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第二百九話 ラリーの知り合い

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 ライナー達が先日笑顔で屋敷を去った。
 半年程共に過ごしたのでなんだか屋敷がガランとした寂しさがある。
 とはいえ、彼らとはいつでも連絡がとれるし、また余裕が出たら来てくれるそうなのでそれは楽しみである。

 そんなある日、屋敷に一人の少女が現れた。
 どうやらラリーの知り合いらしいが、確認もせずに屋敷へ上げる事は出来なかったので、対応していたフェローが授業中のラリーを呼びに来た。

「授業中すまない、ラリー、少しいいか?」

 フェローのそんな言葉にラリーは首を傾げつつも席を立ってそちらへと向かった。

「フェローさん、どうしたの?」
「ああ、お前の知り合いだって言う女の子が門前に来ていてな。ちょっと確認して欲しいんだ」
「知り合い?誰だろう」

 ラリーが疑問を浮かべてしまうのも仕方ない事だった。
 子供達は屋敷に来てからはオルペの街にはほとんど出ていないのだ。
 他国の街などへは時折訪れてはいるのだが、オルペの街には彼らがスラムで暮らしていた事を知っている者もいるので基本的には出ていない。
 出たとしてもオルペの街では付き添いつきなので大通りなどしか行かないのである。
 だから、知り合いだというなら屋敷に来る前の話しになる。

 疑問を抱きつつもラリーはフェローと共に正門へと向かった。
 正門には確かに女の子がいた。
 ラリーと同じ13歳か、少し下の12歳くらいだろうか。
 見た目に関してはとても痩せているし、服は随分と粗末で、襤褸切れと言ってもいいだろうし、靴は履いていない。
 ただ知り合いだと言うなら7年前だから少女は当時5、6歳となる。
 少女の髪はくすんだ栗色で水でしか洗っていないのだろう、ごわごわとしており、後ろで縛っている。
 目の色は綺麗な青色をしており、全体的に薄汚れているが、それでも可愛いのだろうという事は分かる程には目鼻立ちは整っている。
 だが、さすがに子供の頃で、7年前ともなるとラリーも相手が知り合いかどうかまでは分からなかった。
 ただ、どこかで見たような、そんな感じはする。

 門の前で所在なさげに俯いている少女にラリーが声をかけた。

「こんにちは。えっと、俺の知り合い?だよね?ごめん、ちょっと分からなくて、名前は?」

 ラリーに声をかけられた少女が顔を上げてラリーを見た。

「ラリー、だよね?本当に、あのラリーなんだよね?」
「どのラリーかは分からないけど、俺が当時住んでたとこ周辺にはラリーって名前は俺だけだったとは思うよ」

 少女はしばらく呆然とした様子でラリーを見ていた。
 それも仕方ない事ではある。
 当時のラリー達は食べるものもあまりなくガリガリだったのだ。
 当然風呂にも入っていないし、服だって襤褸切れだった。
 運よく生きて成長していれば、少女と同じような恰好ではあっただろう。
 だがサイリール達に出会い家族となってからは、中古ではあるが清潔な服を着て、毎日お風呂にも入り、ご飯もしっかりと食べ、体力作りだってしている。
 ラリーの身長は現在160cmあり、今も成長中だ。
 体力作りもしているので、痩せすぎでもないし、太りすぎでもなく、引き締まっていてしっかりと筋肉がついている。

 しばらくして少女は悲し気な顔になるとラリーに告げた。

「えっと、デリアだけど、覚えてない……よね?ううん、いいの。ごめんね、何でもない」

 そう言って少女が去ろうとした時、ラリーが答えた。

「待って!デリア!?本当に!?」

 その少女はラリーの知っている少女だった。
 かつてあの家でラリーが暮らしていた時、同じスラム街に母親と住んでいたはずだ。
 スラム街に住んではいたが、母親はしっかりと働いておりそこまで貧困ではなかったはずである。
 当時セイ達が仕事に行ってる間、ラリー達は薪集めなどの仕事が終わるとエリーとリーアはあまり外に行きたがらず家で遊び、ラリーは外に遊びに行っていたのだ。
 その時に仲良くなりよく二人で遊んでいたのを覚えている。

「懐かしいなぁ、デリア、元気だった?俺に会いに来たって、何かあったの?」
「あの、あのね……」

 少女が口ごもってしまった所でフェローが声をかけた。

「ラリー、お茶でも出すから庭のガゼボに行って座って話したらどうだ?」
「あ、そうだよね、ありがとうフェローさん。デリア、おいで」

 そう言ってラリーは手を伸ばし微笑んだ。
 デリアはチラチラとフェローを見ながらもおずおずとラリーの手をとった。

「はは、大丈夫だよデリア。フェローさんはすごい優しい人だから」

 デリアがそう聞いて再度チラリとフェローを見ると優しく微笑んでいた。
 デリアは自分の汚い手でラリーに触れたら叱られるのではないかと思っていたのだ。
 ほっと息をついたデリアを連れてラリーは庭を通って噴水広場の一角にあるガゼボへと連れていった。
 今の時期はちょっとだけ暑い時期なので噴水の清涼とした水の音とガゼボの下の日陰にいると気持ちがいいのだ。
 ガゼボの中にある丸いテーブルを挟んで二人は腰かけた。
 デリアはこんなに立派な家に来たことも見たこともないので道中はずっと驚いていた。
 今も見事な噴水に見入っている。
 そんなデリアの横顔をなんとなしにラリーは見ていた。

 デリアにどんな理由があって自分に会いに来たのか、そう深く考えていなかったのだ。
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