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第七章 ダンジョン
141 鉄の宝箱の中身
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あれから二日が経った、もうすぐ宝箱につく。
狩りはとても順調で、あれから攻撃を受けることもなく、ミハエルもマジックラビットの動きに慣れたと言っていた。
俺も問題なく倒せるようになった。
エルナが牽制や動きの阻害をしてくれるおかげでリオクーガが気配を消して俺に迫るということもなくなった。
図体が大きいくせに気配を消してコソコソ動くので実に面倒だったのだ。
「俺はもう次兎が増えても対処はできると思うぜ」
「さすがだな」
「いや、フィーネの攻撃が的確でよ。兎の逃げ先を狭めてくれっから楽なんだよな」
「ほー、俺もそうだな。エルナが動きの阻害とか牽制してくれるおかげでリオクーガを倒すのはかなり楽になったぞ」
「おーエルナ頑張ってんな」
「はいです! ミハエルさんとの特訓のおかげです!」
「ははは。そうか。ま、エルナが頑張ったからだろ」
ミハエルは笑いながら自然とエルナの頭を撫でている。
ミハエルさん、まじ天然っすね……。
「あうう」
エルナは頬を赤くして俯いている。
そんな甘酸っぱい光景を見つつも宝箱へとたどりついた。
「お! まさかのレア宝箱か!」
この階層で鉄の宝箱なんてレアだとさすがに少し興奮する。
「おお、まじか。すげぇな」
「これは期待できるわね。何が入っているのかしら」
「楽しみです!」
鑑定をかけるが罠はない。
深い階層にきてからはあまり罠宝箱は無くなった気はする。
それでも油断は大敵だが。
「罠はないな、開けてみるか」
俺の声に全員が頷く。
鉄の宝箱の蓋をゆっくりと開けると、中には黒い服っぽいものが入っていた。
「服か?」
とりだして広げると、コートのような、黒地に銀や金の刺繍や装飾、一部革の飾りベルトなど、実にカッコイイデザインの装備だった。
布かと思ったが、柔らかい皮でできているようだ。
「おーかっこいいな。んで、性能はどうよ?」
「えーと、おお、すごいな――」
実にすごい性能だった。
---------------------
魔法のチュニック
状態:最良
詳細:魔法抵抗(大) 物理防御(大) 魔法威力向上(中) 移動速度上昇(中) 麻痺・毒耐性(大) 攻撃反射(中) 重量軽減 汚れ防止 自動修復
---------------------
「まじか、すげぇなその性能」
「すごい性能ね」
「今度こそ、ルカさん用ですね!」
「ん? いや、ミハエルのがよくないか?」
「何言ってんだ。魔法威力あがるのついてんだから、ルカのだろ」
「いやでも、それを除けばミハエルが強化されると思うんだが……」
俺がそう言うとミハエルが少し呆れたように言った。
「ルカは俺だけ強化してどーすんだよ。ルカも前衛なんだからお前も強化されねぇとだめだろ」
その言葉に反論できない。
「む」
でも、実際ミハエルが強化された方がいいとは思うのだ。
確かに魔法の威力があがるが、それを除けば実に前衛向きである。
俺が複雑な顔をしていたせいか、フィーネが少し苦笑しながら言った。
「ルカ、その装備はあなたがすべきよ。確かに魔法威力向上を除けば前衛向きだと思うわ。でも、よく考えて頂戴。あなたは今前衛で、さらには魔法も使えるの。なら、あなたにぴったりの装備でしょう?」
「ですです! 今のルカさんのスタイルにぴったりだと思うです!」
そう言われると確かにそうなのだが、純粋な前衛ではない俺が装備してもミハエルに多少おいつける程度ではないだろうか。
「ルカ、また自分より俺を強化した方が効率がーとか思ってんだろ。俺ばっか強化しても意味ねーんだよ。ルカも強化されねぇと。俺たちは敵を振り分けてんだからな。俺ばっか強化しても効率わりぃんだぞ?」
ミハエルの言葉に俺はハッとする。
ミハエルを強化していけば狩りが楽になると思い込んでいた。
確かにそれはあるだろうが、今は俺とミハエルで得意な敵をわけあっているのだ。
ならば俺も強化されないとそのバランスが崩れる。
「そうか、すまん。ミハエルを強化してさえいれば、って思いこんでたわ」
「ま、俺がつえーからな。そう思っちまうのは仕方ねぇさ」
ミハエルがおどけて笑ってそう言った。
だから俺も笑って言い返す。
「俺はミハエルに勝ってるから、俺の方が強いんだよ。俺はさらにこれで強くなれるな」
「おお? 言ったな? 次はぜってぇ勝つからなー。魔法研究はしてんだぞ」
「すみません。やめてください」
そんな俺たちのコントのような会話に、フィーネもエルナも笑い、俺たちも笑った。
「さて、別にここで着替えてもいいが、動きの確認もしたいからセーフゾーンに行こう」
俺の提案に全員が頷く。
それを確認して、俺はセーフゾーンへの道を歩き始めた。
何度か敵と遭遇して戦闘になったが、二時間ほど歩いたところでセーフゾーンへとたどりつけた。
「さて、もうすぐお昼だし、このままここで休憩としようか」
「あら、もうそんな時間なのね。洞窟にいると太陽がないから分からなくなるわね」
「太陽が見たいですー」
「ルカのおかげでちゃんと朝昼晩ができてんけど、普通だったら時間の感覚狂いそうだよなー」
「そうね、ギルドの酒場でもよく朝方から夕食をとってるパーティなんかもいるわね」
「ああ、確かに」
そんな会話をしつつ、衝立にかけた魔法のチュニックを見て悩む。
うーむ。これを装備するならやはり上の皮鎧はない方がいい気がするな。
せっかく作ってもらったのに申し訳ないが、はずすとするか。
皮鎧に触れてアイテムボックスに収納する。
ついでなので、少し汗ばんでいるシャツを脱ぎ、新しいシャツに着替えることにした。
シャツを脱いで自身の体を見て、結構筋肉がついたよな、と思う。
相変わらずミハエルのような筋肉質な体型ではないが、別にぷよぷよした体型でもない。
あまり目立ちはしないがしっかり筋肉はついている。
とはいえ、もう少しミハエルのような男らしい見た目になりたくもあるが、こればっかりは持って生まれた肉体なので諦めるしかない。
シャツを新しく着て、魔法のチュニックを装備する。
魔法のチュニックは大きさは大人の男性と同じで大きかったが、装備すると俺のサイズに合わせて縮んだ。
チュニックという表記に違和感はあるが、確かにかぶって着るタイプなのでチュニックではあるのだろう。
パッと見のデザインはコートっぽいんだけどな。
鏡が欲しいな、見てみたい。
えーと……、ああ、あった。
昔エルナたちのドレスを作ったときの確認用の姿見があった。
姿見を取り出して自身の姿を見てみる。
おお……、自分で言うのはどうかと思うが、カッコイイ。
肩や肘部分は柔らかい皮でだぼっとしているが、それ以外は少し硬めの皮でぴったりと覆われている。
肩当てもあるが、アーチ状の硬めの皮で、余裕があってぴったりとはしていない。
関節の曲げ伸ばしや動きの邪魔を一切することがない。
服の前の閉じているつなぎ目部分には金のラインが入り、裾には金の飾り刺繍がある。
首元や所々に銀の装飾や飾り刺繍があり、ベルトの機能は果たしていないが、飾りベルトもある。
前部分は腰下、股関節くらいまでの長さで、横と後ろは膝下くらいまでの長さがある。
だから少しコートっぽく見えるのだ。
このデザインはこの世界ではまったく見たことはないが、ダンジョンが作っているのだとしたらそれはこのデザインの知識を持った人間がいたということになる。
正直、このデザイン、前世の地球ならゲームとかでありそうな装備なのだ。
スマフォの説明ならダンジョンは人の知識を得てこういう宝箱の中身を作っているはずだから、このデザインも人間の知識からということになる。
もしかしたら、かつて俺と同じようにこの世界に転生してきていた地球人がいたのかもしれない。
それが日本人か、本当に地球人かはわからないが、俺が昔生きていた世界と似た世界か、同じ世界の人間がきっと転生してきていたのだろう。
ただ日本人だとするなら、もう少し食の発展があってもよかったと思うので、日本人ではないのかもしれないが。
単純に味噌や醤油を作る知識がなかっただけかもしれないけども。
普通は作り方なんて知らないしな。
俺も大雑把にしか知らないから、具現化魔法で作るしかできないわけだし。
マリーは熱心に研究はしているようだけども。
マヨネーズも完成させていたから、いずれは味噌や醤油なんかも完成させてくれるかもしれないな。
その為の支援ならいくらでもしよう。うん。
今後転生してくるかもしれない日本人のために、という建前のもと、俺の食の豊かさを広げるために。
余計な考えに逸れたところで姿見と衝立を収納する。
俺が出した机と椅子に腰かけていた三人がこちらを向く。
「お、ルカ似合ってるじゃん。カッコイイぜ」
「わー! ルカさんとても似合っています!」
「本当ね、とても素敵だわ」
ぬ。そう誉めそやされると照れてしまう。
「おー照れんな照れんな」
そう言って笑うミハエルに俺は近くまでいって無言で拳を繰り出す。
「悪い! 悪かったって」
無言で殴る俺にミハエルが謝った。
そんな俺たちを見てフィーネとエルナは苦笑している。
恥ずかしさを無視して俺は席につき装備の感想を言う。
「さて、この装備だけど、ヒュドラの鱗皮に少し似てるかもな。性能とかじゃなくて柔らかさが。ただ、ベースは柔らかいが、関節部分以外は硬めの皮でしっかり覆われてる。ミハエルの腕防具と同じ攻撃反射がついてるから、それがその硬い皮部分かもしれない。一体どういう加工をすればそうなるんだかわからないがな。ミハエルのはミスリル部分にだったから納得はいったんだけど。そもそも不思議なダンジョンが作っているんだから深く考える方がだめなのかもしれないがな」
「ま、そうだろな。そもそもダンジョンってもんがわかんねぇわけだし。つか、俺もそんなデザインがいいな。今度クレンベルいったときに頼んでみっかな」
「あー、でもこのデザインで作るとしたら時間かかりそうじゃないか?」
「だよなー。でもま、言うだけ言ってみるのはいいだろ」
「そうね、私もお願いしてみようかしら?」
フィーネがそう言うと、エルナが少し頬を膨らませて言った。
「むぅ。お姉ちゃんは私とお揃いにしようよ」
そんな風に言うエルナにフィーネは苦笑する。
「そうしたいけど、エルナのデザインだと皮が足りなそうよ?」
「とりにいけばいいよ! 今度いこう?」
「はは。そうだな。ヒュドラの皮も集めて、あとはせっかくだから、マジックラビットの毛皮も持っていこうか。ニルベルトさんが加工できるかはわからないが、マジックラビットの毛皮は防御力はそこそこで魔法抵抗力が高いからな」
「はいです!」
エルナが嬉しそうに笑うので、それもいいだろう。
今回のダンジョンをクリアしたらヒュドラの皮を集めて、一度クレンベルを訪れよう。
ああ、どうせだからギルドマスターも誘ってみるか?
どちらにしろ誘うとなるとハインさんに誓約魔法をしてもらわなければならないことになりそうだが。
まぁそのあたりはギルドマスターに聞けばいいか。
そのままセーフゾーンで昼食にとった。
「さて、それじゃあちょっとこのマジックラビットの真珠を組み込んでみるか」
「はい、お願いします!」
このマジックラビットから出たドロップ率がかなり低そうなアイテム。
鑑定したときに名前はなく、見た目が真珠のようだから俺がそう名付けたものだ。
ただ性能が恐ろしくいい。
このマジックラビットの真珠、性能は魔力を通せば魔法攻撃力がアップするというものなのだ。
かなりドロップ率は低いが、ここから七十五階までの距離を考えれば、あと数個は出るだろう。
なので、俺の武器に組み込むのは難しかったので、エルナの武器に組み込むことにした。
俺の分はいずれオリハルコンで作る武器に組み込んでもらうつもりだ。
エルナの武器はミスリルの杖だが、基本的に魔法を発動させるのは武器の先の方らしい。
となると、そこへの通り道にこの真珠をかませればいい。
さすがに直径三センチもあるので持ち手に組み込むのは微妙だ。
となると、先端の鈍器部分と持ち手の境目あたりがいいだろう。
確実に魔力を通す部分だ。
ねじくれたミスリルの持ち手、その先はアダマンタイトで補強され、その先にミスリルの鈍器の頭部部分。
持ち手と頭部部分は真珠とぴったりと接触し、持ち手と真珠、そして鈍器の頭部部分をアダマンタイトがしっかりと支え補強している。
これで、持ち手から流した魔力は確実に真珠を通り、鈍器の頭部へと続くはずだ。
明確にイメージして、手の上にある真珠を具現化魔法で包みながら作っていく。
そして出来上がった杖は俺のイメージした通りにできあがった。
「よし、完成した。エルナ、少し試していいか?」
「はいです」
実際きちんと魔力が流れるか試し、魔法を撃ってみた。
驚いたことにアースバレットを撃ったのだが、俺の撃ったアースバレットは洞窟の壁に深くめり込んでいた。
そのうえ、発動速度はこれまでと変わらないが、明らかに魔法の速度があがっている。
ようするに、威力と速度があがったということだ。
「うん、問題はないな。エルナも撃ってみるといい」
「はいです」
そうしてエルナが洞窟の壁に向けてバレットを撃ちだした。
エルナのバレットも壁に深くめり込んでいる。
「ルカさん、威力だけじゃなくて、魔法の速度もあがっていると思います」
エルナの言葉に俺は頷く。
「気づいたか。そうだ、速度もあがってる。かなりの強化になるな」
「はい! 嬉しいです!」
そう言ってエルナは笑った。
俺の武器に組み込むのも楽しみだ。
休憩を終え、俺たちはセーフゾーンを出る。
次の階段までは、距離的に七日から八日くらいか。
モンスターとの戦闘も含めれば十日くらいかかるかもしれないが、訓練期間が延びたと思えば問題はない。
そうして俺の装備が変わって初の戦闘が終わった。
「どうだ?」
ミハエルの質問に頷く。
「ああ、驚くな。これほど変わるものか。攻撃は食らってないからわからないが、魔法の威力は確実にあがったな。移動速度も上がってるから避けるのも楽だ。これほどとは思わなかったな」
実際バレットはリオクーガの尻尾以外でも効くことはなく普通に弾かれていたのだが、この装備にしてからめりこむようになった。
リオクーガが傷つきはしないが、普通に弾かれていたものがめりこむようになったのだからかなり威力があがっているといえる。
「俺も腕装備してから今のルカと同じ気持ちだったぜ」
「なるほどな。実際自分で装備すると結構わかるもんなんだな」
「おう」
七十五階まではまだまだあるが、慎重に確実に進んでいこう。
狩りはとても順調で、あれから攻撃を受けることもなく、ミハエルもマジックラビットの動きに慣れたと言っていた。
俺も問題なく倒せるようになった。
エルナが牽制や動きの阻害をしてくれるおかげでリオクーガが気配を消して俺に迫るということもなくなった。
図体が大きいくせに気配を消してコソコソ動くので実に面倒だったのだ。
「俺はもう次兎が増えても対処はできると思うぜ」
「さすがだな」
「いや、フィーネの攻撃が的確でよ。兎の逃げ先を狭めてくれっから楽なんだよな」
「ほー、俺もそうだな。エルナが動きの阻害とか牽制してくれるおかげでリオクーガを倒すのはかなり楽になったぞ」
「おーエルナ頑張ってんな」
「はいです! ミハエルさんとの特訓のおかげです!」
「ははは。そうか。ま、エルナが頑張ったからだろ」
ミハエルは笑いながら自然とエルナの頭を撫でている。
ミハエルさん、まじ天然っすね……。
「あうう」
エルナは頬を赤くして俯いている。
そんな甘酸っぱい光景を見つつも宝箱へとたどりついた。
「お! まさかのレア宝箱か!」
この階層で鉄の宝箱なんてレアだとさすがに少し興奮する。
「おお、まじか。すげぇな」
「これは期待できるわね。何が入っているのかしら」
「楽しみです!」
鑑定をかけるが罠はない。
深い階層にきてからはあまり罠宝箱は無くなった気はする。
それでも油断は大敵だが。
「罠はないな、開けてみるか」
俺の声に全員が頷く。
鉄の宝箱の蓋をゆっくりと開けると、中には黒い服っぽいものが入っていた。
「服か?」
とりだして広げると、コートのような、黒地に銀や金の刺繍や装飾、一部革の飾りベルトなど、実にカッコイイデザインの装備だった。
布かと思ったが、柔らかい皮でできているようだ。
「おーかっこいいな。んで、性能はどうよ?」
「えーと、おお、すごいな――」
実にすごい性能だった。
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魔法のチュニック
状態:最良
詳細:魔法抵抗(大) 物理防御(大) 魔法威力向上(中) 移動速度上昇(中) 麻痺・毒耐性(大) 攻撃反射(中) 重量軽減 汚れ防止 自動修復
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「まじか、すげぇなその性能」
「すごい性能ね」
「今度こそ、ルカさん用ですね!」
「ん? いや、ミハエルのがよくないか?」
「何言ってんだ。魔法威力あがるのついてんだから、ルカのだろ」
「いやでも、それを除けばミハエルが強化されると思うんだが……」
俺がそう言うとミハエルが少し呆れたように言った。
「ルカは俺だけ強化してどーすんだよ。ルカも前衛なんだからお前も強化されねぇとだめだろ」
その言葉に反論できない。
「む」
でも、実際ミハエルが強化された方がいいとは思うのだ。
確かに魔法の威力があがるが、それを除けば実に前衛向きである。
俺が複雑な顔をしていたせいか、フィーネが少し苦笑しながら言った。
「ルカ、その装備はあなたがすべきよ。確かに魔法威力向上を除けば前衛向きだと思うわ。でも、よく考えて頂戴。あなたは今前衛で、さらには魔法も使えるの。なら、あなたにぴったりの装備でしょう?」
「ですです! 今のルカさんのスタイルにぴったりだと思うです!」
そう言われると確かにそうなのだが、純粋な前衛ではない俺が装備してもミハエルに多少おいつける程度ではないだろうか。
「ルカ、また自分より俺を強化した方が効率がーとか思ってんだろ。俺ばっか強化しても意味ねーんだよ。ルカも強化されねぇと。俺たちは敵を振り分けてんだからな。俺ばっか強化しても効率わりぃんだぞ?」
ミハエルの言葉に俺はハッとする。
ミハエルを強化していけば狩りが楽になると思い込んでいた。
確かにそれはあるだろうが、今は俺とミハエルで得意な敵をわけあっているのだ。
ならば俺も強化されないとそのバランスが崩れる。
「そうか、すまん。ミハエルを強化してさえいれば、って思いこんでたわ」
「ま、俺がつえーからな。そう思っちまうのは仕方ねぇさ」
ミハエルがおどけて笑ってそう言った。
だから俺も笑って言い返す。
「俺はミハエルに勝ってるから、俺の方が強いんだよ。俺はさらにこれで強くなれるな」
「おお? 言ったな? 次はぜってぇ勝つからなー。魔法研究はしてんだぞ」
「すみません。やめてください」
そんな俺たちのコントのような会話に、フィーネもエルナも笑い、俺たちも笑った。
「さて、別にここで着替えてもいいが、動きの確認もしたいからセーフゾーンに行こう」
俺の提案に全員が頷く。
それを確認して、俺はセーフゾーンへの道を歩き始めた。
何度か敵と遭遇して戦闘になったが、二時間ほど歩いたところでセーフゾーンへとたどりつけた。
「さて、もうすぐお昼だし、このままここで休憩としようか」
「あら、もうそんな時間なのね。洞窟にいると太陽がないから分からなくなるわね」
「太陽が見たいですー」
「ルカのおかげでちゃんと朝昼晩ができてんけど、普通だったら時間の感覚狂いそうだよなー」
「そうね、ギルドの酒場でもよく朝方から夕食をとってるパーティなんかもいるわね」
「ああ、確かに」
そんな会話をしつつ、衝立にかけた魔法のチュニックを見て悩む。
うーむ。これを装備するならやはり上の皮鎧はない方がいい気がするな。
せっかく作ってもらったのに申し訳ないが、はずすとするか。
皮鎧に触れてアイテムボックスに収納する。
ついでなので、少し汗ばんでいるシャツを脱ぎ、新しいシャツに着替えることにした。
シャツを脱いで自身の体を見て、結構筋肉がついたよな、と思う。
相変わらずミハエルのような筋肉質な体型ではないが、別にぷよぷよした体型でもない。
あまり目立ちはしないがしっかり筋肉はついている。
とはいえ、もう少しミハエルのような男らしい見た目になりたくもあるが、こればっかりは持って生まれた肉体なので諦めるしかない。
シャツを新しく着て、魔法のチュニックを装備する。
魔法のチュニックは大きさは大人の男性と同じで大きかったが、装備すると俺のサイズに合わせて縮んだ。
チュニックという表記に違和感はあるが、確かにかぶって着るタイプなのでチュニックではあるのだろう。
パッと見のデザインはコートっぽいんだけどな。
鏡が欲しいな、見てみたい。
えーと……、ああ、あった。
昔エルナたちのドレスを作ったときの確認用の姿見があった。
姿見を取り出して自身の姿を見てみる。
おお……、自分で言うのはどうかと思うが、カッコイイ。
肩や肘部分は柔らかい皮でだぼっとしているが、それ以外は少し硬めの皮でぴったりと覆われている。
肩当てもあるが、アーチ状の硬めの皮で、余裕があってぴったりとはしていない。
関節の曲げ伸ばしや動きの邪魔を一切することがない。
服の前の閉じているつなぎ目部分には金のラインが入り、裾には金の飾り刺繍がある。
首元や所々に銀の装飾や飾り刺繍があり、ベルトの機能は果たしていないが、飾りベルトもある。
前部分は腰下、股関節くらいまでの長さで、横と後ろは膝下くらいまでの長さがある。
だから少しコートっぽく見えるのだ。
このデザインはこの世界ではまったく見たことはないが、ダンジョンが作っているのだとしたらそれはこのデザインの知識を持った人間がいたということになる。
正直、このデザイン、前世の地球ならゲームとかでありそうな装備なのだ。
スマフォの説明ならダンジョンは人の知識を得てこういう宝箱の中身を作っているはずだから、このデザインも人間の知識からということになる。
もしかしたら、かつて俺と同じようにこの世界に転生してきていた地球人がいたのかもしれない。
それが日本人か、本当に地球人かはわからないが、俺が昔生きていた世界と似た世界か、同じ世界の人間がきっと転生してきていたのだろう。
ただ日本人だとするなら、もう少し食の発展があってもよかったと思うので、日本人ではないのかもしれないが。
単純に味噌や醤油を作る知識がなかっただけかもしれないけども。
普通は作り方なんて知らないしな。
俺も大雑把にしか知らないから、具現化魔法で作るしかできないわけだし。
マリーは熱心に研究はしているようだけども。
マヨネーズも完成させていたから、いずれは味噌や醤油なんかも完成させてくれるかもしれないな。
その為の支援ならいくらでもしよう。うん。
今後転生してくるかもしれない日本人のために、という建前のもと、俺の食の豊かさを広げるために。
余計な考えに逸れたところで姿見と衝立を収納する。
俺が出した机と椅子に腰かけていた三人がこちらを向く。
「お、ルカ似合ってるじゃん。カッコイイぜ」
「わー! ルカさんとても似合っています!」
「本当ね、とても素敵だわ」
ぬ。そう誉めそやされると照れてしまう。
「おー照れんな照れんな」
そう言って笑うミハエルに俺は近くまでいって無言で拳を繰り出す。
「悪い! 悪かったって」
無言で殴る俺にミハエルが謝った。
そんな俺たちを見てフィーネとエルナは苦笑している。
恥ずかしさを無視して俺は席につき装備の感想を言う。
「さて、この装備だけど、ヒュドラの鱗皮に少し似てるかもな。性能とかじゃなくて柔らかさが。ただ、ベースは柔らかいが、関節部分以外は硬めの皮でしっかり覆われてる。ミハエルの腕防具と同じ攻撃反射がついてるから、それがその硬い皮部分かもしれない。一体どういう加工をすればそうなるんだかわからないがな。ミハエルのはミスリル部分にだったから納得はいったんだけど。そもそも不思議なダンジョンが作っているんだから深く考える方がだめなのかもしれないがな」
「ま、そうだろな。そもそもダンジョンってもんがわかんねぇわけだし。つか、俺もそんなデザインがいいな。今度クレンベルいったときに頼んでみっかな」
「あー、でもこのデザインで作るとしたら時間かかりそうじゃないか?」
「だよなー。でもま、言うだけ言ってみるのはいいだろ」
「そうね、私もお願いしてみようかしら?」
フィーネがそう言うと、エルナが少し頬を膨らませて言った。
「むぅ。お姉ちゃんは私とお揃いにしようよ」
そんな風に言うエルナにフィーネは苦笑する。
「そうしたいけど、エルナのデザインだと皮が足りなそうよ?」
「とりにいけばいいよ! 今度いこう?」
「はは。そうだな。ヒュドラの皮も集めて、あとはせっかくだから、マジックラビットの毛皮も持っていこうか。ニルベルトさんが加工できるかはわからないが、マジックラビットの毛皮は防御力はそこそこで魔法抵抗力が高いからな」
「はいです!」
エルナが嬉しそうに笑うので、それもいいだろう。
今回のダンジョンをクリアしたらヒュドラの皮を集めて、一度クレンベルを訪れよう。
ああ、どうせだからギルドマスターも誘ってみるか?
どちらにしろ誘うとなるとハインさんに誓約魔法をしてもらわなければならないことになりそうだが。
まぁそのあたりはギルドマスターに聞けばいいか。
そのままセーフゾーンで昼食にとった。
「さて、それじゃあちょっとこのマジックラビットの真珠を組み込んでみるか」
「はい、お願いします!」
このマジックラビットから出たドロップ率がかなり低そうなアイテム。
鑑定したときに名前はなく、見た目が真珠のようだから俺がそう名付けたものだ。
ただ性能が恐ろしくいい。
このマジックラビットの真珠、性能は魔力を通せば魔法攻撃力がアップするというものなのだ。
かなりドロップ率は低いが、ここから七十五階までの距離を考えれば、あと数個は出るだろう。
なので、俺の武器に組み込むのは難しかったので、エルナの武器に組み込むことにした。
俺の分はいずれオリハルコンで作る武器に組み込んでもらうつもりだ。
エルナの武器はミスリルの杖だが、基本的に魔法を発動させるのは武器の先の方らしい。
となると、そこへの通り道にこの真珠をかませればいい。
さすがに直径三センチもあるので持ち手に組み込むのは微妙だ。
となると、先端の鈍器部分と持ち手の境目あたりがいいだろう。
確実に魔力を通す部分だ。
ねじくれたミスリルの持ち手、その先はアダマンタイトで補強され、その先にミスリルの鈍器の頭部部分。
持ち手と頭部部分は真珠とぴったりと接触し、持ち手と真珠、そして鈍器の頭部部分をアダマンタイトがしっかりと支え補強している。
これで、持ち手から流した魔力は確実に真珠を通り、鈍器の頭部へと続くはずだ。
明確にイメージして、手の上にある真珠を具現化魔法で包みながら作っていく。
そして出来上がった杖は俺のイメージした通りにできあがった。
「よし、完成した。エルナ、少し試していいか?」
「はいです」
実際きちんと魔力が流れるか試し、魔法を撃ってみた。
驚いたことにアースバレットを撃ったのだが、俺の撃ったアースバレットは洞窟の壁に深くめり込んでいた。
そのうえ、発動速度はこれまでと変わらないが、明らかに魔法の速度があがっている。
ようするに、威力と速度があがったということだ。
「うん、問題はないな。エルナも撃ってみるといい」
「はいです」
そうしてエルナが洞窟の壁に向けてバレットを撃ちだした。
エルナのバレットも壁に深くめり込んでいる。
「ルカさん、威力だけじゃなくて、魔法の速度もあがっていると思います」
エルナの言葉に俺は頷く。
「気づいたか。そうだ、速度もあがってる。かなりの強化になるな」
「はい! 嬉しいです!」
そう言ってエルナは笑った。
俺の武器に組み込むのも楽しみだ。
休憩を終え、俺たちはセーフゾーンを出る。
次の階段までは、距離的に七日から八日くらいか。
モンスターとの戦闘も含めれば十日くらいかかるかもしれないが、訓練期間が延びたと思えば問題はない。
そうして俺の装備が変わって初の戦闘が終わった。
「どうだ?」
ミハエルの質問に頷く。
「ああ、驚くな。これほど変わるものか。攻撃は食らってないからわからないが、魔法の威力は確実にあがったな。移動速度も上がってるから避けるのも楽だ。これほどとは思わなかったな」
実際バレットはリオクーガの尻尾以外でも効くことはなく普通に弾かれていたのだが、この装備にしてからめりこむようになった。
リオクーガが傷つきはしないが、普通に弾かれていたものがめりこむようになったのだからかなり威力があがっているといえる。
「俺も腕装備してから今のルカと同じ気持ちだったぜ」
「なるほどな。実際自分で装備すると結構わかるもんなんだな」
「おう」
七十五階まではまだまだあるが、慎重に確実に進んでいこう。
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買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。
※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。
※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・)
更新はめっちゃ不定期です。
※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

家の猫がポーションとってきた。
熊ごろう
ファンタジー
テーブルに置かれた小さな瓶、それにソファーでくつろぐ飼い猫のクロ。それらを前にして俺は頭を抱えていた。
ある日どこからかクロが咥えて持ってきた瓶……その正体がポーションだったのだ。
瓶の処理はさておいて、俺は瓶の出所を探るため出掛けたクロの跡を追うが……ついた先は自宅の庭にある納屋だった。 やったね、自宅のお庭にダンジョン出来たよ!? どういうことなの。
始めはクロと一緒にダラダラとダンジョンに潜っていた俺だが、ある事を切っ掛けに本気でダンジョンの攻略を決意することに……。

「残念でした~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~ん笑」と女神に言われ異世界転生させられましたが、転移先がレベルアップの実の宝庫でした
御浦祥太
ファンタジー
どこにでもいる高校生、朝比奈結人《あさひなゆいと》は修学旅行で京都を訪れた際に、突然清水寺から落下してしまう。不思議な空間にワープした結人は女神を名乗る女性に会い、自分がこれから異世界転生することを告げられる。
異世界と聞いて結人は、何かチートのような特別なスキルがもらえるのか女神に尋ねるが、返ってきたのは「残念でした~~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~~ん(笑)」という強烈な言葉だった。
女神の言葉に落胆しつつも異世界に転生させられる結人。
――しかし、彼は知らなかった。
転移先がまさかの禁断のレベルアップの実の群生地であり、その実を食べることで自身のレベルが世界最高となることを――

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~
暇人太一
ファンタジー
仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。
ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。
結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。
そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

暗殺者から始まる異世界満喫生活
暇人太一
ファンタジー
異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。
流されるままに極貧幽閉生活を過ごし、気づけば暗殺者として優秀な功績を上げていた。
しかし、暗殺者生活は急な終りを迎える。
同僚たちの裏切りによって自分が殺されるはめに。
ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。
新たな生活は異世界を満喫したい。
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