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第四章 仲間
64 悪意と殺意
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エルナは試練のあと、さすがにすぐにはゴブリン狩りを出来る状態ではなかったので、少し時間を置くことになった。
青い顔で震えるエルナは立ち上がることが出来なかったので、ミハエルが抱き上げて飛行魔法で街の近くまで向かうことになった。
その時ミハエルはエルナに対して言葉をかけていた。
「無理はしなくてもいい、フィーネはお前が生きている、ただそれだけで嬉しいと思う。無理して苦しんで冒険者をしてもきっと嬉しくはない。俺も最初は苦しくて辛かった。今だって人型を殺すのはしんどいんだぜ? でもな、俺はその苦しさと引き換えに自由なんだ。自由な冒険者だ。何にも縛られない。もちろん人としてのルールはあるがな。でも、生きるも死ぬも全て自由だ。――エルナ、心を決めろ。ダメならダメでそれでいい。冒険者だけが道じゃねぇ。お前はもう死の恐怖から解き放たれたんだ。自由に生きろ」
エルナはそんなミハエルの言葉を聞いてぽろぽろと涙を零していた。
俺もミハエルも、そしてフィーネも、エルナが冒険者を続けられなくてもそれはそれでいいのだ。
冒険者だけが道じゃないのだから。
そうして俺たちはその日はそのまま解散とし、二日後に再び会う約束をした。
エルナはその時に結論を出すことになる。
――冒険者になるか、ならないか。
解散した翌日、俺とミハエルはいつまでも狩りせずにいるのもなんなので、今日はダンジョンに潜ることにした。
結局俺たちはCランク試験以降はまったくダンジョンに潜っていなかった。
「おはよう、ミハエル」
「おう、おはよう」
ギルド併設の酒場で合流した俺たちは朝食をそこでとったあと、ダンジョンに向けて移動を開始した。
「今日は三十階からか?」
ミハエルの質問に俺は首を振る。
「いや、二十五階から狩りしながらでいいかなと思ってる。もしエルナがメンバーになったら一階からだしな。何より新しい階に行くとさらに潜りたくなるだろ」
「はは。確かにな。ま、最近ダンジョンで狩りしてなかったしな。ならしつつ稼ぐか」
そうしてダンジョンのある建物へ向かい、建物の中へはいると、そこには受付で入場タグを受け取っているフィーネがいた。
今日はフィーネはエルナのそばにいると思ったので声をかけていなかったのだ。
俺が声をかけるとフィーネは驚いた顔をしていた。
どうやらフィーネも俺たちは今日は休みの日だと思っていたらしい。
「あら、貴方たちもこれから潜るの?」
「ああ、フィーネもか?」
「そうよ、エルナがどちらを選ぶにしろ、あの子のためにお金は少しでもほしいから」
俺はチラリとミハエルを見てからフィーネに声をかけた。
「そうか。じゃあ、どうせなら、俺たちと一緒に狩りをしないか?」
「え、いいの? 私は助かるけれど……」
「むしろ俺としては助かるよ。フィーネは俺より洞察力が優れているからね」
そう言って笑うと、フィーネも笑みを浮かべていた。
「私はルカが周囲に気を配ってるから自由に動けるだけよ」
こうして俺たちはフィーネをパーティに加えてからダンジョンに潜ることになった。
「何階へ行くの?」
「二十五階から三十階までの間で狩りをする予定だが、どっかで連携訓練してから行くか?」
俺がそう言うと、フィーネは首をふって言った。
「いいえ、貴方たちの動きはもう分かってるし、信頼しているから大丈夫よ」
「そうか。じゃあ二十五階に飛んでから下りつつ三十階までの間で狩りをするか」
「おう」
「わかったわ」
俺たちは転移柱に触れると二十五階へと飛んだ。
転移柱のある広場には俺たちの他にもう一つ別のパーティがいたが、お互い特に気にしない。
二十五階にはそれなりにパーティがいるようなので真っ直ぐ下へ降りる階段を目指していいだろう。
「人が多いな、真っ直ぐ下へ降りる階段目指そうか」
「ええ」
「おう、頼むわ」
ミハエルの言葉に俺は頷く。
基本的に案内はミニマップが見える俺の役割だ。
こうして俺たちは先へと進んだ。
二十六階への階段までに数回の戦闘があったが、相変わらずフランメモスが鬱陶しいくらいで危なげもなく倒すことが出来た。
「相変わらずミハエルは強いわね。サポートするこちらからするととても楽でやりやすいわ」
「ああ、フランメモスとの距離も考えてくれるからな。本当にミハエルはすごいよ」
ミハエルがクリンゲマンティスとやり合ってるのを見ながらそんな会話をしていると、ミハエルがクリンゲマンティスにとどめをさしたようだった。
ボフンと音を立ててクリンゲマンティスが消えると、ミハエルが何かを拾ってこっちへやってきた。
「銀鉱石出たわ」
そう言って俺に銀鉱石を投げる。
俺はそれを受け取って魔法の袋に放り込んだ。
そうして先を進む。すぐに階段が現れたので二十六階へと下りた。
二十六階に下りたところで、フィーネがふと呟いた。
「彼らが亡くなった階ね。そして貴方たちに救われた場所」
「ああ、そうだな」
「彼らには悪いけど、貴方たちに出会えて良かったと思ってるわ」
「俺たちも良かったと思ってるよ」
「そーだな。むさい男二人に花が入ったからなー」
そう言ってちゃかすミハエルに俺もフィーネも笑った。
二十六階もクリンゲマンティスとフランメモスなので、ここもやはりそれなりに冒険者がいるのでさっさと通過することにした。
とはいえ、階段までの間にはそれなりにモンスターがいるのではあるが。
ちなみに二十六階は二十五階よりもかなり広い。
だから冒険者がそれなりにいると言ってもその間隔はかなりの距離がある。
――ただ、俺たちの殲滅速度だと、ちょっとモンスターの数が足りず、どこかで他の冒険者パーティと遭遇してしまうだろう。
そして二十六階が二十五階よりもかなり広いという事は、それだけ多くの犠牲があったということだ。
ダンジョンは次の階層が出来るまでにどれだけ中でダンジョンの生み出したモンスター以外の生物が死んだかで広さが決まるのだ。
正直、二十五階からは下手なパーティであれば簡単に死ぬであろう階層と言える。
クリンゲマンティスの鎌もかなり厄介ではあるが、それよりもフランメモスがとても厄介なのだ。
近づけば鱗粉をまき散らし、死に際もまき散らす。
その鱗粉を吸い込めば体は麻痺してしまう。
そのうえ、火魔法を撃ってくるのだ。
遠距離がいないとどうあがいてもこの階層をクリアすることはできない。
「ふう、これで最後だな」
氷漬けになって地面に落ちて砕け散ったフランメモスから視線をはずして俺はいった。
もうすぐ階下への階段、というところで俺たちが戦闘していると、まさかの三人組の冒険者パーティからのモンスターのなすりつけがあったのだ。
あちらも悪気があったわけではなく、敗走していた時にたまたま俺たちがいてどうしようもなかったようではあるのだが。
ただ、質が悪いことに、彼らは一言『すまない』と言っただけで、止まることなくそのまま過ぎ去っていったのだ。
結果俺たちへと彼らを追っていたモンスターが全てきた。
おかげで、合計で三グループのモンスターを相手にすることになった。
「しっかし、あいつら質わりーな。すまないって言や、押し付けていいとおもってんのかよ」
「本当ね、彼らは悪質だわ。顔は覚えているからあとでギルドに報告しておきましょう」
「そうだな。その場で足を止めて共同で戦うならまだしも……」
俺たちだから問題なく捌けたし倒せたが、普通のパーティではあれは全滅していただろう。
落ち着いたところで俺がミニマップを確認すると、奇妙なことに気づいた。
俺が少し眉間に皺を寄せていると、そんな俺の変化に気づいたミハエルが声をかけてきた。
「ルカ、どうした?」
俺は少し声を抑えて話し始めた。
「いや……戦闘が落ち着いたから今ミニマップを確認したんだが、どうも奇妙なんだよ」
「何が奇妙なの?」
「さっきの三人組のパーティいただろ?」
「ああ。それがどうした?」
「あいつら、あの緩いカーブの先の角を曲がったところで止まってるんだよ」
俺の話を聞いたミハエルも、フィーネも少し眉間に皺を寄せた。
俺たちは三人組がいるであろう方を見ずに会話する。
「それはつまり、あいつらは擦り付けたあと、あっこで俺らの様子をうかがってるってことか?」
「そうなる」
「つまり、私たちにモンスターをけしかけて、殺そうとした……?」
「もしくは、いい方に考えて、逃げたものの俺たちを心配してどうするか悩んでるか、だな。まぁ未だに来ないことを考えるとその線は薄いが」
「ルカ、あいつらの声ひろえねぇか?」
「そうだな、ちょっと聞き耳魔法を使ってみるか」
そうして俺は幼い頃に作った聞き耳魔法を久々に使った。
俺の耳と繋がった透明な魔力の塊がふわふわと彼らがいる方へと向かう。
暫くして、微かに声を拾い始めた。
「……が……いるか……」
「……い、見えるか?」
「ちょっと待て、場所がわりぃんだよここ。道が曲がっててよくわからん」
「でも戦闘音もきこえねぇし、こんな短時間で倒せるわけもねぇから死んだんじゃね?」
「とりあえずあと少し待ってから見える位置までいくか」
「そうだな。あの弓使いの女、結構よさげな武器もってたから結構な儲けになりそうじゃね?」
「それよりもったいねぇよな、結構いい女だったし」
「もし生きてたら死ぬ前にやっちまうか」
「いいねぇ」
そこまで聞いて俺は魔法を切った。不愉快過ぎた。
俺の眉間の皺がいっそう深くなったことで察したミハエルが言った。
「わざとか」
「ああ。俺らにわざと擦り付けて、俺たちが死んだら装備諸々奪う気だったようだな」
「どうする?ルカ」
このどうする? はあいつらをこの場で殺すかどうかってことだ。
あいつらを無視して、ギルドに報告してギルドに処分を任せるというのも一つの手だ。
だけどあいつらは慣れていた。
きっと何度もやっているはずだ。
俺たちがわざわざ手を下す必要はないかもしれない。
だが、今まさに俺たちはあいつらに殺されかけた。
「フィーネ、君はここで少し待っていてくれ」
俺がそう言うと、フィーネは俺の腕を掴んで言った。
「ルカ、私たちはパーティでしょう? それに遅かれ早かれよ。冒険者をしていればいつか、人を殺す時がくるわ」
「フィーネ……」
どうやら彼女は俺よりも覚悟を持っていたようだ。
俺が自分の情けなさに唇を噛んでいると、ミハエルが言った。
「ルカ、前も言ったろ。汚れ仕事は俺がするって」
俺はミハエルのその言葉を即座に否定した。
「だめだ。ミハエルだけにやらせない。――やるなら共に、だ。そこは譲らない」
そんな俺の即座の否定にミハエルは嬉しそうに苦笑した。
「ああ、分かったよ。でも無理はすんな。お前は優しいのがいいとこなんだから」
「無理じゃないさ。それに俺のやさしさはあいつらには適用外だ」
そう言って俺はニヤリと笑った。
そんな俺たちのやり取りを聞いていたフィーネがクスリと笑って言った。
「仲良いのね、貴方たち。私もその仲間に入れて頂戴」
「おう、もうフィーネも仲間だからな」
「そうだな」
そう言って俺は拳を突き出した。
ミハエルも拳を突き出し、それを見たフィーネも小さな拳を突き出した。
俺たちは拳を軽く打ち合い、消音魔法、通話魔法、そして光学迷彩をかけ、三人が潜んでいる場所へ向けて歩き出した。
『そこのカーブの先の曲がり角にいる』
『分かった。んじゃいいんだな?』
『ああ、各自一人ずつだ』
『ええ、一人ずつ』
俺たちは彼らを殺すことに決めたが、なんとなくミハエルが一人で全てを殺してしまいそうな気がした。
だから、俺が各自それぞれ一人殺すことを提案したのだ。
それを聞いたミハエルが若干嫌な顔をしたので、やはり一人で全員殺すつもりだったのだろう。
ミハエルに全てを負わせて、何もしないのは嫌なのだ。
殺るなら、同じ痛みと苦しみを背負うべきだ。
フィーネもそれに賛同したので、ミハエルも諦めたのか頷いてくれた。
そうして俺たちの前には今、三人の男がいる。
彼らは壁沿いに立ち、俺たちがいた方を伺っている。
「もういいんじゃねぇか?」
「そうだな、そろそろモンスターも散っただろ」
「だな、じゃあお宝ゲットといきますか」
男たちが意気揚々と俺たちのいた場所へ進もうとしたところで、最初にミハエルによって最後尾にいた男が喉を切り裂かれた。
男は自身の喉を両手で抑えたがそんなことで血が止まるはずもなく、喉からも口からも血を流しその場に倒れて絶命した。
前を歩く男二人は喋っているので後ろの異変に気付かない。
次にフィーネが二本の矢をつがえて弓を引き絞った。
放たれた弓矢は見事男の後頭部と背中に突き刺さり、突き刺さった勢いで前を歩く男にぶつかりそのまま倒れて死んだ。
即死だったようなので、ある意味マシな最期だろう。
一番前を歩いていた男がようやくそこで異変に気付いた。
だけどそれはすでに遅かった。
振り返り倒れている仲間の男を見て驚愕の顔をした男に、俺の氷結槍が刺さった。
男は瞬時に体が凍り付いていく。
男は自分の体が凍っていくことが理解できないという顔のまま氷像と化した。
『死体はどうする?』
俺は努めて冷静にミハエルの質問に答える。
『そのままほうっておいていいだろう』
若干声が上擦ったが問題はない。
この場所はどちらかというと角であるのと、マップを見る限りかなり離れた場所にしか人がいないので、彼らがダンジョンに吸収されるまで人が来ることはないだろう。
フィーネは無言で矢を回収している。
だけど、回収している彼女の手は少し震えていた。
当然だ、人を殺したのだから。
ミハエルだってそうだ。
平気そうな顔をしているけど、見て分かるほどに拳を握りしめている。
ミハエルやフィーネを気遣いたいが、今は俺も精一杯だ。
歯が音をたてないように、ぐっと噛みしめているのだから。
俺は冷たくなった指先をぎゅっと握りしめ、倒れ伏している彼らをそれ以上みることなく、次の階へ進むために移動を開始した。
青い顔で震えるエルナは立ち上がることが出来なかったので、ミハエルが抱き上げて飛行魔法で街の近くまで向かうことになった。
その時ミハエルはエルナに対して言葉をかけていた。
「無理はしなくてもいい、フィーネはお前が生きている、ただそれだけで嬉しいと思う。無理して苦しんで冒険者をしてもきっと嬉しくはない。俺も最初は苦しくて辛かった。今だって人型を殺すのはしんどいんだぜ? でもな、俺はその苦しさと引き換えに自由なんだ。自由な冒険者だ。何にも縛られない。もちろん人としてのルールはあるがな。でも、生きるも死ぬも全て自由だ。――エルナ、心を決めろ。ダメならダメでそれでいい。冒険者だけが道じゃねぇ。お前はもう死の恐怖から解き放たれたんだ。自由に生きろ」
エルナはそんなミハエルの言葉を聞いてぽろぽろと涙を零していた。
俺もミハエルも、そしてフィーネも、エルナが冒険者を続けられなくてもそれはそれでいいのだ。
冒険者だけが道じゃないのだから。
そうして俺たちはその日はそのまま解散とし、二日後に再び会う約束をした。
エルナはその時に結論を出すことになる。
――冒険者になるか、ならないか。
解散した翌日、俺とミハエルはいつまでも狩りせずにいるのもなんなので、今日はダンジョンに潜ることにした。
結局俺たちはCランク試験以降はまったくダンジョンに潜っていなかった。
「おはよう、ミハエル」
「おう、おはよう」
ギルド併設の酒場で合流した俺たちは朝食をそこでとったあと、ダンジョンに向けて移動を開始した。
「今日は三十階からか?」
ミハエルの質問に俺は首を振る。
「いや、二十五階から狩りしながらでいいかなと思ってる。もしエルナがメンバーになったら一階からだしな。何より新しい階に行くとさらに潜りたくなるだろ」
「はは。確かにな。ま、最近ダンジョンで狩りしてなかったしな。ならしつつ稼ぐか」
そうしてダンジョンのある建物へ向かい、建物の中へはいると、そこには受付で入場タグを受け取っているフィーネがいた。
今日はフィーネはエルナのそばにいると思ったので声をかけていなかったのだ。
俺が声をかけるとフィーネは驚いた顔をしていた。
どうやらフィーネも俺たちは今日は休みの日だと思っていたらしい。
「あら、貴方たちもこれから潜るの?」
「ああ、フィーネもか?」
「そうよ、エルナがどちらを選ぶにしろ、あの子のためにお金は少しでもほしいから」
俺はチラリとミハエルを見てからフィーネに声をかけた。
「そうか。じゃあ、どうせなら、俺たちと一緒に狩りをしないか?」
「え、いいの? 私は助かるけれど……」
「むしろ俺としては助かるよ。フィーネは俺より洞察力が優れているからね」
そう言って笑うと、フィーネも笑みを浮かべていた。
「私はルカが周囲に気を配ってるから自由に動けるだけよ」
こうして俺たちはフィーネをパーティに加えてからダンジョンに潜ることになった。
「何階へ行くの?」
「二十五階から三十階までの間で狩りをする予定だが、どっかで連携訓練してから行くか?」
俺がそう言うと、フィーネは首をふって言った。
「いいえ、貴方たちの動きはもう分かってるし、信頼しているから大丈夫よ」
「そうか。じゃあ二十五階に飛んでから下りつつ三十階までの間で狩りをするか」
「おう」
「わかったわ」
俺たちは転移柱に触れると二十五階へと飛んだ。
転移柱のある広場には俺たちの他にもう一つ別のパーティがいたが、お互い特に気にしない。
二十五階にはそれなりにパーティがいるようなので真っ直ぐ下へ降りる階段を目指していいだろう。
「人が多いな、真っ直ぐ下へ降りる階段目指そうか」
「ええ」
「おう、頼むわ」
ミハエルの言葉に俺は頷く。
基本的に案内はミニマップが見える俺の役割だ。
こうして俺たちは先へと進んだ。
二十六階への階段までに数回の戦闘があったが、相変わらずフランメモスが鬱陶しいくらいで危なげもなく倒すことが出来た。
「相変わらずミハエルは強いわね。サポートするこちらからするととても楽でやりやすいわ」
「ああ、フランメモスとの距離も考えてくれるからな。本当にミハエルはすごいよ」
ミハエルがクリンゲマンティスとやり合ってるのを見ながらそんな会話をしていると、ミハエルがクリンゲマンティスにとどめをさしたようだった。
ボフンと音を立ててクリンゲマンティスが消えると、ミハエルが何かを拾ってこっちへやってきた。
「銀鉱石出たわ」
そう言って俺に銀鉱石を投げる。
俺はそれを受け取って魔法の袋に放り込んだ。
そうして先を進む。すぐに階段が現れたので二十六階へと下りた。
二十六階に下りたところで、フィーネがふと呟いた。
「彼らが亡くなった階ね。そして貴方たちに救われた場所」
「ああ、そうだな」
「彼らには悪いけど、貴方たちに出会えて良かったと思ってるわ」
「俺たちも良かったと思ってるよ」
「そーだな。むさい男二人に花が入ったからなー」
そう言ってちゃかすミハエルに俺もフィーネも笑った。
二十六階もクリンゲマンティスとフランメモスなので、ここもやはりそれなりに冒険者がいるのでさっさと通過することにした。
とはいえ、階段までの間にはそれなりにモンスターがいるのではあるが。
ちなみに二十六階は二十五階よりもかなり広い。
だから冒険者がそれなりにいると言ってもその間隔はかなりの距離がある。
――ただ、俺たちの殲滅速度だと、ちょっとモンスターの数が足りず、どこかで他の冒険者パーティと遭遇してしまうだろう。
そして二十六階が二十五階よりもかなり広いという事は、それだけ多くの犠牲があったということだ。
ダンジョンは次の階層が出来るまでにどれだけ中でダンジョンの生み出したモンスター以外の生物が死んだかで広さが決まるのだ。
正直、二十五階からは下手なパーティであれば簡単に死ぬであろう階層と言える。
クリンゲマンティスの鎌もかなり厄介ではあるが、それよりもフランメモスがとても厄介なのだ。
近づけば鱗粉をまき散らし、死に際もまき散らす。
その鱗粉を吸い込めば体は麻痺してしまう。
そのうえ、火魔法を撃ってくるのだ。
遠距離がいないとどうあがいてもこの階層をクリアすることはできない。
「ふう、これで最後だな」
氷漬けになって地面に落ちて砕け散ったフランメモスから視線をはずして俺はいった。
もうすぐ階下への階段、というところで俺たちが戦闘していると、まさかの三人組の冒険者パーティからのモンスターのなすりつけがあったのだ。
あちらも悪気があったわけではなく、敗走していた時にたまたま俺たちがいてどうしようもなかったようではあるのだが。
ただ、質が悪いことに、彼らは一言『すまない』と言っただけで、止まることなくそのまま過ぎ去っていったのだ。
結果俺たちへと彼らを追っていたモンスターが全てきた。
おかげで、合計で三グループのモンスターを相手にすることになった。
「しっかし、あいつら質わりーな。すまないって言や、押し付けていいとおもってんのかよ」
「本当ね、彼らは悪質だわ。顔は覚えているからあとでギルドに報告しておきましょう」
「そうだな。その場で足を止めて共同で戦うならまだしも……」
俺たちだから問題なく捌けたし倒せたが、普通のパーティではあれは全滅していただろう。
落ち着いたところで俺がミニマップを確認すると、奇妙なことに気づいた。
俺が少し眉間に皺を寄せていると、そんな俺の変化に気づいたミハエルが声をかけてきた。
「ルカ、どうした?」
俺は少し声を抑えて話し始めた。
「いや……戦闘が落ち着いたから今ミニマップを確認したんだが、どうも奇妙なんだよ」
「何が奇妙なの?」
「さっきの三人組のパーティいただろ?」
「ああ。それがどうした?」
「あいつら、あの緩いカーブの先の角を曲がったところで止まってるんだよ」
俺の話を聞いたミハエルも、フィーネも少し眉間に皺を寄せた。
俺たちは三人組がいるであろう方を見ずに会話する。
「それはつまり、あいつらは擦り付けたあと、あっこで俺らの様子をうかがってるってことか?」
「そうなる」
「つまり、私たちにモンスターをけしかけて、殺そうとした……?」
「もしくは、いい方に考えて、逃げたものの俺たちを心配してどうするか悩んでるか、だな。まぁ未だに来ないことを考えるとその線は薄いが」
「ルカ、あいつらの声ひろえねぇか?」
「そうだな、ちょっと聞き耳魔法を使ってみるか」
そうして俺は幼い頃に作った聞き耳魔法を久々に使った。
俺の耳と繋がった透明な魔力の塊がふわふわと彼らがいる方へと向かう。
暫くして、微かに声を拾い始めた。
「……が……いるか……」
「……い、見えるか?」
「ちょっと待て、場所がわりぃんだよここ。道が曲がっててよくわからん」
「でも戦闘音もきこえねぇし、こんな短時間で倒せるわけもねぇから死んだんじゃね?」
「とりあえずあと少し待ってから見える位置までいくか」
「そうだな。あの弓使いの女、結構よさげな武器もってたから結構な儲けになりそうじゃね?」
「それよりもったいねぇよな、結構いい女だったし」
「もし生きてたら死ぬ前にやっちまうか」
「いいねぇ」
そこまで聞いて俺は魔法を切った。不愉快過ぎた。
俺の眉間の皺がいっそう深くなったことで察したミハエルが言った。
「わざとか」
「ああ。俺らにわざと擦り付けて、俺たちが死んだら装備諸々奪う気だったようだな」
「どうする?ルカ」
このどうする? はあいつらをこの場で殺すかどうかってことだ。
あいつらを無視して、ギルドに報告してギルドに処分を任せるというのも一つの手だ。
だけどあいつらは慣れていた。
きっと何度もやっているはずだ。
俺たちがわざわざ手を下す必要はないかもしれない。
だが、今まさに俺たちはあいつらに殺されかけた。
「フィーネ、君はここで少し待っていてくれ」
俺がそう言うと、フィーネは俺の腕を掴んで言った。
「ルカ、私たちはパーティでしょう? それに遅かれ早かれよ。冒険者をしていればいつか、人を殺す時がくるわ」
「フィーネ……」
どうやら彼女は俺よりも覚悟を持っていたようだ。
俺が自分の情けなさに唇を噛んでいると、ミハエルが言った。
「ルカ、前も言ったろ。汚れ仕事は俺がするって」
俺はミハエルのその言葉を即座に否定した。
「だめだ。ミハエルだけにやらせない。――やるなら共に、だ。そこは譲らない」
そんな俺の即座の否定にミハエルは嬉しそうに苦笑した。
「ああ、分かったよ。でも無理はすんな。お前は優しいのがいいとこなんだから」
「無理じゃないさ。それに俺のやさしさはあいつらには適用外だ」
そう言って俺はニヤリと笑った。
そんな俺たちのやり取りを聞いていたフィーネがクスリと笑って言った。
「仲良いのね、貴方たち。私もその仲間に入れて頂戴」
「おう、もうフィーネも仲間だからな」
「そうだな」
そう言って俺は拳を突き出した。
ミハエルも拳を突き出し、それを見たフィーネも小さな拳を突き出した。
俺たちは拳を軽く打ち合い、消音魔法、通話魔法、そして光学迷彩をかけ、三人が潜んでいる場所へ向けて歩き出した。
『そこのカーブの先の曲がり角にいる』
『分かった。んじゃいいんだな?』
『ああ、各自一人ずつだ』
『ええ、一人ずつ』
俺たちは彼らを殺すことに決めたが、なんとなくミハエルが一人で全てを殺してしまいそうな気がした。
だから、俺が各自それぞれ一人殺すことを提案したのだ。
それを聞いたミハエルが若干嫌な顔をしたので、やはり一人で全員殺すつもりだったのだろう。
ミハエルに全てを負わせて、何もしないのは嫌なのだ。
殺るなら、同じ痛みと苦しみを背負うべきだ。
フィーネもそれに賛同したので、ミハエルも諦めたのか頷いてくれた。
そうして俺たちの前には今、三人の男がいる。
彼らは壁沿いに立ち、俺たちがいた方を伺っている。
「もういいんじゃねぇか?」
「そうだな、そろそろモンスターも散っただろ」
「だな、じゃあお宝ゲットといきますか」
男たちが意気揚々と俺たちのいた場所へ進もうとしたところで、最初にミハエルによって最後尾にいた男が喉を切り裂かれた。
男は自身の喉を両手で抑えたがそんなことで血が止まるはずもなく、喉からも口からも血を流しその場に倒れて絶命した。
前を歩く男二人は喋っているので後ろの異変に気付かない。
次にフィーネが二本の矢をつがえて弓を引き絞った。
放たれた弓矢は見事男の後頭部と背中に突き刺さり、突き刺さった勢いで前を歩く男にぶつかりそのまま倒れて死んだ。
即死だったようなので、ある意味マシな最期だろう。
一番前を歩いていた男がようやくそこで異変に気付いた。
だけどそれはすでに遅かった。
振り返り倒れている仲間の男を見て驚愕の顔をした男に、俺の氷結槍が刺さった。
男は瞬時に体が凍り付いていく。
男は自分の体が凍っていくことが理解できないという顔のまま氷像と化した。
『死体はどうする?』
俺は努めて冷静にミハエルの質問に答える。
『そのままほうっておいていいだろう』
若干声が上擦ったが問題はない。
この場所はどちらかというと角であるのと、マップを見る限りかなり離れた場所にしか人がいないので、彼らがダンジョンに吸収されるまで人が来ることはないだろう。
フィーネは無言で矢を回収している。
だけど、回収している彼女の手は少し震えていた。
当然だ、人を殺したのだから。
ミハエルだってそうだ。
平気そうな顔をしているけど、見て分かるほどに拳を握りしめている。
ミハエルやフィーネを気遣いたいが、今は俺も精一杯だ。
歯が音をたてないように、ぐっと噛みしめているのだから。
俺は冷たくなった指先をぎゅっと握りしめ、倒れ伏している彼らをそれ以上みることなく、次の階へ進むために移動を開始した。
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オマケに最後の最後にまたもや神様がミス!
世界で自分しかいない特殊個体の猫獣人に
なっちゃって!?
規格外すぎて親に捨てられ早2年経ちました。
……路上生活、そろそろやめたいと思います。
異世界転生わくわくしてたけど
ちょっとだけ神様恨みそう。
脱路上生活!がしたかっただけなのに
なんで無双してるんだ私???

チートスキル『学習(ラーニング)』で異世界最強 ~Malice・Awaking~
さぼてん
ファンタジー
平凡な高校生、アヤツジ・ケイトは、ひょんなことから命を落としてしまう。
そんな彼の前に、『神の使い』と名乗る人物が現れた。
彼は言う。「異世界転生と言うものに興味はないか?」と。
異世界転生――その響きに惹かれたケイトは、彼の提案を受け入れる――
「ヘイ、マリス!学習の時間だ」
『かしこまりました、マスター』
スマートフォンで全てを学習(ラーニング)!?異世界チート生活、始まります。
※この作品は、『小説家になろう』『カクヨム』『ノベリズム』でも投稿しております。
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