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第四章 仲間

73 新しい武器

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 今日も今日とてゾンビタイムである。

 一階の転移柱まで来た俺たちはまず悪臭と汚れを防止する魔法をかけてから三十五階へ飛んだ。

「さて、今日も俺とエルナ主体で行こうか。ただ、グールの数によっては頼むぞ、ミハエル」
「おう」

 まぁグールが二匹までなら多分問題はない。
 あいつらは意外と足が速いので三匹以上になると少々面倒になる。
 三十四階ではグール一匹、ゾンビ三匹だったが、さて、三十五階では何匹になるか。

 足を進めること少し、モンスターが見えてきた。
 どうやら俺とエルナだけで始末できるようだ。
 グールが二匹、ゾンビが三匹だ。

「俺たちだけでいけそうだな」
「はい」

 俺とエルナはそれぞれファイアボールを生み出すとグールたちへとぶつけるべく撃った。
 俺のファイアボールは問題なくグール二匹にぶつかり激しい炎をあげる。
 エルナのファイアボールもグールの後方にいたゾンビ三匹にぶつかり炎をあげた。

 こうして俺たちはファイアボールを乱舞させながら次の階へ向けて移動した。
 結構な数のグールたちを倒しながらもようやく次の階への階段が見えた。

 階段を下り、三十六階へとついた。

「ミハエル、こっからグールじゃないみたいだぞ」
「お、そりゃよかった」

 どうやらこの階からは別のモンスターになっているみたいだ。
 でも、冒険者はいないらしい。
 そして、ミニマップに黄色の光点が一つある。

「お、宝箱だ」
「おお、こないだ見つけたとこなのにな。さっそく行こうぜ」
「ああ」

 今回は当たりが出るといいんだが。

 と思いつつ歩いていると、最初のモンスターパーティに出会った。
 歩いていたのはカタカタ音を立てている、スケルトンだった。
 グールとゾンビの次はスケルトンか。

 スケルトンは胸当てに鉄兜を装備して、剣や弓を装備している。

「あれどうやって倒せばいいんだ……? 首落としても死なねぇよな?」

 ミハエルの疑問も当然だろう。
 俺は鑑定を発動して調べる。

「ええっと、聖水を使って攻撃するか、スケルトンの頭部と胸元にある核の破壊をするかのどちらかっぽいな」

 聖水があるということは聖なる魔法が効くということか。
 ターンアンデッドとか作っておけば良かった。
 グールやゾンビの臭いばかり考えてそこまで考えていなかったな。失敗した。

「ふぅん。まぁやってみっか。剣の方足止め頼むわ」
「ああ、分かった」

 基本的に初めての敵に対してはミハエル以外はサポートに徹することになっている。
 これは俺とミハエルがずっとやってきたことなので、フィーネたちにもお願いしてあるのだ。
 もちろんケースによるけども。

 そうしてミハエルが走り始めた。
 バインドをしてもいいが、骨なのでなんか普通に足がすっぽ抜けて行動しそうなのでバインドの上に闇魔法で支配をかけてみる。
 バインドもしたのは保険の保険だ。
 支配がかからない場合はバインドで短時間でも止めるためである。

 なんとか支配は無事かかったようで俺の命令で動きが止まった。
 どちらにしろSランクにはバインドも支配も効かないのは以前のシュタルクドラッヘで判明しているので今は新しい魔法開発をしているところだ。
 俺の想像が貧困なせいか、いまいち納得のいく魔法は開発できてはいない。

 そんなことを俺が考えていると、ミハエルと弓スケルトンがぶつかった。
 弓スケルトンはそれほど弓を引く速度は早くないようで簡単にミハエルが剣をぶつけて弓をつがえさせないようにしている。
 多分実験なのだろう、ミハエルはスケルトンの両手を切り飛ばしたあと大きく後方に跳躍した。
 数秒ほどして、スケルトンの切り飛ばしたはずの腕がプルプルと震え、まるで逆再生をしているように、腕が飛んでスケルトンにくっついた。

 なるほど、数秒ほどかかりはするが、切り飛ばしたところで元に戻るわけか。
 そうして確認したところでミハエルが再度腕を切り飛ばし、今度は首も飛ばした。
 そして、今度は頭部の核を破壊してその場から離れた。

 数秒もすれば先ほど同様に、腕は元に戻った、しかし頭がないせいでただその場で弓を振り回しているだけだ。
 そこから一分程したところで頭部の光を失っていた目に赤い光が灯ったとかと思うと頭がふわりと浮かんでスケルトンの胴体に戻っていった。

 どうやら核も一定の時間が経てば元に戻るようだ。
 ということは一分以内に頭部と胸の両方の核を破壊しないといけないということなのだろう。

 その後は確認作業を終えたミハエルが一気に腕を飛ばし、兜が外れていたのでそのまま頭部の核を破壊し、体の横から胸の核を突いて破壊した。
 途端弓スケルトンはボフンと音を立てて消えた。

「よし、大体は分かった。ルカ、残りの二体解放してくれ」
「分かった」

 そうして今度は剣を持ったスケルトン二体を相手に戦闘をはじめた。
 弓スケルトン同様、やはり腕を飛ばしてからの対応をしている。
 核を二箇所も破壊しなければならないので多少手間はかかるが、正直ここ最近で一番楽な相手な気がする。
 そうこうしているうちに残りのスケルトンも崩れ去った。

「ここ最近で一番楽なモンスターかもしんねぇ」

 ミハエルも俺が考えていた事と同じことを言った。

「はは。俺たち魔法使いには少々面倒な相手だけどな」
「ああ、それもそうか。ま、グールのとこではルカとエルナに頼りっぱなしだったからな、任せとけ」
「ああ、任せた」

 まぁやろうと思えばやれはするのだが、少々手間がかかる。
 兜と胸当てがついているので、まずは兜を飛ばすか、目から核を狙うしかなく、胸当てを避けて核の破壊をしなければならないので神経も使うしテクニックも必要となる。
 今のエルナには少々難しいだろう。

 俺とエルナはアースバレットあたりで足や腕の破壊を主体としてサポートに回ることにした。
 ただフィーネに関してはなんとなく一人で倒せるのではないかなと思っていたりはする。

 少し歩くと次のスケルトンパーティに出会った。
 今度は剣の他に槍をもったスケルトンもいた。
 なるほど武器は色々と出てくるのか。

 そうしてサポートしつつ見ていると、やはりというか、フィーネのテクニカルな動きを見ることができた。
 カンと鉄をはじいたような音がしたかと思うと、後方にいたスケルトン一体の兜が落ち、すぐあとにカシャンと軽い音がしたかと思うと、スケルトンの頭部ごと核が破壊された。
 そのすぐあとにヒュンと音がしたかと思うと、頭部が破壊されたスケルトンの胸当ての隙間から核を矢が貫き、スケルトンがボフンと音を立てて消えた。

「おお、すごいな」

 思わず俺が呟くと、横にいたエルナがコクコクと頭を上下させている。
 本当に見事な弓術だ。

 全てのスケルトンを倒したところでミハエルがドロップ品を持って戻ってきた。

「フィーネ、すげぇな。まさかあんな倒し方するとは」
「ちょっと試してみたかったの。あれが出来れば弓スケルトンは私が倒せばいいから、ミハエルは気にしなくてよくなるでしょ」
「おー、確かにな。弓いたらそれ優先しなきゃなんねぇから、弓やってくれんなら楽でいいな」

 そんな会話をしつつ、ミハエルが俺にドロップ品を渡してきた。
 受け取ったドロップ品を確認すると、金鉱石と随分と綺麗な宝石だった。
 丸い青い石の中にまるで小さな宇宙が入っているかのようだった。
 気になった俺はこの宝石を鑑定してみた。
 ---------------------
 星の涙
 状態:良
 詳細:ダンジョンから産出された希少な宝石。大銀貨一枚の価値がある。
 ---------------------
 俺は価値を見て驚いた。
 どうやらこの階層でのレアドロップか?
 しかし、星の涙とはなんとも素敵な名前である。
 フィーネがつけたらきっと似合うだろうな、とふと考えてしまった。

 そんなことを考えてしまい、瞬間、俺は頬に熱を感じてしまう。
 ミハエルに見られたらまた揶揄われるので俺は魔法の袋にしまうフリをしつつミハエルに見られないように体勢を変える。

 なんとかバレずにすんだのでそのまま宝箱へ向けてまた移動をはじめた。
 途中何度も戦闘がおこったが、弓スケルトンがいてもフィーネがすぐに頭を潰すのでミハエルは弓スケルトンを気にすることなくサクサクと狩りができていた。

 俺もストーンバレットで弓スケルトンの弓を攻撃することで弓破壊をしたりと精度をあげる訓練も兼ねて攻撃をした。
 当然エルナもまだ精度が甘いので、訓練を兼ねて攻撃をさせている。
 弓の右手か左手をストーンバレットで撃ち抜く訓練をさせたが今のところは当たるのは五割というところだろうか。
 ――ちゃんと当たれば粉砕できるので、粉砕できたのだけを考えると三割ほどに落ちてしまうが。

 そんなこんなでスケルトン狩りをしつつ、宝箱のある場所までやってきた。
 宝箱を鑑定すると罠ありだったので魔法で解除しつつ、開けてみる。
 宝箱の中にあったのはなんてことのない矢が十本と矢筒だった。

「矢?」

 俺が思わず疑問の声をあげると、俺に続いて皆が声をあげた。

「矢ね」
「矢だな」
「矢ですね」

 なんだかちょっと面白くて笑いつつ鑑定してみることにした。

「とりあえず鑑定してみる」

 そう言って俺は鑑定をしてみた。
 ---------------------
 魔法の矢と矢筒
 状態:普通
 詳細:自動で矢筒に戻る魔法がかかった矢と矢筒。金貨一枚の価値がある。
 ---------------------
 これは驚きの当たりの宝箱だ。
 俺は鑑定結果を説明した。

「――だから、これはフィーネが使うのがいいと思うんだが、どうだろう?」
「ああ、いいんじゃねぇか?」
「はい!私もお姉ちゃんが使うのがいいと思います」
「え、でも、金貨一枚の価値があるんでしょう? 私そんなにお金ないわ」
「いや、お金はいらないよ。それにフィーネが使うことで、金貨一枚以上の価値になるから」
「そーそー。戦力アップだ」

 俺とミハエルの後押しもあって、フィーネはありがたく矢と矢筒を受け取った。
 ただ状態が『普通』なので、どちらの魔法効果が優先されるのか、問題なくどちらも共存するか分からないが、一本だけコーティング魔法を施してみた。
 鑑定した感じだと、どちらも効果は記載されていたので大丈夫な気もするが。

 ただ、コーティング魔法をかけたことで『普通』から『良』になったので共存してくれるならありがたい話だ。
 とりあえず試射をしてみることになった。
 スケルトンがいたので、とりあえず一体だけ支配魔法をかけて動かなくしておいた。
 残りを片付けたあと、そのスケルトンで試すことにした。

 そもそも自動で矢筒に戻る、という効果がどういう風に戻るのかが気になる。
 フィーネがまずは普通の魔法の矢をつがえ、放った。
 魔法の矢は見事胸当ての隙間を抜けて核を貫いた。
 二秒ほどしてスケルトンの胸に刺さっていた矢が消え、フィーネがそばにおいていた矢筒へと戻っていた。

「へぇ、飛んで戻ってくるわけじゃないんだな」
「そうみたいね。安心したわ」
「飛んで戻ってきた場合は使えないからな」
「ええ」

 そうして次にコーティングを施した矢をフィーネは放った。
 それは驚くことに、スケルトンの兜をやじり部分だけだが貫通していた。
 たださすがに核にまでは届かず骨に当たって止まっていた。
 それでもコーティングと競合することなく矢筒にも戻ってきたので、魔法を重ね掛けしても問題なさそうだ。

「フィーネ、今の矢にさらに切れ味アップをかけてみていいか? うまくいくかは分からないが」
「ええ、かまわないわ。多分この矢だと思うけど」

 フィーネが差し出した矢を鑑定してコーティングがかかっているのを確認して切れ味アップもかけてみた。
 これは本来は刃の切れ味をアップするものだが、コーティングがかかっているのでコーティング自体の切れ味をあげることになるはずだ。
 はずだ、と言ってるがコーティングの刃ではなく、鏃に直接かかるかもしれないが。
 ――その場合は普通に先ほどと同じような結果になるだろう。

 切れ味アップをかけたあと、再びフィーネに兜に撃ち込んでもらうことにした。
 もしこれで核までいけるなら、胸当ても貫けることになる。
 そうなればかなりの戦力アップになるし、ミハエルの剣にも同じようにかければいちいち兜をはずしたり胸当てを避けて攻撃したりしなくてもよくなる。

 フィーネが重ね掛けをしている魔法の矢をつがえ、放った。
 矢はヒュンと風切り音をたてて見事にスケルトンの兜に突き刺さり、そのまま貫通して地面に刺さった。
 これは予想以上の結果になった。後頭部の兜も貫通したということになる。

「おお、すげーじゃん。ルカ、俺の剣にもかけてくれよ」
「ああ、これはかなりのいい結果だな」
「驚いたわ。まさか貫通までするなんて。ルカ、全部の矢に魔法をかけてもらってもいいかしら?」
「もちろんだ。ミハエルの剣にかけたら矢にもかけるよ」
「ありがとう」

 こうしてミハエルの剣にも、フィーネの魔法の矢にも全てにコーティング魔法と切れ味アップをかけた。
 その後は驚くほどに狩りの速度が上がり、あっという間に三十七階への階段に辿り着くことができた。
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