冬の窓辺に鳥は囀り

ぱんちゃん

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59.どうか神様

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第五騎士団と第四騎士団が戦場コートに現れると、柵のそこここでグレーのローブの魔術師達が、対物理防御壁と対魔法防御膜を張り巡らせてゆく。
フィールドの中に目をやれば、今まで立つことのなかった白の治癒師たちが何人も点在している。

その物々しさに、僕は次の一戦が、今までとは違う物なのだと理解した。
ドッドッと、不安に胸が高鳴る。
さっきの試合の前には見せてくれた微笑みも今はなく、引き結ばれた口元に、その真剣さがあらわれているようだった。

「くくく。」

決戦の緊張に似つかわしくない笑い声に、僕は驚いて左隣を見る。
ローワン先生だけでなく、そこかしこに居る老齢の男の人達も、クツクツと笑っているのが目に入ってきた。

不思議に思って見ていると、ローワン先生がぼそりと言う。

「面白くなってきたな。」

そして。決戦の角笛が響き渡った。




四団と数を合わせてきたということは、五団の人達も手練れだということだ。
その考えを裏付けるように、戦闘は一対一へと持ち込まれ、組み合わせによっては赤の騎士一人に、黒の騎士が二人もついているところがある。
大将は両陣営とも自陣から動かず、フリーで進撃している人はどちらもいなかった。

高鳴る鼓動がうるさい程で、僕は手をギュッと握って息をつく。

フォルティス様の剣の打ち合いに、つられるように力が入ってしまう。
気付くと息を止めて見入ってしまい、余計に胸がどきどきする。


苦戦しているようには見えなくても、剣を合わせている時間が今までの戦いよりも格段に長かった。
相手の薙ぎ払う剣を、上体を逸らして躱すそのスレスレ感に、見ていたくなくても目をつぶれない。
目を離した瞬間に、どうにかなってしまうのではないかと、怖くてたまらないのだ。

栗毛色の髪の人が倒れると、間を置かずして次の人がフォルティス様に駆け込んでくる。
ほっと息をつく暇もない。
僕の右袖がギュッとひかれた。
僕はフォルティス様から目を逸らせないまま、エレインの小さな手をぎゅっと握る。

二人目の人は一人目よりも強そうだった。
剣を打ち合うスピードが、さっきよりもずっと早い。
目を凝らしていないと、遠くに居る二人の動きを僕の目では追えないくらいだった。

瞬きするほどの短い時間に、フォルティス様の剣が相手の右脇を打つと、剣を取り落としたその人は後方に向かって吹き飛んで行った。
白の治癒師が咄嗟に駆け出し、フォルティス様は後ろを振り返る。

その視線の先を見ると、フィールドの中央に居た紺色の髪の人の頭上に、深緑色の髪の人が空から降ってくるところだった。
紺の髪の人は手のひらを上向かせたまま両手を組み、落ちてきた人の足を押し出して敵の本陣へと投げ込み、その一瞬後には自陣へと向かって走り出す。

倒れている赤の騎士は四人。
目を移すと、投げ飛ばされた人は既に、敵本陣右脇に居た赤の騎士と切り結んでいた。
駆け込んでいくフォルティス様が、敵大将へと向かって一撃を浴びせる。

受け止められ、返される剣。
その打ち合いの速さに、相手の強さを嫌というほど思い知らされる。
もう、僕の目ではその動きを追うことは出来ない。

ふいに飛び退り、二人が距離を取った時。
その頬に赤い色を見つけ、僕の喉がヒュッと鳴る。


フォルティス様の隣に居る覚悟をするということは、この恐怖と向き合っていかなくちゃいけない覚悟だった。

脳にこびりついていく、赤い色。
馬車と動かない母。
実際に見たわけではない映像が、頭の中で交差する。

ああ!だけど!
だけど僕の見えない、知らない場所で血を流されるくらいなら!!
僕は、甘んじてこの恐怖に立ち向かう!

僕は力を付けよう。
誰よりも、何よりも。フォルティス様を癒す力を。
どんな傷からも、フォルティス様を生かす力を。

だからどうか。

どうかどうか神様っ……!!









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