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第七章 ダンジョン

136 閑話 ミハエルとエルナでダンジョン狩り

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「うーす」

 いつも通り先に席についている三人にそう声をかけて俺は席につく。

「おはよう」
「おはよう、ミハエル」
「おはようございます!」

 朝食を頼み、食べ終わったあとは、それぞれ自由行動だ。
 昨日はルカとレオンの試合だった。
 ルカが負けるとは微塵も思ってなかったから驚いた。
 ルカは俺よりも強い。
 そんなルカがレオンに負けたってことは、俺はもっと弱ぇってことだ。
 ……絶対に次は俺がレオンをぶちのめす。

 しかし今日は何をするか。
 特に予定はねぇんだよな。

「じゃ、俺はちょっと部屋戻るわ」
「おう」

 そう言ってルカは席を立った。

「エルナは今日どうするの?」

 フィーネのそんな質問に、エルナが答える。

「あ、私今日ちょっとミハエルさんにお願いがあって」
「あら、そうなの?」
「んあ?」

 チラリとフィーネが俺を見てエルナに視線を戻す。

「じゃあ私は適当に街にでも行ってるわね」
「わかった、ごめんねお姉ちゃん」

 そんな風に謝るエルナにフィーネは笑みを浮かべてエルナの頭を撫で、席を立った。
 そんなフィーネを俺とエルナは見送り、俺はエルナに視線を移す。

「んで? お願いってなんだ?」
「あ、あの、えっと、ダンジョンの狩りに付き合って欲しいんです。構いませんか……?」

 おずおずとそう聞いてくるエルナに俺は頷く。

「あー別にいいぞ」
「ありがとうございます!」

 エルナが嬉しそうに笑って言った。

「んじゃ、行くか」
「はい、お願いします」

 俺とエルナは連れ立って宿屋を出て、ダンジョン管理所へと向かった。

「んで、なんでまた俺と狩りなんだ?」
「あの、昨日のルカさんとレオンさんの試合を見て、いえ、その前からですね……」

 少し言い淀んだあと、エルナが話し始めた。
 前から思ってはいたが、自身が近接戦が苦手なゆえに、みんなの足を引っ張っていると感じていること。
 シュバルツデーモンとの戦いで、自身がいるからこそ、呼びに来れなかったのだろうという予測。
 私は何のためにこのパーティにいるのか、それを悩んだこと。

 だからといって自身がルカのように、姉のように動けるかといえば無理だということ。
 もちろん無理だからと努力しないということにはならないけども、それでもわかるのは一般人以上にはなれないこと。

 ならば私はこのパーティでやっていくのにどうすればいいのか。
 パーティを抜けるのは嫌だ。
 ならどうすればいい? できることをするしかない。
 そこで悩んだ末に、昨日のルカとレオンの試合を見ていて、私はあのようにはなれない、ならば、私にできるのは、前衛がいかに気持ちよく動けるかを追求するしかないと考えたのだと。
 それは結果として、自身の動き方の向上にも繋がると。

「――なので、前衛であるミハエルさんの意見を聞きながら狩りをしたいのです」
「あーなるほどな。んでもそれルカのがいいんじゃねぇの? 魔法も使えるしよ。両方の意見できんじゃね?」
「はいです。ルカさんに最初はお願いしようかと思ったのですが、失礼な話し、ルカさんは結局のところで魔法職なのです。なのでどうしても魔法職の視点での会話になると思ったので、だからこそ魔法が使えない純粋な前衛であるミハエルさんにお願いしようと思ったのです」
「そっか。色々考えた結果なんだな」

 エルナはエルナでしっかりと考えて努力しているようだ。
 俺は思わずエルナの頭を撫でていた。
 恥ずかしそうに微笑むエルナを見て、俺は、ああ、またやっちまったと気付く。
 同い年なのに、エルナはつい年下みたいに扱っちまう。

 照れ隠しにエルナの頭をポンポンと叩いてから言う。

「んじゃま、後衛を気遣わねぇ前衛でやってみっか」
「はい、お願いします!」
「階層はどーする?」
「えっと、どこなら私と一緒でも大丈夫ですか?」
「あー……ちっと六十五階はやべーかなー。六十四階のヒュドラとケルベロスいくか」
「え、大丈夫ですか?」
「エルナも慣れてんだろーし、多少の緊張もねぇとな」

 俺の言葉にエルナが喉を鳴らす。

「ま、緊張すんな。俺一人でも狩りはできる階層だ。今回はエルナを気遣った狩り方はしねぇし、それにエルナにタゲがいくことはねぇよ」
「はい。わかりました。一戦闘ごとに色々質問してもいいですか?」
「おう、エルナは疲れたら言えよ。俺は今回気遣わねぇから、エルナはめちゃくちゃ神経使うと思うぞ」
「はい。無理はしません。ありがとうございます」

 俺とエルナは六十五階へと飛び、そこから階段を上がって狩りを始めた。
 俺は本気でエルナを気遣うことなく暴れた。
 エルナは一回の戦闘ごとに俺にこういう動きのときはこういう魔法を撃つと動きにくいかどうかを聞いて、俺がそれに意見を言ったり、俺が戦闘後に、こういうときはこういう攻撃されると動きにくいなどを言った。

 エルナは一回の戦闘ごとに言ったことを学び、失敗をしつつも上手くなっていっていた。
 時折わざとエルナの近くまで戦域を広げたりしたが、エルナは最初は少し慌てていたが、段々と冷静にどう動いて距離をあけるかを学んでいた。

 そうして俺の腹が減ったあたりで懐中時計を見て昼になっていたのでエルナに声をかけた。

「エルナ、もう昼だから昼飯にしようぜ」
「あ、はいです。もうお昼になってたんですね、気づかなかったです」
「まぁ、あんだけ気張ってりゃ時間なんてあっちゅーまに過ぎんだろ。頑張ったな」

 エルナの頭をポンポンと叩き、よく使っていたセーフゾーンへと入る。

「ルカみてぇに机とか椅子とか出してやれねぇけど、なんか座るもんあるか?」
「あ、大丈夫です。小さい木箱あるので、よかったらミハエルさんも使ってください」
「おお、悪りぃな。さんきゅー」

 飯を食いながらエルナに話しかける。

「ここまでやってどうだったよ?」
「最初はとても大変で、どう攻撃すればいいのかもわからなかったですが、ミハエルさんに質問しながら段々どうすればいいのかが分かってきた気がします。まだまだですが」
「そっか。まぁ最初は俺の狩りの邪魔になってたけど、今はだいぶいいぜ。まだ痒いところに手が届くって感じじゃねぇけど、たった数時間でここまでできんのはすげぇと思うよ」
「ありがとうございます! まだまだ頑張ります!」
「おう、でもまぁ、あんま気張んなよ? エルナは真面目だからな、ゆっくり成長すればいいと思うぜ。こんな狩り方でいいなら俺は何度でも付き合うしよ」

 そう言うとエルナは嬉しそうに笑って言った。

「はいです。ありがとうございます。またお願いしちゃいます」
「おう」
「でも、本当にいつもは後衛をとても気遣って下さっていたんですね。どれだけ気遣われていたか今日の狩りでとてもわかったです」
「ああ、まぁな。でもよ、気遣うのは当然なんだぜ? だって俺らはパーティなんだから、効率よく狩るには後衛も攻撃できるべきだろ?」
「はいです。でもなんていうかあまりにも気遣ってもらっていたというのが……」

 そう言うエルナに俺は苦笑して頭をポンポンとする。

「エルナは真面目だな。俺の今日の動きは俺のただの独りよがりの動きだ。ルカとやるならルカに合わせた動きをするし、こうしてエルナとやるならエルナに合わせた動きをする。エルナだって、一人でやるときと、誰かとやるときはちげぇだろ?」
「はい」
「ま、そういうこった。別に俺は気遣いすぎてたことはねぇよ。エルナたちが俺たちに合わせて動いてくれるから、俺たちはエルナたちが動きやすいようにする、ただそれだけだ。お互いが気遣ってるからああいう動きができんだよ。今日は敢えてわざと雑にしてっからな」

 そう言って俺が二ッと笑うと、エルナは柔らかく微笑んだ。
 ま、ちっとは気がほぐれたか?

「……ありがとうございます。頑張ります」
「おう、頑張ってんよ、エルナは。さ、そろそろまた再開すっか?」
「はいです!」

 そうして夕方まで時々休憩しつつもエルナとの狩りを続けた。
 最後にはエルナは俺が突飛な動きをしても邪魔にならない攻撃をすることができていた。
 ここまでできりゃ通常の戦闘では何も問題なく動けるんじゃねぇかな。

「頑張ったな、そろそろ帰ろうぜ」
「はいです。ありがとうございました。あの、また一緒に狩りにいってくれますか?」

 エルナが少し不安そうに上目遣いで聞いてくる。
 くっそ、可愛いな。
 思わず俺はエルナの頭をわしわしと撫でる。

「おう、いつでも一緒に狩りにいってやるよ」
「あうう」

 エルナはくしゃくしゃになった髪を整えながら、少し頬を膨らませて俺を見上げてくる。
 困るな。もう夕方で良かったと思うしかねぇな。

「ほれ、帰るぞ、エルナ」

 俺の声にエルナが笑みを浮かべる。

「はいです!」

 俺たちは連れ立って宿屋へと戻った。

 ま、エルナが頑張るなら、俺もいつでも付き合ってやるとすっか。
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