魔法学院のヴァンパイア、強かったのも昔の話 ~昔は最強の吸血鬼だったけど、目立ちたくないので、ひっそりと学院の事件を解決していきます~

一条おかゆ

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第22話 調査2

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「うわーん! 遅刻、遅刻ーっ!」

 朝っぱらから戦った僕は、現在、廊下をダッシュ中!

 鐘も鳴ったし、ぶっちゃけ、遅刻は確定だ。
 ふざけないでよ、さっきの二人組!
 あと、それ以前に呼び出した先輩達!

 ……とは言え、さきほど、血液の情報を得られたのは大きい。

 吸血鬼である僕は、血液の味や香りに、非常に敏感だ。
 ワンちゃんや獣人(セリオン)ように、匂いだけで人を判別できる。血液に限った話だけど。
 でも、この能力があれば、さきほどの二人組が誰なのか、近くにいれば、そのうち気が付く。

 ま、それで遅刻が免除されることはないんだけど。

「ごっ、ごめんなさい、遅れました!」
「廊下に立っててください」



「はぁ……。朝から災難だよ」

 ホームルーム中、外でぽつねんと佇んでいた僕。
 まれにこっちを見てくる同級生の、「ふふっ」という噛み殺したような笑いが、心にきた。

 その後。
 教室に戻った僕は、魔法概論と魔術基礎の授業を受け……次は、お昼だ。

「シロ、学食に行かない?」
「どけ、小娘! 兄貴、こんな女ほっといて、俺と学食に行きましょう!」
「そう喧嘩すんなしー! みんなで行った方が楽しいっしょ!」

 と、いつものメンツが誘ってくれた。
 僕も、もちろん、皆と学食に向かおうとしたのだが、

「え、エット……。チョット、いいかナ?」

 深緑の、龍の少女に声をかけられた。
 ……ジンユーさんだ。

「わっ、忘れてた! ご、ごめん皆っ! 学食には後で行くから、先に行ってて!」

 先日の授業での一件を察してくれたのか、三人は各々の反応をしながら、教室から出て行った。
 僕とジンユーさんは、屋上前の踊り場へと向かった。

「ごめんなさい! 朝、魔法を使っちゃったから、解除する魔力がないんだ!」

 踊り場に着くなり、頭を下げた。
 直角90度で、真摯に、謝意を告げた。

「ウン、隷属魔だから、ワカル」

 隷属魔法の効果は、相手の魔力の状況が分かり、相手のおおよその位置が分かる、というものだ。
 それで、僕の魔力がすっからからんなのは分かるのだろう。しかし、

「朝、すごい魔力量が増えてタ。なのに、一気に無くなっタ。ど、ドウシテ?」
「あ、あえ、えっ、えっと……」

 敵の情報を得るためとはいえ、つい先ほど、血液を摂取した。
 それで、一時的に僕の魔力が増大したのだ。

 だけど、太陽が出ている朝に、屋外にいたのだ。
 吸血鬼の特性上、それだと魔力はすぐに霧散してしまう。
 だから、今の僕の魔力はゼロだ。

 ま、霧散させないで、魔力在る僕の姿で教室に入ったら、それはそれで問題なんだけど……。

「い、いやー、なにかあったけー? 先輩達に絡まれたけど、それだけだしなー」
「魔力量、嘘つかナイ」
「で、でも、落ちこぼれの僕の隷属魔法なんて、あてにならないしなぁー」

 はたから見ても、今の僕は白々しいだろう。
 自分でも、演技が下手だなぁ、と痛感してしまう。

 そんな三文芝居に騙されてくれるはずもなく、ジンユーさんは訝しげに、眉をひそめた。

「尋常じゃなかっタ。間違えるはずがナイ」
「い、いや、ほら! ジンユーさんのせいじゃなくて、僕のせいなんだって!」
「……むぅ。分かっタ。信用する」

 頬を膨らませ、階段を下りて行った。

 悪い事をした気分だけど、さすがに彼女を、窮極派うんぬんに巻き込むことはできない。
 面倒事を処理するのは、僕とリリー、それと……アーギンの役目だ。……役に立つか分からないけど。

「ジンユーさん、微妙に鋭そうだし、早めに片づけなくちゃ……」

 あの二人の件を早急に片づけて、早ければ明日にでも、この隷属紋を解除しよう。
 目立たないためにも、というより、吸血鬼とバレないためにも。

 ◇◇◇

 ということで、授業が終わり、放課後に突入した後。
 あの二人を探すためにも、僕は、校門付近で張り込みをしていた。ホウキで落ち葉などを掃きながら。

「図書委員とは一体……」

 表面上は、『今朝の遅刻と、授業での失敗の罰として、放課後掃除をしている』という事にしている。
 じゃなきゃ、美化委員でもないのに掃除する不審者だからね。

「今朝の遅刻が、まさかこんなところに響くなんて……」

 と、悪態をついてホウキを動かしながらも、内心では、吸血鬼としての感覚を研ぎ澄ます。
 もちろん、僕が傷つけた、あのローブ不審者の血の香りを逃さないためだ。

 血の香りというのは、僕にとって非常に芳醇で、ワインや紅茶よりも香ばしい。
 近くに寄れば、一瞬で分かる。
 それに、血液ソムリエの僕なら、一度嗅いだ匂いを覚えておくのは、とても容易いことだ。

 ……とはいえ、傷口自体は回復魔術なり、聖術なりで、簡単に閉じることができる。
 だから、もう既に血の匂いがしないかも~! ……とはならない。

 僕が攻撃した際、服が裂け、そこに血液が付着したはずだ。
 そして、服にこびりついた血というのは、なかなかに落ちないからね。

 どうやら、今朝の僕は相当に冴えていたようだ、ふふふ。

「おいおい、あのチビ、罰掃除させられながら喜んでやがるぜ」
「こ、こわ……。い、行こうぜ」

 ……。
 ……しゅん。

 と、罵声を浴びながらも、待つこと数時間。
 完全下校時間になった。
 しかし、あの血の香りは一度も漂ってこなかった。

「うーん……。もしかしたら、ローブ自体は学校に置いてるのかな?」

 リリー曰く、この学院の第四倉庫? あたりが窮極派の拠点として使われてたみたいだし。
 もしや、学院内に隠し拠点みたいな場所があるのやも知れない。
 それで、そこに置いて帰ったのかなぁ?

 慣れた手つきで大量のゴミ袋を纏め、僕は一度帰宅した。



「──って訳で、アジト捜索のためにも、夜の学校に潜入しようと思うんだ」

 帰るやいなや、リリーにそんな事を告げた。
 すると彼女は、怪訝そうに眉根を寄せる。

「本当かのぅ? 夜の校舎を利用した、逢引の類ではないのか?」
「違うよっ! 今回行くのは、僕ひとりだけだから」
「とか言いつつ、本当は?」
「もちろん誰かと一緒に……じゃないからね、本当に! ……んもー、なんならリリーも一緒に行く?」

 正直、リリーがいてくれた方が心強い。
 今日の分の魔力は使っちゃし、相手が複数人いることは確実だからだ。

「行きたい……のは山々なんじゃがなぁ。生憎と、これから重要な会議なのじゃよ」
「じゃあ無理だね」
「残念そうにしてくれても良かろうに……」

 目を瞑り、悔しそうな表情を浮かべるリリー。
 彼女は夢魔(サキュバス)らしい際どい衣装から、高級そうなスーツへと着替えた。
 どうやら、本当に外せない用事があるようだ。

「ま、多分だけど、そこまで危ない事にはならないから。安心して、会議に行ってきてね」
「わらわとしては、危険か否かより、逢引か否かが心配なんじゃがな」

 と、こぼしながらも、リリーは玄関で靴を履き、街の中へと消えていった。

 僕は軽食を摂って、夜の学院へと潜入を開始した。
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