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異世界勇者、世界を少し変える
勇者、探られる。あと友達が増える。
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ここは特定超害獣対策本部捜査2課第四班。私は遠山真琴。そこで警察のデータベースを漁って調べ物をしているのが蛇子さん。で、江楠さんは使用で外出中みたいです。私は指示があるまで待機の命令を受けています。
「シモン・ヴァッシュ、父方にジョージア人の祖母、母方にアメリカ人の祖父を持つ日本人。早くに父母を亡くし、児童養護施設に入る。中卒で職を点々としながら最終的に早上工業に入社、ねぇ」
パソコンを叩きながら、蛇子さんが唸ってますねぇ。少し画面を睨んだ後
「胡散臭ぇ」
と一言呟いて、タバコを吸い始めました。
「やめてくださいよ密室で。というか、何が引っかかったんですか?同い年よのしみで聞かせてくださいよ」
「全く同い年と思えねぇが教えてやる。1つ、コイツの祖父母より前の世代の足取りが掴めねぇ。戦時中だからと言われりゃそれまでだが、ここまで綺麗に掴めねぇのは不自然だ。偽装の可能性が高ぇが、そうなるともっと根深いところと癒着している事になる」
な、なるほど?そう言われればそう、なのかも知れないなぁ。あとタバコ臭い。私の嫌がる顔を見て、蛇子さんはタバコを消してくれた。いいひと。
「2つ、遠くからコイツを撮った時の動画だ。見ろよこの動き。重心がブレているようで片足だけ全く離れない。素人のフリした手練れのソレだ。稀人にしてもそうじゃ無いにしても、野放しに出来ないな」
正直にいいます。全くわからない。ゼロ距離にいても分かりませんからね。そりゃ遠くから見ても分かりませんよ。
「……このまま何かアクションがあるまで待機ってのも、暇しちゃって嫌ですねー」
「だったら動くか。ほれ、準備しろ」
わからないのをはぐらかすために話を逸らしたら、それに乗っかってきた蛇子さん。ショットガンをカバンに詰めて、外に出る用意をし始めた。
「えっえっ、あの、江楠さんからは待機しろって」
「捜査の基本は足なんだろ?動いてなんぼだ。まぁ遠山は待ってても構わんぞ、俺1人でも行く」
そう言われたら、行かざるを得ないというか、言い方がずるい。でも組織として動く以上上司の言う事は聞かないといけないので、江楠さんにメールで連絡。1分もかからないうちに「君が蛇子くんを見守っていてくれ」との返信が来たので、心置きなく行くことにする。
「休日、休日ねぇ……」
警察の訪問から数日後、俺は1人慎吾の家の近所をぶらついていた。
信吾も休みなのだが、「今日はお父さんと2人でやりたいことがあるので、お休みです!」との事で、急にやることがなくなってしまった。俺の生活早上家だけで回ってる。
悪いわけじゃあないんだけど、もっと交友関係を増やしたい。
しかし俺がこの世界の事について知っている事はまだまだ少なく、この辺りに何があるかもわからない。
だからこその散策。だからこそのマッピングだ。知らない事を理解するためには、どんどんそこに飛び込んでいかないといけない。
と言うわけで、俺は1人仙台駅の方向に向かって歩く事にした。行って帰っても5時間掛からないらしいからな。
よしえさんからも「日が変わる前に帰ってきな」と言われたし、相当信頼されているんだなぁという気持ち半分、もう逃げる事はないと確信されてるのかなぁという気持ち半分だ。
そしてこの前のお小遣いの残りが幾許か。これは多少遊んでも問題ないだろう。
と言う事で、歩きつつ興味のあるものを冷やかしていこうかと思う。季節は冬、雪こそ降らないものの、相当寒くなってきた。あの場所に捨ててきてしまったネックウォーマーが恋しい。
広い道路を越えると、少しずつ栄えているところが増えてきたような気がする。いや、信吾の家周辺が栄えていないとかそう言う事ではなく、人通りが増えて来る感じだ。車通りも多くなってくる。
歩きながらこっちの世界で買った靴の快適さを思い知る。少し歩いただけで俺の世界の靴とは一線を画しているなと思うほど楽だ。地面が舗装されている事も大きいだろう。
これだけ快適に歩けると言うのに、こっちの世界で歩く人は少ない。いや、俺の世界からすれば歩く人も多いが、人口から言えば微々たる量だろう。殆どの人は車やバイク、電車などに乗って移動する。どんどん利便性が上がると言う事は、人々から運動を取り上げるという事なのかも知れないな。
などと思ってはいるが、別に利便性なんていくら上がっても良い。楽に動けるに越した事はない。誰だって辛い思いはしたくないからな。
そうこう思っているうちに、仙台駅に着いた。でかい建物、広い駅、密集した人々。
……後ろからついてくる二人組。
しかも1人はこの前の遠山とかいう警官。何でだよ、何で遭遇したんだよ間が悪い。
ちょっと巻くか。
俺は土産物を物色するふりして自然に少し背を屈め、周りの群衆に体を潜める……が、男の方はまだ見てる。やるな、コワモテ。ならばいっそ近づいてやろう。
「あれー?この前の刑事さん!お久しぶりですねぇ!」
「ええっ!?あれ?さっき、あ、お、お久しぶりですねぇ!」
俺が身を屈めた時点で見失っていた遠山は、急に死角から出てきた形の俺にビビりつつも気づかないフリをしてた。結構無理があるけど。
「あ、デート中でしたか!いやぁお楽しみ中申し訳ない!では!」
そう言ってそそくさと離れる俺。こういう尾行は対象に勘づかれた時点で失敗だ。これで追跡も諦めるだろ。
どんな顔してるかなとチラリとコワモテの方に目をやると、やりやがったこいつみたいな目で俺を見てた。やられないとでも思ってたか?って目で伝えてやる。
はっはー!悔しそうな顔してこっち睨んでる。残念だったな!
尾行を振り切って数時間。俺は裏通りも含めて仙台を満喫していた。俺の世界にも似た見た目の酒場や、昔馴染みによく似た人形なども物色し、気がつけばすっかり日も落ちていた。
夜の繁華街、嫌いじゃないぜ俺。呼び込みの男、如何わしい店、こういう華やかな街は、どこも変わらないんだなぁ。
「お兄さんどうっすか!うちそこの店の系列店なんっすけど飲み放題付けて60分くらいで2500円いかない感じで飲めるんすけど」
「あー、普通に飯食いたいんですんません、終わったらちょっとご厄介になろうかなぁ」
「マジすか!約束っすよ!」
呼び込みの男をするりと交わして、もっとディープなところへ。へへへ、最近は知識欲ばかり満たしてしまったからなぁ。ここらで他の欲も、なーんつってな!なーんつってな!へへへ!
お、いい裏路地だ。こういうところに隠れた名店があるもんだ。なんて言って入った小道のようなところに、マジで普通の店があった。肉を焼いているのかすごいいい匂いがする。腹の方が本当に減ってきたな。飯食ってくか。
「はぁいいらっしゃい!お兄さんお一人?じゃあほらカウンター座って!」
結構繁盛しているように見えた店内は、いい意味で薄汚れていて、いい意味で油まみれで、いやいい意味に取れないな。はっきりいうとめっちゃ汚かった。そんな店を切り盛りしている、70は過ぎているであろう女将さんにカウンターに座らされる。
「女将さんホルモン10人前お願いー!」
「あいよちょっとまちな!」
団体で来ている男衆に、ホルモン、牛の内臓盛り合わせが出される。美味そうだなホルモン。俺も頼もう。ビールもあるのか。瓶一本で売ってるのはなんというか、衝撃だな。
「女将さん、俺もホルモンとビールを」
「あいよ!ビールはそこから勝手にとってってね!」
自分で持ってくのか、斬新だなぁ。だがこういうのはあれか、こっちのことわざで言う「郷に入れば郷に従え」と言うやつだな。瓶ビールを持ってきて、自分で開ける。酒を注いで一息に飲むと、俺もこの仲間に入れた気分になる。
ははぁ、何とも味のある雰囲気だ。昔駆け出しの頃に、友人とバカやった記憶が蘇る。あれは楽しかった。
「でな!また大五郎が香典泥棒したんだってさ!」
「あぁらやっぱアイツは馬鹿なんだねぇ、何度やったんだか!懲りないんだもの」
そして横にいる常連と思しきおっさんと、女将さんが衝撃的な話をしてた。怖いなぁここ。仲間に入るべきじゃなかったかもしれん。
「ああお兄さんお待ちどう!よく焼いて食べな!」
女将さんから皿に盛られた肉を受け取る。焼く間に他の客をあらためて見る。
陽気に歌う男衆。酔ってはいるものの、音程はしっかりしてる。どこかの楽団にでも入っていそうだな。
横で女将さんと話している男は、どうした歯が殆どないじゃないか。何でそんな事になってんだよ。拷問されたのか?そして何でその状態でホルモンを食ってんだ。噛み切れるのかその口で。うわホルモンうめぇ。なんだこれうめぇ。すげぇ歯ごたえ。しっかりした味付けが滅茶苦茶うめぇ。なんで歯がほとんどない状態でホルモン食ってんだこのおっさん。
「おー!やってるね!楽しんでるかバカたれどもー!」
うわっ増えた、じゃない。酒場の雰囲気を楽しみながら俺が無言で肉を食ってると、金髪を首元程度に短く揃えた褐色の女性が勢いよく店の扉を開けて入ってきた。
「焼津の姐さんじゃないっすか!」
「姐さんお久しぶりっす!」
焼津の姐さんと呼ばれる女性を見て、口々に団体の男衆が挨拶し始める。ここらの元締めとかか?いやそれにしてはノリが軽い。酒飲みの中心人物だな。俺の行きつけの酒場にもいたなぁ。すごい飲ませ方を強要するタイプの元締めが。最終的に子爵の頭で酒瓶をかち割って投獄されてたっけ。アイツ生きてるかなあ。
「へいへいー!お兄さんも飲んでるカイー?うわかっこよ」
などと物思いに 耽っていたら金髪の女性に絡まれ酒臭っ。飲んできてたのか、まだ六時だぞ。
「飲んでる飲んでる。だから構わなくていいから」
「一人寂しく飲んでるからー?喋りに来たんですー!ほら瓶貸しな!アタシが酒を注ごうってんだよ」
うーん、ダメだ押しが強い。善意だから無碍にするのもなんとなく気が引ける。仕方ない、気が済むまで付き合ってあげよう。
「だからさ!もうそれであったま来てアタシ大五郎の事ひっぱたいたの!そしたらアイツの服の中から無くなったと思ったヤクザの財布出てきてもうボッコボコ」
ヤバイ、焼津の姐さん滅茶苦茶面白い。狭い店内にいる全員が聞き入って大爆笑となってる。後大五郎クズ過ぎないか?なんで全方向に敵作ってんだ大五郎。
「そういえばさぁ、ここら辺も危ないんじゃないの?あの黒いローブのやつ出てたじゃん」
「倒されてないのクソこわいよな。まぁここに来るのにバケモンが怖くてどうするって感じだけど」
不意に、団体客のうち一人がそんなことを言い出した。まぁそういう見方もあるよな。分かる。それはそれとしてめっちゃ目の前で陰口言われている気がして嫌な気分にもなる。
「何だビビってんのか男衆。別に悪い人じゃないでしょあの人、警察守ってたし。アタシ割と好きだよ」
対して姐さんの肝の座りようが凄いな……好きと言われて悪い気はしないなぁ。そういえば俺あっちの世界でも結構手柄を他勇者に渡しがちだったし、やっと報われたと思った瞬間こっちに飛ばされて、結局おいしいところをすすれなかったし、案外こっちの方がいい思いを。いやそんなこともないか。片腕溶け落ちかけたもんな。
「姐さん顔はそこそこいいのに三十路超えても彼氏一切出来たことないからってところかまわず手を出しすぎじゃないっすかヤダー」
「い、い、い、居たことあるわ!星の数ほどいたわ!」
急にいじられて挙動不審になる姐さん。この反応はいたことないだろうなぁ。
「じゃあ、あの人に姐さんの彼になって貰ったらいいんじゃないすか?」
「……俺?」
急に話振られてびっくりした。俺そんなこと言われたの初めて。
「じゃあ……」
そしてその言葉のノリのまま俺の腕に絡んでくる姐さん。たぶんそういう脈のないノリで人と触れ合うのがいけないとこだぞ彼氏できないの。
「……こ、こここういうことは、ちゃんと好きな人にやりなよ。俺にはもったいないくらいの美人さんなんだからさ」
「あー、俺分かった!このお兄さんも彼女いたことない人だ」
……悪かったな彼女いたことなくてな!!そうだよいたことないともそらそうだ!研究職は出会いがないんだよ!初めて喋った女性なんて勇者として仲間になったアージュぐらいだし!そしてあの人はもう女性というか人として尊敬しているからちょっと性的な目で見れない。なんていってたらそうこうしているうちに28にもなって!女性経験なんてありませんよそりゃあ!!
ほら、見ろよ姐さんを。さっきから全く動いてない。きっと呆れちゃって
「びじんっていわれたびじんっていわれたびじんっていわれたびじんっていわれた……」
お顔を真っ赤にしていらっしゃる。
「案外このお二人、お似合いなのでは?」
「これはキスだろ」
「キスしかないね」
「はいキース!キース!」
「「キース!キース!」」
やめろお前ら!あとおっさん!あっ女将さんも言い始めやがったこういう時だけ結託しやがって
「う、うう」
見ろよ姐さんの顔真っ赤だぞ、あれ緑になってき「ウボロロロロ」吐いたーーー!!
姐さんの強制脱出により、キスの大合唱はうやむやになった。今は勘定を済ませ、姐さんと一緒に外で水飲んでる。でも終わり際に誰かが言った「ゲロチュー」の言葉は絶対許さないからな。ちょっと気持ち悪くなってしまったじゃないか……
「……あのさ、こういうことした後に言うことじゃあないんだけど、アタシと友達になってよ」
俺の横でクターッとなっていた姐さんが、水を飲んで、風に当たったことでいくらか気分が戻ってきたようで、そんなことを言ってきた。まだ酔っているのかもしれない。
「いや、決して恋人とかさ、そういうことは思ってないんだけど、アンタここらの人じゃないだろ。なんか寂しい感じがしてた。アタシはそういう人がほっとけないのさ」
この人。急に恐ろしいほど核心をついてきたな。
「この仙台はアタシの庭みたいなもんだし?最近は結構暇な時間も多いからさ。案内したげるよ」
……俺の当初の目的も、交友関係を広げることだし、まぁ?恋人的なことじゃあないらしいし、うん、まぁいい、よな。
「よろしくな、焼津の姐さん」
「へへへ、よろしくイケメン。あ、名前聞いてなかった」
よく友達になろうと思ったな姐さん……
「シモンだ。シモン・ヴァッシュ」
「キタ、焼津キタだよ。よろしくシモン」
いくつもの戦場を共にしてきた戦友の様に固く握手を交わす俺と焼津の姐さん。なんだこれ。
「あ、ライン教えて。スマホは?」
「俺そういうの持ってない」
「マジで!?」
……今度、俺専用のスマホ買おう。そうしよう。
「シモン・ヴァッシュ、父方にジョージア人の祖母、母方にアメリカ人の祖父を持つ日本人。早くに父母を亡くし、児童養護施設に入る。中卒で職を点々としながら最終的に早上工業に入社、ねぇ」
パソコンを叩きながら、蛇子さんが唸ってますねぇ。少し画面を睨んだ後
「胡散臭ぇ」
と一言呟いて、タバコを吸い始めました。
「やめてくださいよ密室で。というか、何が引っかかったんですか?同い年よのしみで聞かせてくださいよ」
「全く同い年と思えねぇが教えてやる。1つ、コイツの祖父母より前の世代の足取りが掴めねぇ。戦時中だからと言われりゃそれまでだが、ここまで綺麗に掴めねぇのは不自然だ。偽装の可能性が高ぇが、そうなるともっと根深いところと癒着している事になる」
な、なるほど?そう言われればそう、なのかも知れないなぁ。あとタバコ臭い。私の嫌がる顔を見て、蛇子さんはタバコを消してくれた。いいひと。
「2つ、遠くからコイツを撮った時の動画だ。見ろよこの動き。重心がブレているようで片足だけ全く離れない。素人のフリした手練れのソレだ。稀人にしてもそうじゃ無いにしても、野放しに出来ないな」
正直にいいます。全くわからない。ゼロ距離にいても分かりませんからね。そりゃ遠くから見ても分かりませんよ。
「……このまま何かアクションがあるまで待機ってのも、暇しちゃって嫌ですねー」
「だったら動くか。ほれ、準備しろ」
わからないのをはぐらかすために話を逸らしたら、それに乗っかってきた蛇子さん。ショットガンをカバンに詰めて、外に出る用意をし始めた。
「えっえっ、あの、江楠さんからは待機しろって」
「捜査の基本は足なんだろ?動いてなんぼだ。まぁ遠山は待ってても構わんぞ、俺1人でも行く」
そう言われたら、行かざるを得ないというか、言い方がずるい。でも組織として動く以上上司の言う事は聞かないといけないので、江楠さんにメールで連絡。1分もかからないうちに「君が蛇子くんを見守っていてくれ」との返信が来たので、心置きなく行くことにする。
「休日、休日ねぇ……」
警察の訪問から数日後、俺は1人慎吾の家の近所をぶらついていた。
信吾も休みなのだが、「今日はお父さんと2人でやりたいことがあるので、お休みです!」との事で、急にやることがなくなってしまった。俺の生活早上家だけで回ってる。
悪いわけじゃあないんだけど、もっと交友関係を増やしたい。
しかし俺がこの世界の事について知っている事はまだまだ少なく、この辺りに何があるかもわからない。
だからこその散策。だからこそのマッピングだ。知らない事を理解するためには、どんどんそこに飛び込んでいかないといけない。
と言うわけで、俺は1人仙台駅の方向に向かって歩く事にした。行って帰っても5時間掛からないらしいからな。
よしえさんからも「日が変わる前に帰ってきな」と言われたし、相当信頼されているんだなぁという気持ち半分、もう逃げる事はないと確信されてるのかなぁという気持ち半分だ。
そしてこの前のお小遣いの残りが幾許か。これは多少遊んでも問題ないだろう。
と言う事で、歩きつつ興味のあるものを冷やかしていこうかと思う。季節は冬、雪こそ降らないものの、相当寒くなってきた。あの場所に捨ててきてしまったネックウォーマーが恋しい。
広い道路を越えると、少しずつ栄えているところが増えてきたような気がする。いや、信吾の家周辺が栄えていないとかそう言う事ではなく、人通りが増えて来る感じだ。車通りも多くなってくる。
歩きながらこっちの世界で買った靴の快適さを思い知る。少し歩いただけで俺の世界の靴とは一線を画しているなと思うほど楽だ。地面が舗装されている事も大きいだろう。
これだけ快適に歩けると言うのに、こっちの世界で歩く人は少ない。いや、俺の世界からすれば歩く人も多いが、人口から言えば微々たる量だろう。殆どの人は車やバイク、電車などに乗って移動する。どんどん利便性が上がると言う事は、人々から運動を取り上げるという事なのかも知れないな。
などと思ってはいるが、別に利便性なんていくら上がっても良い。楽に動けるに越した事はない。誰だって辛い思いはしたくないからな。
そうこう思っているうちに、仙台駅に着いた。でかい建物、広い駅、密集した人々。
……後ろからついてくる二人組。
しかも1人はこの前の遠山とかいう警官。何でだよ、何で遭遇したんだよ間が悪い。
ちょっと巻くか。
俺は土産物を物色するふりして自然に少し背を屈め、周りの群衆に体を潜める……が、男の方はまだ見てる。やるな、コワモテ。ならばいっそ近づいてやろう。
「あれー?この前の刑事さん!お久しぶりですねぇ!」
「ええっ!?あれ?さっき、あ、お、お久しぶりですねぇ!」
俺が身を屈めた時点で見失っていた遠山は、急に死角から出てきた形の俺にビビりつつも気づかないフリをしてた。結構無理があるけど。
「あ、デート中でしたか!いやぁお楽しみ中申し訳ない!では!」
そう言ってそそくさと離れる俺。こういう尾行は対象に勘づかれた時点で失敗だ。これで追跡も諦めるだろ。
どんな顔してるかなとチラリとコワモテの方に目をやると、やりやがったこいつみたいな目で俺を見てた。やられないとでも思ってたか?って目で伝えてやる。
はっはー!悔しそうな顔してこっち睨んでる。残念だったな!
尾行を振り切って数時間。俺は裏通りも含めて仙台を満喫していた。俺の世界にも似た見た目の酒場や、昔馴染みによく似た人形なども物色し、気がつけばすっかり日も落ちていた。
夜の繁華街、嫌いじゃないぜ俺。呼び込みの男、如何わしい店、こういう華やかな街は、どこも変わらないんだなぁ。
「お兄さんどうっすか!うちそこの店の系列店なんっすけど飲み放題付けて60分くらいで2500円いかない感じで飲めるんすけど」
「あー、普通に飯食いたいんですんません、終わったらちょっとご厄介になろうかなぁ」
「マジすか!約束っすよ!」
呼び込みの男をするりと交わして、もっとディープなところへ。へへへ、最近は知識欲ばかり満たしてしまったからなぁ。ここらで他の欲も、なーんつってな!なーんつってな!へへへ!
お、いい裏路地だ。こういうところに隠れた名店があるもんだ。なんて言って入った小道のようなところに、マジで普通の店があった。肉を焼いているのかすごいいい匂いがする。腹の方が本当に減ってきたな。飯食ってくか。
「はぁいいらっしゃい!お兄さんお一人?じゃあほらカウンター座って!」
結構繁盛しているように見えた店内は、いい意味で薄汚れていて、いい意味で油まみれで、いやいい意味に取れないな。はっきりいうとめっちゃ汚かった。そんな店を切り盛りしている、70は過ぎているであろう女将さんにカウンターに座らされる。
「女将さんホルモン10人前お願いー!」
「あいよちょっとまちな!」
団体で来ている男衆に、ホルモン、牛の内臓盛り合わせが出される。美味そうだなホルモン。俺も頼もう。ビールもあるのか。瓶一本で売ってるのはなんというか、衝撃だな。
「女将さん、俺もホルモンとビールを」
「あいよ!ビールはそこから勝手にとってってね!」
自分で持ってくのか、斬新だなぁ。だがこういうのはあれか、こっちのことわざで言う「郷に入れば郷に従え」と言うやつだな。瓶ビールを持ってきて、自分で開ける。酒を注いで一息に飲むと、俺もこの仲間に入れた気分になる。
ははぁ、何とも味のある雰囲気だ。昔駆け出しの頃に、友人とバカやった記憶が蘇る。あれは楽しかった。
「でな!また大五郎が香典泥棒したんだってさ!」
「あぁらやっぱアイツは馬鹿なんだねぇ、何度やったんだか!懲りないんだもの」
そして横にいる常連と思しきおっさんと、女将さんが衝撃的な話をしてた。怖いなぁここ。仲間に入るべきじゃなかったかもしれん。
「ああお兄さんお待ちどう!よく焼いて食べな!」
女将さんから皿に盛られた肉を受け取る。焼く間に他の客をあらためて見る。
陽気に歌う男衆。酔ってはいるものの、音程はしっかりしてる。どこかの楽団にでも入っていそうだな。
横で女将さんと話している男は、どうした歯が殆どないじゃないか。何でそんな事になってんだよ。拷問されたのか?そして何でその状態でホルモンを食ってんだ。噛み切れるのかその口で。うわホルモンうめぇ。なんだこれうめぇ。すげぇ歯ごたえ。しっかりした味付けが滅茶苦茶うめぇ。なんで歯がほとんどない状態でホルモン食ってんだこのおっさん。
「おー!やってるね!楽しんでるかバカたれどもー!」
うわっ増えた、じゃない。酒場の雰囲気を楽しみながら俺が無言で肉を食ってると、金髪を首元程度に短く揃えた褐色の女性が勢いよく店の扉を開けて入ってきた。
「焼津の姐さんじゃないっすか!」
「姐さんお久しぶりっす!」
焼津の姐さんと呼ばれる女性を見て、口々に団体の男衆が挨拶し始める。ここらの元締めとかか?いやそれにしてはノリが軽い。酒飲みの中心人物だな。俺の行きつけの酒場にもいたなぁ。すごい飲ませ方を強要するタイプの元締めが。最終的に子爵の頭で酒瓶をかち割って投獄されてたっけ。アイツ生きてるかなあ。
「へいへいー!お兄さんも飲んでるカイー?うわかっこよ」
などと物思いに 耽っていたら金髪の女性に絡まれ酒臭っ。飲んできてたのか、まだ六時だぞ。
「飲んでる飲んでる。だから構わなくていいから」
「一人寂しく飲んでるからー?喋りに来たんですー!ほら瓶貸しな!アタシが酒を注ごうってんだよ」
うーん、ダメだ押しが強い。善意だから無碍にするのもなんとなく気が引ける。仕方ない、気が済むまで付き合ってあげよう。
「だからさ!もうそれであったま来てアタシ大五郎の事ひっぱたいたの!そしたらアイツの服の中から無くなったと思ったヤクザの財布出てきてもうボッコボコ」
ヤバイ、焼津の姐さん滅茶苦茶面白い。狭い店内にいる全員が聞き入って大爆笑となってる。後大五郎クズ過ぎないか?なんで全方向に敵作ってんだ大五郎。
「そういえばさぁ、ここら辺も危ないんじゃないの?あの黒いローブのやつ出てたじゃん」
「倒されてないのクソこわいよな。まぁここに来るのにバケモンが怖くてどうするって感じだけど」
不意に、団体客のうち一人がそんなことを言い出した。まぁそういう見方もあるよな。分かる。それはそれとしてめっちゃ目の前で陰口言われている気がして嫌な気分にもなる。
「何だビビってんのか男衆。別に悪い人じゃないでしょあの人、警察守ってたし。アタシ割と好きだよ」
対して姐さんの肝の座りようが凄いな……好きと言われて悪い気はしないなぁ。そういえば俺あっちの世界でも結構手柄を他勇者に渡しがちだったし、やっと報われたと思った瞬間こっちに飛ばされて、結局おいしいところをすすれなかったし、案外こっちの方がいい思いを。いやそんなこともないか。片腕溶け落ちかけたもんな。
「姐さん顔はそこそこいいのに三十路超えても彼氏一切出来たことないからってところかまわず手を出しすぎじゃないっすかヤダー」
「い、い、い、居たことあるわ!星の数ほどいたわ!」
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「じゃあ、あの人に姐さんの彼になって貰ったらいいんじゃないすか?」
「……俺?」
急に話振られてびっくりした。俺そんなこと言われたの初めて。
「じゃあ……」
そしてその言葉のノリのまま俺の腕に絡んでくる姐さん。たぶんそういう脈のないノリで人と触れ合うのがいけないとこだぞ彼氏できないの。
「……こ、こここういうことは、ちゃんと好きな人にやりなよ。俺にはもったいないくらいの美人さんなんだからさ」
「あー、俺分かった!このお兄さんも彼女いたことない人だ」
……悪かったな彼女いたことなくてな!!そうだよいたことないともそらそうだ!研究職は出会いがないんだよ!初めて喋った女性なんて勇者として仲間になったアージュぐらいだし!そしてあの人はもう女性というか人として尊敬しているからちょっと性的な目で見れない。なんていってたらそうこうしているうちに28にもなって!女性経験なんてありませんよそりゃあ!!
ほら、見ろよ姐さんを。さっきから全く動いてない。きっと呆れちゃって
「びじんっていわれたびじんっていわれたびじんっていわれたびじんっていわれた……」
お顔を真っ赤にしていらっしゃる。
「案外このお二人、お似合いなのでは?」
「これはキスだろ」
「キスしかないね」
「はいキース!キース!」
「「キース!キース!」」
やめろお前ら!あとおっさん!あっ女将さんも言い始めやがったこういう時だけ結託しやがって
「う、うう」
見ろよ姐さんの顔真っ赤だぞ、あれ緑になってき「ウボロロロロ」吐いたーーー!!
姐さんの強制脱出により、キスの大合唱はうやむやになった。今は勘定を済ませ、姐さんと一緒に外で水飲んでる。でも終わり際に誰かが言った「ゲロチュー」の言葉は絶対許さないからな。ちょっと気持ち悪くなってしまったじゃないか……
「……あのさ、こういうことした後に言うことじゃあないんだけど、アタシと友達になってよ」
俺の横でクターッとなっていた姐さんが、水を飲んで、風に当たったことでいくらか気分が戻ってきたようで、そんなことを言ってきた。まだ酔っているのかもしれない。
「いや、決して恋人とかさ、そういうことは思ってないんだけど、アンタここらの人じゃないだろ。なんか寂しい感じがしてた。アタシはそういう人がほっとけないのさ」
この人。急に恐ろしいほど核心をついてきたな。
「この仙台はアタシの庭みたいなもんだし?最近は結構暇な時間も多いからさ。案内したげるよ」
……俺の当初の目的も、交友関係を広げることだし、まぁ?恋人的なことじゃあないらしいし、うん、まぁいい、よな。
「よろしくな、焼津の姐さん」
「へへへ、よろしくイケメン。あ、名前聞いてなかった」
よく友達になろうと思ったな姐さん……
「シモンだ。シモン・ヴァッシュ」
「キタ、焼津キタだよ。よろしくシモン」
いくつもの戦場を共にしてきた戦友の様に固く握手を交わす俺と焼津の姐さん。なんだこれ。
「あ、ライン教えて。スマホは?」
「俺そういうの持ってない」
「マジで!?」
……今度、俺専用のスマホ買おう。そうしよう。
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日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。
呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。
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#不定期更新 #物語の進み具合のんびり
#カクヨムさんでも掲載しています
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
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田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
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拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。
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弱い、使えないと勇者パーティをクビになった
16歳の少年【カン】
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※タイトルは思い付かなかったので適当です
※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました
以降はあとがきに変更になります
※現在執筆に集中させて頂くべく
必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします
※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
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輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
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*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
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