異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭

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第六章 武器と防具

105 ギルドマスターの過去

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 シュルプへの帰り道、最初の野営地で俺はフィーネとエルナに武器を作った。

 フィーネの弓は彼の弓よりは小さく柔らかい。
 身長差や筋力に違いがあるので当然ではあるが。
 まぁ普通の木の弓とは多少扱いも違うので彼にもわかる範囲で伝えたが、多少の訓練は必要になるだろう。

「ありがとう、ルカ」
「ああ、でもフィーネ、その弓はAランクになるまでは街中では出さないようにしてくれ。それの素材は特殊すぎるから」
「ええ、そうね。分かったわ」

 次にエルナの杖も作る。
 エアハルトさんに渡した物よりも十センチほど短く、少し細い。
 しかし基本的には見た目は同じだ。
 ただやはり全部をミスリルで作っているので実に綺麗ではある。

「ありがとうございます!」

 エルナは受け取ると嬉しそうに微笑みながら杖を両手でぎゅっと握っていた。
 周囲に人はいないので、エルナもフィーネも試射している。
 フィーネはやはり引き方にも違いがあるので何度も弓だけで弦を引いたりしている。
 エルナは普通にアースバレットを撃って感覚を確かめているようだ。

 それを見届けてから俺も自分の杖を作る。
 ただ俺のは杖ではなく短剣の形にする。
 エアハルトさんにしろ、エルナにしろ、根本的な部分ではやはり魔法使いには専用の武器というイメージはあるのだ。
 エルナは比較的そのイメージは少ないのではあるが、以前会話中に杖を持った魔法使いをみて、魔法使いっぽいですよねと言っていたので、根本ではそういうイメージがあるのだろう。

 その点俺は前世では魔法なんてものは存在していなかったし、アニメで様々な武器を使う魔法使いや、それこそ武器を使わない魔法使いなんかもたくさん見てきた。
 だからそういった固定概念はないのだ。
 もちろん、ウィズといえば杖、ローブというのはあるけど、それすらも凌駕するキャラというのもいたのでそこに固執する意味はないのである。

 そうして出来たシンプルな柄もミスリル製の短剣を鞘に納めてアイテムボックスにしまいこむ。

「そういえばギルドマスター、ずっと聞こうと思って忘れていたんですが」
「なんだ?」
「ギルドマスターはミスリルの剣とかもってないんですか?」
「ないな。俺はBランクになったところでメンバーが死んじまってな、そいつ以外とやる気が起きなくてな、冒険者辞めたんだよ」
「そうなんですか」
「ま、そこで当時のギルマスに誘われて職員になったんだけどな」
「よければ、なんですが、ギルドマスターの武器も作りましょうか?」
「あー、いらん、と言いたいが欲しいな。やっぱり憧れるからな」

 そう言ってギルドマスターは苦笑した。
 ギルドマスターだってやはり元は冒険者ということだ。

「アダマンタイトの大剣でいいですか?」
「そうだな。ああ、俺はあいつと違って片刃の普通の大剣にしてもらえるか? そっちのが慣れてるんでな」
「なるほど、わかりました」

 俺はそう言うと頭の中でイメージする。
 幅広な片刃の大剣、刀身も鍔も柄もアダマンタイトでできた一体型タイプだな。
 ただ、それだけだと武骨すぎるので鍔や柄、そして刀身の背側の一部をミスリルで装飾する。
 これはカッコイイかもしれないな。
 多少重たいだろうが、ギルドマスターならいけるだろう。

 思わず俺がニヤっと笑うと、それを見たギルドマスターが何か気づいたのか声をかけてきた。

「おい、ルカ。お前なんかいらないこと考えてないか?」
「え? そんなこと……あるかもしれません」
「おいおい、何する気だよ」
「いや、性能は保障しますよ? ただ少しカッコイイだけです」

 ギルドマスターは何かを言おうとしたが、溜め息をついて言った。

「はぁ、まぁいいか。俺は作ってもらう立場だからな、好きにしろ」

 許可も頂けたので、俺はさっそく具現化していく。
 少ししてできあがった大剣を俺は笑顔でギルドマスターに提供した。

「できましたよ、ギルドマスター」

 オレンジと赤色をしたアダマンタイト大剣、その柄や鍔や刀身の背側の一部は装飾され、青緑色のミスリルが淡く光っている。
 本当なら逆にしたかったが、ミスリルよりもアダマンタイトの方が硬いので大剣としてはこうなってしまう。
 飾り剣なら逆でもいいのだが。

「……おう、ありがとな、ルカ。いや、いい剣だが……派手だな」
「ちょっとだけ趣味です。すみません」
「まぁ、俺は現役じゃないからな。しかし派手だがいい大剣だ」

 派手な見た目に困った顔はしていたが、最終的には満足してくれたようである。

「おう、ミハエル。軽く打ち合い頼めるか?」
「はい、いいっすよ」
「あ、ミハエル言っとくけど俺はレオンと違うからな、手抜けよ」
「はは。ちゃんと合わせますって」

 さっそくミハエルと軽く打ち合いをすることにしたようだ。
 俺はそんな二人の打ち合いを眺める。

 ミハエルはきちんとギルドマスターの動きに合わせている。
 なんというか、やはりミハエルはレオンとの戦いでかなり実力が上がった気がする。
 動きに滑らかさが増した。
 以前は鋭いだけだったが、そこに滑らかさが加わって動きに流麗さと幅ができている。

 まぁギルドマスターとの戦いなので余裕もあるのろうが、それでも動きが変わった。
 あの戦いはミハエルをかなり成長させたようだ。
 俺も負けていられないな。

 しばらく打ち合いをしていたギルドマスターだが満足したのか打ち合いをやめた。

「ふう。ああ、いいな。こんな大剣だったら、あいつを守れたかもしれんな……」

 最後は呟くように言っていたが、俺の耳には届いた。
 あいつ、というのは亡くなったメンバーのことだろうか。

「よし、ミハエル付き合わせて悪かったな。もういいぞ」
「はい」
「しっかしお前また強くなったな」
「そうですね、悔しいですが、レオンとの戦闘が随分と俺を成長させたようです」
「ははは。ま、いずれお前はレオンを超えるよ。まだ十三歳のガキだろ、焦んな」
「そうですね、追い越しますよ。でも悔しいもんは悔しいんですよ」
「いいねぇ、若いねぇ」

 そう言いながらギルドマスターは笑いながら大剣をアイテムボックスにしまうと焚火のそばの石に腰かけた。
 ミハエルはそのあとも剣の訓練をするようだ。
 俺はギルドマスターに少しだけ聞いてみる。

「ギルドマスター、あいつを守れたってのは、亡くなったメンバーのことですか?」
「んあ? ああ、聞こえてたか」

 そう言ってギルドマスターは苦笑する。

「そうだな、俺とパーティ組んでたやつのことだ。四人パーティだったんだが、俺と同じ前衛でな、あいつはタンクだった。あるダンジョンに潜ってた時のことだ――」

 ギルドマスターたちがあるダンジョンに潜っていたとき、大量のモンスターを引き連れたやつがきてギルドマスターたちに擦り付けたらしい。
 そいつは走ってそのまま逃げ去り、咄嗟のことで対応が遅れたギルドマスターのパーティメンバーたちは戦うことを余儀なくされた。

 それでもBランクだった彼らは必死に対応をして、なんとかギリギリで戦えていた。
 だけどそれも長く持つはずがなかった。
 最初に弓使いの矢が切れた。
 ついで魔法使いの魔力が尽きた。

 そして、何度も何度もモンスターの攻撃を受けていたギルドマスターの大剣にひびが入った。
 それは終わりの音だった。
 唯一のアタッカーになっていた大剣使いの剣が折れる、それは死しかない。
 魔法使いは限界まで魔力を振り絞ったのでまともに動くこともできない。

 タンクの彼が言った。
『アーロン、分かってるよな。お前はリーダーだ。お前らと一緒に冒険できて、俺は楽しかったぜ』
『バカなこと言うな! 生きて共に帰るんだ!』
 ギルドマスターの怒声に、彼は振り返り笑みを浮かべた。
『ああ、俺の魂だけ連れて帰ってくれ。彼女を守ってやれよ。行け!』
 そう言って彼は魔物を挑発しながら走り抜けた。
 彼に声をかける暇もなく、彼はモンスターを引き連れて走っていってしまった。

 ギルドマスターは歯を食いしばり、彼を追いかけたいのを我慢し、涙を流しながらも魔法使いを抱え、弓使いを促して、彼が走り去った方向とは逆の方向へ走った。
 なんとかモンスターを避け、無事にダンジョンから出たギルドマスターはすぐに武器屋へ走り大剣を買って再度ダンジョンへ潜った。
 魔法使いは動けないのでその場に置いていくしかなかったが、弓使いは矢を補充してついてきた。

 慎重にダンジョン内を進み、モンスターを避けながら進んだ先、ギルドマスターたちは見てしまった。
 倒れ伏し動かなくなっている彼と、ギルドマスターたちにモンスターを擦り付けたやつの死体を。
 彼は最後の最期に復讐を果たしていた。

 ギルドマスターも弓使いも、彼のそばに座り込み彼の体を抱きしめ涙した。
 擦り付けてきたやつはその場に捨て置き、彼の遺体だけギルドマスターたちは連れ帰った。
 ダンジョンの入り口でずっと待っていた魔法使いは、ギルドマスターに背負われた彼の遺体をみてその場で泣き崩れた。

 彼の弔いをしたあと、ギルドマスターたちは彼のいない冒険を続ける気力がなくなってしまい、解散してしまったのだという。
 弓使いは別の街でギルド職員になり、魔法使いはギルドマスターと恋人関係だったらしく、完全に引退してギルドマスターと結婚し、冒険者を辞めた。

「――ま、そんなわけでな。もしあのとき俺がこの大剣を持ってりゃ、なんて意味のないことを考えちまったというわけだ」

 そう言ってギルドマスターは少し寂し気に笑った。

「そう、でしたか……。すみません、辛いことを思い出させてしまって」
「いや、ま、当時は辛かったがな、今はあいつとのいい思い出だと思ってる」

 パチリと薪がはじける。

「俺には息子がいてな」
「はい」
「息子にはそいつの名前をもらったんだよ。不思議なことに、息子には何もあいつの話を聞かせてないのにな、あいつと同じ冒険者になって、タンクになったんだ。不思議だろ? まだDランクだが、腕はいい。いつか俺やあいつと同じBランクになれるだろう」
「そうですか。それは楽しみですね」
「ああ」

 チラリと致死ダメージ軽減魔法を息子さんにどうかと話したが、ギルドマスターは首を振った。
 あいつが下手こいて死ぬならそれはそれで仕方ないと。
 そして俺の頭を撫でまわしながら言った。
『ルカ、優しいのはいいがな、範囲は広げすぎるな。守る相手が増えれば増えるほどお前自身を苦しめる。俺の息子が死んだら、そりゃ悲しい、でもな、それも息子の人生だし、俺が受け止めるべき辛さだ。ルカは受け止めなくていい』

 ギルドマスターの優しさに俺は何も言えなくなる。
 俺が辛そうな顔をしているのを見抜いたギルドマスターが困った顔で笑いながらいった。

「ルカ、それならお前がSランクになったら息子にかけてやってくれ」

 俺はそんなギルドマスターの言葉を聞いて頷く。

「わかりました。任せて下さい。俺は、俺たちは必ずSランクになりますから」

 そう言ってニッと笑う。
 ギルドマスターは苦笑しつつ俺の頭を叩いた。

「おう、期待してるぞ」

 そんなギルドマスターの過去を知った俺は必ずSランクになると誓いその日は眠りについた。
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