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第六章 武器と防具

126 休養日のできごと

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 翌朝、目覚めた俺はぐっと背伸びをした。

「あ゛ー……」

 自分が出したおっさんくさい声に自身で苦笑しつつ、ベッドから出て身だしなみを整えた。
 久しぶりに柔らかいベッドで寝たせいかもしれない。
 ここ最近は野宿が多かったのでベッドで眠れなかったのだ。
 ダンジョンならベッドを出すのだが、さすがに野営のときはいつ人が来るともしれないので出せない。

 朝食をとってから宿屋を出て、市場へと向かう。
 市場につき、野菜や肉、あとは薪も購入しておいた。
 薪は結構ダンジョン内でも使うので買っておくと楽なのだ。

 市場での買い物を終え、今度は屋台広場へと向かうことにした。
 自分で実家の台所を借りて作り置きもしておくが、基本的には屋台広場で買った物をダンジョンで食べることが多い。
 アイテムボックスは時間停止機能があるので温かいまま食べられるのでたくさん買っておいても問題はない。

 そうして屋台広場へ向けて歩いていると、声をかけられた。

「あ、あの、ルカ君だよね?」

 声に聞き覚えはなかったが、明らかに俺に向けての言葉なので足を止め振り返る。
 振り返ってそこにいたのは見覚えのない女の子だった。
 年は俺と同じくらいに見える、茶色の長い髪の毛をした普通の女の子だが、年齢の割になんというかスタイルがとてもいいと言える。

「そうだけども、えっと、君は?」
「あ。あのね、あたしルカ君と同じ教会学校に通ってたんだけど、覚えてないかな?」
「えーと、ごめん。覚えてない、かな」
「あ、そっか。覚えてないよね、あたし話したことなかったし」
「ごめんね」
「ううん、いいの」
「えっと、それで?」
「あ、あのね。今って時間大丈夫?」
「あー、うん。まぁ」

 特に予定があるわけではないので俺はそう答える。
 すると彼女は嬉しそうに微笑んだ。

「あ、忘れてた。あのね、あたしチェレステっていうの」
「ああ、うん。よろしく、チェレステ」
「うん! でね、少しだけ付き合ってほしいの。いいかな?」
「ん、まぁいいけど、なんで?」
「それはまだ秘密! ね、とりあえず一緒にきて!」

 チェレステが強引に俺の腕をとると引き始めた。
 仮に彼女がなんかしら企みがあったとしてもいざとなれば麻痺させたあとに記憶消去をしてしまえばいいだろう。
 あまり女の子を乱暴に扱いたくはないが仕方ない。

 仕方なくチェレステに任せて俺は歩いた。
 しばらく彼女に腕を引っ張られたまま進み、人気のない広場へとついた。

 誰が作ったのか、粗末な木のベンチがあり、彼女に促され腰かける。
 彼女も俺の隣に腰かける、が、近い。近すぎる。

 少し体をずらすが、ずらしてもチェレステは追いかけてくる。
 もう端っこなのでこれ以上ずれることができない。

 しかし彼女はそんなのお構いなしに話かけてくる。

「ね、ルカ君。知ってた?」
「え? 何が?」
「ルカ君ね、教会学校にいたときかっこよくて、可愛くて、すごくモテてたんだよ」
「え?」

 可愛い……? かっこいいは嬉しいが、可愛いというのは男に向けて言うにはどうなんだろうか……。

「あたしもね、ずっとルカ君に話かけたかったんだよ。でもね、話そうとしたら他の子が邪魔してきたの。だからルカ君にずっと話しかけられなかったんだ」

 ぴったりとくっついてくるチェレステからできるだけ体を離そうとしながらも俺は返事をする。

「そ、そうだったんだ」
「ねぇ、ルカ君は今、彼女いるの?」
「いや、いないけど……」
「ね、好きな人は?」
「あー、どうだろうな……」

 好きかと言われるとどうだろうか。いや、気にはなっている。
 それは確かだ。でもなんというか、自覚したくないというか。
 そもそもまだそういう関係にはなれない。
 せめてAランクにならないと……。

 そこまで考えて俺はハッとする。
 これ以上は考えてはだめだ。

「ねぇ、ルカ君」

 チェレステの声に、彼女と一緒にいたのを思い出す。
 しかし、その彼女の行動に俺は少し嫌な気持ちになった。
 潤んだ瞳で俺を見上げるチェレステは俺にぴったりと体を密着させてくる。

「あたしね、ルカ君のこと、ずっと好きだったの。学校のときは女の子たちが阻止してきて、ルカ君に告白できなかったけど、今なら大丈夫だよね。ねぇ、ルカ君。好き、付き合ってほしいの」

 チェレステは確かに魅力的な女の子だろう。
 胸も大きくプロポーションはとてもいい。
 俺だって健全な男だ、こんな風に女の子に接近されて、胸を押し当てられたら嫌でも意識はする。

 だけどそうじゃない。
 ガキくさいかもしれないが、俺はそういう体でアピールする女の子は嫌だ。
 体で男を落としてどうなる。
 そんなの体だけの関係になるじゃないか。

 俺はそうじゃない、ちゃんと心で繋がりたい。
 というか、もっとピュアな関係でいたい。
 ガキくさいかもしれない、それでも俺はちゃんとゆっくりと時間をかけて分かり合っていきたい。

「ねぇ、ルカ君。あたしと付き合って?」

 あからさまに大きな胸を押し付けてくるチェレステに俺は不愉快な顔を隠せなかった。
 彼女から強引に離れて立ち上がる。

「あ」
「チェレステ、ごめん。君とは付き合えない」
「え? どうして? あたし魅力ない? ねぇ、あたしの体自由にしていいんだよ?」
「チェレステ、君は魅力的だと思うよ」
「なら――」
「――でも、もっと自分を大事にした方がいい。体で繋がった関係なんてそこまでだ。本当の意味で繋がれないよ」

 俺の言葉にチェレステは眉尻を下げる。

「……」
「俺はもういくよ、チェレステ。君は魅力的な女の子なんだから、体で男を落とそうとしない方がいい。君ならきっといい人に出会えるよ。それじゃあね」

 俯くチェレステを置いて、俺は屋台広場へと向かった。
 彼女が考えを改めてくれるといいが。
 どちらにしろ俺は彼女に応えることはできない。

 気持ちを切り替え屋台広場についた俺はあれこれと料理を買っていく。
 ある程度買い込んだ俺は屋台広場を出て、ヴェーバー道具屋へと向かう。

 道具屋につくと、ちょうどマルセルが店番をしていた。

「マルセル」

 俺が手をあげてマルセルに声をかけると、マルセルが俺を見て顔をパッと輝かせた。
 こういうところがマルセルは可愛いんだよな。
 ――男に言うのはどうかと思いはするので言わないけども。

「あ! ルカ! おかえり!」
「ただいま。今日はお土産渡しにきたんだ」
「そうなんだ! ありがとう! 昨日ね、ミハエルもきてね、綺麗な赤い水晶くれたんだ。彼女にあげればって」
「ああ、あれは綺麗だからね。マルセルの彼女も喜ぶんじゃないか?」
「うん! きっと喜んでくれると思う! へへ」

 マルセルは嬉しそうに、でもちょっとだけ照れた顔で笑っている。

「俺はこれな。ベルト飾り。赤と白のと、紺と白の二種類」

 そう言って俺が取り出したのはベルトにつける飾り紐だ。
 クレンベルでは革製品が実に多く、たまたま見ていた革製品の店にあったのだ。
 ベルトにつける部分から五センチほど先に革で赤と白、または紺と白で毬のような形を作り、そこからたくさんの革紐が垂れている感じだ。
 ベルト飾りではあるが、アレンジ次第では髪飾りにもできる。

「わぁ、可愛いね、これ!」
「だろ? 彼女とお揃いでつけろよ」

 少し揶揄いも含んで言ったのだが、マルセルは満面の笑みで頷いた。

「うん!」

 おう、眩しいな……。
 上級者は違うぜ……。

「まぁそれ、一応ベルト飾りだけど、工夫次第じゃネックレスにも髪飾りにもできるからさ。好きにしてくれ」
「うん! きっと彼女も喜ぶよ! ありがとう、ルカ!」
「ああ」
「あ、そうだ。あのね、昨日ミハエルにも言ったんだけど……」
「ん?」
「僕ね、十五になったら彼女と結婚することにしたんだ。へへ」

 マルセルは恥ずかし気にそう告げてきた。

「おお、そっかー! ちょっと早いけど、おめでとう、マルセル」
「ありがとー!」

 マルセルは頬を赤くして満面の笑顔だった。

「マルセルからプロポーズしたのか?」
「うん!」

 パナイっす、マルセルさん。
 とはいえ、羨ましいけど、なんだか純粋に嬉しい。
 マルセルはいいやつだから、きっといい夫で、いい父になるだろう。
 マルセルが結婚するときには何かとびきりのプレゼントを用意しないとな。

「ねぇ、ルカ」
「ん?」
「ルカはまだ決心がつかないの?」
「ん? 何が?」

 俺が意味が分からずに聞き返すと、マルセルは少し考える仕草をしてから笑みを浮かべた。

「ううん、やっぱりいいや。ルカもミハエルもゆっくりいけばいいよ!」
「え? なんだよ?」
「いいのいいの! 気にしないで」

 マルセルは結局そのあと何回聞いても「なんでもない」と言って教えてはくれなかった。
 まぁいいかとそれは置いといて、久しぶりなのもあってクレンベルの街の孤児院の少年の話をしたりして時間を過ごし、昼過ぎにマルセルと別れた。

 時間があるなと思ってダンジョンに行こうとしたところで、俺はふと思い出した。

「あ、そういや登録しないとだな」

 そう、転移魔法の登録をしないといけない。
 どちらにしろ街中で登録はできないので一度外へ行かねばならない。
 とりあえずシュルプの街をまずは出ないといけないので人通りが少ない南門から出ることにした。

 南門を抜け、しばらく歩いたところで、ミニマップに人が近くにいないことを確認してから道を逸れ、森の中へと入っていった。
 森に入ってからもしばらく進み、完全に街道から離れたところで光学迷彩と飛行魔法をかけ、空へと飛びあがる。

 グングンと高度をあげ、眼下に街全体を見渡せるほどになった。
 やはり高度をあげると寒いな。
 そのまま俺は周囲をグルリと見渡す。

 どこか開けていて、かつ人が来なさそうな場所。
 俺は周囲をキョロキョロとして一ヶ所よさそうな場所を見つけた。
 そこまで飛んでいって下りる。

「ふむ、まぁ悪くないか?」

 ここも小さな池がある場所だ。
 動物などが時折来ているのか、周囲には獣道のような道がある。
 ただ人間は来ていないようなのでいいだろう。
 周囲に危険な生物も棲んでいなさそうだ。

 転移魔法を発動し、現在地をシュルプで登録する。

「よし、ここからシュルプまで歩いてみるか」

 そう言って歩きだしたのだが、これはどうも歩いて向かうのは難しいようだ。
 茨が多いというのもあるが、藪が深く、歩くのが困難すぎた。
 まぁ、基本的に人が来ない場所であることが重要なので、普通に飛んで戻ればいいだろう。
 再び空中に上がり、俺はシュルプの街近くの森に下り、そこからシュルプへと帰った。

 さすがにダンジョンに潜るには微妙な時間なのでそのまま宿屋へと戻り、夕食の時間まで部屋でゆったりと過ごした。

 明日は最後の休養日ではあるが、ギルドマスターに会いに行くとしよう。
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