異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭

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第二章 少年期 前編

28 新しい魔法と友への信頼

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 ミハエルに冒険者になろうと声をかけてから三日が経った。
 あれから俺も少し考えて、そろそろ両親に自分の進路を話そうかと考えている。
 どういう反応をするか少し怖くはあるのだが、きちんと話しておくのは大事だろう。
 今日の夕食の後にでも二人に話してみよう。
 そんなことを考えつつ、俺は教会学校へと向かった。

 教会学校へ入ると、今日も一番最初に来ていたマルセルが俺を呼び、俺はその席へと向かった。
 教会学校の中は三人で座れる長机がたくさん置いてあり、そこにそれぞれ着席してシスターが教壇みたいな所で何かを指示したり説明したりしつつ俺たちは課題を与えられ、それをこなすというルーチンだ。
 そのせいだと思うが、その席に座った三人でグループを作る傾向がある。
 まぁ俺たちもその口であるが。

 課題を与えられても、一人で解かないといけないわけではなく、分からなければシスターに質問したり、友達に聞いたりとできる。
 俺たちの場合は、マルセルがいつも左端で、俺が真ん中、そして右端にミハエルが座る。
 最初は座る場所はそれぞれだったのだが、俺が皆に勉強を教えたりするようになってからはこの並びで定着している。

「ミハエルそろそろ来るかなー」
「さすがにそろそろ来るだろ」

 この会話もほぼ毎日繰り返してる定番になっている。
 しかし、その日はミハエルは来なかった。
 マルセルは少し不安な顔をしていた。

「何かあったのかな……? ミハエル大丈夫かな」

 マルセルが不安になるのも仕方ない、俺だって不安だ。
 ミハエルの父親は暴力を振るうのだから。
 もしかしたら強く殴られて寝込んでいる恐れもある。
 さすがに死なせてしまうほどの暴力はないと思うが……。

「学校終わったらミハエルに会いに行くか」

 俺の言葉にマルセルはパッと顔を明るくすると頷いた。

「うん!」

 マルセルは少し気が弱い部分があるので、ミハエルの父親を苦手としているのだ。
 以前一人でミハエルに会いに行ったとき、ミハエルを怒鳴る父親の声にびびって、それ以来一人で行けなくなっている。

 教会学校が終わり、俺とマルセルは屋台広場で甘いパン――長さ十センチほどの少量の砂糖と干し果物を潰して練り込まれたパン――をお土産に買い、ミハエルの家へと向かった。
 道中はマルセルが、ミハエルが殴られてないかを心配し続け、俺は殴られ所が悪くないといいが、と心配した。

 屋台広場を抜けて暫く歩き、ミハエルの家が見えてきた。
 ミハエルの家は武器屋を営んでいるので、表は店で玄関は裏手になる。
 なので俺達は店の前を過ぎ、裏手に回り込んだ。
 すると、裏手の玄関前にミハエルが座り込んでいた。
 マルセルが小声で叫ぶという器用なことをする。

「ミハエル!」

 その声にミハエルが気づき振り向いた。
 その顔を見てマルセルは泣きそうになり、俺は眉を顰めてしまう。
 そんな俺たちを見て、ミハエルは気まずい顔をした。
 と言っても、ミハエルのは左目付近は青紫色になって腫れあがっており、気まずそうな顔をしてるっぽいという認識ではあるが。
 ミハエルを見て固まっているマルセルの代わりに俺が声をかけた。

「殴られたのか」
「……ああ。だから今日お前らにこんな顔見せたくなくて学校行かなかったのに、なんで来るんだよ」

 少し不機嫌な声でそう言うミハエルに、マルセルが涙を浮かべながら言った。

「だって! 心配だったんだ……。お父さんに殴られてるんじゃないかって、それで倒れてるんじゃないかって……」

 そんなマルセルを見て、ミハエルは罰の悪そうな顔をすると、痛む顔を押さえながら言った。

「ごめん。クソ親父にちっと口答えしたらぶん殴られてよ。こんな顔じゃそうやってマルセルが泣いちまうから今日行けなかったんだ」

 マルセルは自分のせいかと更に涙を浮かべる。
 それを見たミハエルはオロオロして言い訳をする。

「ちっ違う、別にマルセルのせいじゃねーよ。だから泣くなよ」
「ご、ごめん……」
「あーもう、おいルカ助けろ」

 俺は困るミハエルに苦笑しつつ言った。

「マルセルだって分かってるさ。でもミハエルが心配で涙が出ちゃうのは仕方ないだろ。そこは諦めろ」

 俺の言葉にミハエルは肩を落とし、涙の止まらないマルセルの頭を撫でていた。
 暫くして俺と、泣き止んだマルセルを連れて、路地裏を進み、人のいない小さな広場へとやってきた。
 少し人気のない貧困層の住む場所なので、――俺はたまに通るが――マルセルが来るのはきっと初めてだろう。

「わりーな、こんなとこまで連れてきて。あそこで騒ぐとクソ親父の耳に入る可能性があるからよ」
「気にするな。俺が守るから大丈夫だ」

 実のところ、ミハエルとマルセルには俺が魔法を使えることを少しだけ教えてある。
 もちろん二人共ちゃんと秘密は守ってくれている。

「ああ、でもまぁ大丈夫だ。俺はよくここ来てるからな」
「ねぇ、ミハエル。その、左目大丈夫なの……?」
「あーまぁ、折れちゃいねぇと思う。多分」
「診るか?」
「あ、そうだね! ねぇミハエル、ルカに見てもらおうよ。ルカならきっと分かるよ!」

 きっと俺の『みる』と、マルセルの『みる』は別の意味だろうなと思いつつ、俺はマルセルの謎の信頼感に少しだけ苦笑してしまう。
 ミハエルはこれで断るときっとまたマルセルが泣いてしまうだろうと考え、素直に頷いた。

「そうだな――頼めるか?」
「ああ、任せろ。じゃあそこに座ってくれ」

 俺は近くにある岩に座るように促した。
 すぐに探索魔法を発動して、周囲に人がいないのを確認すると、最近開発したサーチ魔法をミハエルにかける。
 ミハエルにかけるのはこれが初めてになるが、実はこれを開発した切っ掛けにはミハエルが関係している。
 以前も、こうして父親に殴られて顔に痣を作って学校に来たことがある。
 その時もマルセルは泣いていたが、俺はミハエルの顔ではなく左腕に少し違和感を感じた。
 話を詳しく聞くと、父親からの暴力を腕で防いだらしいのだが、その後痛みが激しく、腫れてきているとのことだった。

 俺自身もかつて親父に殴られ、それを腕で防いだ時に骨折したことがあった。
 それでピンときたのだ。
 ほうっておくと下手すれば感染症や変なくっつき方で腕が使い物にならなくなる危険性が高く、命にも関わるので、俺はマルセルとミハエルを連れて学校をサボリ、人気のない所で彼らに俺が魔法を使えること、今から回復魔法をかけるけど、誰にも言わないでくれと言って魔法をかけた。
 二人は驚いていたが、絶対に話さないと約束をしてくれた。
 もし話されてもそれはそれで仕方ないと俺は考えていたが、二人はこうして今もただただ黙っていてくれる。
 その時の出来事が切っ掛けで、症状などをすぐに見れる魔法があるといいなと思い開発するに至ったのだ。

 岩に座ったミハエルに、俺はサーチ魔法――調べることを目的とした魔法――をかける。
 ミハエルの体が一瞬だけ青く光る
 鑑定魔法とは違い、相手の名前などは出ないが、サーチ魔法をかけた相手のケガや病気など治すべき物を表示してくれるのだ。
 最近分かったことではあるのだが、回復魔法は相手の症状を理解してかける方が効果が高く、またその症状に対してピンポイントで回復するので魔力効率もいい。
 こっそりと動物などで試したところ、同じ病気や骨折でも、原因を理解して回復魔法をかけるのと、原因を知っても関係なくこれまで通りにかけるのでは随分と魔力の消費に差があった。
 例えるなら、知っていれば10ですむのだが、知らないと50かかる、というくらいの違いだろうか。
 この40の差はかなり大きいと言えるだろう。
 まぁ俺の魔力は膨大にあるのであまり関係はなく、どちらかというと、効果の方を重視している。

 サーチ魔法をかけてすぐに結果が表示された。
 ---------------------
 左眼窩に打撲
 左前腕に打撲と外傷骨折
 左胸骨に亀裂骨折
 ---------------------
 まじかよ……。これ下手したらミハエル死ぬかもしれなかったんじゃないか?
 俺はサーチ結果を見て眉間に皺を寄せてしまった。
 そんな俺を見たマルセルが不安気に聞いてくる。

「ねぇ、ルカ。どうしたの……?ミハエル大丈夫だよね?」

 俺はその声にハッとして答えた。

「ああ、ごめん、大丈夫だ。ミハエル、顔には軽くだけど、それ以外にはしっかり回復魔法かけるぞ」
「ああ、すまねぇな」

 俺はすぐにミハエルの顔には軽いヒール、それ以外にハイヒールをかけた。
 サーチで調べて骨折していた箇所が緑色の光に包まれる。
 光は一瞬だけですぐに収まった。
 ミハエルは、自身の胸や左腕を触り声をあげる。

「おお。すげーな。もう痛くないぞ。さっきまですげぇズキズキしてたのに」
「そりゃそうだ。見事に骨折してたよ」

 下手したら肋骨はひびではなく折れて肺に刺さり死んでいた危険性もあった。
 未だ眉間に皺を寄せたままの俺に、マルセルが問いかける。

「ねぇ、ルカ。ミハエルもう大丈夫なんでしょ?どうしてそんなに難しい顔してるの?」

 マルセルの言葉に俺はどこまで話すか迷い、正直にそれを伝えた。

「どこまでお前らに話すか悩んでる」
「どういうことだ?」
「どういうこと?」
「俺が魔法を使えるのはお前らも知ってるだろう?それを秘密にしててほしい理由も」
「ああ。国が捕まえにくるからだろ?」

 ミハエルの言葉にマルセルも頷く。

「そうだ。ただそれでもお前らには俺の魔法について全てを伝えてるわけじゃない」
「?そりゃそうだろ?いくら友達だからってなんでも話すのはまたちげぇだろ」
「うん。僕だって話してないことはあるもん」

 二人の秘密があるのが当たり前という言葉に俺は思わず笑みを零してしまう。

「そうか。まぁでも少しだけ教えるから、また秘密に追加しといてくれ」
「おう、任せろ」
「任せてよ! 絶対話さないから!」

 俺はそんな二人の言葉に胸を暖かくさせながら話し始めた。
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