洗浄を。」
「まだ手は出さないって言っただろ?」
「急に気が変わることもございましょう。」
「……。俺だって浄化が使える。」
「あまりお得意でないと伺っております。」
「……。」
「……。」
「あー…。どうだった?」
「どうとは?」
「怯えていた?」
「…水に濡れた子猫のようでございました。」

ヘザーの言葉に思わず笑ってしまう。
毛を逆立てて、全身で威嚇している姿が目に浮かぶ。
そんなことをして怒っていても、ただただ可愛いだけだ。

「セレス様は後ろをお使いになることをご存じでした。必死に耐え忍び、大変ご立派でございました。」

その目にある感情に、俺は何とも言えない気持ちになる。
ヘザーの仕事に対する気持ちはわかる。
けれど、それで割り切れない心の揺れが見えたのだった。

「ありがとう、俺達を気遣ってくれて。セレスにもちゃんと説明するよ。」
「わたくしの務めでございます。お気遣いは無用にございます。」

そういって頭を下げると、すっと後ろに下がっていった。



白く丸い塊の傍に腰掛けると、ベッドがたわんでゆさりと揺れる。
息を殺している丸い塊すら可愛く、思わずふふと笑いがこぼれてしまう。

「セレス。」

名を呼んで膨らみに手を乗せると、その重みで上掛けはゆっくりと沈み、僅かにその身体の輪郭を知ることが出来る。
厚みを介して、俺の手の重さや熱が伝わっていることを確認しながら、また声をかける。

「寝ちゃった?」

そう聞くと、僅かにゆさゆさとベッドが揺れる。
俺は思わず笑ってしまう。
やることなすこと可愛いが過ぎる。

「顔が見たいんだけど。」

もぞりと動いて、静かになってしまう白い塊。

「怖いの?」

ベッドが激しく揺れた後、くぐもって聞こえる小さな声。
俺はもう、無理に顔を取り繕うのを止めた。

「恥ずかしくて……」
「そんな顔も見たいんだけど。」
「……。」
「ふふ。」

「今日は、そこを使わないよ。」
「せっかく洗ったのにっ!?」

俺の言葉に弾かれた様にガバリと起き上がってきたその顔が、真っすぐに俺を捉えてきて、その必死な表情に思わずきょとんとしてしまう。

「あははははは!」

また潜り込もうとする上掛けをむんずと掴んで中身を引きずり出し、真っ赤になってむくれている伴侶を無理やり膝の上に座らせる。
顔を見られたくないからか、ぎゅうっと首にしがみ付いてきて、俺はその身体を腕の中に抱き込んだ。

こんな風に無防備にしがみ付いてくれる様になるまで、かなりの時間をかけた。
触れることを我慢してきたことを取り返すように、毎日ハグを繰り返し、隙あらば頬や額に口付けし。
二人の間で、それが当たり前になるように刷り込んできた成果だ。

首にしがみ付き、足が俺の胴をホールドしている。
いつもならにんまり笑う所だが、今日はちょっと笑ってもいられない。

湯上りの身体の熱と、甘くいい香り。

ヘザーは、随分といい石鹸でセレスを磨き上げてくれたとみえる。
首筋に触れる頬のすべらかさ。
俺の中心がズクズクと疼き、その頭をもたげ始めていた。

「俺はね、セレス。好きな人と触れ合うのが、初めてなんだ。」

俺の言葉に、首元にある顔が僅かに動く。

「一つ一つを大事にしたいんだ。ゆっくり味わって、その全部を覚えていたい。」

「俺の我儘に、付き合ってくれる?」

肩で、セレスの顔が頷いたのが分かった。
ふわふわと髪が首筋にかかってくすぐったい。
そして顔を上げ、その青灰の瞳が真っすぐに俺を見て、

「僕も。フォルティス様との全部が大事。大事です。」

そういうと、両肩に置いていた手がずるずると首に回っていく。
伏せた顔が赤く染まって、耳まで赤い。

俺の中心はすっかり立ち上がり、その熱の集まった場所がセレスの尻にあたっている。
セレスのそれもまた、同じような硬度で俺の腹に触れているのが分かって、勝手に頬が緩んでしまう。

露わになっている首元に、ちゅっと音を立ててキスを落とす。
びくりと震える身体が、キスを繰り返すうちにふるふると震え、熱く甘い吐息が耳元にかかる。
僅かに上がってきた顎に、首をひねってその顔を迎え、薄く開いた口にやわく触れる。

ふわふわと、柔らかい唇。
乾いている薄い皮膚同士が触れ合う、そのすべらかな感触。
口付ける度に洩れてくる吐息に、時折鼻にかかったような声が混じり、その唇もどんどん湿った音を立ててくる。
薄く開いた目が時々俺の目を捉え、恥じらいの色がどんどん薄れてとろりと蕩けていくのに、暗い喜びがある。

抱き込んだ薄い身体。
夜着の上から背を撫で上げ、僅かに浮いた背骨を指で数えていく。
その刺激に顎が上がり顔が上向くと、白い首元が露わになる。
震えているその柔らかそうな首にぢゅうと吸い付く。

「んぁっ…」

堪らずといったように漏れる明確な快感の声。
沸騰しそうになる頭と、痛い程に立ち上がっている陰茎が冷静さを奪おうとしてくる。
顔を戻してセレスの顔を見ると、俺の視線を受けた目がゆっくりと閉じられながら唇の位置を確認し、自分から口を合わせてくる。

ぐわっとくる。

落ち着け落ち着けと、俺は呪文のように心で繰り返し戒めながら、愛しくてたまらないセレスの身体を大事に大事に抱きしめる。

ちゅっちゅと音を立てながらキスを繰り返し、やわらかな下唇をぬるりと舐めて、やわく食む。
音を立てて離しながら、夜着の中に手を滑り込ませ、そのしっとりとした肌に触れる。

「あぁ……」

官能をくすぐる甘い声。
撫で上げるわき腹と、手に触れてくる痩せた身体。
胸の下のあばらを前から後ろに向かって包むように撫でる。

これでも、肉が付いた方だ。





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