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第七章 ダンジョン

132 臨時の休養日と新しい魔法

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 朝起きた俺はぐっと背伸びをする。
 今日は一日だけ休みだ。
 さすがにレオンとの戦闘直後からダンジョンに潜るというのはしんどい。

 朝食をとったあと、部屋へ戻ってきた俺はソファーに腰かける。
 前回の反省を生かして、今日はルーツの強化を考える。
 レオンがルーツを解除できるということはSランクのモンスターも簡単に解除できるということだ。
 それでは何の意味もない。

 確実に相手の足を止めれないと意味はないのだ。
 とはいえ、無制限に止めれるような強力なものは俺の魔力がどれだけあってもきっと難しい。
 最低限五秒だけでも足を確実に止められるようなもの。

 ああ、あったな、リストレインだ。
 強いダメージを受けたり、五秒以上経つと解除されるが、ダメージを受けない限りは確実に五秒間拘束ができる魔法だ。
 バインドやルーツと違って足だけを止めるのではなく体の動きも止めるものだ。
 ボス戦では使えないが、ボス以外であればどんなに強い敵でも動きを止めることができる。
 この世界ではボスなんていないから要するにどいつにでもかけることができるわけだ。

 ……よし、完成した。
 レオンで試したいが、それは次回だな。
 次は絶対に負かしてやろう。

 レオンを驚かせられる魔法をまた考えないとな。
 そうすればそれはSランクモンスターに通じる魔法になる。

 そういえば闇魔法はまったく使ってないな。
 混乱恐怖支配系だが、正直この系統は高ランクのモンスターに効かない気がする。
 イメージでもそこまで強くイメージができない。
 この辺りは捨てるか……?
 使えるとしても支配くらいだろうし、そういう魔法は俺のイメージでは強いのに効かないから捨ててもいいかもしれないな。

 元々これを作ったのはゲームや小説で読んだからだが、実際使うとなると意外と使わない。
 初期は結構使ったが、モンスターが強くなるごとにほぼ使わなくなった。
 一度作った魔法が消えることはないが、もういいだろう。
 そもそも初期でも実験以外で使ったのは支配のみだしな。

 よし、闇はもういいな。
 使うことはもうないし、どちらにしろ高ランクのモンスターにも人間にも効かない気がするし。

 さて、新しい魔法か。
 今よく使うのはバレット、ジャベリンで、カッターはほぼ使わないな。
 カッターは硬い敵には効果が薄いんだよな。
 あとは範囲魔法と爆発魔法か。

 あーそうだ、重力魔法とかどうだ?
 グラビティ系だな。
 単体がグラビティ、範囲がグラビティヴァイトってところか?

 これもある意味拘束魔法に近いか。
 だが、重すぎる重力は体を押し潰せる。
 地面がめりこむほどの威力、肺から空気は全て押し出され、骨は軋みをあげる。

 よし……。
 完全に圧し潰して殺すというイメージはできなかったが、地面に縫い付けるという意味ではいいな。
 最初に拘束魔法に近いとイメージしたせいかもしれない。
 だが足止め魔法の数が多いのはいい。

 グラビティは範囲一メートルほど、グラビティヴァイトは範囲五メートルほどだ。
 とはいえ、単体の方が威力は高く、範囲になると多少弱くなる。
 このあたりは俺のイメージのせいだろうが、そのくらいのペナルティがないとうまく魔法が創造できない。

 そう考えると最初にそこまでペナルティを考えずに強くイメージして作った完全無効化やダメージ軽減魔法は強いな。
 ――とはいえ、あれも衝撃は防げないから完璧かというとそうでもないが。

 攻撃魔法なんかはこの世界を知り、攻撃力を知るごとに何かしらペナルティがないと強力なものが創れなくなってきたな。

 とりあえずはこんなところか。
 あとは実際にダンジョンで使ってみるしかないな。
 とはいえ、今日はいい。

 せっかくだし昼飯がてら久しぶりに普通に街をぶらついてみるか。
 俺はソファーから立ち上がり部屋を出る。
 宿屋を出てとりあえずは屋台広場へと向かった。
 食事ができる店も屋台広場方面に向かっていればあるので適当に入るか、屋台広場で飯にしてもいいだろう。

 そうして歩いていると、雑貨屋の前でフィーネがいた。
 エルナは一緒じゃないようだ。

「フィーネ」

 俺が声をかけるとフィーネが振り返った。

「あら、ルカ。どこか行くの?」
「ああ、昼ご飯にでもいこうかと。フィーネは何してるんだ?」

 そう言ってフィーネが見ていた雑貨屋の品物を見る。

「ああ、別に何か欲しいわけじゃないのよ。ただ眺めていただけ。特に何かをしていたわけじゃないわ」
「そうなのか? それならせっかくだし、一緒に飯にでもいかないか?」
「そうね、そうしようかしら」
「エルナは?」
「エルナは今日はミハエルを誘って何かするって言ってたわよ」
「そうか。じゃあ、一緒に飯にいこうか」
「ええ、そうね」

 俺はフィーネと連れ立って屋台広場方面へと向かった。
 それなりにおいしいと評判の店にでもいくか。

 屋台広場でもいいが、フィーネは基本的には買い食いはそんなに好きではないのだ。
 普通に食べれる店があるならそちらを好む。

「ここにしようか」
「そうね」

 店に入り料理を頼んで、何気ない会話をフィーネとする。
 なんだかちょっとデートっぽいなと思ってしまう。
 フィーネは元貴族なせいか、食事の仕方もとても綺麗だ。

 飯を食べながらそんなフィーネを見ていると、ふとフィーネと視線が合った。

「どうかしたのかしら?」

 フィーネが食事の手を止めて俺を見て首を傾げる。
 その仕草が可愛くてドキリとしてしまう。

「いや、なんでもないよ」
「そう?」
「ああ」

 再び食事を再開させる。
 今度はさすがにフィーネを見つめたりはしない。

 食事を終えてから、店を出て、どうせだからと適当に店を見ながら歩く。
 可愛らしい小物を売っている雑貨店にきたときに、フィーネが小さなアクセサリーを気に入り、購入してくるとその場を離れた。
 俺は適当にそのへんの物を見て、フィーネに似合いそうだなと思って見ていると、声をかけられた。

「あ、ルカ君」

 なんとなく聞き覚えのある声に振り返ると、そこにいたのはチェレステだった。

「ああ……、久しぶり」

 少しだけ気まずい。
 チェレステは普通に俺に笑みを見せている。

「何してるの?」
「あー、ちょっとメンバーと買い物、かな」
「そうなんだ。あの――」

 チェレステが何か言おうとしたところでフィーネがやってきた。

「お待たせ、ルカ」
「あ、フィーネ。お帰り」

 チェレステはフィーネを見て少し驚いた顔をしたあと、慌てたように告げた。

「あ、あの、あたし用事があるから。えっと、じゃあね」
「あ、ああ……」

 フィーネは首を傾げていたが、特に深くは聞いてこなかった。
 俺も別にあの日のことを言いふらす気もないので特に話題にはしなかった。

 そうだな、彼女もこの街に住んでいるのだから会うこともあるよな。
 そう思いつつも、フィーネと次の店を覗きにいく。
 次に向かったのは銀細工を売っている店だ。

「綺麗ね」
「ああ、これなんかフィーネに合うんじゃないか?」

 何気なく見ていただけだが、フィーネに似合いそうな髪飾りがあったのでついそう言ってしまった。

「あら、可愛いわね」

 そう言ってフィーネが髪飾りをとって自身の髪にあててみる。
 赤や黄色の小さな小花が細い銀の鎖の先で揺れている。
 フィーネの金色の髪に映えてとても綺麗だった。

「どうかしら?」

 そう言って少し笑うフィーネはとても可愛かった。

「あーうん。えっとすごく、可愛いと思う」

 俺のストレートな物言いにフィーネは少しだけ照れている。

「そう? ありがとう。ルカがそう言うなら買おうかしら」
「あー、あのさ、フィーネ」
「何?」
「それ、あー俺がプレゼントするよ。いいかな?」

 俺がそう言うとフィーネは少し恥じらうように微笑んだ。
 俺もちょっと頬が熱いけど。

「あら、ありがとう。嬉しいわ」

 フィーネから髪飾りを受け取ると、俺は店員さんに渡して購入した。
 購入し終えた俺は、他の商品を見ていたフィーネのもとへ行き、小さな木箱に入れられた髪飾りを渡した。
 フィーネは嬉しそうに微笑み、俺に礼を言った。

「ありがとう、ルカ。大切にするわね」
「う、うん」

 フィーネは店を出たあと、早速とばかりに髪飾りをつけていた。
 金色の髪の上で銀色と赤や黄色の小さな小花が躍っている。

 うん、すごく似合ってるし可愛いと思う。
 彼女の髪の上で揺れる小花と、彼女の耳元で揺れるミスリルのイヤリングを見つつ、そのあとも俺はフィーネと街をぶらついた。

 こういうなんでもない日もたまにはいいものだ。
 今日はダンジョンに行かずに街をぶらついて良かったと思う。

 夕飯は宿屋へ戻って全員でとった。
 ミハエルとエルナはどうやら二人でダンジョンへ行っていたらしい。
 どうやら俺とレオンの試合をみて刺激されたらしく、訓練を兼ねてミハエルに付き合ってもらったのだとか。
 エルナ自身は近接戦闘が得意ではないというのは自覚しているので、ならばどうすれば前衛が気持ちよく動けるかの訓練をミハエルに色々質問しながらしていたのだとか。
 俺のように動けないからこそ、どうすればいいのかをしっかりと考えているようだ。

 うん、エルナもきっと今よりもっと強くなれるだろう。
 俺たちもどうすれば後衛が攻撃しやすいかを常に考えている。
 そして後衛は前衛がどうすれば動きやすいかを考えてくれている。
 だからこそ俺たちのパーティはまだまだ成長するだろう。

 こうして臨時の休養日は終わりを迎えた。
 明日からはまたダンジョンで狩りだ。
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