冬の窓辺に鳥は囀り

ぱんちゃん

文字の大きさ
70 / 133

57.剣を持つ覚悟

しおりを挟む
『30.うたかたの夢』にて、リボンタイの留め具について加筆しました。(7/9)

騎士の鎧について
近衛騎士団 白(微塵も出てきませんが)
第二騎士団 薄緑色
第三騎士団 青
第四騎士団 黒
第五騎士団 赤


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



観客席の一角にある騎士の控え。
三回戦目の第二騎士団と第五騎士団の試合を、柵に寄りかかるようにして眺める。

8人全員が横一列に並び、真剣にその動きを目で追いながら、ふと横を向いて見たその景色に俺は思わず声に出して噴き出してしまった。
右隣に居るテオが怪訝な目を向けてくるのに、無言のまま指をさして教えてやる。
一列に並んだ黒の騎士全員が、皆同じように腕を組んで険しい顔をしている。
テオは声を殺しながら、身体を二つに折って背中をぶるぶる震わせた。
なにせ俺もテオも、気付くまで全く同じ格好をして並んでいたのだ。
静かに爆笑しているテオを見て、俺もつられて笑ってしまった。


今年の五団の出場者は、国の一番東端にある大型城塞都市からの帰還組だった。
国の東に広がる国境を越えた大森林は、近隣諸国の中でもまれな程に広大だ。
その森の監視と警備のための守護砦が、森を囲むようにいくつも建てられている。
その中でも一番端にあるカモーラ砦は、国境にも近く、ゆえに屈強な騎士が多く常駐しているのだった。


二団と五団の試合は、時間はかかったが五団の危なげない勝利だった。
見知った顔も何人かいたが、動いているのはルーキーが多く、古参は支援に回っているようだった。

戦場コートから騎士たちが撤収する中、赤い鎧に金の短髪がこちらに向かって手を挙げ、ゆっくりと歩み寄ってくる。
途端にザワリとした威圧が右側から流れてきて、オルゾやタジルの緊張が伝わってきた。

「やぁ、ネイト。君が出るなんて珍しいね。」
「ちょうど討伐要請がなかったからね。」

爽やかに言う目の前の赤い騎士に、ネイトがにこやかな顔で言う。

「ああ、だからこのフルメンバーなのかな? レイモンドさん、お久しぶりです。イーサンも。」

そういって順に挨拶をしていく。
金に近いような緑色の目を向けられ、俺は黙って頭を下げる。

切れ長の目と、左目の下にある泣き黒子。
柔和な笑みを浮かべる、薄い唇。

「さっきの試合、なかなか意表をついてた。」

ネイトに顔を戻すと、楽し気に笑いながら自然な調子でネイトの指先を握る。
ぶわりと威圧が上がって、オルゾが少し後ずさったのが目の端に入ってくる。

「面白かっただろ?」

にこにことそう答えながら、やんわりと指先を引き抜き、何でもない事のように会話が続く。

「君のその綺麗な顔に傷がつかなくて、安心したよ。」

少し紅潮した頬。切れ長の目を細め、ネイトの頬に手を伸ばそうとして。
けれどその指が、ネイトに触れることはなかった。

空気が裂ける様な音と共に、赤の騎士の手が弾かれる。

もはや俺の右側は、威圧ではなかった。
体表を圧する気配はチリチリとした空気に変わり、体中の毛が逆立っているのが鎧の上からでも分かった。

「気安く触んなよ。」

怒気を孕んだイーサンの声。
にこにこと笑っているネイト。
にやりと笑う、赤の騎士。

俺は、見てしまったことを後悔しながら、視点をぼかして遠くを見る。
内心、重く溜息を吐く。

やっぱり、アレックス・レオガルドは苦手だ…。




アレックスが手を振りながら去っていってしまうと、イーサンはネイトの手を引いて、無言で戦場の入口に向かって歩き出した。

「あと半刻で試合だからなー。」

レイモンドが二人の背中に向かって呑気な声をかけると、ネイトが僅かに振り返り、はにかみながら手を振った。

「何だったんすか?今の。」

テオがこっそりと、俺にだけ聞こえるようにきいてくる。
その訝し気な視線に、俺はなんて答えていいかわからず、暫く口ごもってから歯切れ悪く言う。

「あー…。恒例、的、な…?」
「あ??」

より一層怪訝そうな顔をしているテオの顔から目を逸らし、俺は遠くの空を見た。



四回戦目の第二騎士団との試合。
戦場に出る頃になってようやっと戻ってきた二人に、俺は少しだけほっとする。
やたらと機嫌のいいネイトはいつも通りとして、イーサンが思いのほか落ち着いていたからだ。

昔、見るに見かねてネイトに言ったことがある。

『自重してくださいよ。』

居た堪れない心地を抱えて訴えた俺に、ネイトはニヤリと笑った。

『あの変態の使い道なんて、これくらいしかないだろ?』

心底楽しそうに言ったその言葉を聞いてから、俺はこの三人へは、もう二度と介入しないと心に決めたのだった。



歓声と共に戦場コートに立つ。

地響きのように轟く鬨の声に、腹の底を揺さぶられながら、身体を捻って腕を伸ばす。
観客席をぐるりと見回さなくても、目当ての顔が目に留まって、思わず頬が緩んでしまう。
口元で手を組んで、不安げな表情をしている。
ばちっと目が合って、俺が笑って手を振ると、僅かに頬を染めてぎこちなく手を振り返してくる。

その仕草一つ一つに、胸の中がきゅうきゅうとする。
セレスの胸元に光る、金のリボン。
俺は思わず、にんまり笑った。

ふと、隣に座るエレインに目が留まる。
俺を眇めた目でじっと見ている。
なんとなく、この間から敵意のあるその視線に訝しみつつ、俺は戦場に目を戻した。


目の前に並ぶ二団の騎士たちは、見るからに満身創痍だった。先の試合の疲労を引きずっているのが、遠くからでもよくわかる。
直立して、一見普通そうに立ってはいても、体重のかけ方や、剣の持ち方、足の運びに痛みの形跡が見えるものだ。
治癒師に治療してもらっても、後から別の場所が痛んでくることはよくある。
傷を庇った無理な動きをすることで、正常な場所が引きずられるのだ。

本人たちにも分かりにくい微妙な違和感は、俺たちから見ると明らかだった。
けれど俺たちに向かう相手の表情は、どの顔も真剣で、傷の痛みを凌駕する意思がある。
騎士の誇りに、俺たちはきちんと応じなければならない。


大将のレイモンドだけを残し、角笛の合図と共に一斉に駆けだす。
討ちもらしを後衛に任せて、なるべく全員に剣を当てていく。

刃で刃を弾いて、柄で鎧の隙間を突く。
相手の剣を飛ばして、背中に回し蹴りを入れる。
鎧に守られた硬い場所を狙って、横薙ぎにする。

いくら刃引きをしていても、剣は剣として作用する。
皮膚にあたれば、それは鋭く肉をえぐるのだ。

そのことに、今日初めて気付く騎士もいる。

二団は特に城内外の警備が仕事だ。俺たち四団のように、討伐に出ることはない。
だが、実際に人を手に掛ける機会が多いのは、実は二団や三団だ。外周警備や捕縛時に、相手が抵抗すれば剣を抜かねばならない時もある。

その恐怖に怖気づかないよう、その呵責の念に心が折れてしまわないよう、日々の練習やトゥルネイがある。
このトーナメントが軍事演習であることの意味には、俺たち四団にも当てはまる。

魔物ではなく、人を切るという、その覚悟。

その意味を意識しない事には、剣を持つものとして揺らぐのだ。


修了の角笛が鳴り響き、俺はそっとオルゾの顔色を伺う。
僅かに頬を上気させ、肩で息をしている。
不穏な様子がないことにほっとしつつ、かつて青ざめた顔でぽつりとこぼした言葉を思い出す。

『討伐だけやってたいです。戦争じゃなくて。』

全く。その通りだ。





しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...