126 / 148
第六章 武器と防具
126 休養日のできごと
しおりを挟む
翌朝、目覚めた俺はぐっと背伸びをした。
「あ゛ー……」
自分が出したおっさんくさい声に自身で苦笑しつつ、ベッドから出て身だしなみを整えた。
久しぶりに柔らかいベッドで寝たせいかもしれない。
ここ最近は野宿が多かったのでベッドで眠れなかったのだ。
ダンジョンならベッドを出すのだが、さすがに野営のときはいつ人が来るともしれないので出せない。
朝食をとってから宿屋を出て、市場へと向かう。
市場につき、野菜や肉、あとは薪も購入しておいた。
薪は結構ダンジョン内でも使うので買っておくと楽なのだ。
市場での買い物を終え、今度は屋台広場へと向かうことにした。
自分で実家の台所を借りて作り置きもしておくが、基本的には屋台広場で買った物をダンジョンで食べることが多い。
アイテムボックスは時間停止機能があるので温かいまま食べられるのでたくさん買っておいても問題はない。
そうして屋台広場へ向けて歩いていると、声をかけられた。
「あ、あの、ルカ君だよね?」
声に聞き覚えはなかったが、明らかに俺に向けての言葉なので足を止め振り返る。
振り返ってそこにいたのは見覚えのない女の子だった。
年は俺と同じくらいに見える、茶色の長い髪の毛をした普通の女の子だが、年齢の割になんというかスタイルがとてもいいと言える。
「そうだけども、えっと、君は?」
「あ。あのね、あたしルカ君と同じ教会学校に通ってたんだけど、覚えてないかな?」
「えーと、ごめん。覚えてない、かな」
「あ、そっか。覚えてないよね、あたし話したことなかったし」
「ごめんね」
「ううん、いいの」
「えっと、それで?」
「あ、あのね。今って時間大丈夫?」
「あー、うん。まぁ」
特に予定があるわけではないので俺はそう答える。
すると彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「あ、忘れてた。あのね、あたしチェレステっていうの」
「ああ、うん。よろしく、チェレステ」
「うん! でね、少しだけ付き合ってほしいの。いいかな?」
「ん、まぁいいけど、なんで?」
「それはまだ秘密! ね、とりあえず一緒にきて!」
チェレステが強引に俺の腕をとると引き始めた。
仮に彼女がなんかしら企みがあったとしてもいざとなれば麻痺させたあとに記憶消去をしてしまえばいいだろう。
あまり女の子を乱暴に扱いたくはないが仕方ない。
仕方なくチェレステに任せて俺は歩いた。
しばらく彼女に腕を引っ張られたまま進み、人気のない広場へとついた。
誰が作ったのか、粗末な木のベンチがあり、彼女に促され腰かける。
彼女も俺の隣に腰かける、が、近い。近すぎる。
少し体をずらすが、ずらしてもチェレステは追いかけてくる。
もう端っこなのでこれ以上ずれることができない。
しかし彼女はそんなのお構いなしに話かけてくる。
「ね、ルカ君。知ってた?」
「え? 何が?」
「ルカ君ね、教会学校にいたときかっこよくて、可愛くて、すごくモテてたんだよ」
「え?」
可愛い……? かっこいいは嬉しいが、可愛いというのは男に向けて言うにはどうなんだろうか……。
「あたしもね、ずっとルカ君に話かけたかったんだよ。でもね、話そうとしたら他の子が邪魔してきたの。だからルカ君にずっと話しかけられなかったんだ」
ぴったりとくっついてくるチェレステからできるだけ体を離そうとしながらも俺は返事をする。
「そ、そうだったんだ」
「ねぇ、ルカ君は今、彼女いるの?」
「いや、いないけど……」
「ね、好きな人は?」
「あー、どうだろうな……」
好きかと言われるとどうだろうか。いや、気にはなっている。
それは確かだ。でもなんというか、自覚したくないというか。
そもそもまだそういう関係にはなれない。
せめてAランクにならないと……。
そこまで考えて俺はハッとする。
これ以上は考えてはだめだ。
「ねぇ、ルカ君」
チェレステの声に、彼女と一緒にいたのを思い出す。
しかし、その彼女の行動に俺は少し嫌な気持ちになった。
潤んだ瞳で俺を見上げるチェレステは俺にぴったりと体を密着させてくる。
「あたしね、ルカ君のこと、ずっと好きだったの。学校のときは女の子たちが阻止してきて、ルカ君に告白できなかったけど、今なら大丈夫だよね。ねぇ、ルカ君。好き、付き合ってほしいの」
チェレステは確かに魅力的な女の子だろう。
胸も大きくプロポーションはとてもいい。
俺だって健全な男だ、こんな風に女の子に接近されて、胸を押し当てられたら嫌でも意識はする。
だけどそうじゃない。
ガキくさいかもしれないが、俺はそういう体でアピールする女の子は嫌だ。
体で男を落としてどうなる。
そんなの体だけの関係になるじゃないか。
俺はそうじゃない、ちゃんと心で繋がりたい。
というか、もっとピュアな関係でいたい。
ガキくさいかもしれない、それでも俺はちゃんとゆっくりと時間をかけて分かり合っていきたい。
「ねぇ、ルカ君。あたしと付き合って?」
あからさまに大きな胸を押し付けてくるチェレステに俺は不愉快な顔を隠せなかった。
彼女から強引に離れて立ち上がる。
「あ」
「チェレステ、ごめん。君とは付き合えない」
「え? どうして? あたし魅力ない? ねぇ、あたしの体自由にしていいんだよ?」
「チェレステ、君は魅力的だと思うよ」
「なら――」
「――でも、もっと自分を大事にした方がいい。体で繋がった関係なんてそこまでだ。本当の意味で繋がれないよ」
俺の言葉にチェレステは眉尻を下げる。
「……」
「俺はもういくよ、チェレステ。君は魅力的な女の子なんだから、体で男を落とそうとしない方がいい。君ならきっといい人に出会えるよ。それじゃあね」
俯くチェレステを置いて、俺は屋台広場へと向かった。
彼女が考えを改めてくれるといいが。
どちらにしろ俺は彼女に応えることはできない。
気持ちを切り替え屋台広場についた俺はあれこれと料理を買っていく。
ある程度買い込んだ俺は屋台広場を出て、ヴェーバー道具屋へと向かう。
道具屋につくと、ちょうどマルセルが店番をしていた。
「マルセル」
俺が手をあげてマルセルに声をかけると、マルセルが俺を見て顔をパッと輝かせた。
こういうところがマルセルは可愛いんだよな。
――男に言うのはどうかと思いはするので言わないけども。
「あ! ルカ! おかえり!」
「ただいま。今日はお土産渡しにきたんだ」
「そうなんだ! ありがとう! 昨日ね、ミハエルもきてね、綺麗な赤い水晶くれたんだ。彼女にあげればって」
「ああ、あれは綺麗だからね。マルセルの彼女も喜ぶんじゃないか?」
「うん! きっと喜んでくれると思う! へへ」
マルセルは嬉しそうに、でもちょっとだけ照れた顔で笑っている。
「俺はこれな。ベルト飾り。赤と白のと、紺と白の二種類」
そう言って俺が取り出したのはベルトにつける飾り紐だ。
クレンベルでは革製品が実に多く、たまたま見ていた革製品の店にあったのだ。
ベルトにつける部分から五センチほど先に革で赤と白、または紺と白で毬のような形を作り、そこからたくさんの革紐が垂れている感じだ。
ベルト飾りではあるが、アレンジ次第では髪飾りにもできる。
「わぁ、可愛いね、これ!」
「だろ? 彼女とお揃いでつけろよ」
少し揶揄いも含んで言ったのだが、マルセルは満面の笑みで頷いた。
「うん!」
おう、眩しいな……。
上級者は違うぜ……。
「まぁそれ、一応ベルト飾りだけど、工夫次第じゃネックレスにも髪飾りにもできるからさ。好きにしてくれ」
「うん! きっと彼女も喜ぶよ! ありがとう、ルカ!」
「ああ」
「あ、そうだ。あのね、昨日ミハエルにも言ったんだけど……」
「ん?」
「僕ね、十五になったら彼女と結婚することにしたんだ。へへ」
マルセルは恥ずかし気にそう告げてきた。
「おお、そっかー! ちょっと早いけど、おめでとう、マルセル」
「ありがとー!」
マルセルは頬を赤くして満面の笑顔だった。
「マルセルからプロポーズしたのか?」
「うん!」
パナイっす、マルセルさん。
とはいえ、羨ましいけど、なんだか純粋に嬉しい。
マルセルはいいやつだから、きっといい夫で、いい父になるだろう。
マルセルが結婚するときには何かとびきりのプレゼントを用意しないとな。
「ねぇ、ルカ」
「ん?」
「ルカはまだ決心がつかないの?」
「ん? 何が?」
俺が意味が分からずに聞き返すと、マルセルは少し考える仕草をしてから笑みを浮かべた。
「ううん、やっぱりいいや。ルカもミハエルもゆっくりいけばいいよ!」
「え? なんだよ?」
「いいのいいの! 気にしないで」
マルセルは結局そのあと何回聞いても「なんでもない」と言って教えてはくれなかった。
まぁいいかとそれは置いといて、久しぶりなのもあってクレンベルの街の孤児院の少年の話をしたりして時間を過ごし、昼過ぎにマルセルと別れた。
時間があるなと思ってダンジョンに行こうとしたところで、俺はふと思い出した。
「あ、そういや登録しないとだな」
そう、転移魔法の登録をしないといけない。
どちらにしろ街中で登録はできないので一度外へ行かねばならない。
とりあえずシュルプの街をまずは出ないといけないので人通りが少ない南門から出ることにした。
南門を抜け、しばらく歩いたところで、ミニマップに人が近くにいないことを確認してから道を逸れ、森の中へと入っていった。
森に入ってからもしばらく進み、完全に街道から離れたところで光学迷彩と飛行魔法をかけ、空へと飛びあがる。
グングンと高度をあげ、眼下に街全体を見渡せるほどになった。
やはり高度をあげると寒いな。
そのまま俺は周囲をグルリと見渡す。
どこか開けていて、かつ人が来なさそうな場所。
俺は周囲をキョロキョロとして一ヶ所よさそうな場所を見つけた。
そこまで飛んでいって下りる。
「ふむ、まぁ悪くないか?」
ここも小さな池がある場所だ。
動物などが時折来ているのか、周囲には獣道のような道がある。
ただ人間は来ていないようなのでいいだろう。
周囲に危険な生物も棲んでいなさそうだ。
転移魔法を発動し、現在地をシュルプで登録する。
「よし、ここからシュルプまで歩いてみるか」
そう言って歩きだしたのだが、これはどうも歩いて向かうのは難しいようだ。
茨が多いというのもあるが、藪が深く、歩くのが困難すぎた。
まぁ、基本的に人が来ない場所であることが重要なので、普通に飛んで戻ればいいだろう。
再び空中に上がり、俺はシュルプの街近くの森に下り、そこからシュルプへと帰った。
さすがにダンジョンに潜るには微妙な時間なのでそのまま宿屋へと戻り、夕食の時間まで部屋でゆったりと過ごした。
明日は最後の休養日ではあるが、ギルドマスターに会いに行くとしよう。
「あ゛ー……」
自分が出したおっさんくさい声に自身で苦笑しつつ、ベッドから出て身だしなみを整えた。
久しぶりに柔らかいベッドで寝たせいかもしれない。
ここ最近は野宿が多かったのでベッドで眠れなかったのだ。
ダンジョンならベッドを出すのだが、さすがに野営のときはいつ人が来るともしれないので出せない。
朝食をとってから宿屋を出て、市場へと向かう。
市場につき、野菜や肉、あとは薪も購入しておいた。
薪は結構ダンジョン内でも使うので買っておくと楽なのだ。
市場での買い物を終え、今度は屋台広場へと向かうことにした。
自分で実家の台所を借りて作り置きもしておくが、基本的には屋台広場で買った物をダンジョンで食べることが多い。
アイテムボックスは時間停止機能があるので温かいまま食べられるのでたくさん買っておいても問題はない。
そうして屋台広場へ向けて歩いていると、声をかけられた。
「あ、あの、ルカ君だよね?」
声に聞き覚えはなかったが、明らかに俺に向けての言葉なので足を止め振り返る。
振り返ってそこにいたのは見覚えのない女の子だった。
年は俺と同じくらいに見える、茶色の長い髪の毛をした普通の女の子だが、年齢の割になんというかスタイルがとてもいいと言える。
「そうだけども、えっと、君は?」
「あ。あのね、あたしルカ君と同じ教会学校に通ってたんだけど、覚えてないかな?」
「えーと、ごめん。覚えてない、かな」
「あ、そっか。覚えてないよね、あたし話したことなかったし」
「ごめんね」
「ううん、いいの」
「えっと、それで?」
「あ、あのね。今って時間大丈夫?」
「あー、うん。まぁ」
特に予定があるわけではないので俺はそう答える。
すると彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「あ、忘れてた。あのね、あたしチェレステっていうの」
「ああ、うん。よろしく、チェレステ」
「うん! でね、少しだけ付き合ってほしいの。いいかな?」
「ん、まぁいいけど、なんで?」
「それはまだ秘密! ね、とりあえず一緒にきて!」
チェレステが強引に俺の腕をとると引き始めた。
仮に彼女がなんかしら企みがあったとしてもいざとなれば麻痺させたあとに記憶消去をしてしまえばいいだろう。
あまり女の子を乱暴に扱いたくはないが仕方ない。
仕方なくチェレステに任せて俺は歩いた。
しばらく彼女に腕を引っ張られたまま進み、人気のない広場へとついた。
誰が作ったのか、粗末な木のベンチがあり、彼女に促され腰かける。
彼女も俺の隣に腰かける、が、近い。近すぎる。
少し体をずらすが、ずらしてもチェレステは追いかけてくる。
もう端っこなのでこれ以上ずれることができない。
しかし彼女はそんなのお構いなしに話かけてくる。
「ね、ルカ君。知ってた?」
「え? 何が?」
「ルカ君ね、教会学校にいたときかっこよくて、可愛くて、すごくモテてたんだよ」
「え?」
可愛い……? かっこいいは嬉しいが、可愛いというのは男に向けて言うにはどうなんだろうか……。
「あたしもね、ずっとルカ君に話かけたかったんだよ。でもね、話そうとしたら他の子が邪魔してきたの。だからルカ君にずっと話しかけられなかったんだ」
ぴったりとくっついてくるチェレステからできるだけ体を離そうとしながらも俺は返事をする。
「そ、そうだったんだ」
「ねぇ、ルカ君は今、彼女いるの?」
「いや、いないけど……」
「ね、好きな人は?」
「あー、どうだろうな……」
好きかと言われるとどうだろうか。いや、気にはなっている。
それは確かだ。でもなんというか、自覚したくないというか。
そもそもまだそういう関係にはなれない。
せめてAランクにならないと……。
そこまで考えて俺はハッとする。
これ以上は考えてはだめだ。
「ねぇ、ルカ君」
チェレステの声に、彼女と一緒にいたのを思い出す。
しかし、その彼女の行動に俺は少し嫌な気持ちになった。
潤んだ瞳で俺を見上げるチェレステは俺にぴったりと体を密着させてくる。
「あたしね、ルカ君のこと、ずっと好きだったの。学校のときは女の子たちが阻止してきて、ルカ君に告白できなかったけど、今なら大丈夫だよね。ねぇ、ルカ君。好き、付き合ってほしいの」
チェレステは確かに魅力的な女の子だろう。
胸も大きくプロポーションはとてもいい。
俺だって健全な男だ、こんな風に女の子に接近されて、胸を押し当てられたら嫌でも意識はする。
だけどそうじゃない。
ガキくさいかもしれないが、俺はそういう体でアピールする女の子は嫌だ。
体で男を落としてどうなる。
そんなの体だけの関係になるじゃないか。
俺はそうじゃない、ちゃんと心で繋がりたい。
というか、もっとピュアな関係でいたい。
ガキくさいかもしれない、それでも俺はちゃんとゆっくりと時間をかけて分かり合っていきたい。
「ねぇ、ルカ君。あたしと付き合って?」
あからさまに大きな胸を押し付けてくるチェレステに俺は不愉快な顔を隠せなかった。
彼女から強引に離れて立ち上がる。
「あ」
「チェレステ、ごめん。君とは付き合えない」
「え? どうして? あたし魅力ない? ねぇ、あたしの体自由にしていいんだよ?」
「チェレステ、君は魅力的だと思うよ」
「なら――」
「――でも、もっと自分を大事にした方がいい。体で繋がった関係なんてそこまでだ。本当の意味で繋がれないよ」
俺の言葉にチェレステは眉尻を下げる。
「……」
「俺はもういくよ、チェレステ。君は魅力的な女の子なんだから、体で男を落とそうとしない方がいい。君ならきっといい人に出会えるよ。それじゃあね」
俯くチェレステを置いて、俺は屋台広場へと向かった。
彼女が考えを改めてくれるといいが。
どちらにしろ俺は彼女に応えることはできない。
気持ちを切り替え屋台広場についた俺はあれこれと料理を買っていく。
ある程度買い込んだ俺は屋台広場を出て、ヴェーバー道具屋へと向かう。
道具屋につくと、ちょうどマルセルが店番をしていた。
「マルセル」
俺が手をあげてマルセルに声をかけると、マルセルが俺を見て顔をパッと輝かせた。
こういうところがマルセルは可愛いんだよな。
――男に言うのはどうかと思いはするので言わないけども。
「あ! ルカ! おかえり!」
「ただいま。今日はお土産渡しにきたんだ」
「そうなんだ! ありがとう! 昨日ね、ミハエルもきてね、綺麗な赤い水晶くれたんだ。彼女にあげればって」
「ああ、あれは綺麗だからね。マルセルの彼女も喜ぶんじゃないか?」
「うん! きっと喜んでくれると思う! へへ」
マルセルは嬉しそうに、でもちょっとだけ照れた顔で笑っている。
「俺はこれな。ベルト飾り。赤と白のと、紺と白の二種類」
そう言って俺が取り出したのはベルトにつける飾り紐だ。
クレンベルでは革製品が実に多く、たまたま見ていた革製品の店にあったのだ。
ベルトにつける部分から五センチほど先に革で赤と白、または紺と白で毬のような形を作り、そこからたくさんの革紐が垂れている感じだ。
ベルト飾りではあるが、アレンジ次第では髪飾りにもできる。
「わぁ、可愛いね、これ!」
「だろ? 彼女とお揃いでつけろよ」
少し揶揄いも含んで言ったのだが、マルセルは満面の笑みで頷いた。
「うん!」
おう、眩しいな……。
上級者は違うぜ……。
「まぁそれ、一応ベルト飾りだけど、工夫次第じゃネックレスにも髪飾りにもできるからさ。好きにしてくれ」
「うん! きっと彼女も喜ぶよ! ありがとう、ルカ!」
「ああ」
「あ、そうだ。あのね、昨日ミハエルにも言ったんだけど……」
「ん?」
「僕ね、十五になったら彼女と結婚することにしたんだ。へへ」
マルセルは恥ずかし気にそう告げてきた。
「おお、そっかー! ちょっと早いけど、おめでとう、マルセル」
「ありがとー!」
マルセルは頬を赤くして満面の笑顔だった。
「マルセルからプロポーズしたのか?」
「うん!」
パナイっす、マルセルさん。
とはいえ、羨ましいけど、なんだか純粋に嬉しい。
マルセルはいいやつだから、きっといい夫で、いい父になるだろう。
マルセルが結婚するときには何かとびきりのプレゼントを用意しないとな。
「ねぇ、ルカ」
「ん?」
「ルカはまだ決心がつかないの?」
「ん? 何が?」
俺が意味が分からずに聞き返すと、マルセルは少し考える仕草をしてから笑みを浮かべた。
「ううん、やっぱりいいや。ルカもミハエルもゆっくりいけばいいよ!」
「え? なんだよ?」
「いいのいいの! 気にしないで」
マルセルは結局そのあと何回聞いても「なんでもない」と言って教えてはくれなかった。
まぁいいかとそれは置いといて、久しぶりなのもあってクレンベルの街の孤児院の少年の話をしたりして時間を過ごし、昼過ぎにマルセルと別れた。
時間があるなと思ってダンジョンに行こうとしたところで、俺はふと思い出した。
「あ、そういや登録しないとだな」
そう、転移魔法の登録をしないといけない。
どちらにしろ街中で登録はできないので一度外へ行かねばならない。
とりあえずシュルプの街をまずは出ないといけないので人通りが少ない南門から出ることにした。
南門を抜け、しばらく歩いたところで、ミニマップに人が近くにいないことを確認してから道を逸れ、森の中へと入っていった。
森に入ってからもしばらく進み、完全に街道から離れたところで光学迷彩と飛行魔法をかけ、空へと飛びあがる。
グングンと高度をあげ、眼下に街全体を見渡せるほどになった。
やはり高度をあげると寒いな。
そのまま俺は周囲をグルリと見渡す。
どこか開けていて、かつ人が来なさそうな場所。
俺は周囲をキョロキョロとして一ヶ所よさそうな場所を見つけた。
そこまで飛んでいって下りる。
「ふむ、まぁ悪くないか?」
ここも小さな池がある場所だ。
動物などが時折来ているのか、周囲には獣道のような道がある。
ただ人間は来ていないようなのでいいだろう。
周囲に危険な生物も棲んでいなさそうだ。
転移魔法を発動し、現在地をシュルプで登録する。
「よし、ここからシュルプまで歩いてみるか」
そう言って歩きだしたのだが、これはどうも歩いて向かうのは難しいようだ。
茨が多いというのもあるが、藪が深く、歩くのが困難すぎた。
まぁ、基本的に人が来ない場所であることが重要なので、普通に飛んで戻ればいいだろう。
再び空中に上がり、俺はシュルプの街近くの森に下り、そこからシュルプへと帰った。
さすがにダンジョンに潜るには微妙な時間なのでそのまま宿屋へと戻り、夕食の時間まで部屋でゆったりと過ごした。
明日は最後の休養日ではあるが、ギルドマスターに会いに行くとしよう。
1
お気に入りに追加
2,718
あなたにおすすめの小説
転生王子の異世界無双
海凪
ファンタジー
幼い頃から病弱だった俺、柊 悠馬は、ある日神様のミスで死んでしまう。
特別に転生させてもらえることになったんだけど、神様に全部お任せしたら……
魔族とエルフのハーフっていう超ハイスペック王子、エミルとして生まれていた!
それに神様の祝福が凄すぎて俺、強すぎじゃない?どうやら世界に危機が訪れるらしいけど、チートを駆使して俺が救ってみせる!
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
「残念でした~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~ん笑」と女神に言われ異世界転生させられましたが、転移先がレベルアップの実の宝庫でした
御浦祥太
ファンタジー
どこにでもいる高校生、朝比奈結人《あさひなゆいと》は修学旅行で京都を訪れた際に、突然清水寺から落下してしまう。不思議な空間にワープした結人は女神を名乗る女性に会い、自分がこれから異世界転生することを告げられる。
異世界と聞いて結人は、何かチートのような特別なスキルがもらえるのか女神に尋ねるが、返ってきたのは「残念でした~~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~~ん(笑)」という強烈な言葉だった。
女神の言葉に落胆しつつも異世界に転生させられる結人。
――しかし、彼は知らなかった。
転移先がまさかの禁断のレベルアップの実の群生地であり、その実を食べることで自身のレベルが世界最高となることを――
転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!
異世界へ全てを持っていく少年- 快適なモンスターハントのはずが、いつの間にか勇者に取り込まれそうな感じです。この先どうなるの?
初老の妄想
ファンタジー
17歳で死んだ俺は、神と名乗るものから「なんでも願いを一つかなえてやる」そして「望む世界に行かせてやる」と言われた。
俺の願いはシンプルだった『現世の全てを入れたストレージをくれ』、タダそれだけだ。
神は喜んで(?)俺の願いをかなえてくれた。
希望した世界は魔法があるモンスターだらけの異世界だ。
そう、俺の夢は銃でモンスターを狩ることだったから。
俺の旅は始まったところだが、この異世界には希望通り魔法とモンスターが溢れていた。
予定通り、バンバン撃ちまくっている・・・
だが、俺の希望とは違って勇者もいるらしい、それに魔竜というやつも・・・
いつの間にか、おれは魔竜退治と言うものに取り込まれているようだ。
神にそんな事を頼んだ覚えは無いが、勇者は要らないと言っていなかった俺のミスだろう。
それでも、一緒に居るちっこい美少女や、美人エルフとの旅は楽しくなって来ていた。
この先も何が起こるかはわからないのだが、楽しくやれそうな気もしている。
なんと言っても、おれはこの世の全てを持って来たのだからな。
きっと、楽しくなるだろう。
※異世界で物語が展開します。現世の常識は適用されません。
※残酷なシーンが普通に出てきます。
※魔法はありますが、主人公以外にスキル(?)は出てきません。
※ステータス画面とLvも出てきません。
※現代兵器なども妄想で書いていますのでスペックは想像です。
どうやら異世界ではないらしいが、魔法やレベルがある世界になったようだ
ボケ猫
ファンタジー
日々、異世界などの妄想をする、アラフォーのテツ。
ある日突然、この世界のシステムが、魔法やレベルのある世界へと変化。
夢にまで見たシステムに大喜びのテツ。
そんな中、アラフォーのおっさんがレベルを上げながら家族とともに新しい世界を生きていく。
そして、世界変化の一因であろう異世界人の転移者との出会い。
新しい世界で、新たな出会い、関係を構築していこうとする物語・・・のはず・・。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?
mio
ファンタジー
特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。
神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。
そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。
日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。
神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?
他サイトでも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる