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血闘!透破忍者!
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拙者は夜阿弥。仲間には黒犬と呼ばれている風魔忍者である。
拙者の得意とする忍術は手刀をもって敵の首を刎ねるというものである。今まで我が手刀により首を刎ねた相手は九百と九十と九。
千個目の首は宿敵透破忍者赤法師のものになる。そのはずであったのだが。
「死ねえ、黒犬!」
「ぐわっ!」
我が手刀はわずかに赤法師の体には届かず、代わりに赤法師の槍が拙者の心臓を貫いた!
「拙者は……死ぬのか……」
拙者は死んだ。時に天正八年の事である。
「あれ? 君ってタニヤアミちゃん?」
死んだはずの拙者は奇妙な部屋にいた。堺で忍び込んだ異国の船の部屋に似ている。拙者の正面に立っているのも異人の男で、その男が先の「あれ? 君ってタニヤアミちゃん?」なる間抜けな問を発したのだ。
拙者はとりあえず踏み込んで手刀で首を薙いでみた。
「危なっ! いきなり何するのさ、君は!」
異人は飛びのいて首を守り、追い打ちをかけようとした拙者をにらみつける! そのとたん、どういうわけか拙者の足は石のように重くなり一歩も動けなくなった。
「影縫いの術……貴様、甲賀か」
「全然違うから。神だから。神様。わかる?」
「忍びに神はない」
「あーもう。こまったなぁ」
神と称する異人は頭を掻きむしっている。こんな威厳のない神がいるものか。
「君、谷屋亜美ちゃんじゃないの? 名前検索したら君が来ちゃったんだけど」
「夜阿弥とは確かに拙者の事。父の顔は知らぬが、姓は確かに谷であった。谷夜阿弥と言えなくもないが、それがどうした」
「やっちまったなぁ。同じ読みでこんなことになるとか、表意文字って使い勝手悪すぎじゃね?」
「何の話だ」
異人はぶつぶつ言う。隙だらけで苦無の一本も持っていれば投げつけて殺せそうだが、改めて体を見下ろしてみると寸鉄帯びぬてい、というか裸であった。しかもうら若い女子の体になっているではないか!
「何と……異人の使う忍術は人を女人に変えるか」
「いや忍術じゃ……いやそれはいいや。君、乙女ゲーってやったことある? 悪役令嬢って知ってる?」
「悪焼く霊場。織田の比叡山焼き討ちの事か」
「わかったわかった、もういいもういい。そうだよなあ中世の人だもんなぁ。でも一回召喚した魂を元に戻すとかやったことないしなぁ……もういっか、今回はこのままで……」
ぶつぶつ言いながら神はこちらに気持ちの悪い笑みを向けた。「そうだよね。案外面白いことになるかもしれない」
何を言っているのかわからないがとにかく動けない。この男の忍術は拙者をはるかに凌駕しているのは間違いない。
「くっ。殺せ」
「いやそういう場面じゃないから。君にはこれから新しい世界に転生してもらう。どうせ死んでたんだから君に損はない話だし、別にいいでしょ? そういう理屈なのです、GAN〇Zじゃないけど」
「転生とは笑わせる。死して屍拾う者無し」
「はいはい、わかったわかった。じゃあ行ってらっしゃい、楽しんでね。あ、すっごくハードなところから始まるから何とか頑張って!」
男が手を振ると視界がぐにゃりと歪んだ。
「がえっ!」
新しい世界とやらで最初に出た言葉がそれだ。言葉というかうめき声だが。首がギリギリ痛い、息ができない。敵の攻撃かと思い跳んで逃れようとしたが、足が宙をきっただけだ。視界がぐらぐら揺れる。ひどく痛む首に手を当てると縄のようなものが食い込んでいた。
なるほど、首を吊っているようだ。男の言ったはーど、とは斯様な意味であったかと思うが感心している暇はない。拙者、また死ぬ。
手刀を頭上の縄に叩き込んでみるが体が揺れて余計苦しくなかっただけだった。固定されていない縄はさすがに手刀では切れぬ。元の拙者の体がぶら下がっていれば十分な重みで手刀も効いたかもしれんが、女子の体では軽すぎたようだ。これは本当に拙者死ぬ。
もう駄目か……と思った時に思い浮かんだのは赤法師の得意顔。
ふざけるな。拙者はまだ敵の首を九百と九十と九しか取っておらぬ。首の千も取らぬうちは死んでも死に切れぬ!
そう思うととっさに首の下の縄を掴み、そこを起点に体を反転させ、天井を思い切り蹴り上げた!
首の骨が折れるかとも思ったが、先に縄を吊っていた鉤のようなものが折れ拙者の体は床に叩き落された。何やら毛氈のようなものが敷いてあってそんなに痛くなかったのが幸いである。
「ぐべぼ……ばが……ごえ……死して屍拾う者無し」
拙者の得意とする忍術は手刀をもって敵の首を刎ねるというものである。今まで我が手刀により首を刎ねた相手は九百と九十と九。
千個目の首は宿敵透破忍者赤法師のものになる。そのはずであったのだが。
「死ねえ、黒犬!」
「ぐわっ!」
我が手刀はわずかに赤法師の体には届かず、代わりに赤法師の槍が拙者の心臓を貫いた!
「拙者は……死ぬのか……」
拙者は死んだ。時に天正八年の事である。
「あれ? 君ってタニヤアミちゃん?」
死んだはずの拙者は奇妙な部屋にいた。堺で忍び込んだ異国の船の部屋に似ている。拙者の正面に立っているのも異人の男で、その男が先の「あれ? 君ってタニヤアミちゃん?」なる間抜けな問を発したのだ。
拙者はとりあえず踏み込んで手刀で首を薙いでみた。
「危なっ! いきなり何するのさ、君は!」
異人は飛びのいて首を守り、追い打ちをかけようとした拙者をにらみつける! そのとたん、どういうわけか拙者の足は石のように重くなり一歩も動けなくなった。
「影縫いの術……貴様、甲賀か」
「全然違うから。神だから。神様。わかる?」
「忍びに神はない」
「あーもう。こまったなぁ」
神と称する異人は頭を掻きむしっている。こんな威厳のない神がいるものか。
「君、谷屋亜美ちゃんじゃないの? 名前検索したら君が来ちゃったんだけど」
「夜阿弥とは確かに拙者の事。父の顔は知らぬが、姓は確かに谷であった。谷夜阿弥と言えなくもないが、それがどうした」
「やっちまったなぁ。同じ読みでこんなことになるとか、表意文字って使い勝手悪すぎじゃね?」
「何の話だ」
異人はぶつぶつ言う。隙だらけで苦無の一本も持っていれば投げつけて殺せそうだが、改めて体を見下ろしてみると寸鉄帯びぬてい、というか裸であった。しかもうら若い女子の体になっているではないか!
「何と……異人の使う忍術は人を女人に変えるか」
「いや忍術じゃ……いやそれはいいや。君、乙女ゲーってやったことある? 悪役令嬢って知ってる?」
「悪焼く霊場。織田の比叡山焼き討ちの事か」
「わかったわかった、もういいもういい。そうだよなあ中世の人だもんなぁ。でも一回召喚した魂を元に戻すとかやったことないしなぁ……もういっか、今回はこのままで……」
ぶつぶつ言いながら神はこちらに気持ちの悪い笑みを向けた。「そうだよね。案外面白いことになるかもしれない」
何を言っているのかわからないがとにかく動けない。この男の忍術は拙者をはるかに凌駕しているのは間違いない。
「くっ。殺せ」
「いやそういう場面じゃないから。君にはこれから新しい世界に転生してもらう。どうせ死んでたんだから君に損はない話だし、別にいいでしょ? そういう理屈なのです、GAN〇Zじゃないけど」
「転生とは笑わせる。死して屍拾う者無し」
「はいはい、わかったわかった。じゃあ行ってらっしゃい、楽しんでね。あ、すっごくハードなところから始まるから何とか頑張って!」
男が手を振ると視界がぐにゃりと歪んだ。
「がえっ!」
新しい世界とやらで最初に出た言葉がそれだ。言葉というかうめき声だが。首がギリギリ痛い、息ができない。敵の攻撃かと思い跳んで逃れようとしたが、足が宙をきっただけだ。視界がぐらぐら揺れる。ひどく痛む首に手を当てると縄のようなものが食い込んでいた。
なるほど、首を吊っているようだ。男の言ったはーど、とは斯様な意味であったかと思うが感心している暇はない。拙者、また死ぬ。
手刀を頭上の縄に叩き込んでみるが体が揺れて余計苦しくなかっただけだった。固定されていない縄はさすがに手刀では切れぬ。元の拙者の体がぶら下がっていれば十分な重みで手刀も効いたかもしれんが、女子の体では軽すぎたようだ。これは本当に拙者死ぬ。
もう駄目か……と思った時に思い浮かんだのは赤法師の得意顔。
ふざけるな。拙者はまだ敵の首を九百と九十と九しか取っておらぬ。首の千も取らぬうちは死んでも死に切れぬ!
そう思うととっさに首の下の縄を掴み、そこを起点に体を反転させ、天井を思い切り蹴り上げた!
首の骨が折れるかとも思ったが、先に縄を吊っていた鉤のようなものが折れ拙者の体は床に叩き落された。何やら毛氈のようなものが敷いてあってそんなに痛くなかったのが幸いである。
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