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異世界勇者、世界を少し変える
勇者、仕事する。あと職質を受ける。
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よしえさんに魔法の事をカミングアウトしてから三日。俺は早々に魔法使用の草案をしたため、信吾と一緒に不透明な言葉を綺麗に直し、最終的によしえさんが文言を最終確認して、魔法技術の独占に至った。正確に言えばあと数か月ほどの異議申立期間の後、何もなければ正式に特許という形で早上家が独占できるらしい。
正直乗馬や自転車の様に、コツさえ掴めば誰でもできるようになるものの、魔力が体のどこに溜まり、どのようにすれば発現できるかというのは実際に体験してみなければわからない。札とかいうマイナーもマイナーな魔法言語まで組み込まれているのであれば、混沌は更に極まるだろう。
ま、俺の世界の人間でも?札に関して分かるのは一握りだし?相当目の肥えている奴じゃないと無理なんじゃないかなぁ。
「蛇子さぁん。ここってどこなんですか?」
「そうさな、国のトップシークレットってやつだ」
私、遠山真琴!現在同僚二人に連れられて、東北を離れ東京にある地下施設に連れてこられたところ!
「遠山くん、ここから先はサングラスを付けて、それを決して取らないことをお勧めするぞ。自意識を奪われたくないだろう?」
そう言われて事前に渡されていたサングラスを付ける。何が起こるかは全く分からないけど、とても嫌なことが起こりそうで怖い。
「さて到着だ。蛇子高最陸曹長他同行者二名、1100現着しました」
「了解、扉を開ける。面会時間は10分。有益な情報が得られることを祈る」
厳重な扉が音を立てて開き、中には独房のようなところがあった。その中に、少女のような存在がいた。かわいいというより、美しいという言葉のほうがしっくりくる、妖艶な雰囲気をまとった存在だった。
「あ、懐かしい顔だ。どうしたの?また質問かな?ウチもあんまり暇じゃあないんだけど」
ほんのりと笑みを浮かべながら、それは答える。私が少女の「ような」といったのは、彼女の目だ。虹色に輝いているように見える。いや比喩ではなく、本当に虹色に光り輝いている。
「すまんな『極彩色』。貴様に確認事項が一つある」
蛇子さんは臆することなく、極彩色と呼ぶそれに質問を投げかける。どうしてこんなに気軽に話しかけているんだろうと不思議に思っていると、江楠さんがこそっと教えてくれた。
「彼女は稀人の一人でな、蛇子くんの部隊を一人残して全員洗脳し、日本を征服しようとした恐ろしい女なんだ」
稀人とは、特定超害獣たちと同じ世界から来た、コミュニケーション可能な生命体のことで、彼女もそのうちの一人らしい。けど、その内容は、だ、大事件じゃないですか?
「そ、そんな状況下の中蛇子さんはそんな中一人生き残ったんですか?」
「錯乱した他隊員を殲滅して極彩色を捕縛したらしい。名を名乗らないので、目の色からそう名付けたそうだ」
蛇子さんすっご……どこで何してたらそんな判断力が身に着くんだろう。そして味方を攻撃させた張本人とこんなに話せるコミュニケーション能力はどこから湧き出てくるんだろう。後こんな危険な場所に行くのなら、事前にそういうことはちゃんと話しておいてほしいな。公務員じゃん私たち。
「お前に見てほしいのは、この化け物ともう一つだ。こいつは何だ」
「んー?ああ、溶解悪鬼ねぇ。しかも長か、こいつは強いよ。アンタらの軍でも何人も死ぬだろうね。何人死んだ?」
ニヤニヤしながら蛇子さんに質問する極彩色。底意地が悪い顔をしてる。
「民間人には数人死者が出たが、今回自衛隊、警官の死者はゼロだ」
「……はぁ?初見でこいつを攻略したってこと?つまらない」
「いや、この化け物を倒したのはこいつだ」
興味を失くしたようなそぶりを見せる極彩色に、蛇子さんはある映像を見せる。私を助けてくれた黒服の男の戦闘資料だ。私たちが今追っている、稀人と思しき人。この正体を、この人に聞きに来たらしい。
「ふーん、魔法現象を、いやそれにしては妙だ」
「何が妙なんだ」
「身体強化魔法と遠距離魔法は並行して使えない。使えるのは1000年に一度の天才か、もしくは札を、札……ぁぁぁあああ!!!」
今まで感情が全く読み取れなかった極彩色の顔が、恐怖と驚きに染まった。
「この動き、この札!覚えがある!忌々しい、アイツもこの世界に落ちていたのか知恵の勇者!!」
続いて、激昂。あんなに涼しげだった顔を歪ませて、頭を押さえるようにこちらを見てくる。
「ほぉ、その様子じゃあ知り合いみたいだな。詳しく話せよ」
珍しいものを見たとばかりに、蛇子さんの顔に笑顔が浮かぶ。そんな彼に触発されるように、極彩色は話し始めた。
「こいつはね!ウチの国を壊したクソ野郎さ!」
話を要約するとこうなる。もともと別世界で魔王なるものの配下として、能力を使い宗教の司祭として一つの国を操っていたのだそうな。そんな中自分の国に勇者一行が訪れた。これ幸いと洗脳にかかるも、次々と策は失敗し、自身の策を逆に利用されて洗脳を上書き。暴徒と化した信者たちに追われ、這う這うの体で逃げ出したのだという。そのうち精も根も尽き果てて、道端で倒れこんだのちに起き上ったらこの世界だったと。
「てめぇの自業自得じゃねぇか」
数分間の自分語りをバッサリ切り捨てる蛇子さん。
「ウチは、魔王様のお役に立ちたかった」
忠臣とも言える感情が、今の極彩色からは感じられた。少しの間をおいて、元の妖艶な雰囲気を取り戻した極彩色は、私たちに語り掛ける。
「ねぇ、こいつ捕まえてウチと合わせてよ。そしたらもう、この国に全面協力しちゃうよ?」
顔色は至って平静を装って、しかし声色からは底なしの憤怒が見え隠れしている。たぶんこの人を捕まえてきたら、本当に国に協力してはくれるのだろう。でも、それはあまりにも恐ろしいことになりそうで、そんな未来を想像したら背筋が寒くなった。
「そうだな、それにはまずこいつの名前や背格好が必要だ。教えろ」
しかし蛇子さん、そんな様子に全くひるまない。胆力どうなっているんだろうこの人。
その後、背格好を詳しく聞いているうちに時間切れとなり、後で監視員に詳細を聞かせると約束して面会は終了となった。
「シモン君。悪いんだけど、この箱もこの棚の上にあげてもらえるかな?ここにスペース作って、印刷機を置く予定なんだ」
「了解です。他はどうします?」
俺は今、洋平さんの工場に入って仕事の手伝い、というか、俺のせいで増えてしまう新しい事業の手伝いをしていた。信吾は学校に行っている。あんなに吸収のいい子だ、楽しいだろうな学校。
「それにしても、なんか武器がたくさんありますね、この工場。対魔物用ですか?」
「いや、それは僕の趣味で、本来はバイクの修理とか改造をするのが本業だよ」
バイク、かっこいい響きだ。というかこの家族、趣味が結構特殊じゃないか?俺が言うのもなんだけど。
「こういう、アニメとか漫画に出てくる武器をね、自分で作って、それを動画にしてるんだ。結構視聴者も増えてきてね、もうすぐ銀の楯がもらえるんだよ」
人気の証なんだ、と嬉しそうに言う洋平さんを見て、適当に相槌を打つ。動画を配信するって、結構簡単にできるもんなんだなぁ。俺もどこかでやってみようか。やり方全く分からんが、調べればいけるか?
「すみませーん。ちょっといいですかー」
などと知識欲が変な方向に進みそうになったところで、玄関先から声が聞こえてきた。お客かな?洋平さんが進んでいくと、男女ペアが立っていた。服越しからでもわかる筋肉質な男と、対照的に明るい若い女せっ
この間助けた警官じゃねぇか!
「最近この辺りで不審者の目撃情報が出回ってましてー、聞き込み調査をしていたんですけどー」
ニコニコ笑いつつ手帳を洋平さんに見せる女性。あれはこの前ドラマでやっていた警察手帳というやつではなかろうか。
「えっ、そうなんですか!僕でよろしければなんでも!」
「それがですね、なんでも知恵の勇者と名乗っている男性でー」
俺!?!?!?なんで、どこでその名前を、だって誰にも言ってないぞ。ほら洋平さんも知らないって顔してる。教えてないし。
「あー、そこの君も、こっちでお話聞かせてもらえる?」
動揺したところを隠したつもりでいたが、筋肉の警官は目ざとく見ていたらしい。ここからはボロを出さないよう気を引き締める。
「俺、ですか?まぁ、答えられることならなんでも」
「すまんね、業務止めちゃって」
「いえいえ、ちょうど小休止みたいなとこでしたから」
軽快に話を進めつつも、つらつらと遠山から出る俺の個人情報の数々に冷や汗が吹き出しそうになる。勇者四人組のうちの一人だの、髪は黒だの、誰だ、一体どこから漏れた。などと謎の情報提供者について思いをはせていると、筋肉が切り込んできた。
「ところで、何か知っていそうな感じだったけどどうかしたの?」
「ええ、社長がアニメや特撮好きでして、勇者と聞いてちょっと思い出したんですよ」
あれみたいなと言って、壁にかかっている武器を指さす。さっき聞いててよかった。そして昨日のうちにいくつか見ててよかった。ありがとう信吾、ありがとう洋平さん。
「なるほど、そういうこともあるよな。私もアニメは見るタイプでな、結構深夜アニメが好きなんだ」
なるほど、自分の好きなものを出して、胸襟を開かせたところに本題をぶつける気だな?
「そうなんですね。俺はアニメよく知らないんですよ。もっぱら日本の歴史なんかを散策するのが趣味でして」
こういう時は突っぱねる。肩透かしを食らってしまうと、人間二の矢を継ぐのに時間がかかるものだ。その間に
「へぇ、てことは、実は海外からの短期留学とか?お兄さんイケメンだし、海外生まれっぽいよね」
なるほどそう来たか。返しがうまい。こうなってくると禅問答に近くなってくる。お互いに語りたいことを隠しながら、お互いの腹の内を探るのは大得意だ。
「海外の血は入っているんですけど、日本生まれ日本育ちですよ」
「そっかそっか。保険証とか今持ってる?」
「仕事中なんでロッカーに置いてますよ。持ってきます?」
「一応お願いしていいかな」
などと筋肉に促されたので、ロッカーに向かう。はっはっは、俺が何も用意せずこの事態に遭遇するとでも思ったか。
俺はロッカーから一枚の札を取り出す。まごうことなき俺の保険証だ。いや実際にはまがい物なのだが。
二日前、よしえさんから「社会保険証だよ。内で働いているからね」と渡されたもので、なんでも申請処理係りの中に知り合いがいるとかで、融通してもらったらしい。あからさまに何らかの法に触れているだろうが、今はありがたく使わせてもらう。
「お待たせしました」
「ちょっと貸してね」
そういって俺の保険証を手に取り、裏表を写真に収めてから返してくれた。
「シモン君っていうんだ、いい名前だね。ごめんね、無理言っちゃって」
「いえいえ、お勤めご苦労様です」
はははと笑いながら、警官たちは聴取を終えて去っていった。緊張でどっと疲れた気がする。ふと洋平さんの方を見ると、洋平さんもどっと疲れた顔をしていた。
「……休憩にしようか」
「そうしましょう」
お互いにびっくりしたねと言いながら、一度家の中に引っ込んで、お茶でも飲むことにした。明らかに俺を探していたが、顔まではわからないって感じだな。どこまで躱せるものか……
「で、どうだった遠山くん。あの家、何かありそうかな」
「そうですね、あの青年はなんとなくあの時話した声に似ている気がします」
「なるほど、感覚というのは中々馬鹿にできない。これから張り込む価値はありそうだな。聞けばあの工場、先日魔法に関する特許を申請したらしいじゃないか。防衛省が大慌てで却下しようとしたらもっと上から止められたらしい。あの工場、何か裏があることは間違いない」
日本もボディカメラの導入をしていればもっと特定は容易だったと、江楠さんが悔しがる。でも今の会話の最中に、蛇子さんが写真を撮ってくれているからね。極彩色に聴取ができるのは特定超害獣が出現した際に限定されているみたいだから、次に現れたときにあの人が知恵の勇者かどうかわかるって手はずになっている。
「それと遠山くん、知恵の勇者って言葉に出したのは悪手だったなぁ。一瞬だったがすごく警戒されてたし、答え合わせができるとはいえ、これからは聞き取りで聞き出すのが難しくなるからな。今後は独断で動くことは控えてくれたまえよ」
「す、すみませんでした」
江楠さんに注意されて、少ししょげる。今日全く二人の力になれてなかったからって、空回りしてしまったようだ。これからもっと頑張らなくちゃ。
―――――――――――――――――――――――――――
作者のあきょうでございます。これから投稿頻度が若干低下するかもしれませんので、そのアナウンスでございます。
これからも異世界勇者のアフターライフをお楽しみいただければ幸いでございます。
正直乗馬や自転車の様に、コツさえ掴めば誰でもできるようになるものの、魔力が体のどこに溜まり、どのようにすれば発現できるかというのは実際に体験してみなければわからない。札とかいうマイナーもマイナーな魔法言語まで組み込まれているのであれば、混沌は更に極まるだろう。
ま、俺の世界の人間でも?札に関して分かるのは一握りだし?相当目の肥えている奴じゃないと無理なんじゃないかなぁ。
「蛇子さぁん。ここってどこなんですか?」
「そうさな、国のトップシークレットってやつだ」
私、遠山真琴!現在同僚二人に連れられて、東北を離れ東京にある地下施設に連れてこられたところ!
「遠山くん、ここから先はサングラスを付けて、それを決して取らないことをお勧めするぞ。自意識を奪われたくないだろう?」
そう言われて事前に渡されていたサングラスを付ける。何が起こるかは全く分からないけど、とても嫌なことが起こりそうで怖い。
「さて到着だ。蛇子高最陸曹長他同行者二名、1100現着しました」
「了解、扉を開ける。面会時間は10分。有益な情報が得られることを祈る」
厳重な扉が音を立てて開き、中には独房のようなところがあった。その中に、少女のような存在がいた。かわいいというより、美しいという言葉のほうがしっくりくる、妖艶な雰囲気をまとった存在だった。
「あ、懐かしい顔だ。どうしたの?また質問かな?ウチもあんまり暇じゃあないんだけど」
ほんのりと笑みを浮かべながら、それは答える。私が少女の「ような」といったのは、彼女の目だ。虹色に輝いているように見える。いや比喩ではなく、本当に虹色に光り輝いている。
「すまんな『極彩色』。貴様に確認事項が一つある」
蛇子さんは臆することなく、極彩色と呼ぶそれに質問を投げかける。どうしてこんなに気軽に話しかけているんだろうと不思議に思っていると、江楠さんがこそっと教えてくれた。
「彼女は稀人の一人でな、蛇子くんの部隊を一人残して全員洗脳し、日本を征服しようとした恐ろしい女なんだ」
稀人とは、特定超害獣たちと同じ世界から来た、コミュニケーション可能な生命体のことで、彼女もそのうちの一人らしい。けど、その内容は、だ、大事件じゃないですか?
「そ、そんな状況下の中蛇子さんはそんな中一人生き残ったんですか?」
「錯乱した他隊員を殲滅して極彩色を捕縛したらしい。名を名乗らないので、目の色からそう名付けたそうだ」
蛇子さんすっご……どこで何してたらそんな判断力が身に着くんだろう。そして味方を攻撃させた張本人とこんなに話せるコミュニケーション能力はどこから湧き出てくるんだろう。後こんな危険な場所に行くのなら、事前にそういうことはちゃんと話しておいてほしいな。公務員じゃん私たち。
「お前に見てほしいのは、この化け物ともう一つだ。こいつは何だ」
「んー?ああ、溶解悪鬼ねぇ。しかも長か、こいつは強いよ。アンタらの軍でも何人も死ぬだろうね。何人死んだ?」
ニヤニヤしながら蛇子さんに質問する極彩色。底意地が悪い顔をしてる。
「民間人には数人死者が出たが、今回自衛隊、警官の死者はゼロだ」
「……はぁ?初見でこいつを攻略したってこと?つまらない」
「いや、この化け物を倒したのはこいつだ」
興味を失くしたようなそぶりを見せる極彩色に、蛇子さんはある映像を見せる。私を助けてくれた黒服の男の戦闘資料だ。私たちが今追っている、稀人と思しき人。この正体を、この人に聞きに来たらしい。
「ふーん、魔法現象を、いやそれにしては妙だ」
「何が妙なんだ」
「身体強化魔法と遠距離魔法は並行して使えない。使えるのは1000年に一度の天才か、もしくは札を、札……ぁぁぁあああ!!!」
今まで感情が全く読み取れなかった極彩色の顔が、恐怖と驚きに染まった。
「この動き、この札!覚えがある!忌々しい、アイツもこの世界に落ちていたのか知恵の勇者!!」
続いて、激昂。あんなに涼しげだった顔を歪ませて、頭を押さえるようにこちらを見てくる。
「ほぉ、その様子じゃあ知り合いみたいだな。詳しく話せよ」
珍しいものを見たとばかりに、蛇子さんの顔に笑顔が浮かぶ。そんな彼に触発されるように、極彩色は話し始めた。
「こいつはね!ウチの国を壊したクソ野郎さ!」
話を要約するとこうなる。もともと別世界で魔王なるものの配下として、能力を使い宗教の司祭として一つの国を操っていたのだそうな。そんな中自分の国に勇者一行が訪れた。これ幸いと洗脳にかかるも、次々と策は失敗し、自身の策を逆に利用されて洗脳を上書き。暴徒と化した信者たちに追われ、這う這うの体で逃げ出したのだという。そのうち精も根も尽き果てて、道端で倒れこんだのちに起き上ったらこの世界だったと。
「てめぇの自業自得じゃねぇか」
数分間の自分語りをバッサリ切り捨てる蛇子さん。
「ウチは、魔王様のお役に立ちたかった」
忠臣とも言える感情が、今の極彩色からは感じられた。少しの間をおいて、元の妖艶な雰囲気を取り戻した極彩色は、私たちに語り掛ける。
「ねぇ、こいつ捕まえてウチと合わせてよ。そしたらもう、この国に全面協力しちゃうよ?」
顔色は至って平静を装って、しかし声色からは底なしの憤怒が見え隠れしている。たぶんこの人を捕まえてきたら、本当に国に協力してはくれるのだろう。でも、それはあまりにも恐ろしいことになりそうで、そんな未来を想像したら背筋が寒くなった。
「そうだな、それにはまずこいつの名前や背格好が必要だ。教えろ」
しかし蛇子さん、そんな様子に全くひるまない。胆力どうなっているんだろうこの人。
その後、背格好を詳しく聞いているうちに時間切れとなり、後で監視員に詳細を聞かせると約束して面会は終了となった。
「シモン君。悪いんだけど、この箱もこの棚の上にあげてもらえるかな?ここにスペース作って、印刷機を置く予定なんだ」
「了解です。他はどうします?」
俺は今、洋平さんの工場に入って仕事の手伝い、というか、俺のせいで増えてしまう新しい事業の手伝いをしていた。信吾は学校に行っている。あんなに吸収のいい子だ、楽しいだろうな学校。
「それにしても、なんか武器がたくさんありますね、この工場。対魔物用ですか?」
「いや、それは僕の趣味で、本来はバイクの修理とか改造をするのが本業だよ」
バイク、かっこいい響きだ。というかこの家族、趣味が結構特殊じゃないか?俺が言うのもなんだけど。
「こういう、アニメとか漫画に出てくる武器をね、自分で作って、それを動画にしてるんだ。結構視聴者も増えてきてね、もうすぐ銀の楯がもらえるんだよ」
人気の証なんだ、と嬉しそうに言う洋平さんを見て、適当に相槌を打つ。動画を配信するって、結構簡単にできるもんなんだなぁ。俺もどこかでやってみようか。やり方全く分からんが、調べればいけるか?
「すみませーん。ちょっといいですかー」
などと知識欲が変な方向に進みそうになったところで、玄関先から声が聞こえてきた。お客かな?洋平さんが進んでいくと、男女ペアが立っていた。服越しからでもわかる筋肉質な男と、対照的に明るい若い女せっ
この間助けた警官じゃねぇか!
「最近この辺りで不審者の目撃情報が出回ってましてー、聞き込み調査をしていたんですけどー」
ニコニコ笑いつつ手帳を洋平さんに見せる女性。あれはこの前ドラマでやっていた警察手帳というやつではなかろうか。
「えっ、そうなんですか!僕でよろしければなんでも!」
「それがですね、なんでも知恵の勇者と名乗っている男性でー」
俺!?!?!?なんで、どこでその名前を、だって誰にも言ってないぞ。ほら洋平さんも知らないって顔してる。教えてないし。
「あー、そこの君も、こっちでお話聞かせてもらえる?」
動揺したところを隠したつもりでいたが、筋肉の警官は目ざとく見ていたらしい。ここからはボロを出さないよう気を引き締める。
「俺、ですか?まぁ、答えられることならなんでも」
「すまんね、業務止めちゃって」
「いえいえ、ちょうど小休止みたいなとこでしたから」
軽快に話を進めつつも、つらつらと遠山から出る俺の個人情報の数々に冷や汗が吹き出しそうになる。勇者四人組のうちの一人だの、髪は黒だの、誰だ、一体どこから漏れた。などと謎の情報提供者について思いをはせていると、筋肉が切り込んできた。
「ところで、何か知っていそうな感じだったけどどうかしたの?」
「ええ、社長がアニメや特撮好きでして、勇者と聞いてちょっと思い出したんですよ」
あれみたいなと言って、壁にかかっている武器を指さす。さっき聞いててよかった。そして昨日のうちにいくつか見ててよかった。ありがとう信吾、ありがとう洋平さん。
「なるほど、そういうこともあるよな。私もアニメは見るタイプでな、結構深夜アニメが好きなんだ」
なるほど、自分の好きなものを出して、胸襟を開かせたところに本題をぶつける気だな?
「そうなんですね。俺はアニメよく知らないんですよ。もっぱら日本の歴史なんかを散策するのが趣味でして」
こういう時は突っぱねる。肩透かしを食らってしまうと、人間二の矢を継ぐのに時間がかかるものだ。その間に
「へぇ、てことは、実は海外からの短期留学とか?お兄さんイケメンだし、海外生まれっぽいよね」
なるほどそう来たか。返しがうまい。こうなってくると禅問答に近くなってくる。お互いに語りたいことを隠しながら、お互いの腹の内を探るのは大得意だ。
「海外の血は入っているんですけど、日本生まれ日本育ちですよ」
「そっかそっか。保険証とか今持ってる?」
「仕事中なんでロッカーに置いてますよ。持ってきます?」
「一応お願いしていいかな」
などと筋肉に促されたので、ロッカーに向かう。はっはっは、俺が何も用意せずこの事態に遭遇するとでも思ったか。
俺はロッカーから一枚の札を取り出す。まごうことなき俺の保険証だ。いや実際にはまがい物なのだが。
二日前、よしえさんから「社会保険証だよ。内で働いているからね」と渡されたもので、なんでも申請処理係りの中に知り合いがいるとかで、融通してもらったらしい。あからさまに何らかの法に触れているだろうが、今はありがたく使わせてもらう。
「お待たせしました」
「ちょっと貸してね」
そういって俺の保険証を手に取り、裏表を写真に収めてから返してくれた。
「シモン君っていうんだ、いい名前だね。ごめんね、無理言っちゃって」
「いえいえ、お勤めご苦労様です」
はははと笑いながら、警官たちは聴取を終えて去っていった。緊張でどっと疲れた気がする。ふと洋平さんの方を見ると、洋平さんもどっと疲れた顔をしていた。
「……休憩にしようか」
「そうしましょう」
お互いにびっくりしたねと言いながら、一度家の中に引っ込んで、お茶でも飲むことにした。明らかに俺を探していたが、顔まではわからないって感じだな。どこまで躱せるものか……
「で、どうだった遠山くん。あの家、何かありそうかな」
「そうですね、あの青年はなんとなくあの時話した声に似ている気がします」
「なるほど、感覚というのは中々馬鹿にできない。これから張り込む価値はありそうだな。聞けばあの工場、先日魔法に関する特許を申請したらしいじゃないか。防衛省が大慌てで却下しようとしたらもっと上から止められたらしい。あの工場、何か裏があることは間違いない」
日本もボディカメラの導入をしていればもっと特定は容易だったと、江楠さんが悔しがる。でも今の会話の最中に、蛇子さんが写真を撮ってくれているからね。極彩色に聴取ができるのは特定超害獣が出現した際に限定されているみたいだから、次に現れたときにあの人が知恵の勇者かどうかわかるって手はずになっている。
「それと遠山くん、知恵の勇者って言葉に出したのは悪手だったなぁ。一瞬だったがすごく警戒されてたし、答え合わせができるとはいえ、これからは聞き取りで聞き出すのが難しくなるからな。今後は独断で動くことは控えてくれたまえよ」
「す、すみませんでした」
江楠さんに注意されて、少ししょげる。今日全く二人の力になれてなかったからって、空回りしてしまったようだ。これからもっと頑張らなくちゃ。
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作者のあきょうでございます。これから投稿頻度が若干低下するかもしれませんので、そのアナウンスでございます。
これからも異世界勇者のアフターライフをお楽しみいただければ幸いでございます。
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