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第18話 隷属魔法
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吸血鬼(ヴァンパイア)とは、龍(ドラゴン)と同じく、人の理から外れた存在である。
今回の調査で、それを肌で感じ取った。
以下に記すのは、その調査結果である。
まず、彼・彼女らは人の血を吸う。
しかもなんと、それによって並人(ヒューム)の十倍はあろうかという、膨大な魔力を得るのだ。
おそらく、自身で魔力を生成することが出来ない代わりに、魔力を増幅さえる器官が備わっていると考えられる。
しかし、太陽の光にめっぽう弱く、陽を浴びると、魔力を失っていく。
完全に魔力を失った姿を見たことはないが、私の予想では、ドロドロのスライムになると考えている。
次に、吸血鬼は、魔術と呪術がミックスしたような、特殊な魔法を用いる。
私はそれを、吸血鬼魔法(ヴァンパイアマギア)と仮称することにする。
この吸血鬼魔法は、呪術のように他者の身体にまで介入し、魔術のように詠唱が簡明である。
龍魔法(ドラゴンマギア)と同じように、"強力"と言わざるを得ない。
そして最後に、吸血鬼には不思議な魅力がある。
この調査で、幾匹かの吸血鬼を目にしたのだが、男女問わず、みな一様に、人の気を惹く雰囲気があった。
私は昔、友人に勧められて(ここ大事)、赤ちゃんプレイの風俗に行ったことがあるのだが、その際にかけられた夢魔の《魅了(チャーム)》にどこか似ている。
以上が調査の結果である。
私の妻がこれを目にしない事を、心より望む。
──エイブラハム・ブローナー著『吸血鬼の生態』
◇◇◇
なんやかんやありつつも、既に学園生活は三週間目──
「兄貴ーっ! おはようございます!」
「このテンションは慣れないなぁ……」
今日も今日とて、アーギンの朝の挨拶は元気だ。
他のクラスメイト達は、もはや定番となったこの光景に、クスクスと笑っている。
馬鹿にしたような笑いじゃない。
むしろ、微笑ましさからくる、好意的な笑いなのだろうけど……さすがに、恥ずかしい。
「兄貴のその距離感を感じる視線、俺、ビンビンきちゃいます!」
「な、なにがっ!? いや、どこが!? って、朝から微妙に卑猥な事を言ってくるの、ホントやめてもらえる!?」
時間が経つにつれて、ドМが悪化してない!?
キモさを極めつつあるね……。
と、そんなこんな話していると、
「ウィース! おっ! おはよ、シロっち、アーっち!」
汗だくのランドルフが、教室に入ってきた。
小脇には、大きなボールを抱えている。
彼は、カラッサーボールとかいうスポーツの、部活動に入ったらしい。
今日も朝練があったようだ。
「おはよう、ランドルフ」
「ふんっ」
「駄目だよ、アーギン。おはようくらいちゃんと言わなきゃ」
「くっ……! ……カイウーヴ、一応の礼儀だ。おはよう、と言っておいてやる。兄貴に感謝するんだな!」
そんな悔しそうに挨拶しなくても……。
と、そこへさらに、
「おはよー、シロ、ランドルフ。それと……アーギン」
リタが登校してきた。
「ふんっ、誰がお前のような小娘に……」
「アーギン」
僕が注意すると、
「ぐおっ……! お゛っ、おは、よう゛……ッ!」
「ふふっ、素直なんだか、そうじゃないのか」
「黙れ小娘! お前の語尾が、必ず『にゅ』になる呪いをかけるぞ!」
「どんな罵倒なの!? 絶妙に脅しになってなくない!?」
とまぁ、僕らの仲は深まったと言える。
リタも最初は、アーギンを忌み嫌っていた。
だけど、改心した彼が無害であることを感じ取ったのか、最近では、わりと普通に接している。
「それとも、口からナメクジを吐き続ける魔法をかけてやろうか!」
「駄目! それは流石に駄目! なんかよく分からないけど、絶っ対に怒られる気がする!」
「ぶち〇すぞ、貴様ァッ!」
「急に!? 情緒が壊れてない!?」
……うん。
仲は深まった……のかな?
まぁ、色々とあったけど、ここは魔法学院だ。
ホームルームが終わり、時間が経てばもちろん、授業が訪れる。
「では授業を始めるぞ」
やってきたのは、白い髭を蓄えた初老の男性。
次の授業は──隷属魔法だ。
魔法概論や、魔術の基礎を終え、これからは別の魔法や、もっと発展した魔術の授業が多くなる。
とはいえ、いきなりこれかぁ……。
「えー、隷属魔法は、意外にも初期の魔法の一つであり、名前の通り、相手を隷属魔とする魔法だ」
作られたのは、今から三百年ちょい前くらい。
編み出したのは、実は──僕だ。
「主人と隷属魔の間で契約を交わし、その契約を遵守する限り、互いの魔力の状況や、おおよその現在位置が分かるようになっている」
ついこの間、アーギンにやられた僕の元へ、リリーがすぐに駆けつけてくれたのも、この隷属魔法のおかげだ。
"死亡"という形で、僕の魔力が完全に消えたのを、気が付いてくれたのだろう。
「一応、主人が隷属魔に命令を強制することも出来るが……かなり高度な隷属紋を構成する必要があるし、今回の授業ではやるつもりはない」
単純なものならともかく、高度な隷属紋は、一介の学生ごときが構成できるものじゃない。
中級魔法の資格か、それ以上を持つ者でなければ、難しいだろう。
「えー、対象は別に悪魔だけとは限らず、人間や龍、はたまた不死までもが契約対象となる。さすがに不死と契約したら、国法で裁かれるが」
ま、すごく簡単に言っちゃえば、二者間のパートナー契約みたいなものだ!
本当は、協力関係うんぬんで編み出した技術じゃないんだけどね……。
と、いろりろと思うところがありつつも、板書をノートに写しながら、真面目に授業を聞いていた。
というより、聞いていたかった。
「では、実際にやってみるか」
ワッツ!?
今回の調査で、それを肌で感じ取った。
以下に記すのは、その調査結果である。
まず、彼・彼女らは人の血を吸う。
しかもなんと、それによって並人(ヒューム)の十倍はあろうかという、膨大な魔力を得るのだ。
おそらく、自身で魔力を生成することが出来ない代わりに、魔力を増幅さえる器官が備わっていると考えられる。
しかし、太陽の光にめっぽう弱く、陽を浴びると、魔力を失っていく。
完全に魔力を失った姿を見たことはないが、私の予想では、ドロドロのスライムになると考えている。
次に、吸血鬼は、魔術と呪術がミックスしたような、特殊な魔法を用いる。
私はそれを、吸血鬼魔法(ヴァンパイアマギア)と仮称することにする。
この吸血鬼魔法は、呪術のように他者の身体にまで介入し、魔術のように詠唱が簡明である。
龍魔法(ドラゴンマギア)と同じように、"強力"と言わざるを得ない。
そして最後に、吸血鬼には不思議な魅力がある。
この調査で、幾匹かの吸血鬼を目にしたのだが、男女問わず、みな一様に、人の気を惹く雰囲気があった。
私は昔、友人に勧められて(ここ大事)、赤ちゃんプレイの風俗に行ったことがあるのだが、その際にかけられた夢魔の《魅了(チャーム)》にどこか似ている。
以上が調査の結果である。
私の妻がこれを目にしない事を、心より望む。
──エイブラハム・ブローナー著『吸血鬼の生態』
◇◇◇
なんやかんやありつつも、既に学園生活は三週間目──
「兄貴ーっ! おはようございます!」
「このテンションは慣れないなぁ……」
今日も今日とて、アーギンの朝の挨拶は元気だ。
他のクラスメイト達は、もはや定番となったこの光景に、クスクスと笑っている。
馬鹿にしたような笑いじゃない。
むしろ、微笑ましさからくる、好意的な笑いなのだろうけど……さすがに、恥ずかしい。
「兄貴のその距離感を感じる視線、俺、ビンビンきちゃいます!」
「な、なにがっ!? いや、どこが!? って、朝から微妙に卑猥な事を言ってくるの、ホントやめてもらえる!?」
時間が経つにつれて、ドМが悪化してない!?
キモさを極めつつあるね……。
と、そんなこんな話していると、
「ウィース! おっ! おはよ、シロっち、アーっち!」
汗だくのランドルフが、教室に入ってきた。
小脇には、大きなボールを抱えている。
彼は、カラッサーボールとかいうスポーツの、部活動に入ったらしい。
今日も朝練があったようだ。
「おはよう、ランドルフ」
「ふんっ」
「駄目だよ、アーギン。おはようくらいちゃんと言わなきゃ」
「くっ……! ……カイウーヴ、一応の礼儀だ。おはよう、と言っておいてやる。兄貴に感謝するんだな!」
そんな悔しそうに挨拶しなくても……。
と、そこへさらに、
「おはよー、シロ、ランドルフ。それと……アーギン」
リタが登校してきた。
「ふんっ、誰がお前のような小娘に……」
「アーギン」
僕が注意すると、
「ぐおっ……! お゛っ、おは、よう゛……ッ!」
「ふふっ、素直なんだか、そうじゃないのか」
「黙れ小娘! お前の語尾が、必ず『にゅ』になる呪いをかけるぞ!」
「どんな罵倒なの!? 絶妙に脅しになってなくない!?」
とまぁ、僕らの仲は深まったと言える。
リタも最初は、アーギンを忌み嫌っていた。
だけど、改心した彼が無害であることを感じ取ったのか、最近では、わりと普通に接している。
「それとも、口からナメクジを吐き続ける魔法をかけてやろうか!」
「駄目! それは流石に駄目! なんかよく分からないけど、絶っ対に怒られる気がする!」
「ぶち〇すぞ、貴様ァッ!」
「急に!? 情緒が壊れてない!?」
……うん。
仲は深まった……のかな?
まぁ、色々とあったけど、ここは魔法学院だ。
ホームルームが終わり、時間が経てばもちろん、授業が訪れる。
「では授業を始めるぞ」
やってきたのは、白い髭を蓄えた初老の男性。
次の授業は──隷属魔法だ。
魔法概論や、魔術の基礎を終え、これからは別の魔法や、もっと発展した魔術の授業が多くなる。
とはいえ、いきなりこれかぁ……。
「えー、隷属魔法は、意外にも初期の魔法の一つであり、名前の通り、相手を隷属魔とする魔法だ」
作られたのは、今から三百年ちょい前くらい。
編み出したのは、実は──僕だ。
「主人と隷属魔の間で契約を交わし、その契約を遵守する限り、互いの魔力の状況や、おおよその現在位置が分かるようになっている」
ついこの間、アーギンにやられた僕の元へ、リリーがすぐに駆けつけてくれたのも、この隷属魔法のおかげだ。
"死亡"という形で、僕の魔力が完全に消えたのを、気が付いてくれたのだろう。
「一応、主人が隷属魔に命令を強制することも出来るが……かなり高度な隷属紋を構成する必要があるし、今回の授業ではやるつもりはない」
単純なものならともかく、高度な隷属紋は、一介の学生ごときが構成できるものじゃない。
中級魔法の資格か、それ以上を持つ者でなければ、難しいだろう。
「えー、対象は別に悪魔だけとは限らず、人間や龍、はたまた不死までもが契約対象となる。さすがに不死と契約したら、国法で裁かれるが」
ま、すごく簡単に言っちゃえば、二者間のパートナー契約みたいなものだ!
本当は、協力関係うんぬんで編み出した技術じゃないんだけどね……。
と、いろりろと思うところがありつつも、板書をノートに写しながら、真面目に授業を聞いていた。
というより、聞いていたかった。
「では、実際にやってみるか」
ワッツ!?
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