冬の窓辺に鳥は囀り

ぱんちゃん

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14.魔力誘導

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僕が独自に編み出した魔力発散方法は、目の前にいる魔力の強い人たちから見ると、あまりにも異質な事らしかった。
けれどこの方法があったおかげで、僕は一月を乗り切ることが出来たし、放出された魔力でコルスの子たちが魔力あたりを起こしたこともなかった。

だから僕は気軽な気持ちで何の曲にするか思い浮かべる。
迷った末に『アヴェ・ヴェルゴ』にすることにした。
この曲は元々木管楽器の一節に歌詞をつけたもので、曲が短く独唱に耐えうると思ったからだ。

体内の魔力は、さっきフォルティス様に抜いてもらったのでフラットだった。
多くもなく、少なくもなく、ちょうどいい感じ。
体の中にある魔力を、僕はもうなんの苦も無く意識することが出来る。ほんわりした光がゆらゆらしていて、薄く隅々まで満たされている。それを体中から溢れさせることをイメージしながら歌う。

この曲は一音一音の伸びが長く、言葉の数が少ない。
音を美しく伸ばすとき、僕は音が胸から上全部で響いていることをイメージしている。
音を包むように腕を持ち上げているので、満ちる歌声は腕の中にも揺蕩ってくる。
響く音に魔力を重ねる。
粒子のように細かい光が、音と一緒に溢れてくるのだ。
閉じた目の暗闇が音と魔力に集中している。それは曲の美しさも相まってとても気持ちがいい。

終わりに差し掛かり、薄く目を開けると、僕はその光景に一瞬ギョッとする。
三人が手首をぐるぐる回しながら、声を出さずに『続けろ』と口をパクパクさせている。

短すぎたんだ。

僕はもう一度盛り上がりの部分をリピートした。



「どうでした?」

ほぅ、と溜め息をつくレーンさんに、僕は問う。
レーンさんもフォルティス様と同じで何の苦もなく人の魔力が見えるようだった。

「綺麗に巡りながら、わずかな量が体から出ていました。」

自覚症状はありますか?と問われ、僕はうーんと考えてしまう。
身体の内側に意識を向けてみても、特に何かが変わったようには思えない。

「確かに練られていない分、薄く量も少ないのかもしれないね。」
「次は練ってやってみろ。」

僕は頷いて、身体の流れに意識を移す。
体を満たしている薄い魔力が左回りに身体を巡る。
指の一本一本まで隅々と。体中を流れる間に魔力はどんどん濃く、重く、熱くなっていく。

「上手くなったな。」

フォルティス様が誇らしげに目を細め、僕はその満足げな声音に心の底から嬉しくなる。
思わずにこりと笑ったその瞬間、なんの予備動作もなくフォルティス様は腕を振り上げて、並んで座るサーヴェン中隊副長とレーンさんの視界を遮る。瞬きよりも素早いその動きに、僕は心底驚かされてしまう。


「ちょっ!! なんなの!? びっくりするから止めてよ!!!」
「……。これがテオさんの言っていた稲妻の閃きですか……。」
「…なんだそりゃ。」

サーヴェン中隊副長が腕を押しのけ、レーンさんは石のように固まっている。

「練られた感じは、さっき抜く前と同じくらいか?」
「んー。もう少し上です。」

感情に引っ張られ滅茶苦茶な動きで練られた時よりも、エネルギーは強いのに荒れ狂う感じがしなかった。
身体の中に丸くしっくりと収まり、もう少し練ってもいいと思えるほど魔力の熱は安定してる。

「では、歌ってみますね。」

曲を考えるのが面倒になったので、今日歌った『サルヴェ・レジナ』にすることにした。
1月の間朝から晩まで歌い続けて、まるで呼吸をするように奏でられるようになっている。
魔力に気を取られても、きっと上手く歌えるはずだ。
途中僕のパートは主旋律から外れてしまうけれど、もうそういう曲だと思ってもらおう。
一番はサントス達が歌うディスカントゥス、二番はソプラノで。

練った魔力は、なかなか体表から出ていかない。
強く意識しよう。声と一緒に響くように。室内を満たして揺蕩う様に。


歌い終わって三人を見ると、なんとも微妙な顔をしている。
何だろう。
何かまずいことが起こったのかな。
けれど皆の反応に反して僕の体調は悪くなかった。熱は少し抜けていて、身体の中を魔力が気持ちよく巡っている。
むしろ具合は良いくらいだった。

「べ、別の曲も歌ってみてくれませんか?」

体調はむしろ良いことを伝えると、レーンさんからリクエストが入る。
ならばと、僕は去年の生誕祭で歌った曲に思いを馳せる。
もう一度魔力を練り直し、それと同時に曲の構成を考える。
短い曲なので間奏を上手くつなげられるようアレンジし、3回ほど繰り返すことにする。
最後の回に向かって盛り上げるようにタメを重くしよう。
今回はもう少し強く出すことをイメージして。
曲が美しいけれど得意な音域よりは少し低いから、声を濁らせないように。

最後の語尾が消えて、ああ、良い曲だった、と部屋の天井から視線を移す。
三人の方を向いて、僕はギョッと固まった。
レーンさんは両手で顔を覆っているし、中隊副長は僕の方を見つめたままで滂沱の涙だった。
フォルティス様ですら手で目元を覆っている。

「……。」

そんなに泣いていて、僕の魔力みえてました?

歌い終わったけれど誰も口を開かないので、僕はもう一曲歌うことにする。
もしかしたら見えていなかったのかもしれないと思ったから。

もう魔力を練るのも、素早くできるよ!


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